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【論文553】半分が当たっても、区別できているのは四人に一人である

要旨

官能評価では、正答率がそのまま識別能力として読まれる。本稿が示すのは、当てずっぽうの下駄が正答率の意味を方式ごとに変えること、そして同じ「半分正解」が一方では能力四分の一、他方では能力ゼロを意味することである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、これが本稿の芯である。三点識別法で正答率が半分なら、識別できているのは四人に一人である。$\mathbf{0.500000}$ が $\mathbf{0.250000}$ を意味する($12$ 桁)(第2節)。

第二に、同じ数が二点比較では能力ゼロを意味する。$\mathbf{0.000000}$ である($12$ 桁)(第2節)。

第三に、下駄の高さぶんだけ、目盛りが縮む、三点識別法で $0.75$ の正答率が意味するのは $\mathbf{0.625000}$ にとどまる(第2節)。

第四に、$30$ 人で有意になるのは $\mathbf{15}$ 人からである。上側確率 $\mathbf{0.043482}$、一つ手前の $14$ 人では $\mathbf{0.089771}$ で境目を越える(第3節)。

第五に、その境目がちょうど「半数正答」に落ちる。$12$ 桁でちょうど $0.5$ だが、論文405 によりこの一致は同根の証拠にならない(第3節)。

第六に、分離子は、選択肢が何本あるかである。下駄の高さは $1/k$ で、目盛りの縮み方はそれだけで決まる(第4節)。

キーワード:官能評価、三点識別法、二項検定、当て推量の補正、識別者の割合。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。三点識別法も二項検定も、下駄を差し引く補正も標準的である。官能評価の運用を勧めない。何人集めるべきかも、どの方式を選ぶべきかも述べない。パネリストが独立だと仮定した。同じ室で同時に試す場合の相関は入っていない。「識別できる/できない」の二分を仮定した。実際には確率的に当たる中間の人がいる。その連続的な模型は扱わない。順序効果と疲労を入れない。提示順による偏りも、回数を重ねた鈍りも入っていない。「三点識別法が優れている」とは書かない。下駄が低いぶん一人あたりの情報は多いが、代わりに課題が難しくなる。その釣り合いは主題ではない。既刊との関係:論文405 は数値の一致が同根の証拠になるのは全単射があるときだけだと示した。「正答率が半分」がコイン投げに見えるのはまさにその一致で、$30$ 人の境目がちょうど $15$ に落ちることにも同じ基準を当てた。論文551 はばらつきの指標が偏りという別の失敗を隠すと示した。報告される数が、知りたい量より広い名前を持っている型である。正答率は「識別能力」ではなく「識別能力+下駄」である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「下駄が意味を変える」と「境目が半数に落ちる」は別根である。加えたのは、下駄を差し引く写像を両方向に確かめたこと(正答率 $\to$ 割合 $\to$ 正答率)、同じ正答率が方式で $\mathbf{0.250000}$ と $\mathbf{0.000000}$ に分かれることを $12$ 桁で示したこと、有意の境目を両側から挟んだこと($\mathbf{0.043482}$ と $\mathbf{0.089771}$)、その境目が半数に落ちる一致を論文405 の基準で格下げしたこと、分離子を「選択肢の本数」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:三点識別法では、二つが同じで一つが違う三つの試料を出し、違うものを当てさせる。分からなければ当てずっぽうになるので、$3$ 分の $1$ は当たる。識別できる人の割合を $d$ とすると、正答率は

$$p_{\text{正答}}=\frac{1}{3}+\left(1-\frac{1}{3}\right)d$$

である。二点比較なら $1/3$ が $1/2$ に変わる。

観察 1.1 下駄は $d=0$ のときの値である。誰も区別できなくても正答率は $0$ にならない。目盛りの原点が $0$ ではなく $1/3$ にある。

観察 1.2 目盛りの幅も縮んでいる。正答率が動ける範囲は $1/3$ から $1$ までの $2/3$ しかない。原点がずれているだけでなく、一目盛りの重みも違う。

問い:同じ正答率が、方式によってどれだけ違う意味になるか。

2. 同じ正答率が、方式によって別の意味になる

計算 2.1:正答率から、識別できる人の割合を戻した。

正答率 三点識別法 二点比較
$0.40$ $\mathbf{0.100000}$ $-0.200000$
$0.50$ $\mathbf{0.250000}$ $\mathbf{0.000000}$
$0.60$ $\mathbf{0.400000}$ $0.200000$
$0.75$ $\mathbf{0.625000}$ $0.500000$

観察 2.2 これが本稿の芯である。三点識別法で正答率が半分なら、識別できているのは $\mathbf{0.250000}$、四人に一人である。$12$ 桁でちょうど四分の一。

観察 2.3 同じ数が、二点比較では能力ゼロを意味する。$\mathbf{0.000000}$ である。正答率という同じ形の数が、方式を言わなければ読めない。

観察 2.4 両端で確かめた。下駄そのもの(正答率 $1/3$)で割合は $0$、全員正答で割合は $1$(どちらも $12$ 桁)、境目の両側である。どちらかが外れれば写像が違う。

観察 2.5 逆向きにも通した。戻した $\mathbf{0.250000}$ から正答率を組み直すと $0.50$ に戻る($12$ 桁)、片道だけの検査では、係数を取り違えても気づかない。

観察 2.6 下駄より下は負になる。正答率 $0.40$ を二点比較で読むと $-0.200000$ である。「識別できる人が負」は意味を持たない。下駄より下は「偶然の範囲」であって、能力の目盛りが届いていない。

観察 2.7 論文551 と同じ型である。あちらは「工程能力」を名乗る指数が、ばらつきだけに支配されていた。こちらは「正答率」が、識別能力と下駄の和である。報告される数の名前が、知りたい量より広い。

3. 何人の正答が要るか

計算 3.1:$30$ 人に試して、片側 $0.05$ で有意になる正答数を求めた。

正答数 上側確率 判定
$14$ $\mathbf{0.089771}$ 有意でない
$\mathbf{15}$ $\mathbf{0.043482}$ 有意

観察 3.2 境目の両側を見ている。一つ手前で $0.05$ を超え、一つ進んで $0.05$ を下回る。「$15$ 以上」だけを示しても、それが最小であることの証拠にはならない。

観察 3.3 境目がちょうど半数に落ちる。$15/30$ は $12$ 桁でちょうど $0.5$ である。そして観察 2.2 により、それは識別できる人が四分の一いれば有意になる、ということを意味する。

観察 3.4 論文405 の基準で、この一致を格下げする。数値の一致が同根の証拠になるのは全単射があるときだけである。「$0.05$ の境目」と「半数」のあいだに写像は無い。人数を $30$ 以外にすれば境目は半数からずれる。ちょうど半分に落ちたのは $30$ という人数のせいであって、三点識別法の性質ではない。

観察 3.5 上側確率は単調である。正答数が増えれば確率は減る。そうでなければ「最小の正答数」という言い方自体が成り立たない。

4. 分離子

観察 4.1 分離子は、選択肢が何本あるかである。$k$ 本なら下駄は $1/k$、目盛りの幅は $1-1/k$ になる。方式の名前でも、試料の性質でもない。本数だけで決まる。

観察 4.2 下駄が低いほど、一人あたりの情報は多い。三点識別法のほうが二点比較より原点が低い。だが課題そのものは難しくなる。どちらが得かは、下駄の高さだけでは決まらない。

観察 4.3 論文300 の基準で別根である。「下駄が意味を変える」は $1/k$ という持ち物を要る。「境目が半数に落ちる」は $30$ という人数と $0.05$ という水準の持ち物を要る。前者は人数に依らず、後者は人数を変えれば消える。

観察 4.4 言わないこと。「三点識別法が優れている」とは書かない。下駄が低いぶん一人あたりの情報は多いが、代わりに課題が難しくなる。その釣り合いは主題ではない。

5. 点呼と結び

  1. 正答率 $0.50$ が割合 $\mathbf{0.250000}$(計算 2.1):本稿の芯・$12$ 桁。
  2. 同じ数が二点比較では $\mathbf{0.000000}$(計算 2.1):方式を言わなければ読めない。
  3. 正答率 $0.75$ でも $\mathbf{0.625000}$(計算 2.1):目盛りが縮んでいる。
  4. 下駄で $0$・全員正答で $1$(観察 2.4):境目の両側。
  5. 逆向きに戻すと $0.50$(観察 2.5):片道では係数の誤りに気づかない。
  6. 二点比較で $0.40$ は $-0.200000$(観察 2.6):下駄より下は偶然の範囲。
  7. $30$ 人の境目は $\mathbf{15}$ 正答(計算 3.1):上側確率 $\mathbf{0.043482}$。
  8. 一つ手前は $\mathbf{0.089771}$(計算 3.1):境目の外側。
  9. 境目がちょうど半数(観察 3.3):論文405 で格下げした。
  10. 分離子は選択肢の本数(観察 4.1):下駄は $1/k$。

結び:官能評価では、正答率がそのまま識別能力として読まれる。ところが当てずっぽうの下駄が、正答率の意味を方式ごとに変えている。三点識別法では $3$ 分の $1$ が当たってしまうので、正答率 $\mathbf{0.500000}$ が意味するのは識別できる人の割合 $\mathbf{0.250000}$、四人に一人である($12$ 桁)。同じ数を二点比較で出せば意味するのは $\mathbf{0.000000}$、すなわち能力ゼロである。正答率という同じ形の数が、方式を言わなければ読めない。目盛りは原点がずれているだけでなく幅も縮んでおり、正答率 $0.75$ が意味するのは $\mathbf{0.625000}$ にとどまる。下駄そのもので割合 $0$、全員正答で割合 $1$ という両端を確かめ、戻した値から正答率を組み直して $0.50$ に戻ることも見た。片道だけの検査では係数を取り違えても気づかない。下駄より下は負になり、二点比較で正答率 $0.40$ は $-0.200000$ を返す。「識別できる人が負」に意味は無く、そこは偶然の範囲であって能力の目盛りが届いていない。$30$ 人で有意になるのは $\mathbf{15}$ 人が当てたときからである。上側確率 $\mathbf{0.043482}$ で、一つ手前の $14$ 人では $\mathbf{0.089771}$ となり境目を越える。境目の両側を見ているので、これが最小であることが示されている。そしてその境目はちょうど半数に落ちる。観察 2.2 と合わせれば、識別できる人が四分の一いれば有意になるということである。ただし論文405 の基準を当てれば、「$0.05$ の境目」と「半数」のあいだに写像は無い。人数を $30$ 以外にすれば境目は半数からずれるので、ちょうど半分に落ちたのは人数のせいであって三点識別法の性質ではない。分離子は、選択肢が何本あるかである。$k$ 本なら下駄は $1/k$、目盛りの幅は $1-1/k$ になる。方式の名前でも試料の性質でもなく、本数だけで決まる。論文300 の基準では、「下駄が意味を変える」は $1/k$ を、「境目が半数に落ちる」は $30$ という人数と $0.05$ という水準を、それぞれ別に要る。前者は人数に依らず、後者は人数を変えれば消える。論文551 と同じ型でもある。あちらは「工程能力」を名乗る指数がばらつきだけに支配されていた。こちらは「正答率」が識別能力と下駄の和である。どちらも、報告される数の名前が知りたい量より広い。正直に言えば、官能評価の運用は勧めていない。何人集めるべきかも、どの方式を選ぶべきかも述べていない。パネリストは独立と仮定しており、同じ室で同時に試す場合の相関は入っていない。「識別できる/できない」の二分も仮定していて、確率的に当たる中間の人を扱う連続的な模型は外してある。順序効果も疲労も入れていない。そして「三点識別法が優れている」とも書かない。下駄が低いぶん一人あたりの情報は多いが、代わりに課題が難しくなる。その釣り合いは主題ではない。

参考文献

  1. Ennis, D. M. (1993). The Power of Sensory Discrimination Methods. Journal of Sensory Studies.
  2. Lawless, H. T., & Heymann, H. (2010). Sensory Evaluation of Food: Principles and Practices (2nd ed.). Springer.
  3. Meilgaard, M. C., Civille, G. V., & Carr, B. T. (2015). Sensory Evaluation Techniques (5th ed.). CRC Press.
  4. Peryam, D. R., & Swartz, V. W. (1950). Measurement of Sensory Differences. Food Technology.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『数値の一致が同根の証拠になるのは、全単射があるときだけである』[論文405]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699433
  7. 山岸勇輝 (2026). 『指標が動かないまま、不良率が $359$ 倍になる』[論文551]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014191

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「半分が当たっても、区別できているのは四人に一人である」[論文553]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014198

YOI 553第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/553・DOI 10.5281/zenodo.23014198・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 半分が当たっても、区別できているのは四人に一人である [論文553]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/553 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014198

Yamagishi, Y. (2026). Half of Them Answered Correctly, and One in Four Could Tell [Paper 553]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/553; DOI: 10.5281/zenodo.23014198

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