Yamagishi Complexity Torus Lab山岸勇輝ラボ

【論文558】同じ「一割」が、どの寸法かで 1.4641 倍にも 0.7513 倍にもなる

要旨

ばねを硬くしたいとき、線を太くするか、コイルを細くするか、巻数を減らすかを選ぶ。本稿が示すのは、一つの式の中に三つの違う冪が同居していて、「同じ割合だけ変える」という言い方が意味を持たないことである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、これが本稿の芯である。同じ一割が三つに分かれる。線径なら $\mathbf{1.464100}$ 倍、コイル径なら $\mathbf{0.751315}$ 倍、巻数なら $\mathbf{0.909091}$ 倍である(第2節)。

第二に、冪は式を見ずに取り出せる。対数どうしの傾きが $\mathbf{4.000000}$・$\mathbf{-3.000000}$・$\mathbf{-1.000000}$ を返す(第2節)。

第三に、向きも一つだけ違う。三つのうち線径だけが $1$ より大きく、あとの二つは $1$ より小さい(第2節)。

第四に、公差が増幅される。線径 $\pm1$ パーセントが、ばね定数の $\mathbf{8.3290}$ パーセントの幅になる(第3節)。

第五に、線径だけが二つを同時によくする。一割太くすると硬さは $\mathbf{1.464100}$ 倍になり、同じ荷重での応力は $\mathbf{0.751315}$ 倍に下がる(第3節)。

第六に、分離子は、冪が寸法ごとに違うことである。冪が同じなら「一割」は一つの意味を持つ。違うから持たない(第4節)。

キーワード:コイルばね、ばね定数、ねじり応力、寸法の感度、ばねの設計。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。コイルばねのばね定数の式も、ねじり応力の式も標準的である。ばねの設計を勧めない。どの寸法をいじるべきかは述べない。いじったときに何が起きるかだけを見る。製造の都合を入れない。線を太くする費用も、巻ける最小のコイル径も入っていない。だから「線径をいじれ」とは書かない。座巻と端末処理を扱わない。有効巻数は与えられたものとした。たわみの大きい領域を扱わない。線形域だけで、コイルどうしが密着する手前までを見ている。疲労と へたりを扱わない。繰り返し荷重は主題ではない。応力集中係数を入れない。ワールの補正を掛けていないので、第3節の応力は比としてだけ読む。既刊との関係:論文372 は面積を半分にしても種は半分にならないと示し、指数 $z=0.25$ の下で $\mathbf{0.840896}$ を出した。本稿でばね定数を半分にする線径の比も同じ $\mathbf{0.840896}$ である。冪 $1/4$ と冪 $4$ は互いに逆数なので、同じ数が出入りの向きを変えて現れているだけで、偶然ではない。あちらは一つの冪の話であり、本稿は三つの冪が同居する話である。論文335 は往復すると冪が変わると示し、そこにも $\mathbf{0.840896}$ が出ている。冪を一つ動かすと何が起きるかを扱った編で、本稿は動かさずに三つ並べる。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「冪が寸法ごとに違う」と「公差が増幅される」は、同じ冪 $4$ から出る同根である。加えたのは、三つの冪を式を見ずに対数の傾きで取り出したこと、同じ一割が $\mathbf{1.464100}$・$\mathbf{0.751315}$・$\mathbf{0.909091}$ に分かれることを $12$ 桁で示したこと、線径の公差の増幅を $\mathbf{8.3290}$ パーセントと測ったこと、線径だけが硬さと応力を同時によくすることを示したこと、分離子を「冪が寸法ごとに違うこと」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:線径 $d$、コイル平均径 $D$、有効巻数 $n$、横弾性係数 $G$ のコイルばねのばね定数は

$$k=\frac{G\,d^{4}}{8\,D^{3}\,n}$$

である。同じ荷重 $F$ に対するねじり応力は $\tau=8FD/(\pi d^{3})$ である。

観察 1.1 三つの寸法が、三つの違う冪で入っている。$+4$・$-3$・$-1$、同じ「寸法」という顔をしていても、効き方の桁が違う。

観察 1.2 現場の問いは「どれをどれだけ変えるか」の形をしている。「一割ほど硬くしたい」という言い方をする。どの寸法を一割動かすかで答が変わるなら、その言い方は指示になっていない。

問い:同じ「一割」が、どれだけ違う結果を返すか。

2. 同じ一割が、三つに分かれる

計算 2.1:線径 $2$ mm・コイル径 $16$ mm・巻数 $10$ の鋼のばね(ばね定数 $3872.070313$ N/m)を基準に、一つずつ一割増やした。

一割増やす寸法 ばね定数の比 対応する冪
線径 $\mathbf{1.464100}$ $1.1^{4}$
コイル径 $\mathbf{0.751315}$ $1.1^{-3}$
巻数 $\mathbf{0.909091}$ $1.1^{-1}$

観察 2.2 これが本稿の芯である。同じ「一割」が $\mathbf{1.464100}$ から $\mathbf{0.751315}$ まで散らばる。いちばん大きい効きといちばん小さい効きの比は $1.95$ 倍で、しかも向きが逆である。

観察 2.3 向きが一つだけ違う。線径だけが $1$ より大きく、コイル径と巻数は $1$ より小さい。「大きくする」という同じ操作が、硬くしたり柔らかくしたりする。

計算 2.4:冪を、式を見ずに取り出した。ばね定数と寸法の対数どうしの傾きを数値微分で求める。

寸法 対数の傾き
線径 $\mathbf{4.000000}$
コイル径 $\mathbf{-3.000000}$
巻数 $\mathbf{-1.000000}$

観察 2.5 これは検査である。式に書いてある指数と、関数から数値で取り出した傾きが $10^{-6}$ 以内で一致した。実装が式のとおりでなければ落ちる。比の $\mathbf{1.464100}$ が $1.1^{4}$ に $12$ 桁一致することも別に確かめた。

観察 2.6 「一割変える」は指示になっていない。どの寸法かを言わなければ、比は決まらない。割合で語れば寸法の単位からは自由になるが、冪からは自由にならない。

3. 公差の増幅と、線径だけの得

計算 3.1:線径に公差を与えて、ばね定数の幅を見た。

線径の公差 ばね定数の比 幅
$\pm1$ パーセント $0.960596$〜$1.040604$ $\mathbf{1.083290}$
$\pm2$ パーセント $0.922368$〜$1.082432$ $1.173536$
$\pm5$ パーセント $0.814506$〜$1.215506$ $1.492323$

観察 3.2 $\pm1$ パーセントが $\mathbf{8.3290}$ パーセントになる。$1.08$ より大きく $1.09$ より小さい(実測 $\mathbf{1.083290}$)、線を引くときの $1$ パーセントが、ばね定数では $8$ 倍の幅で返ってくる。冪 $4$ の代償である。

観察 3.3 効きが大きいことと、荒れやすいことは同じ事実の裏表である。いちばんよく効くつまみが、いちばん公差に厳しい。選べるのは「よく効くが管理が要る」か「効かないが安定している」かであって、両方は取れない。

観察 3.4 ばね定数を半分にする線径の比は $\mathbf{0.840896}$ である。戻すとちょうど $0.5$ に返る($12$ 桁)、この数は体系に既にある。論文372 は指数 $z=0.25$ の下で「面積を半分にすると種は $\mathbf{0.840896}$ 残る」と出し、論文335 にも同じ数がある。冪 $1/4$ と冪 $4$ は互いに逆数なので、同じ数が出入りの向きを変えて現れているだけで、偶然ではない。

計算 3.5:線を一割太くしたとき、同じ荷重での応力はどうなるか。$\mathbf{0.751315}$ 倍である($1.1^{-3}$ に $12$ 桁一致)。

観察 3.6 線径だけが二つを同時によくする。硬さは $\mathbf{1.464100}$ 倍になり、応力は $\mathbf{0.751315}$ 倍に下がる。ふつう設計のつまみは片方を良くして片方を悪くする(論文556・557 がその例である)。ここは両方が同じ向きに動く、めずらしい場合である。

観察 3.7 同じ $\mathbf{0.751315}$ が二か所に出る。コイル径を一割増やしたときのばね定数の比と、線径を一割増やしたときの応力の比、どちらも $1.1^{-3}$ である。冪が同じで、掛かる相手が違う。同じ数が二つの別の意味で出ている。

4. 分離子

観察 4.1 分離子は、冪が寸法ごとに違うことである。もし三つとも同じ冪なら、「一割変える」は一つの意味を持つ、違うから持たない。分離子は式の形(冪の積)ではなく、指数がそろっているかどうかである。

観察 4.2 冪の積であることは、割合で語れば加法になることを意味する。対数を取れば $\ln k = 4\ln d - 3\ln D - \ln n + $ 定数、だから小さい変更なら効きが足し合わされる。ただし係数が $4$・$-3$・$-1$ と違うので、足すのは「割合」ではなく「割合に冪を掛けたもの」である。

観察 4.3 論文300 の基準で同根である。「冪が寸法ごとに違う」と「公差が増幅される」は、どちらも冪 $4$ という一つの持ち物から出る。冪を $1$ にそろえれば両方とも消える。体系のふだんの結論は別根だが、ここは同根である。

観察 4.4 言わないこと。「線径をいじれ」とは書かない。線を太くする費用も、巻ける最小のコイル径も入れていない。効きが大きいことと、選ぶべきであることは別である。

5. 点呼と結び

  1. 線径 一割で $\mathbf{1.464100}$ 倍(計算 2.1):$1.1^{4}$ に $12$ 桁一致。
  2. コイル径 一割で $\mathbf{0.751315}$ 倍(計算 2.1):$1.1^{-3}$。
  3. 巻数 一割で $\mathbf{0.909091}$ 倍(計算 2.1):$1.1^{-1}$。
  4. 対数の傾き $\mathbf{4.000000}$・$\mathbf{-3.000000}$・$\mathbf{-1.000000}$(計算 2.4):式を見ずに取り出した。
  5. 線径 $\pm1$ パーセントで幅 $\mathbf{1.083290}$(計算 3.1):$\mathbf{8.3290}$ パーセント。
  6. 半分にする線径の比 $\mathbf{0.840896}$(観察 3.4):論文372・335 が既に持つ数。
  7. 応力は $\mathbf{0.751315}$ 倍(計算 3.5):硬くなり、かつ下がる。
  8. 同じ $\mathbf{0.751315}$ が二か所(観察 3.7):冪が同じで相手が違う。
  9. 分離子は冪がそろっていないこと(観察 4.1):そろえば「一割」に意味が戻る。
  10. 二つの事実は同根(観察 4.3):どちらも冪 $4$ から。

結び:ばねを硬くしたいとき、線を太くするか、コイルを細くするか、巻数を減らすかを選ぶ。ところが一つの式の中に三つの違う冪が同居していて、「同じ割合だけ変える」という言い方が意味を持たない。線径 $2$ mm・コイル径 $16$ mm・巻数 $10$ のばねで一つずつ一割増やすと、線径なら $\mathbf{1.464100}$ 倍、コイル径なら $\mathbf{0.751315}$ 倍、巻数なら $\mathbf{0.909091}$ 倍になる。散らばりは $1.95$ 倍あり、しかも向きが一つだけ逆で、線径だけが $1$ を超える。冪は式を見ずに取り出せて、対数どうしの傾きが $\mathbf{4.000000}$・$\mathbf{-3.000000}$・$\mathbf{-1.000000}$ を $10^{-6}$ 以内で返す。実装が式のとおりでなければ落ちる検査である。割合で語れば寸法の単位からは自由になるが、冪からは自由にならない。そして冪 $4$ は、公差を増幅して返してくる。線径 $\pm1$ パーセントが、ばね定数では $\mathbf{1.083290}$ 倍の幅、$\mathbf{8.3290}$ パーセントになる。効きが大きいことと荒れやすいことは同じ事実の裏表で、いちばんよく効くつまみがいちばん公差に厳しい。「よく効くが管理が要る」か「効かないが安定している」かであって、両方は取れない。ばね定数を半分にする線径の比 $\mathbf{0.840896}$ は体系に既にある数で、論文372 が指数 $z=0.25$ の下で「面積を半分にすると種は $\mathbf{0.840896}$ 残る」と出し、論文335 にも同じ数がある。冪 $1/4$ と冪 $4$ は互いに逆数なので、同じ数が出入りの向きを変えて現れているだけで偶然ではない。線径だけは、二つを同時によくする。一割太くすると硬さは $\mathbf{1.464100}$ 倍になり、同じ荷重での応力は $\mathbf{0.751315}$ 倍に下がる。設計のつまみはふつう片方を良くして片方を悪くするもので、論文556 の締付も論文557 の圧力角もそうだった。ここは両方が同じ向きに動くめずらしい場合である。なおこの $\mathbf{0.751315}$ は、コイル径を一割増やしたときのばね定数の比と同じ数でもある。どちらも $1.1^{-3}$ で、冪が同じで掛かる相手が違う。分離子は、冪が寸法ごとに違うことである。三つとも同じ冪なら「一割変える」は一つの意味を持ち、違うから持たない。分離子は式が冪の積であることではなく、指数がそろっているかどうかである。論文300 の基準では、「冪が寸法ごとに違う」と「公差が増幅される」はどちらも冪 $4$ という一つの持ち物から出るので同根である。冪を $1$ にそろえれば両方とも消える。正直に言えば、ばねの設計は勧めていない。線を太くする費用も、巻ける最小のコイル径も入れていないので「線径をいじれ」とは書かない。効きが大きいことと選ぶべきであることは別である。座巻と端末処理は扱わず有効巻数は与えられたものとし、線形域だけを見て密着の手前で止めている。疲労もへたりも主題ではなく、ワールの応力集中係数を掛けていないので第3節の応力は比としてだけ読むこと。

参考文献

  1. Associated Spring (1987). Design Handbook: Engineering Guide to Spring Design. Barnes Group.
  2. Budynas, R. G., & Nisbett, J. K. (2015). Shigley’s Mechanical Engineering Design (10th ed.). McGraw-Hill.
  3. Timoshenko, S. P., & Goodier, J. N. (1970). Theory of Elasticity (3rd ed.). McGraw-Hill.
  4. Wahl, A. M. (1963). Mechanical Springs (2nd ed.). McGraw-Hill.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『往復すると、冪が変わる』[論文335]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22681851
  7. 山岸勇輝 (2026). 『面積を半分にしても、種は半分にならない。そして種を半分にするには面積を $\mathbf{6.25}$ パーセントにする』[論文372]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698241
  8. 山岸勇輝 (2026). 『外力の多数派を受けているのは、ボルトではない』[論文556]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014218
  9. 山岸勇輝 (2026). 『歯を強くする角度は、伝動をなめらかにする角度と逆を向いている』[論文557]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014224

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ「一割」が、どの寸法かで 1.4641 倍にも 0.7513 倍にもなる」[論文558]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014230

YOI 558第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/558・DOI 10.5281/zenodo.23014230・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ「一割」が、どの寸法かで 1.4641 倍にも 0.7513 倍にもなる [論文558]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/558 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014230

Yamagishi, Y. (2026). The Same ``Ten Per Cent'' Becomes 1.4641 or 0.7513, Depending on Which Dimension [Paper 558]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/558; DOI: 10.5281/zenodo.23014230

@misc{yamagishi2026yoi558,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {The Same ``Ten Per Cent'' Becomes 1.4641 or 0.7513, Depending on Which Dimension},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/558},
  doi = {10.5281/zenodo.23014230},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
57bb201416efedbb15628d656328eb4683a478025e72f39d7dba152bf445cb69 yamagishi_yoi558_v1_jp.pdf
48d962808b3382602989df1107c122b18d8a01bdbcf495e1aff3710ef893be0c yamagishi_yoi558_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。