要旨
疲労寿命は応力に強く依るので、応力の見積もりを慎重にせよと言われる。本稿が示すのは、同じ大きな指数が、応力を上げる側では残酷に、下げる側では気前よく働くこと、そしてその非対称が指数ではなく数え方の側にあることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、指数は $12$ に近い。寿命は応力の $\mathbf{-11.764706}$ 乗で、式を見ずに対数の傾きで取り出しても同じ値が出る(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。応力を $1$ 割まちがえると寿命が三分の一になる。$\mathbf{0.325857}$ 倍である(第2節)。
第三に、$2$ 割なら $10$ 分の $1$ 近くまで落ちる。$\mathbf{0.117073}$ 倍(第2節)。
第四に、ところが逆向きには気前がよい。寿命を $10$ 倍にするのに要る応力低減は $\mathbf{17.7757}$ パーセントである(第3節)。
第五に、二桁ぶん延ばしても低減は倍にならない。$\mathbf{32.3917}$ パーセントで、$17.7757$ の $2$ 倍より小さい(第3節)。
第六に、分離子は、どちらの量を割合で数えるかである。応力を割合で数えれば残酷に見え、寿命を桁で数えれば気前よく見える。指数は同じ一つである(第4節)。
キーワード:疲労、バスキンの式、S-N 曲線、疲労寿命、応力振幅。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。バスキンの式も、その指数の代表値も標準的である。設計に使える寿命を与えない。安全率も、ばらつきも、実部材の係数(表面・寸法・応力集中)も入れていない。数は比としてだけ読むこと。指数は代表値である。$b=-0.085$ は鋼の代表的な値で、材料と処理で動く。本稿の結論はこの値そのものではなく、「指数が大きいこと」から出ている。疲労限度の有無を論じない。鉄鋼には折れ曲がりがあり、アルミにはないと言われるが、本稿はべき則の範囲だけを見ており、折れ曲がりの先を扱わない。平均応力を入れない。完全両振りを仮定した。引張の平均応力があれば寿命は下がる。き裂の進み方を扱わない。寿命を「破断までの回数」として一つの数で扱う。内訳(発生と進展)は論文565 の射程である。「応力を下げれば安い」とは書かない。応力を $18$ パーセント下げるのに要る費用は入っていない。安いのは指数の側であって、工事の側ではない。既刊との関係:論文262 は「壊れる」が三つあり強度では決まらないと示し、その射程注記で「疲労と時間依存を扱わない(一回の載荷だけを見る」と明記していた)本稿はその置いていった席に座る。あちらは一回の載荷で決まる三つの限界、こちらは回数が入ったときの一つの法則である。論文558 は同じ一割が線径かコイル径かで $1.4641$ 倍にも $0.7513$ 倍にもなると示した。あちらは一つの式に三つの冪が同居する話、こちらは一つの冪が大きすぎる話である。あちらは「どれを動かすか」、こちらは「どちら向きに読むか」で答が変わる。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「上げると残酷」と「下げると気前がよい」は同じ冪から出る同根である。加えたのは、指数を式を見ずに対数の傾きで取り出したこと、応力 $1.1$ 倍で寿命 $\mathbf{0.325857}$ 倍を測り実測値で挟んだこと、寿命を $10$ 倍にする低減を $\mathbf{17.7757}$ パーセントと逆算し、戻してちょうど $10$ 倍になることを確かめたこと、二桁ぶんの低減が一桁ぶんの $2$ 倍に届かないことを示したこと、分離子を「どちらの量を割合で数えるか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:繰り返し応力の振幅 $\sigma$ と破断までの回数 $N$ のあいだに、バスキンの式
$$\sigma \propto N^{\,b},\qquad b=-0.085$$
が成り立つとする。$b$ は鋼の代表的な値である。逆に解けば $N\propto\sigma^{1/b}$ となる。
観察 1.1 $b$ が小さいことと、$1/b$ が大きいことは同じ事実である。$b=-0.085$ は「応力はゆっくりしか下がらない」ことを意味する。同時に「寿命は激しく動く」ことを意味する。同じ一つの数を、二通りに読んでいる。
観察 1.2 現場の言い方は応力の側に寄っている。「応力を慎重に見積もれ」と言う。寿命の側から言えば、別の景色になるはずである。
問い:同じ指数を両向きに読むと、どれだけ違って見えるか。
2. 上げる側は残酷である
計算 2.1:指数を数値で取り出した。$1/b=\mathbf{-11.764706}$ で、対数どうしの傾きを数値微分で求めても同じ値が返る($10^{-6}$ 以内)。
観察 2.2 これは検査である。式に書いた指数と、関数から取り出した傾きが一致した。実装が式のとおりでなければ落ちる。絶対値は $11$ より大きく $12$ より小さい。
計算 2.3:応力を変えて、寿命を測った。
| 応力 | 寿命 |
|---|---|
| $0.90$ 倍 | $\mathbf{3.454009}$ 倍 |
| $0.95$ 倍 | $1.828417$ 倍 |
| $1.00$ 倍 | $1.000000$ 倍 |
| $1.05$ 倍 | $0.563267$ 倍 |
| $1.10$ 倍 | $\mathbf{0.325857}$ 倍 |
| $1.20$ 倍 | $\mathbf{0.117073}$ 倍 |
観察 2.4 これが本稿の芯である。応力を $1$ 割まちがえると寿命は $\mathbf{0.325857}$ 倍、三分の一になる。$0.30$ より大きく $0.35$ より小さい。実測してから挟んだ。
観察 2.5 $2$ 割なら $10$ 分の $1$ 近い。$\mathbf{0.117073}$ 倍、荷重の見積もりの誤差としては小さい $2$ 割が、寿命では桁を変える。
観察 2.6 境目でも確かめた。応力 $1.00$ 倍で寿命 $1.00$ 倍($12$ 桁)、そして単調である。式が壊れていないことの確認である。
3. 下げる側は気前がよい
計算 3.1:同じ式を逆に解いた。
| 延ばしたい寿命 | 要る応力 | 低減 |
|---|---|---|
| $10$ 倍 | $\mathbf{0.822243}$ 倍 | $\mathbf{17.7757}$ パーセント |
| $100$ 倍 | $\mathbf{0.676083}$ 倍 | $\mathbf{32.3917}$ パーセント |
観察 3.2 逆算が検査になっている。得た応力を戻すと、寿命がちょうど $10$ 倍・$100$ 倍に返る($10^{-9}$)、解き損ないではないことを別に見た。
観察 3.3 一桁で $17.7757$ パーセントである。$17$ より大きく $18$ より小さい。寿命を $10$ 倍にしたいなら、応力を $2$ 割弱下げればよい。第2節で「$1$ 割で三分の一」と読んだのと、同じ指数である。
観察 3.4 低減は加速しない。二桁ぶんで $\mathbf{32.3917}$ パーセント、一桁ぶんの $2$ 倍($35.5514$)より小さい。べき則だから、桁を足すごとに要る低減は同じ割合ずつになる。足し算ではなく掛け算で効くので、後の桁ほど安くつく。
観察 3.5 同じ指数が二つの顔を持つ。$1$ 割上げれば三分の一に落ち、$2$ 割弱下げれば $10$ 倍に伸びる。どちらも $\mathbf{-11.764706}$ 乗である。残酷さと気前のよさは、同じ一つの数の裏表である。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、どちらの量を割合で数えるかである。応力を割合で数えて寿命を割合で答えれば、指数の分だけ残酷に見える。寿命を桁で数えて応力を割合で答えれば、指数の逆数の分だけ気前よく見える。非対称は指数ではなく、数え方の側にある。
観察 4.2 指数が $1$ なら、この非対称は消える。$1$ 割上げれば $1$ 割減り、$10$ 倍にするには $10$ 分の $1$ にする。どちら向きに読んでも同じ景色になる。非対称を作っているのは指数の大きさである。
観察 4.3 論文558 とは、変わるものが違う。あちらは一つの式に $+4$・$-3$・$-1$ の三つの冪が同居し、「どれを動かすか」で答が変わった。こちらは冪が一つしかないが大きすぎて、「どちら向きに読むか」で答が変わる。同じ「冪の効き」でも、変えているものが別である。
観察 4.4 論文300 の基準では同根である。「上げると残酷」と「下げると気前がよい」は、どちらも $1/b$ 一つから出る。$b$ を $-1$ にすれば両方とも消える。体系のふだんの結論は別根だが、ここは同根である。
観察 4.5 論文262 が置いていった席である。あちらは射程注記で「疲労と時間依存を扱わない(一回の載荷だけを見る」と明記した)一回の載荷では、限界は座屈・降伏・破壊の三つで決まった。回数が入ると、限界そのものが回数の関数になる。同じ材料で、載せ方が変わると問いの形が変わる。
観察 4.6 言わないこと。「応力を下げれば安い」とは書かない。応力を $18$ パーセント下げるのに要る費用は入っていない。安いのは指数の側であって、工事の側ではない。
5. 点呼と結び
- 指数 $\mathbf{-11.764706}$(計算 2.1):式を見ずに取り出した。
- 絶対値が $11$ と $12$ のあいだ(観察 2.2):独立な突合せ。
- 応力 $1.1$ 倍で寿命 $\mathbf{0.325857}$ 倍(計算 2.3):本稿の芯。
- 応力 $1.2$ 倍で $\mathbf{0.117073}$ 倍(計算 2.3):桁が変わる。
- 応力 $1.0$ 倍で寿命 $1.0$ 倍(観察 2.6):境目・$12$ 桁。
- 寿命 $10$ 倍に $\mathbf{17.7757}$ パーセント(計算 3.1):気前がよい。
- 戻すとちょうど $10$ 倍(観察 3.2):逆算の突合せ。
- 二桁ぶんで $\mathbf{32.3917}$ パーセント(計算 3.1):加速しない。
- 分離子はどちらを割合で数えるか(観察 4.1):非対称は数え方の側。
- 論文262 が置いた席(観察 4.5):回数が入ると問いが変わる。
結び:疲労寿命は応力に強く依るので、応力の見積もりを慎重にせよと言われる。たしかに上げる側は残酷である。寿命は応力の $\mathbf{-11.764706}$ 乗で効き、この指数は式を見ずに対数の傾きから取り出しても同じ値が返る。応力を $1$ 割まちがえると寿命は $\mathbf{0.325857}$ 倍、三分の一になる。$0.30$ より大きく $0.35$ より小さく、実測してから挟んだ。$2$ 割なら $\mathbf{0.117073}$ 倍で、荷重の見積もりとしては小さい $2$ 割が寿命では桁を変える。ところが同じ指数を逆に使うと、気前がよい。寿命を $10$ 倍にするのに要る応力低減は $\mathbf{17.7757}$ パーセントにすぎず、得た値を戻すとちょうど $10$ 倍に返ることを確かめてある。しかも二桁ぶん延ばしても $\mathbf{32.3917}$ パーセントで、一桁ぶんの $2$ 倍($35.5514$)に届かない。べき則だから桁を足すごとに要る低減は同じ割合ずつで、後の桁ほど安くつく。$1$ 割上げれば三分の一に落ち、$2$ 割弱下げれば $10$ 倍に伸びる。どちらも同じ $\mathbf{-11.764706}$ 乗である。分離子は、どちらの量を割合で数えるかである。応力を割合で数えて寿命を割合で答えれば指数の分だけ残酷に見え、寿命を桁で数えて応力を割合で答えれば指数の逆数の分だけ気前よく見える。非対称は指数ではなく、数え方の側にある。指数が $1$ ならこの非対称は消えて、どちら向きに読んでも同じ景色になる。作っているのは指数の大きさである。論文300 の基準では、「上げると残酷」と「下げると気前がよい」はどちらも $1/b$ 一つから出る同根で、$b$ を $-1$ にすれば両方とも消える。既刊との位置(論文262 は射程注記で「疲労と時間依存を扱わない)一回の載荷だけを見る」と明記していた。本稿はその置いていった席に座る。一回の載荷では限界は座屈・降伏・破壊の三つで決まったが、回数が入ると限界そのものが回数の関数になる。論文558 も冪の効きを扱ったが、あちらは一つの式に $+4$・$-3$・$-1$ が同居して「どれを動かすか」で答が変わった。こちらは冪が一つしかないが大きすぎて、「どちら向きに読むか」で答が変わる。正直に言えば、設計に使える寿命を与えていない。安全率もばらつきも、表面・寸法・応力集中といった実部材の係数も入れていないので、数は比としてだけ読むこと。指数 $b=-0.085$ は鋼の代表値で材料と処理で動くが、本稿の結論はこの値そのものではなく「指数が大きいこと」から出ている。疲労限度の有無は論じておらず、べき則の範囲だけを見た。平均応力も入れず完全両振りを仮定しており、寿命の内訳(発生と進展)は論文565 の射程である。そして「応力を下げれば安い」とも書かない。安いのは指数の側であって、工事の側ではない。
参考文献
- Basquin, O. H. (1910). The Exponential Law of Endurance Tests. Proceedings of ASTM.
- Schijve, J. (2009). Fatigue of Structures and Materials (2nd ed.). Springer.
- Stephens, R. I., Fatemi, A., Stephens, R. R., & Fuchs, H. O. (2000). Metal Fatigue in Engineering (2nd ed.). Wiley.
- Suresh, S. (1998). Fatigue of Materials (2nd ed.). Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『「壊れる」は三つあり、強度では決まらない』[論文262]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169671
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ「一割」が、どの寸法かで $1.4641$ 倍にも $0.7513$ 倍にもなる』[論文558]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014230
- 山岸勇輝 (2026). 『寿命を決めているのは最初のきずで、終わりの大きさではない』[論文565]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014261
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ指数が、片側では残酷に、もう片側では気前よく働く」[論文564]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ指数が、片側では残酷に、もう片側では気前よく働く [論文564]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/564 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014256
Yamagishi, Y. (2026). One Exponent Is Cruel in One Direction and Generous in the Other [Paper 564]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/564; DOI: 10.5281/zenodo.23014256
@misc{yamagishi2026yoi564,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {One Exponent Is Cruel in One Direction and Generous in the Other},
year = {2026},
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