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【論文570】締めしろは、違う材料どうしだと温度で消える

要旨

しまりばめは、一度組めば機械的に固定されたものと扱われる。本稿が示すのは、軸と穴の材料が違えば締めしろが温度の関数になり、しかも緩む向きが「どちらが外側か」で決まることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、接触圧は厚肉円筒の式で出る。鋼どうしで $\mathbf{38.6250}$ MPa、ハブをアルミにすると $\mathbf{15.6632}$ MPa、比は $\mathbf{0.405521}$ である(第2節)。

第二に、式は極限で既知の形に戻る。同じ材料でハブを無限に厚くすると $E\delta/(2D)=\mathbf{51.500000}$ MPa に一致する(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。鋼の軸にアルミのハブなら、$\mathbf{44.247788}$ K の上昇で締めしろが消える。同じ材料どうしなら、どの温度でも変化はちょうど $0$ である(第3節)。

第四に、接触圧は温度とともにまっすぐ落ちる。半分の上昇でちょうど半分になる($12$ 桁)(第3節)。

第五に、組を逆にすると向きが逆になる。アルミの軸に鋼のハブなら、同じ上昇で締めしろはちょうど $25$ μm 増える(第4節)。

第六に、分離子は、軸と穴の膨張率が等しいかどうかである。等しければ温度は効かず、違えば差の符号が緩む向きを決める(第5節)。

キーワード:はめあい、締めしろ、熱膨張、厚肉円筒、接触圧。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。厚肉円筒の接触圧も、熱膨張も標準的である。はめあいを設計しない。どの公差等級を選ぶべきかは述べない。弾性域だけを扱う。降伏もクリープも入れていない。高温のアルミのハブではクリープが効くが、本稿の外である。温度は一様とした。軸とハブが同じ温度にある場合だけを見る。温まり方の時間差は扱わない。材料定数は代表値である。線膨張係数 $11.8\times10^{-6}$・$23.1\times10^{-6}$ 毎ケルビン、ヤング率 $206$・$70$ GPa、ポアソン比 $0.30$・$0.33$ を使った。保持力を計算しない。摩擦係数を入れておらず、軸力やトルクをどれだけ伝えられるかは述べない。回転による緩みを扱わない。遠心力でハブが広がる効果は入っていない。「違う材料で組むな」とは書かない。温度の幅が分かっていれば、それに合わせて締めしろを選べばよい。既刊との関係:論文562 は残留応力の上限を決めているのが温度ではなく降伏だと示した。あちらは拘束された熱収縮が降伏で頭打ちになる話、こちらは二つの材料の膨張の差が締めしろを食う話である。同じ $\alpha \Delta T$ が、片方では応力を生み、片方では組み付けをほどく。論文548 は同じ $z$ が分母にいるか分子にいるかで逆向きに働くと示した。本稿も同じ型で、同じ温度上昇が、どちらの材料が外側にいるかで緩める向きにも締める向きにも働く。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「締めしろが消える温度がある」と「組を逆にすると向きが逆になる」は、膨張率の差という一つの根から出る同根である。加えたのは、異なる材料の厚肉円筒の式で接触圧を出し、同材・無限厚みの極限で既知の $E\delta/(2D)$ に戻ることを確かめたこと、締めしろが消える温度上昇を $\mathbf{44.247788}$ K と出し、境目の両側で確かめたこと、接触圧が温度に対してまっすぐ落ちることを半分の点で $12$ 桁確かめたこと、組を逆にしたときの鏡像と、同材でゼロになることを示したこと、分離子を「膨張率が等しいかどうか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:直径 $D$ の中実の軸を、外径 $D_o$ のハブの穴に、直径で $\delta$ だけ大きく作って押し込む(しまりばめ)。接触圧は厚肉円筒の式で

$$p=\frac{\delta}{D\left[\dfrac{1}{E_o}\left(\dfrac{D_o^{2}+D^{2}}{D_o^{2}-D^{2}}+\nu_o\right)+\dfrac{1-\nu_i}{E_i}\right]}$$

となる。添字 $i$ は軸、$o$ はハブである。

観察 1.1 締めしろは寸法の差である。寸法は温度で変わる。軸も穴も同じだけ伸びるなら差は変わらないが、伸び方が違えば差が動く。

問い:温度が上がると、締めしろと接触圧はどうなるか。それは材料の組でどう変わるか。

2. 接触圧

計算 2.1:$D=50$ mm、$D_o=100$ mm、$\delta=25$ μm として接触圧を出した。

組 接触圧
鋼の軸 × 鋼のハブ $\mathbf{38.6250}$ MPa
鋼の軸 × アルミのハブ $\mathbf{15.6632}$ MPa
比 $\mathbf{0.405521}$

観察 2.2 アルミのハブは同じ締めしろで四割しか出さない。$0.40$ より大きく $0.41$ より小さい。ヤング率が鋼の三分の一ほどなので、同じ寸法差でも押し返す力が弱い。

観察 2.3 式は極限で既知の形に戻る。同じ材料でハブを無限に厚くすると $\mathbf{51.500000}$ MPa で、閉じた式 $E\delta/(2D)$ と一致する(相対 $10^{-6}$)、別に組み立てた式との突合せである。

3. 温度で、締めしろが消える

計算 3.1:鋼($11.8\times10^{-6}$ 毎ケルビン)の軸にアルミ($23.1\times10^{-6}$)のハブを組み、温度を上げた。穴のほうが速く広がるので、締めしろは $(\alpha_o-\alpha_i)D \Delta T$ ずつ減る。

温度上昇 締めしろ 接触圧
$0$ K $25.0000$ μm $\mathbf{15.6632}$ MPa
$10$ K $19.3500$ μm $12.1234$ MPa
$20$ K $13.7000$ μm $8.5835$ MPa
$30$ K $8.0500$ μm $5.0436$ MPa
$40$ K $2.4000$ μm $1.5037$ MPa
$\mathbf{44.247788}$ K $0$ $0$

観察 3.2 これが本稿の芯である。$\mathbf{44.247788}$ K の上昇で締めしろが消える($44$ より大きく $45$ より小さい)。夏と冬、あるいは運転と停止ほどの温度差で、「固定したはずの」結合がほどける。

観察 3.3 境目の両側を見た。その温度で接触圧は $0$(元の接触圧の $10^{-9}$ 未満)、その $1$ パーセント手前ではまだ正、最初の検算では、ここを浮動小数の値のまま「ちょうど $0$ か」で比べてしまい、落とした。検査の書き方の誤りで、許容幅つきに直した。

観察 3.4 接触圧はまっすぐ落ちる。半分の上昇で、接触圧はちょうど半分になる($12$ 桁)、接触圧が締めしろに比例し、締めしろが温度に一次で減るからである。途中で急に崩れるのではなく、最初から一様に削られていく。

4. 組を逆にすると、向きが逆になる

計算 4.1:同じ二つの材料で、軸をアルミ、ハブを鋼にした。今度は軸のほうが速く太るので、同じ $\mathbf{44.247788}$ K の上昇で締めしろはちょうど $25$ μm 増える。

観察 4.2 鏡像になっている。増える量は $12$ 桁でちょうど元の締めしろに等しい。片方の組が緩む温度で、もう片方の組は締めしろが倍になる。

観察 4.3 逆の組は、冷やすと緩む。アルミの軸に鋼のハブなら、同じ $44.247788$ K だけ冷えたところで締めしろが消える。どちらの組にも、緩む向きの温度がある。違うのは、それが上か下かである。

計算 4.4:同じ材料どうし(鋼の軸に鋼のハブ)では、どの温度でも締めしろの変化はちょうど $0$ である。

観察 4.5 同じ材料なら、温度はまったく効かない。軸も穴も同じ割合で伸びるので、差は動かない。「機械的に固定した」という言い方が正しいのは、この場合だけである。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、軸と穴の膨張率が等しいかどうかである。等しければ温度は効かない。違えば、差 $\alpha_o-\alpha_i$ の符号が緩む向きを決める。外側がよく伸びるなら温めると緩み、内側がよく伸びるなら冷やすと緩む。

観察 5.2 論文548 と同じ型である。あちらは同じ $z$ が、分母にいるか分子にいるかで逆向きに働いた。こちらは同じ温度上昇が、どちらの材料が外側にいるかで緩める向きにも締める向きにも働く。量は同じで、置かれる場所が向きを決める。

観察 5.3 論文562 とは $\alpha \Delta T$ の使われ方が違う。あちらは拘束された熱収縮が応力を生み、それが降伏で頭打ちになった。こちらは二つの材料の膨張の差が、組み付けそのものをほどく。同じ熱膨張が、片方では応力の源、片方では結合を消すものになる。

観察 5.4 論文300 の基準では同根である。「締めしろが消える温度がある」と「組を逆にすると向きが逆になる」は、どちらも膨張率の差から出る。差を $0$ にすれば、どちらも消える。

観察 5.5 言わないこと。「違う材料で組むな」とは書かない。使う温度の幅が分かっていれば、それを越えても締めしろが残るように選べばよい。本稿が示すのは、その幅を知らずに組むと何が起きるかである。

6. 点呼と結び

  1. 鋼どうしで $\mathbf{38.6250}$ MPa(計算 2.1):厚肉円筒の式。
  2. アルミのハブで $\mathbf{15.6632}$ MPa・比 $\mathbf{0.405521}$(計算 2.1):四割。
  3. 極限で $E\delta/(2D)=\mathbf{51.500000}$ MPa(観察 2.3):既知の形に戻る。
  4. 締めしろが消える上昇 $\mathbf{44.247788}$ K(計算 3.1):本稿の芯。
  5. その温度で接触圧 $0$・手前で正(観察 3.3):境目の両側。
  6. 半分の上昇で接触圧が半分(観察 3.4):まっすぐ落ちる・$12$ 桁。
  7. 逆の組ではちょうど $25$ μm 増える(計算 4.1):鏡像。
  8. 同じ材料なら変化はちょうど $0$(計算 4.4):温度が効かない。
  9. 分離子は膨張率が等しいか(観察 5.1):差の符号が向きを決める。
  10. 論文548 と同じ型(観察 5.2):置かれる場所が向きを決める。

結び:しまりばめは、一度組めば機械的に固定されたものと扱われる。ところが締めしろは寸法の差であり、寸法は温度で変わる。直径 $50$ mm・締めしろ $25$ μm で、鋼どうしの接触圧は $\mathbf{38.6250}$ MPa、ハブをアルミにすると $\mathbf{15.6632}$ MPa で、比は $\mathbf{0.405521}$ である。式は同じ材料でハブを無限に厚くした極限で既知の $E\delta/(2D)=\mathbf{51.500000}$ MPa に戻る。鋼の軸にアルミのハブなら、$\mathbf{44.247788}$ K の上昇で締めしろが消える。穴のほうが速く広がるので、締めしろは温度に一次で削られ、接触圧も半分の上昇でちょうど半分になるようにまっすぐ落ちる。その温度で接触圧は $0$、$1$ パーセント手前ではまだ正で、境目を両側から確かめた。夏と冬、あるいは運転と停止ほどの温度差で、固定したはずの結合がほどける。組を逆にすると、向きが逆になる。アルミの軸に鋼のハブなら、同じ上昇で締めしろはちょうど $25$ μm 増えて倍になり、代わりに同じだけ冷えたところで消える。どちらの組にも緩む向きの温度があり、違うのはそれが上か下かである。同じ材料どうしなら、どの温度でも変化はちょうど $0$ で、「機械的に固定した」という言い方が正しいのはこの場合だけである。分離子は、軸と穴の膨張率が等しいかどうかである。等しければ温度は効かず、違えば差 $\alpha_o-\alpha_i$ の符号が緩む向きを決める。外側がよく伸びるなら温めると緩み、内側がよく伸びるなら冷やすと緩む。論文300 の基準では、「締めしろが消える温度がある」と「組を逆にすると向きが逆になる」はどちらも膨張率の差から出る同根である。既刊との位置、論文548 と同じ型で、あちらでは同じ $z$ が分母か分子かで逆向きに働き、こちらでは同じ温度上昇がどちらが外側かで逆向きに働く。論文562 とは $\alpha \Delta T$ の使われ方が違い、あちらでは応力の源、こちらでは結合を消すものになる。正直に言えば、はめあいは設計していない。弾性域だけを扱い、高温のアルミで効くクリープも降伏も入れていない。軸とハブは同じ温度にあるとし、温まり方の時間差は見ていない。材料定数は代表値で、摩擦係数を入れていないので保持力も述べず、回転で広がる効果も入れていない。そして「違う材料で組むな」とも書かない。温度の幅が分かっていれば、それに合わせて締めしろを選べばよい。

参考文献

  1. Budynas, R. G., & Nisbett, J. K. (2015). Shigley’s Mechanical Engineering Design (10th ed.). McGraw-Hill.
  2. ISO 286-1 (2010). Geometrical Product Specifications (GPS)(ISO Code System for Tolerances on Linear Sizes)Part 1. International Organization for Standardization.
  3. Timoshenko, S. P., & Goodier, J. N. (1970). Theory of Elasticity (3rd ed.). McGraw-Hill.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『「九」を一つ足すたびに、要る在庫の増え方が大きくなる』[論文548]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014181
  6. 山岸勇輝 (2026). 『残留応力の上限を決めているのは、温度ではなく降伏である』[論文562]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014250
  7. Young, W. C., & Budynas, R. G. (2002). Roark’s Formulas for Stress and Strain (7th ed.). McGraw-Hill.

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「締めしろは、違う材料どうしだと温度で消える」[論文570]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014286

YOI 570第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 締めしろは、違う材料どうしだと温度で消える [論文570]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/570 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014286

Yamagishi, Y. (2026). Between Unlike Materials, an Interference Fit Vanishes with Temperature [Paper 570]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/570; DOI: 10.5281/zenodo.23014286

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