要旨
テストの信頼性が低いとき、「問題を増やせばよい」と言われる。本稿が示すのは、問題を増やして減らせるのは偶然の誤差だけで、測っているものと知りたいもののずれは長さでは一つも減らず、知りたいものとの相関は真の相関で頭打ちになることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、信頼性を上げるのに要る長さは急に増える。$0.5$ から $0.9$ へは $\mathbf{9.000000}$ 倍、$0.9$ から先の $0.99$ へは合わせて $\mathbf{99.000000}$ 倍である(第2節)。
第二に、信頼性は $1$ に届かない。$10000$ 倍にしても $\mathbf{0.99990001}$ で、$1$ との差は $\mathbf{0.00009999}$ である(第3節)。
第三に、長さにちょうど比例するのはオッズである。信頼性のオッズ $\rho/(1-\rho)$ は、$2$ 倍で $\mathbf{2.000000}$、$9$ 倍で $\mathbf{9.000000}$、$100$ 倍で $\mathbf{100.000000}$ で、長さの倍率に一致する(第4節)。
第四に、これが本稿の芯である。知りたいものとの相関は、真の相関で頭打ちになる。真の相関が $0.6$ なら、観測される相関は $1$ 倍で $\mathbf{0.424264}$、$9$ 倍で $\mathbf{0.569210}$、$100$ 倍で $\mathbf{0.597022}$ と上がるが、$0.6$ を超えることはない(第5節)。
第五に、知りたいもの側の物差しにも誤差があれば、頭打ちはさらに下がる。その信頼性が $0.7$ なら、頭打ちは $\mathbf{0.501996}$ である(第5節)。
第六に、分離子は、偶然の誤差か、測るもののずれか、である。長さで減るのは前者だけである(第6節)。
キーワード:古典的テスト理論、信頼性、スピアマン=ブラウンの式、相関の希薄化、妥当性。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。スピアマン=ブラウンの式も、相関の希薄化の式も、古典的テスト理論の標準である。平行な問題を足すと仮定した。足す問題が、元の問題と同じものを同じ精度で測るという仮定である。性質の違う問題を足せば、測るもの自体が変わる。真の相関 $0.6$ と物差しの信頼性 $0.7$ は代表値である。どの試験がどの値かは述べない。受ける人の疲れや慣れを入れていない。実際に問題を $99$ 倍にすれば、それ自体が測るものを変える。試験を設計しない。どれだけの長さにすべきかは述べない。既刊との関係:論文334 は、独立な測りを重ねると、足しているのは値ではなく精度であると示した。本稿の「オッズが長さにちょうど比例する」はその言い換えで、同根である。本稿が加えるのはその先で、重ねて減るのは偶然の誤差だけだという点である。論文470 は射程注記で信頼性に触れ、精度 $99$ パーセントの検査でも陽性の九割が外れうると示した。検査の良さを一つの数で言うと、何に対する良さかが落ちる型が共通である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「長くすると信頼性が上がる」と「相関は真の相関で頭打ち」は別根である。加えたのは、目標の信頼性に要る長さを並べ、その長さで目標にちょうど戻ることを確かめたこと、信頼性は $1$ に届かないがオッズは長さにちょうど比例することを示したこと、知りたいものとの相関が真の相関 $0.6$ で頭打ちになり、物差しの誤差があれば $\mathbf{0.501996}$ まで下がることを出したこと、分離子を偶然の誤差と測るもののずれの区別に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:テストの点 $X$ を、真の点 $T$ と偶然の誤差 $E$ の和とする。信頼性は $\rho=\mathrm{Var}(T)/\mathrm{Var}(X)$ である。同じものを同じ精度で測る問題を足して長さを $n$ 倍にすると
$$\rho_n=\frac{n\rho}{1+(n-1)\rho},\qquad
\frac{\rho_n}{1-\rho_n}=n\,\frac{\rho}{1-\rho}$$
になる。知りたいもの $Y$ との観測される相関は、真の相関 $r_{TY}$ から
$$r_{XY}=r_{TY}\sqrt{\rho_X\,\rho_Y}$$
に薄まる。
観察 1.1 テストの信頼性が低いとき、「問題を増やせばよい」と言われる。それは正しい。問題は、増やすと何が減り、何が減らないかである。
問い:テストを長くすると、何が減り、何が減らないのか。
2. 長さと信頼性
計算 2.1:目標の信頼性に要る長さ(何倍にするか)を出した。
| 信頼性 | 要る長さ |
|---|---|
| $0.5$ から $0.9$ | $\mathbf{9.000000}$ 倍 |
| $0.7$ から $0.9$ | $\mathbf{3.857143}$ 倍 |
| $0.8$ から $0.9$ | $\mathbf{2.250000}$ 倍 |
| $0.5$ から $0.99$ | $\mathbf{99.000000}$ 倍 |
観察 2.2 その長さで、信頼性はちょうど目標に戻る(四つとも $10^{-12}$)。$0.5$ から $0.9$ へは $9$ 倍だが、そこから $0.99$ へはさらに $11$ 倍が要る。最後の桁ほど高くつく。
3. $1$ には届かない
計算 3.1:信頼性 $0.5$ のテストを長くしていった。
| 長さ | 信頼性 | $1$ との差 | 近似 $(1-\rho)/(n\rho)$ |
|---|---|---|---|
| $10$ 倍 | $\mathbf{0.90909091}$ | $\mathbf{0.09090909}$ | $\mathbf{0.10000000}$ |
| $100$ 倍 | $\mathbf{0.99009901}$ | $\mathbf{0.00990099}$ | $\mathbf{0.01000000}$ |
| $10000$ 倍 | $\mathbf{0.99990001}$ | $\mathbf{0.00009999}$ | $\mathbf{0.00010000}$ |
観察 3.2 信頼性は $1$ に近づくだけで、届かない。$1$ との差は長くするほど近似 $(1-\rho)/(n\rho)$ に寄り、$10000$ 倍では近似の $0.999$ 倍より大きく $1$ 倍より小さい。「もっと測れば正確になる」は正しいが、漸近しかしない。
4. 長さに比例するのはオッズ
計算 4.1:信頼性のオッズ $\rho/(1-\rho)$ を、長さの倍率と比べた(元のオッズは $1$)。
| 長さ | オッズ |
|---|---|
| $2$ 倍 | $\mathbf{2.000000}$ |
| $9$ 倍 | $\mathbf{9.000000}$ |
| $100$ 倍 | $\mathbf{100.000000}$ |
観察 4.2 オッズは長さにちょうど比例する(三つとも $10^{-9}$)。オッズは真の点の分散と誤差の分散の比で、問題を $n$ 倍にすると真の点の分散は $n^2$ 倍、誤差の分散は $n$ 倍になるからである。これは、独立な測りを重ねると精度が足し算になるという論文334 の結果の言い換えで、同根である。信頼性が $1$ に張り付いて見えるのは、上限のある量で見ているからで、オッズで見れば増え方は一様である。
5. 測っているもののずれ
計算 5.1:知りたいもの $Y$ との真の相関を $0.6$ とし、$Y$ は誤差なく測れるとして、テストを長くしていった。
| 長さ | 信頼性 | 観測される相関 |
|---|---|---|
| $1$ 倍 | $\mathbf{0.500000}$ | $\mathbf{0.424264}$ |
| $9$ 倍 | $\mathbf{0.900000}$ | $\mathbf{0.569210}$ |
| $100$ 倍 | $\mathbf{0.990099}$ | $\mathbf{0.597022}$ |
| 限りなく長く | $1$ に近づく | $\mathbf{0.600000}$ に近づく |
観察 5.2 これが本稿の芯である。長くして減るのは偶然の誤差だけで、真の相関 $0.6$、つまり測っているものと知りたいもののずれは、長さでは一つも減らない。問題を $100$ 倍にしても相関は $0.597022$ で、$0.6$ の手前で止まる。残りの隔たりは誤差ではなく、測るものが違うことから来ている。
観察 5.3 知りたいもの側の物差しにも誤差があれば、頭打ちはさらに下がる。その信頼性が $0.7$ なら、テストをどれだけ長くしても観測される相関は $\mathbf{0.501996}$ を超えない。片方の物差しを磨いても、もう片方の誤差は残る。
観察 5.4 測定の標準誤差は、信頼性 $0.5$ で $\mathbf{0.707107}$、$0.9$ で $\mathbf{0.316228}$ である(点の標準偏差を $1$ とする)。長さを $9$ 倍にして、一人の点の揺れは半分より少し小さくなる。揺れは減るが、揺れの中心が知りたいものからずれていることは変わらない。
6. 分離子
観察 6.1 分離子は、偶然の誤差か、測るもののずれか、である。偶然の誤差は、同じものを繰り返し測ると平均で消えていく。測るもののずれは、何度測っても同じだけ残る。長さで減るのは前者だけである。
観察 6.2 論文334 と同根で、その先を言う。あちらは、独立な測りを重ねると精度が足し算になることを示した。本稿のオッズの比例はその言い換えである。本稿が加えるのは、重ねて足されるのは誤差に対する精度だけで、測るものを知りたいものに近づける力は持たない、という点である。
観察 6.3 論文470 と同じ型である。あちらでは、精度 $99$ パーセントの検査でも陽性の九割が外れえた。ここでも、信頼性 $0.99$ は「同じものを繰り返し測ったときの揃い方」であって、知りたいものとの近さではない。検査の良さを一つの数で言うと、何に対する良さかが落ちる。
観察 6.4 論文300 の基準では別根である。「長くすると信頼性が上がる」は誤差が平均で消えることから出る。「相関は真の相関で頭打ち」は、何を測っているかという定義から出る。根が違うので、片方をいくら進めても、もう片方は動かない。
観察 6.5 言わないこと。試験を設計しない。どれだけの長さにすべきかも述べない。示したのは、長さで買えるものと買えないものの区別だけである。
7. 点呼と結び
- $0.5$ から $0.9$ へ $\mathbf{9.000000}$ 倍(計算 2.1):その長さでちょうど目標に戻る。
- $0.99$ へは $\mathbf{99.000000}$ 倍(計算 2.1):最後の桁ほど高い。
- $10000$ 倍で $\mathbf{0.99990001}$(計算 3.1):$1$ には届かない。
- オッズは長さにちょうど比例(計算 4.1):論文334 と同根。
- 観測される相関 $\mathbf{0.424264}$ から $\mathbf{0.569210}$ へ(計算 5.1):長くすれば上がる。
- それでも $0.6$ で頭打ち(観察 5.2):本稿の芯。
- 物差しの信頼性 $0.7$ なら $\mathbf{0.501996}$(観察 5.3):もう片方の誤差は残る。
- 標準誤差 $\mathbf{0.707107}$ から $\mathbf{0.316228}$ へ(観察 5.4):揺れは減るが中心はずれたまま。
- 分離子は偶然の誤差か測るもののずれか(観察 6.1):長さで減るのは前者だけ。
- 論文470 と同じ型(観察 6.3):何に対する良さかが落ちる。
結び:テストの信頼性が低いとき、「問題を増やせばよい」と言われ、それは正しい。ただし増やして減らせるのは偶然の誤差だけである。信頼性 $0.5$ を $0.9$ にするには長さを $\mathbf{9.000000}$ 倍、$0.99$ には $\mathbf{99.000000}$ 倍にする必要があり、$10000$ 倍にしても $\mathbf{0.99990001}$ で $1$ には届かない。長さにちょうど比例するのは信頼性ではなくそのオッズで、それは独立な測りを重ねると精度が足し算になるという論文334 の結果と同根である。知りたいものとの相関は、真の相関で頭打ちになる。真の相関が $0.6$ なら、観測される相関は $\mathbf{0.424264}$ から $\mathbf{0.569210}$、$\mathbf{0.597022}$ と上がるが、どれだけ長くしても $0.6$ を超えない。知りたいもの側の物差しの信頼性が $0.7$ なら、頭打ちは $\mathbf{0.501996}$ まで下がる。測定の標準誤差は $\mathbf{0.707107}$ から $\mathbf{0.316228}$ へ減るが、揺れの中心が知りたいものからずれていることは変わらない。分離子は、偶然の誤差か、測るもののずれか、である。偶然の誤差は繰り返すと平均で消え、測るもののずれは何度測っても残る。論文300 の基準で二つは別根で、長くしても後者は動かない。既刊との位置、論文334 と同根で、重ねて足されるのは誤差に対する精度だけだという、その先を言った。論文470 と同じく、検査の良さを一つの数で言うと、何に対する良さかが落ちる。正直に言えば、平行な問題を足すと仮定し、受ける人の疲れも慣れも入れていない。真の相関と物差しの信頼性は代表値である。そして試験は設計しない。示したのは、長さで買えるものと買えないものの区別である。
参考文献
- Brown, W. (1910). Some Experimental Results in the Correlation of Mental Abilities. British Journal of Psychology.
- Lord, F. M., & Novick, M. R. (1968). Statistical Theories of Mental Test Scores. Addison-Wesley.
- Spearman, C. (1910). Correlation Calculated from Faulty Data. British Journal of Psychology.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『足しているのは値ではなく、精度である』[論文334]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22681804
- 山岸勇輝 (2026). 『精度九十九パーセントの検査でも、陽性の九割は外れることがある』[論文470]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733434
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「テストを長くして減らせるのは偶然の誤差だけで、測っているもののずれは減らない」[論文580]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014337
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). テストを長くして減らせるのは偶然の誤差だけで、測っているもののずれは減らない [論文580]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/580 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014337
Yamagishi, Y. (2026). Lengthening a Test Removes Only Chance Error, Not the Gap in What Is Measured [Paper 580]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/580; DOI: 10.5281/zenodo.23014337
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