要旨
シャボン玉は割れる直前に黒くなる。膜が薄くなって光を返さなくなった、と思われやすい。本稿が示すのは、黒い膜は光を返せないのではなく、二つの面で返した光が消し合っているのであり、それは片方の面でだけ位相が反転するからで、そのため同じ四分の一波長の厚さが、反射防止膜では反射を消し、シャボン膜では反射を最大にすることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、四分の一波長で反射は最大になる。水の膜の一つの面は光の $\mathbf{0.020059}$ を返す。膜の厚さが四分の一波長 $\lambda/(4n)$ のとき、二つの面の反射がそろって $\mathbf{0.077113}$、一つの面の $\mathbf{3.844228}$ 倍になる(第2節)。
第二に、位相の反転を落とすと、明と暗を取り違える。最初に明るくなる厚さは、紫($400$ nm)で $\mathbf{75.1880}$ nm、緑($550$ nm)で $\mathbf{103.3835}$ nm、赤($700$ nm)で $\mathbf{131.5789}$ nm である。反転を数えずに $\lambda/(2n)$ とすると緑で $\mathbf{206.7669}$ nm を明るい厚さと取り違えるが、その厚さで緑の反射はちょうど消える(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。膜が薄くなる極限で、反射は $0$ に向かう。厚さ $5$ nm で緑の反射は $\mathbf{0.000481}$、厚さ $0$ ではちょうど $0$ である。黒い膜は光を返せないのではなく、返した光が消し合っている。反射で見るかぎり、黒い膜と穴は区別がつかない(第3節)。
第四に、黒くなる厚さは色ごとに違う。膜が一つの水面より暗くなるのは、紫で $\mathbf{24.7845}$ nm、緑で $\mathbf{34.0787}$ nm、赤で $\mathbf{43.3729}$ nm を割ったときである。厚さ $30$ nm の膜は、紫ではまだ一つの水面より明るい($\mathbf{0.027940}$)(第3節)。
第五に、同じ四分の一波長が、反射防止膜では反射を弱める。論文370 の反射防止膜(MgF$_2$ をガラスに)では、反射は裸のガラスの $\mathbf{0.042580}$ から $\mathbf{0.012601}$ へ、$\mathbf{0.295932}$ 倍になる。厚さ $0$ では裸のガラスに戻り、暗くならない(第4節)。
第六に、分離子は、膜の屈折率が両側の媒質の間にあるか外にあるかである。すなわち $(n_1-n_0)(n_1-n_s)$ の符号で、シャボン膜は正(片方の面でだけ反転)、反射防止膜は負(両方の面で反転)である(第5節)。
キーワード:シャボン膜、薄膜干渉、黒い膜、反射防止膜、位相反転。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。薄膜の干渉、フレネル反射、一層の膜の特性行列は、すべて標準的である。垂直入射だけを計算する。斜めから見たときの色のずれは扱わない。吸収を入れず、屈折率は波長に依らないとした。水の膜を $1.33$、論文370 と同じく MgF$_2$ を $1.38$、ガラスを $1.52$ と置いた。膜がなぜ薄くなるかを扱わない。膜の中の液の流れ落ち、蒸発、表面張力の差による流れ、割れる時期は主題ではない。色の見え方を計算しない。反射率を三つの波長で出すだけで、目に見える色には直さない。既刊との関係:論文370 は、反射防止膜が一層では足りない理由が二つ独立にあることを示した。本稿は同じ薄膜の干渉で、屈折率の並びが逆の場合を見る。370 の四分の一波長の反射率 $0.012601$ と裸のガラスの $0.042580$ を、特性行列という別の道で再現した。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。反射防止膜とシャボン膜は、同じ式から出る同根である。加えたのは、反射率を Airy の式と特性行列の二つの道で出したこと(差は $4.2\times10^{-17}$ 以下)、位相の反転を落とした厚さで緑が消えることを示したこと、膜が一つの水面より暗くなる厚さを三つの波長で出したこと、分離子を屈折率の並びに置いたことである。
1. 記法と問い
設定:屈折率 $n$ の膜を空気がはさみ、光が垂直に当たるとする。一つの面の反射の振幅を $r=(n-1)/(n+1)$、膜を往復する光の位相の遅れを $\delta=4\pi nt/\lambda$($t$ は膜の厚さ)とすると、膜全体の反射率は
$$R=\frac{2r^2(1-\cos\delta)}{1+r^4-2r^2\cos\delta}$$
である(Airy の式)。空気から膜へ入る面では反射で位相が反転し、膜から空気へ出る面では反転しない。
観察 1.1 シャボン玉は割れる直前に黒くなる。膜が薄くなって光を返さなくなった、と思われやすい。膜が光を返していないのか、返した光が消し合っているのかは、別の問いである。
問い:シャボン膜はなぜ黒くなるのか。そして同じ薄膜の干渉が、反射防止膜では何をするのか。
2. 四分の一波長で最大
計算 2.1:水の膜(屈折率 $1.33$)の一つの面の反射率は $r^2=\mathbf{0.020059}$ である。膜の厚さが $t=\lambda/(4n)$ のとき $\cos\delta=-1$ で、反射率は最大の $4r^2/(1+r^2)^2=\mathbf{0.077113}$、一つの面の $\mathbf{3.844228}$ 倍になる。一層の膜の特性行列という別の道で計算しても、
| 波長 | 最初に明るくなる厚さ | 反射率(Airy の式) | 反射率(特性行列) |
|---|---|---|---|
| $400$ nm | $\mathbf{75.1880}$ nm | $0.077113$ | $0.077113$ |
| $450$ nm | $84.5865$ nm | $0.077113$ | $0.077113$ |
| $550$ nm | $\mathbf{103.3835}$ nm | $0.077113$ | $0.077113$ |
| $700$ nm | $\mathbf{131.5789}$ nm | $0.077113$ | $0.077113$ |
で、二つの道の差は、厚さと波長を変えた十数点で $4.2\times10^{-17}$ 以下である。
観察 2.2 四分の一波長で最大になるのは、片方の面でだけ位相が反転するからである。膜を往復した光は半波長遅れ、それに入る面での反転の半波長が加わって、二つの反射がそろう。反転が片方の面にしかないことが、明るさの向きを決めている。
観察 2.3 位相の反転を落とすと、明と暗を取り違える。反転を数えずに「往復が一波長なら強め合う」とすると、緑の最初の明るい厚さを $\lambda/(2n)=\mathbf{206.7669}$ nm と出す。実際はその厚さで $\cos\delta=1$ となり、緑の反射はちょうど消える(特性行列で $1.3\times10^{-33}$)。
3. 薄くなる極限
計算 3.1:膜を薄くしていったときの反射率である。
| 厚さ | $400$ nm(紫) | $550$ nm(緑) | $700$ nm(赤) |
|---|---|---|---|
| $30$ nm | $\mathbf{0.027940}$ | $0.015933$ | $0.010163$ |
| $20$ nm | $0.013571$ | $0.007426$ | $0.004652$ |
| $10$ nm | $0.003581$ | $0.001910$ | $0.001184$ |
| $5$ nm | $0.000908$ | $\mathbf{0.000481}$ | $0.000297$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。膜が薄くなると反射は $0$ に向かい、厚さ $0$ ではちょうど $0$ になる。二つの面が重なると、反転した反射と反転しない反射がちょうど消し合う。黒い膜は光を返せないのではなく、返した光が消し合っている。反射で見るかぎり、黒い膜と穴は区別がつかない。
計算 3.3:膜が一つの水面より暗くなる条件 $R<r^2$ は $\cos\delta>(1+r^2)/2$ で、厚さにすると紫で $\mathbf{24.7845}$ nm、緑で $\mathbf{34.0787}$ nm、赤で $\mathbf{43.3729}$ nm 未満である。緑の境の厚さで、反射率は $r^2$ と $3.5\times10^{-18}$ で一致する。
観察 3.4 黒くなる厚さは色ごとに違う。厚さ $30$ nm の膜は、緑と赤では一つの水面より暗いが、紫ではまだ明るい($0.027940$)、どの色でも一つの水面より暗くなるのは、$24.7845$ nm を割ってからである。
4. 反射防止膜と並べる
計算 4.1:論文370 の反射防止膜、MgF$_2$(屈折率 $1.38$)をガラス($1.52$)に四分の一波長の厚さで付けたもの(波長 $550$ nm)。裸のガラスは $\mathbf{0.042580}$、膜を付けると $\mathbf{0.012601}$(閉じた式 $((n_s-n_1^2)/(n_s+n_1^2))^2$ と一致)で、裸の $\mathbf{0.295932}$ 倍になる。膜の厚さを $0$ にすると $0.042580$ に戻る。
観察 4.2 同じ四分の一波長が、ここでは反射を弱める。空気から MgF$_2$ へも、MgF$_2$ からガラスへも、屈折率の高い側へ入るので、両方の面で位相が反転する。反転が二つそろうと往復の半波長の遅れだけが残り、二つの反射は消し合う。そして厚さ $0$ では裸のガラスに戻り、暗くならない。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は $(n_1-n_0)(n_1-n_s)$ の符号である。シャボン膜は $+0.1089$(膜が両側より屈折率が高く、片方の面でだけ反転する)、反射防止膜は $-0.0532$(膜が両側の間にあり、両方の面で反転する)。正なら四分の一波長で最大・厚さ $0$ で消え、負なら四分の一波長で最小・厚さ $0$ で裸に戻る。
観察 5.2 論文370 と並べる。あちらは、一層の反射防止膜が足りない理由を二つ示した。本稿は同じ式の、屈折率の並びが逆の側を見た。同じ四分の一波長が、並びひとつで、消す厚さにも強める厚さにもなる。
観察 5.3 論文300 の基準では同根である。反射防止膜もシャボン膜も、同じ Airy の式、同じ特性行列から出る。違うのは屈折率の並びだけである。
観察 5.4 言わないこと。膜がなぜ薄くなるか、いつ割れるかは扱わない。色の見え方も計算しない。示したのは、黒い膜が反射を消し合っていることと、それを決めるのが屈折率の並びであることだけである。
6. 点呼と結び
- 一つの水面は $\mathbf{0.020059}$(計算 2.1):四分の一波長で $\mathbf{0.077113}$。
- 一つの面の $\mathbf{3.844228}$ 倍(計算 2.1):二つの反射がそろう。
- 緑の最初の明るい厚さは $\mathbf{103.3835}$ nm(計算 2.1):紫 $\mathbf{75.1880}$、赤 $\mathbf{131.5789}$。
- 反転を落とすと $\mathbf{206.7669}$ nm と取り違える(観察 2.3):そこで緑は消える。
- 薄くなると反射は $0$ へ(観察 3.2):本稿の芯。
- $5$ nm で緑は $\mathbf{0.000481}$(計算 3.1):黒い膜と穴は区別がつかない。
- 一つの水面より暗いのは紫で $\mathbf{24.7845}$ nm 未満(計算 3.3):緑 $\mathbf{34.0787}$、赤 $\mathbf{43.3729}$。
- 反射防止膜は $\mathbf{0.042580}$ を $\mathbf{0.012601}$ へ(計算 4.1):同じ四分の一波長で弱める。
- 二つの道の差は $4.2\times10^{-17}$ 以下(計算 2.1):Airy の式と特性行列。
- 分離子は $(n_1-n_0)(n_1-n_s)$ の符号(観察 5.1):屈折率の並び。
結び:シャボン玉は割れる直前に黒くなる。膜が薄くなって光を返さなくなった、と思われやすい。黒い膜は、光を返せないのではなく、返した光が消し合っている。水の膜の一つの面は光の $\mathbf{0.020059}$ を返し、空気から膜へ入る面でだけ位相が反転する。そのため厚さが四分の一波長(緑で $\mathbf{103.3835}$ nm)のとき二つの反射がそろって $\mathbf{0.077113}$、一つの面の $\mathbf{3.844228}$ 倍になり、厚さが $0$ に向かうと二つの反射は消し合って $0$ に向かう。$5$ nm で緑の反射は $\mathbf{0.000481}$ で、どの色でも一つの水面より暗くなるのは $\mathbf{24.7845}$ nm を割ってからである。位相の反転を落とすと、緑が消える $\mathbf{206.7669}$ nm を最初に明るい厚さと取り違える。同じ四分の一波長が、反射防止膜では反射を弱める。論文370 の MgF$_2$ の膜では、両方の面で反転するので、反射は裸のガラスの $\mathbf{0.042580}$ から $\mathbf{0.012601}$ へ $\mathbf{0.295932}$ 倍になり、厚さ $0$ では裸のガラスに戻る。分離子は、膜の屈折率が両側の間にあるか外にあるか、$(n_1-n_0)(n_1-n_s)$ の符号である。論文300 の基準で、二つは同じ式から出る同根で、違うのは屈折率の並びだけである。正直に言えば、垂直入射だけを計算し、吸収を入れず、屈折率は波長に依らないとした。膜がなぜ薄くなるか、いつ割れるかは扱わず、色の見え方も計算していない。
参考文献
- Born, M., & Wolf, E. (1999). Principles of Optics (7th ed.). Cambridge University Press.
- Hecht, E. (2017). Optics (5th ed.). Pearson.
- Isenberg, C. (1992). The Science of Soap Films and Soap Bubbles. Dover.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『反射防止膜が一層では足りない理由は、二つ独立にある』[論文370]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697804
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「シャボン膜が黒くなるのは、膜が無くなったからではない」[論文588]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014377
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). シャボン膜が黒くなるのは、膜が無くなったからではない [論文588]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/588 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014377
Yamagishi, Y. (2026). A Soap Film Turns Black Not Because the Film Is Gone [Paper 588]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/588; DOI: 10.5281/zenodo.23014377
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