要旨
誤りを直す符号には、どの語もちょうど一つの符号語の近くにある「完全符号」がある。その数の条件は、符号語のまわりの球の点の数を足すと、ちょうど全体の語の数になることである。本稿が示すのは、この数の条件は完全符号が在るための必要条件にすぎず、長さ $90$ では条件が成り立つのに符号は無く、それは全体の数え上げではなく、二つの位置を固定した局所の数え上げで初めて分かることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、ハミング符号は完全である。長さ $7$ で $16$ 個の符号語のまわりの半径 $1$ の球($8$ 点)が、$128$ 語をちょうど一度ずつ覆う。$128$ 語すべてで、距離 $1$ 以内の符号語はちょうど $1$ 個である(第2節)。
第二に、ゴレイ符号も完全である。長さ $23$ で符号語は $4096$ 個、最小の重さは $7$、半径 $3$ の球は $2048$ 点で、$4096\times2048=2^{23}$ をちょうど埋める(第3節)。
第三に、数の条件を満たす長さは少ない。長さ $20000$ まで・直す誤りの数 $8$ までで探すと、ハミング符号と自明な反復符号を除けば、長さ $23$(誤り $3$)と長さ $90$(誤り $2$)の二つだけである(第4節)。
第四に、これが本稿の芯である。長さ $90$ では $1+90+4005=4096=2^{12}$ と数が合うのに、符号は無い。二つの位置を含む重さ $3$ の語 $88$ 個を、重さ $5$ の符号語が $3$ 個ずつ覆わなければならず、$88/3=\mathbf{29.333333}$ で割り切れない(第4節)。
第五に、全体で数えると、矛盾は見えない。重さ $3$ の語 $117480$ 個を重さ $5$ の符号語が $10$ 個ずつ覆えば $11748$ 個で、割り切れる。ゴレイ符号では局所の数え上げも $20/4=5$ で割り切れ、実際に数えても $5$ 個である(第4節)。
第六に、分離子は、数え上げを全体でするか、位置を固定して局所でするかである。全体の数が合うことは、局所の数が合うことを保証しない(第5節)。
キーワード:完全符号、ハミング限界、誤り訂正符号、ゴレイ符号、球の詰め込み。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ハミング符号、ゴレイ符号、球の数による上限(ハミング限界)、長さ $90$ の完全符号が無いことの数え上げは、すべて標準的である。二元の符号に限る。完全符号の分類を証明しない。ハミング符号・ゴレイ符号・自明なもの以外に二元の完全符号が無いことは、引くだけで証明しない。探索の範囲を限る。数の条件を満たす長さを探したのは、長さ $20000$ まで・直す誤りの数 $8$ までである。復号の手順は扱わない。既刊との関係:論文315 は、どの次元が特別かは問いごとに違うことを示し、射程注記で「符号理論に立ち入らない(球充填と誤り訂正符号の対応は扱わない」とした)本稿はその席に座り、語の空間での球の詰め方を数える。論文281 は、量子のハミング限界が長さ $5$ で等号になる、つまり量子の完全符号があることを示した。本稿は古典の側で、等号になる数が合っても符号が無い例を見る。論文163 は、「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」は別の文だと示した。本稿は、「数が合う」と「在る」もまた別の文であることを足す。論文300 は、数値の一致だけでは同根と見なさないと書いた。本稿の数の条件も、一致だけでは存在を保証しない。同じ型の注意である。加えたのは、ハミング符号とゴレイ符号が語の空間をちょうど埋めることを全数で確かめたこと、数の条件を満たす長さを探したこと、長さ $90$ で全体の数え上げは割り切れ、局所の数え上げが割り切れないことを並べたこと、分離子を「全体か局所か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:長さ $n$ の二元の語 $2^n$ 個のうち、$2^k$ 個を符号語に選ぶ。どの二つの符号語も $2e+1$ か所以上違えば、誤りが $e$ か所までなら、いちばん近い符号語に戻せる。符号語のまわりの半径 $e$ の球は重ならないので
$$2^k\sum_{i=0}^{e}\binom{n}{i}\le 2^n$$
で、等号が成り立つとき、どの語もちょうど一つの球に入る。これが完全符号である。
観察 1.1 等号が成り立つためには、$\sum_{i\le e}\binom{n}{i}$ が $2$ の冪でなければならない。これは数の条件で、簡単に確かめられる。数の条件が合えば符号が在るのか、は別の問いである。
問い:球の点の数がちょうど全体を割り切るとき、その完全符号は必ず在るのか。
2. ハミング符号
計算 2.1:長さ $7$ のハミング符号(検査行列の列を $1$ から $7$ の二進数とする)を全数で作った。符号語は $16$ 個、$0$ 以外の符号語の最小の重さは $3$、半径 $1$ の球は $8$ 点で、$16\times8=128=2^7$ である。$128$ 語それぞれについて距離 $1$ 以内の符号語を数えると、最小も最大も $1$ だった。長さ $2^r-1$ のハミング符号では、$r=3,4,5,6$ のどれでも $2^{n-r}(1+n)=2^n$ が成り立つ。
観察 2.2 局所の数え上げも割り切れる。一つの位置を含む重さ $2$ の語は $6$ 個で、それを覆うのは、その位置を含む重さ $3$ の符号語で、一つが $2$ 個ずつ覆う。$6/2=3$ で割り切れ、実際に数えても $3$ 個である。全体でも局所でも、数は合っている。
3. ゴレイ符号
計算 3.1:生成多項式 $x^{11}+x^{10}+x^6+x^5+x^4+x^2+1$ で長さ $23$ のゴレイ符号を作った。
| 重さ | $0$ | $7$ | $8$ | $11$ | $12$ | $15$ | $16$ | $23$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 符号語の数 | $1$ | $253$ | $506$ | $1288$ | $1288$ | $506$ | $253$ | $1$ |
符号語は $4096$ 個、最小の重さは $7$ で、半径 $3$ の球は $1+23+253+1771=2048$ 点、$4096\times2048=8388608=2^{23}$ である。
観察 3.2 ゴレイ符号でも、局所の数え上げが割り切れる。三つの位置を含む重さ $4$ の語は $20$ 個で、それを覆う重さ $7$ の符号語は一つが $4$ 個ずつ覆う。$20/4=5$ で割り切れ、実際に数えても $5$ 個である。全体の数え上げ $\binom{23}{4}/\binom{7}{4}=253$ も、重さ $7$ の符号語の数 $253$ にちょうど一致する。
4. 数の条件と長さ $90$
計算 4.1:$\sum_{i\le e}\binom{n}{i}$ が $2$ の冪になる $(n,e)$ を、$e$ が $2$ から $8$、$n$ が $20000$ までで探した(自明な反復符号 $n=2e+1$ を除く)。見つかったのは $(n,e)=(23,3)$ と $(90,2)$ の二つだけで、前者がゴレイ符号である。後者は $1+90+4005=4096=2^{12}$ で、数の条件を満たしている。
計算 4.2:長さ $90$ で二つの誤りを直す完全符号があるとし、$0$ を符号語に含むとする。最初の二つの位置に $1$ を持つ重さ $3$ の語は $88$ 個ある。それぞれは距離 $2$ 以内のちょうど一つの符号語に入るが、その符号語は重さ $5$ で、その三つの位置を含むほかない。最初の二つの位置を含む重さ $5$ の符号語一つは、残りの三つの位置のどれを選ぶかで、そういう語をちょうど $3$ 個覆う。すると $88$ が $3$ で割り切れなければならないが、$88/3=\mathbf{29.333333}$、余り $1$ である。
観察 4.3 これが本稿の芯である。長さ $90$ では数の条件が成り立つのに、完全符号は無い。球の点の数が全体をちょうど割り切ることは、球を実際に詰められることを保証しない。
観察 4.4 全体で数えると、矛盾は見えない。重さ $3$ の語は全部で $\binom{90}{3}=117480$ 個、重さ $5$ の符号語一つが $\binom{5}{3}=10$ 個ずつ覆うので、重さ $5$ の符号語は $11748$ 個あればよく、割り切れる。矛盾は、二つの位置を固定して数えたときに初めて出る。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、数え上げを全体でするか、位置を固定して局所でするかである。ハミング符号とゴレイ符号は、全体でも局所でも数が合う。長さ $90$ は全体では合い、局所で合わない。全体の数の条件は必要条件で、局所の数え上げがそれより強い必要条件になる。
観察 5.2 論文315 の席に座る。あちらは、どの次元が特別かは問いごとに違うことを示し、射程注記で球充填と誤り訂正符号の対応を扱わないとした。本稿は、語の空間での球の詰め方を、長さ $7$・$23$・$90$ で数えた。
観察 5.3 論文281 と論文163 と並べる。281 は量子のハミング限界が長さ $5$ で等号になることを示し、163 は「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」が別の文であることを示した。本稿は古典の側で、「数が合う」と「在る」もまた別の文であることを、長さ $90$ で示した。
観察 5.4 論文300 と同じ型の注意である。300 は、数値の一致だけでは同根と見なさないと書いた。本稿の数の条件も、一致だけでは符号の存在を保証しない。数が合うことは、次の数え上げを始める理由であって、結論ではない。
観察 5.5 言わないこと。二元の完全符号がハミング符号・ゴレイ符号・自明なものだけであることは証明せず、引くだけである。探索は長さ $20000$ までに限った。示したのは、数の条件と存在が別であることを、一つの例で数えて見せたことだけである。
6. 点呼と結び
- 長さ $7$ のハミング符号は $16\times8=128$(計算 2.1):$128$ 語すべてがちょうど一度覆われる。
- 局所でも $6/2=3$(観察 2.2):数えても $3$ 個。
- ゴレイ符号は $4096\times2048=2^{23}$(計算 3.1):最小の重さ $7$。
- ゴレイ符号の局所の数え上げ $20/4=5$(観察 3.2):数えても $5$ 個。
- 数の条件の解は $(23,3)$ と $(90,2)$(計算 4.1):長さ $20000$ まで。
- 長さ $90$ で $1+90+4005=2^{12}$(計算 4.1):数は合う。
- 局所では $88/3=\mathbf{29.333333}$(計算 4.2):割り切れない。本稿の芯。
- 全体では $117480/10=11748$(観察 4.4):割り切れる。
- 論文315 の席に座る(観察 5.2):球充填と符号。
- 分離子は全体か局所か(観察 5.1):数が合うことは存在を保証しない。
結び:誤りを直す符号には、どの語もちょうど一つの符号語の近くにある完全符号がある。その数の条件は、符号語のまわりの球の点の数がちょうど全体を割り切ることである。ハミング符号とゴレイ符号は、その条件を満たし、実際に在る。長さ $7$ のハミング符号は $16$ 個の球 $8$ 点ずつで $128$ 語をちょうど一度ずつ覆い、長さ $23$ のゴレイ符号は $4096$ 個の球 $2048$ 点ずつで $2^{23}$ を埋める。どちらも、位置を固定した局所の数え上げでも割り切れる。長さ $90$ では数の条件が成り立つのに、符号は無い。$1+90+4005=4096=2^{12}$ と数は合うが、二つの位置を含む重さ $3$ の語 $88$ 個を重さ $5$ の符号語が $3$ 個ずつ覆うことになり、$88/3=\mathbf{29.333333}$ で割り切れない。全体で数えれば $117480/10=11748$ で割り切れて、矛盾は見えない。分離子は、数え上げを全体でするか、位置を固定して局所でするかである。全体の数が合うことは、局所の数が合うことも、符号が在ることも保証しない。既刊との位置、論文315 が射程注記で空けていた球充填と符号の席に座った。論文281 の量子の完全符号、論文163 の「在る」と「これだ」の区別の隣で、「数が合う」と「在る」の区別を示した。論文300 が数値の一致だけでは同根と見なさないと書いたのと、同じ型の注意である。正直に言えば、二元の完全符号の分類は証明せず引くだけで、探索は長さ $20000$ まで、直す誤りの数 $8$ までに限った。復号の手順も扱っていない。
参考文献
- Golay, M. J. E. (1949). Notes on Digital Coding. Proceedings of the IRE.
- Hamming, R. W. (1950). Error Detecting and Error Correcting Codes. Bell System Technical Journal.
- MacWilliams, F. J., & Sloane, N. J. A. (1977). The Theory of Error-Correcting Codes. North-Holland.
- van Lint, J. H. (1999). Introduction to Coding Theory (3rd ed.). Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 『「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」は、別の文である』[論文163]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092677
- 山岸勇輝 (2026). 『複製できないのに、訂正はできる』[論文281]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171058
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『どの次元が特別かは、問いごとに違う』[論文315]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208139
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「球がぴったり詰まる数の条件を満たしても、その符号は在るとは限らない」[論文597]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014414
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 球がぴったり詰まる数の条件を満たしても、その符号は在るとは限らない [論文597]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/597 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014414
Yamagishi, Y. (2026). Meeting the Condition That the Spheres Fill Space Exactly Does Not Mean the Code Exists [Paper 597]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/597; DOI: 10.5281/zenodo.23014414
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