要旨
井戸で水を汲むと周りの水位が下がるが、少し離れれば影響は消える、と思われやすい。本稿が示すのは、水平に広がる帯水層(二次元の流れ)では、水位の低下は距離の対数でしか減らず、汲み続ければ時間の対数で下がり続けて定常に落ち着かないこと、そして三次元に広がる流れとは、次元一つでこの振る舞いが変わることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、距離が $10$ 倍になっても、低下は同じ量ずつしか減らない。定常のティームの式で $\mathbf{3.6647}$ m ずつ。井戸の縁で $\mathbf{13.5555}$ m、$1$ m で $9.8909$ m、$10$ m で $6.2262$ m、$100$ m で $2.5615$ m である(第2節)。
第二に、三次元なら $10$ 倍ごとに $10$ 分の $1$ になる。点から球状に広がる流れでは、$1$ m で $\mathbf{7.9577}$ m、$10$ m で $0.79577$ m、$100$ m で $0.079577$ m である(第2節)。
第三に、離れた井戸どうしも効き合う。$50$ m 離れた二本の井戸が同じだけ汲むと、互いの低下を $\mathbf{1.270346}$ 倍にする(第2節)。
第四に、これが本稿の芯である。汲み続けると、水位は時間の対数で下がり続け、定常に落ち着かない。$10$ m 離れた所の低下は、時間が $10$ 倍になるごとに $\mathbf{1.8323}$ m ずつ増え、$1$ 時間で $\mathbf{5.3284}$ m、$10000$ 時間で $\mathbf{12.6572}$ m になる(第3節)。
第五に、三次元なら落ち着く。同じ条件の点からの流れでは、$10$ m 離れた所の低下は $1$ 時間で $0.77212$ m、$100$ 時間で $0.79341$ m と、定常の $\mathbf{0.79577}$ m に近づいて超えない(第3節)。
第六に、分離子は、流れの次元である。二次元では距離も時間も対数で効き、定常が無い。三次元では距離に反比例し、定常に落ち着く(第4節)。
キーワード:井戸、地下水、ティームの式、タイスの式、帯水層。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ティームの式、タイスの式、クーパー=ヤコブの近似、点からの流れの式は、すべて標準的である。帯水層は一様で水平とし、上下を水を通さない層ではさまれた被圧帯水層とした。数は代表値である。透水係数 $10^{-4}$ m/s、厚さ $10$ m、貯留係数 $10^{-4}$、揚水量 $0.01$ m$^3$/s、井戸の半径 $0.1$ m とした。影響圏の半径 $500$ m は、定常の式の境として置いた。第3節で見るとおり、二次元では本当は定常が無い。雨で地下水が戻ること、帯水層の端、井戸そのものでの損失は入れない。井戸を設計しない。既刊との関係:論文574 は、地下水位が $1$ m 下がると海水と淡水の境が $40$ m 上がることを示した。本稿は、汲み上げでできる水位の低下が、距離と時間にどう広がるかを見る。海岸の井戸では、本稿の低下が $574$ の $40$ 倍で淡水の底を持ち上げる。論文315 は、どの次元が特別かは問いごとに違うことを示した。ここでは、二次元が対数の振る舞いの境になる。加えたのは、定常の低下を四つの距離で出し、三次元と並べたこと、二本の井戸が効き合う倍率を出したこと、タイスの井戸関数を級数と積分の二つの道で出し、時間の対数で下がり続けることを示したこと、分離子を流れの次元に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:透水量係数 $T$、貯留係数 $S$ の水平な帯水層から、井戸で毎秒 $Q$ を汲む。定常なら、距離 $r$ での水位の低下はティームの式、汲み始めてから時間 $t$ ではタイスの式
$$s=\frac{Q}{2\pi T}\ln\frac{R}{r},\qquad s=\frac{Q}{4\pi T}W(u),\quad u=\frac{r^2S}{4Tt}$$
で与えられ($R$ は影響圏の半径、$W$ は井戸関数)、$u$ が小さいとき $W(u)\approx-\gamma-\ln u$(クーパー=ヤコブ)である。比べるために、透水係数 $K$ の三次元の広がりの中で点から汲むと $s=Q/(4\pi Kr)$ になる。
観察 1.1 井戸で水を汲むと周りの水位が下がるが、少し離れれば影響は消える、と思われやすい。音や光のように、離れれば急に弱まる、という見方である。水平に広がる地下の水でもそうなのかは、別の問いである。
問い:井戸の水位の低下は、距離と時間にどう広がるのか。
2. 距離
計算 2.1:透水係数 $10^{-4}$ m/s・厚さ $10$ m(透水量係数 $10^{-3}$ m$^2$/s)、揚水量 $0.01$ m$^3$/s、影響圏の半径 $500$ m で、$Q/(2\pi T)=1.591549$ m である。
| 距離 | 二次元(ティーム) | 三次元(点から) |
|---|---|---|
| $0.1$ m(井戸の縁) | $\mathbf{13.5555}$ m | |
| $1$ m | $9.8909$ m | $\mathbf{7.9577}$ m |
| $10$ m | $6.2262$ m | $0.79577$ m |
| $100$ m | $2.5615$ m | $0.079577$ m |
観察 2.2 二次元では、距離が $10$ 倍になるごとに低下は $\mathbf{3.6647}$ m ずつしか減らない。三次元では $10$ 倍ごとに $10$ 分の $1$ になる。水平に広がる帯水層では、水は円の周から集まってくるので、半径が $10$ 倍になっても通り道の広さは $10$ 倍にしかならない。そのぶん、低下は遠くまで残る。
計算 2.3:$50$ m 離れた二本の井戸が同じだけ汲むと、自分の縁の低下 $13.5555$ m に、相手の分 $3.6647$ m が足される。低下は $\mathbf{1.270346}$ 倍になる。
3. 時間
計算 3.1:井戸関数 $W(u)$ を、級数と積分の二つの道で出した。$u=10^{-4}$ から $1$ までの五点で、二つの相対差は $1.7\times10^{-14}$ 以下である。貯留係数 $10^{-4}$ で、$Q/(4\pi T)=0.795775$ m、時間が $10$ 倍になるごとの低下は $\mathbf{1.8323}$ m である。
| $10$ m 離れた所 | $u$ | タイス | 三次元(点から) |
|---|---|---|---|
| $1$ 時間 | $6.944\times10^{-4}$ | $\mathbf{5.3284}$ m | $0.77212$ m |
| $10$ 時間 | $6.944\times10^{-5}$ | $7.1603$ m | $0.78829$ m |
| $100$ 時間 | $6.944\times10^{-6}$ | $8.9925$ m | $0.79341$ m |
| $1000$ 時間 | $6.944\times10^{-7}$ | $10.8249$ m | |
| $10000$ 時間 | $6.944\times10^{-8}$ | $\mathbf{12.6572}$ m | 定常 $\mathbf{0.79577}$ m |
クーパー=ヤコブの近似は、$u$ が $10^{-3}$ より小さいところでタイスの式と相対差 $1.0\times10^{-4}$ 以内で一致する。
観察 3.2 これが本稿の芯である。二次元では、汲み続けると水位は時間の対数で下がり続け、$10000$ 時間でも止まらない。時間が $10$ 倍になるごとに $1.8323$ m ずつ下がる。水を集める範囲が時間とともに広がり続け、どこまで広げても、ちょうど釣り合う遠さが無い。
観察 3.3 三次元では落ち着く。点からの流れでは、低下は $0.77212$ m、$0.78829$ m、$0.79341$ m と、定常の $0.79577$ m に近づいて超えない。三次元では、遠くほど通り道が広がる速さが大きく、水を集める範囲が有限のまま釣り合う。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、流れの次元である。二次元では、距離にも時間にも対数で効き、定常が無い。三次元では距離に反比例し、定常に落ち着く。「離れれば影響は消える」「汲むのをやめなくても、そのうち落ち着く」は、三次元の流れについての話である。
観察 4.2 論文574 と並べる。あちらは、海岸で地下水位が $1$ m 下がると淡水の底が $40$ m 上がることを示した。本稿の低下は距離の対数でしか減らないので、内陸の井戸でも海岸の水位を下げ、それが $40$ 倍になって淡水の底に効く。
観察 4.3 論文315 と並べる。あちらは、どの次元が特別かは問いごとに違うことを示した。本稿の問い(水位の低下が落ち着くか)では、二次元が境になる。二次元の対数は、一次元の直線と三次元の逆数のあいだに挟まっている。
観察 4.4 言わないこと。井戸を設計しない。雨で地下水が戻ること、帯水層の端、井戸での損失は入れていない。実際の帯水層は、雨や川からの涵養で、どこかで釣り合う。示したのは、一様で端の無い水平な帯水層では、距離も時間も対数で効くという形である。
5. 点呼と結び
- 距離が $10$ 倍ごとに $\mathbf{3.6647}$ m ずつ(観察 2.2):二次元の定常。
- 井戸の縁で $\mathbf{13.5555}$ m(計算 2.1):$100$ m でも $2.5615$ m。
- 三次元なら $1$ m で $\mathbf{7.9577}$ m、$100$ m で $0.079577$ m(計算 2.1):$10$ 倍ごとに $10$ 分の $1$。
- $50$ m 離れた二本の井戸で $\mathbf{1.270346}$ 倍(計算 2.3):遠くても効き合う。
- 井戸関数の二つの道の差は $1.7\times10^{-14}$ 以下(計算 3.1):級数と積分。
- 時間が $10$ 倍ごとに $\mathbf{1.8323}$ m ずつ(観察 3.2):本稿の芯。
- $1$ 時間で $\mathbf{5.3284}$ m、$10000$ 時間で $\mathbf{12.6572}$ m(計算 3.1):止まらない。
- 三次元は定常の $\mathbf{0.79577}$ m に落ち着く(観察 3.3):超えない。
- クーパー=ヤコブはタイスと $1.0\times10^{-4}$ 以内(計算 3.1):$u<10^{-3}$ で。
- 分離子は流れの次元(観察 4.1):二次元が境になる。
結び:井戸で水を汲むと周りの水位が下がるが、少し離れれば影響は消え、そのうち落ち着く、と思われやすい。水平に広がる帯水層では、どちらも成り立たない。厚さ $10$ m の帯水層から毎秒 $0.01$ m$^3$ を汲むと、水位の低下は距離が $10$ 倍になるごとに $\mathbf{3.6647}$ m ずつしか減らず、井戸の縁の $\mathbf{13.5555}$ m に対し $100$ m でも $2.5615$ m 残る。$50$ m 離れた二本の井戸は互いの低下を $\mathbf{1.270346}$ 倍にする。汲み続ければ、$10$ m 離れた所の水位は時間が $10$ 倍になるごとに $\mathbf{1.8323}$ m ずつ下がり、$1$ 時間の $\mathbf{5.3284}$ m から $10000$ 時間の $\mathbf{12.6572}$ m まで、止まらない。三次元に広がる流れなら、振る舞いが変わる。点からの流れでは低下は距離に反比例し、$1$ m の $\mathbf{7.9577}$ m が $100$ m で $0.079577$ m になり、時間とともに定常の $\mathbf{0.79577}$ m に落ち着く。分離子は、流れの次元である。二次元では距離も時間も対数で効き、定常が無い。既刊との位置、論文574 の海岸の地下水では、この低下が $40$ 倍で淡水の底を持ち上げる。論文315 の「特別な次元は問いで違う」の一例として、水位が落ち着くかという問いでは二次元が境になる。正直に言えば、帯水層は一様で水平で端が無いとし、雨や川からの涵養、井戸での損失は入れていない。実際の帯水層は涵養でどこかで釣り合う。数は代表値で、井戸を設計するものではない。
参考文献
- Cooper, H. H., & Jacob, C. E. (1946). A Generalized Graphical Method for Evaluating Formation Constants and Summarizing Well-Field History. Transactions, American Geophysical Union.
- Freeze, R. A., & Cherry, J. A. (1979). Groundwater. Prentice-Hall.
- Theis, C. V. (1935). The Relation Between the Lowering of the Piezometric Surface and the Rate and Duration of Discharge of a Well Using Ground-Water Storage. Transactions, American Geophysical Union.
- Thiem, G. (1906). Hydrologische Methoden. J. M. Gebhardt.
- 山岸勇輝 (2026). 『どの次元が特別かは、問いごとに違う』[論文315]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208139
- 山岸勇輝 (2026). 『地下水位が $1$ m 下がると、淡水の底は $40$ m 上がる』[論文574]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014304
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書誌
山岸勇輝(2026)「井戸の水位は距離の対数でしか下がらず、汲み続ければ時間の対数で下がり続ける」[論文599]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014427
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 井戸の水位は距離の対数でしか下がらず、汲み続ければ時間の対数で下がり続ける [論文599]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/599 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014427
Yamagishi, Y. (2026). Around a Well the Water Table Falls Only as the Logarithm of Distance, and Keeps Falling as the Logarithm of Time [Paper 599]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/599; DOI: 10.5281/zenodo.23014427
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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