要旨
スキー板は一日 $1$ で借りられ、$B$ で買える。何日滑るかは、滑り終えるまで分からない。払った額を、日数を知っていたら払えた最小の額($B$ 日未満なら借り続けた額、$B$ 日以上なら買った額)と比べ、その比の最悪の値を「最悪の損」と呼ぶ。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、決めた日に買う方法では、最悪の損は $2-1/B$ 倍より小さくできない。$B=10$ で、何日借りてから買うかを $0$ 日から $59$ 日まで全部試すと、最悪の損は $0$ 日で $10$ 倍、$5$ 日で $2.5$ 倍、$9$ 日で最小の $1.9$ 倍、$10$ 日で $2$ 倍、$30$ 日で $4$ 倍だった(第2節)。
第二に、買う日を運に任せると、最悪の損が下がる。$B=10$ では、$1$ 日目から $10$ 日目のどこで買うかを、後の日ほど重く $0.059482$ から $0.153534$ の確率で選ぶと、最悪の損は $\mathbf{1.535340}$ 倍になる。$B=2$ で $1.333333$、$B=3$ で $1.421053$、$B=100$ で $1.577368$ で、決めた日の方法の $1.5$・$1.666667$・$1.99$ をいつも下回る(第3節)。
第三に、これが本稿の芯である。分離子は、相手がこちらの選びを知っているかどうかである。決めた日に買うなら、相手はちょうどその日で滑るのをやめさせて損を最大にできる。運に任せると、相手は確率しか知らず、どの日数を選んでも損の倍率が同じ $1.535340$ になる($1$ 日から $10$ 日のすべてで差 $10^{-12}$ 以内)(第3節)。
第四に、式と探索が合った。最悪の損の式 $1/(1-(1-1/B)^B)$ は、確率を全部の日数で評価した値と $B=2,3,5,10,100$ で $10^{-9}$ 以内で一致した。$B=2$ と $3$ では、確率を格子で探しても、式より小さい最悪の損は見つからなかった(第4節)。
第五に、$B$ が大きいと $e/(e-1)$ に近づく。$(1-1/B)^B$ が $1/e$ に近づくからで、論文479 が $1/e$ の出どころを分けた組でいえば、二つ目の組(二項からポアソンへの極限)に入る(第4節)。
キーワード:借りるか買うかの問題、競合比、オンラインアルゴリズム、乱択アルゴリズム、e/(e-1)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。借りるか買うかの問題で決めた日の方法が $2-1/B$ 倍であること(カーリンら、$1988$)、買う日を運に任せると $e/(e-1)$ 倍に近づくこと(カーリンら、$1994$)、相手に対する最悪の比で方法を測る考え方(ボロディンとエルヤニヴ、$1998$)は、いずれも既知である。滑る日数の分布を知っている場合は扱わない。日数を相手が選ぶ最悪の場合だけを見る。実際の買い物を勧めない。スキー板は、先の分からない決定の例である。既刊との関係:論文388 は、候補を順に見て最良を選ぶ問題(秘書問題)で、当たる確率が $1/e$ に落ち着くことを示した。本稿も先の分からない決定だが、測るのは当たる確率ではなく、後から見た最善との比である。論文479 は、体系に七回出る $1/e$ を出どころで三つの組に分けた。本稿の $e/(e-1)$ は $(1-1/B)^B$ の極限から来るので、その二つ目の組に入る。加えたのは、決めた日の方法を全部の日で試して最良を確かめたこと、運に任せる方法の最悪の損を式と全日数の評価と格子の探索の三つで突き合わせたこと、分離子を「相手がこちらの選びを知っているか」に置き、運に任せると損の倍率がどの日数でも同じになることを示したことである。
1. 記法と問い
設定:借りれば一日 $1$、買えば $B$($B$ は整数)。滑る日数 $d$ は、滑り終えるまで分からない。日数を知っていれば払えた最小の額は $\min(d,B)$ である。ある方法で払う額を $C(d)$ として、最悪の損を
$$R=\max_{d\ge1}\frac{C(d)}{\min(d,B)}$$
と置く。決めた日の方法は「$k$ 日借りて、$k+1$ 日目に滑るなら買う」で、運に任せる方法は「$j$ 日目に買う」の $j$ を確率で選ぶ。
問い:最悪の損をいくらまで下げられるか。決めた日と運に任せるのでは、何が違うか。
2. 決めた日に買う
計算 2.1:$B=10$ で、$k$ 日借りてから買う方法の最悪の損を、$d=1$ から $400$ 日まで評価して求めた。
| 借りる日数 $k$ | 最悪の損 |
|---|---|
| $0$(初日に買う) | $10$ 倍 |
| $5$ | $2.5$ 倍 |
| $8$ | $2$ 倍 |
| $9$ | $1.9$ 倍 |
| $10$ | $2$ 倍 |
| $15$ | $2.5$ 倍 |
| $30$ | $4$ 倍 |
$k$ を $0$ から $59$ まで全部試すと、最悪の損が最も小さいのは $k=9$ の $1.9$ 倍で、$2-1/B$ に一致した。
観察 2.2 決めた日の方法では、相手は買った日にちょうど滑るのをやめさせる。$k=9$ なら、$10$ 日目に買った直後に滑る日が終わると、払ったのは $9+10=19$、最善は $10$ で、$1.9$ 倍になる。早く買えば少ない日数で終わらされ、遅く買えば借り賃がかさむ。その釣り合いが $B-1$ 日で、そこでも $2$ 倍近くは避けられない。
3. 運に任せる
計算 3.1:$j$ 日目に買う確率を、$q=(B-1)/B$ として $q^{B-j}$ に比例させ($j=1,\dots,B$)、最悪の損を $d=1$ から $400$ 日まで評価した。
| $B$ | 運に任せた最悪の損 | 式 $1/(1-(1-1/B)^B)$ | 決めた日の最良 $2-1/B$ |
|---|---|---|---|
| $2$ | $1.333333$ | $1.333333$ | $1.5$ |
| $3$ | $1.421053$ | $1.421053$ | $1.666667$ |
| $5$ | $1.487387$ | $1.487387$ | $1.8$ |
| $10$ | $\mathbf{1.535340}$ | $1.535340$ | $1.9$ |
| $100$ | $1.577368$ | $1.577368$ | $1.99$ |
$B=10$ の確率は、$1$ 日目から順に $0.059482,0.066091,0.073435,0.081594,0.090660,0.100734,0.111926,0.124363,0.138181,0.153534$ で、和は $1$ である。
計算 3.2:$B=10$ の運に任せる方法で、滑る日数 $d=1$ から $10$ のそれぞれについて損の倍率(払う額の期待値と最善の比)を求めると、どれも $1.535340$ で、差は $10^{-12}$ 以内だった。
観察 3.3 これが本稿の芯である。分離子は、相手がこちらの選びを知っているかどうかである。決めた日に買うなら、相手はその日を知っていて、買った直後に滑る日を終わらせる。運に任せると、相手が知っているのは確率だけで、どの日数を選んでも損の倍率は同じになる。相手がどこを突いても同じだけしか損をしないように、確率を置いてある。
4. 式と探索
計算 4.1:式とは独立に、$B=2$ と $3$ で、買う日の確率を刻み $1/300$ の格子で全部試し、最悪の損が最も小さいものを探した。
| $B$ | 格子で見つけた最小 | そのときの確率 | 式 |
|---|---|---|---|
| $2$ | $1.333333$ | $0.3333,0.6667$ | $1.333333$ |
| $3$ | $1.421667$ | $0.21,0.3167,0.4733$ | $1.421053$ |
どちらも式との差は $0.01$ 以内で、式より小さい値は見つからなかった。
観察 4.2 $B$ が大きいと、$e/(e-1)=1.581977$ に近づく。式の $(1-1/B)^B$ が $1/e$ に近づくからで、$B=100$ で $1.577368$ まで来ている。有限の $B$ では極限より小さく、$B=10$ の $1.535340$ は極限より $0.046637$ 小さい。
観察 4.3 論文479 と論文388 と並べる。479 は、体系に七回出る $1/e$ を、停留の条件から出る組、二項からポアソンへの極限から出る組、関数の置き方から出る一つに分けた。388 は秘書問題で当たる確率が $1/e$ に落ち着くことを示した。本稿の $1/e$ は $(1-1/B)^B$ の極限から来るので、479 の二つ目の組に入る。そして 479 が秘書問題に見たのと同じく、有限の $B$ では極限の値からずれている。
観察 4.4 言わないこと。滑る日数の分布を知っている場合の最適な買い方は扱わない。実際の買い物を勧めない。示したのは、決めた日の方法の最良、運に任せる方法の最悪の損、その二つを分けるものである。
5. 点呼と結び
- 決めた日の最良は $9$ 日借りてから買う方法(計算 2.1):$1.9$ 倍=$2-1/B$。
- 初日に買えば $10$ 倍、$30$ 日借りれば $4$ 倍(計算 2.1):早すぎても遅すぎても損。
- 相手は買った直後に滑る日を終わらせる(観察 2.2):$19$ 対 $10$。
- 運に任せると $B=10$ で $\mathbf{1.535340}$ 倍(計算 3.1):$1.9$ 倍より小さい。
- どの $B$ でも運に任せる方が小さい(計算 3.1):$B=2$ で $1.333333$ 対 $1.5$。
- どの日数でも損の倍率が同じ(計算 3.2):差 $10^{-12}$ 以内。
- 分離子は相手がこちらの選びを知っているか(観察 3.3):本稿の芯。
- 格子の探索でも式より小さくならない(計算 4.1):二つの道筋。
- $B$ が大きいと $e/(e-1)=1.581977$(観察 4.2):$B=100$ で $1.577368$。
- $1/e$ は $(1-1/B)^B$ の極限から来る(観察 4.3):論文479 の二つ目の組。
結び:スキー板を一日 $1$ で借りるか $B$ で買うかを、滑る日数を知らずに決める。決めた日に買う方法では、最悪の損は $2-1/B$ 倍より小さくできない。$B=10$ で全部の日を試すと、$9$ 日借りてから買う方法の $1.9$ 倍が最良で、相手は買った直後に滑る日を終わらせてその損を突く。買う日を運に任せると、最悪の損は下がる。後の日ほど重い確率で買う日を選ぶと、$B=10$ で $1.535340$ 倍になり、相手がどの日数を選んでも損の倍率は同じだった。式、全日数の評価、格子の探索の三つが合った。分離子は、相手がこちらの選びを知っているかどうかである。決めた日は知られてしまい、運に任せれば確率しか知られない。既刊との位置、$B$ が大きいと $e/(e-1)$ に近づくのは $(1-1/B)^B$ が $1/e$ に近づくからで、論文479 の分けた二つ目の組に入り、論文388 の秘書問題と同じく先の分からない決定である。正直に言えば、滑る日数の分布を知っている場合は扱っておらず、相手が最悪の日数を選ぶ場合だけを見た。
参考文献
- Borodin, A., & El-Yaniv, R. (1998). Online Computation and Competitive Analysis. Cambridge University Press.
- Karlin, A. R., Manasse, M. S., Rudolph, L., & Sleator, D. D. (1988). Competitive snoopy caching. Algorithmica.
- Karlin, A. R., Manasse, M. S., McGeoch, L. A., & Owicki, S. (1994). Competitive randomized algorithms for nonuniform problems. Algorithmica.
- 山岸勇輝 (2026). 『候補が百万人でも、最良を当てる確率は $0.3679$ のまま落ちない』[論文388]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699147
- 山岸勇輝 (2026). 『体系に七つある同じ数は、二組と一つに分かれる』[論文479]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733844
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「借りるか買うかの最悪の損は、買う日を運に任せると小さくなる」[論文610]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014466
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/610・DOI 10.5281/zenodo.23014466・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 借りるか買うかの最悪の損は、買う日を運に任せると小さくなる [論文610]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/610 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014466
Yamagishi, Y. (2026). The Worst Loss in Renting or Buying Shrinks When the Day of Purchase Is Left to Chance [Paper 610]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/610; DOI: 10.5281/zenodo.23014466
@misc{yamagishi2026yoi610,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Worst Loss in Renting or Buying Shrinks When the Day of Purchase Is Left to Chance},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/610},
doi = {10.5281/zenodo.23014466},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
9a25da379dbe462dc2b2dae1ce3080551b228ca349e8de4c7061d4659c8b0fb3 yamagishi_yoi610_v1_jp.pdf70504a6638a5cc02528fa23e619e22e52b472bf8a8fab7a0c5f15495d5a3292f yamagishi_yoi610_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。