【論文166】定義は d を p で割り、定理は p を判別式で割る ── 平方剰余の相互法則

要旨

ルジャンドル記号 $(d\mid p)$ の定義は「$d$ を $p$ で割った余りが平方数か」を問う。ところが相互法則の答は、$p$ を別の数で割った余りだけで決まる。本稿はその「別の数」を全数探索で測り、それが判別式であることを確かめ、二つの補充則の $4$ と $8$ が同根であることを示す。新しい数学定理は主張しない。ガウス以来の標準的内容である。

第一に、法則そのものを定義から検算した。$300$ 未満の奇素数の全対 $1830$ 組で $(p\mid q)(q\mid p)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}$ は破れゼロ、二つの補充則も破れゼロである(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。$20000$ 未満の素数について、$(d\mid p)$ が $p \bmod m$ だけで決まるような最小の $m$ を全数探索で測った。十六個の $d$ すべてで、最小の $m$ はちょうど $|\mathrm{disc}(d)|$ に一致した(第3節)。

第三に、分離子は $d \bmod 4$ である。$4|d|$ は常に周期だが、最小とは限らない。$d\equiv 1 \pmod 4$ のとき真の法はその四分の一である($d=5$ で $20$ ではなく $5$、$d=13$ で $52$ ではなく $13$)。法は都合で選ばれた数ではなく、強制された数である(第4節)。

第四に、第一補充則の $4$ と第二補充則の $8$ は、二つの理由ではなく一つである。どちらも $|\mathrm{disc}|$ であり、$d=-1$ で $4$、$d=2$ で $8$、$d=-2$ で $8$ になる(測定値)。本体系は根を分けることが多いが、ここでは分かれて見えていた二つを束ねる(第5節)。

第五に、それでも法則は根を与えない。相互法則は $p=10^9+7$ で $5$ 手で可否を答えるが、平方根そのものは $30$ 手を要し、しかもトネリ=シャンクスは非剰余を一つ見つけるところから始まる。個数は定理が言い、一つを名指すのは探索である(第6節)。

射程(何を示さないか)

本稿の射程:新しい数学定理は主張しない。平方剰余の相互法則、判別式が導手であること、ディリクレ指標としての定式化は、いずれも標準的である。また本稿は法則を証明しない。示すのは測定であって証明ではない。加えたのは最小の周期を全数探索で測り、判別式と一致することを確かめたこと、$4|d|$ が四倍過剰になる場合を分離子つきで示したこと、二つの補充則の $4$ と $8$ を同根と確認したことである。同根の確認は本体系では稀で、論文31・論文142 に次いで三度目にあたる。

1. 記法と位置づけ

奇素数 $p$ と $p$ で割れない整数 $d$ に対し、ルジャンドル記号 $(d\mid p)$ を、$d$ が $p$ を法として平方剰余なら $+1$、そうでなければ $-1$ と定める。平方因子を持たない $d$ の判別式を、$d\equiv 1\pmod 4$ のとき $\mathrm{disc}(d)=d$、それ以外のとき $\mathrm{disc}(d)=4d$ と書く。本稿の記号はすべてオイラーの規準 $(d\mid p)\equiv d^{(p-1)/2} \pmod p$ で計算した。相互法則を一度も使わずに、である。

位置づけ:論文86 は量が「決まっている」ことの四つの根を点呼し、論文147 は$4\pi$ が次元ではなく周期であると書いた。本稿の法もまた周期であり、そして選ばれていない。

2. 法則そのものを、定義から検算する

検算 2.1:$300$ 未満のすべての奇素数の対について、記号をオイラーの規準で計算し、法則の両辺を比べた。

主張 調べた個数 破れ
$(p\mid q)(q\mid p)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}$ $1830$ 対 $\mathbf{0}$
$(-1\mid p)=(-1)^{(p-1)/2}$ $61$ 個 $\mathbf{0}$
$(2\mid p)=(-1)^{(p^2-1)/8}$ $61$ 個 $\mathbf{0}$

(証明終)

観察 2.2 ここで、定義が何を見ているかに注意したい。$(d\mid p)$ の定義は「$d$ を $p$ で割った余り」を見る。$p$ を何かで割る、という操作は定義のどこにも現れない。ところが上の右辺は、$p$ を $4$ で割った余りと $q$ を $4$ で割った余りだけで書かれている。

3. 芯:最小の周期を測る

検算 3.1:平方因子を持たない各 $d$ について、$20000$ 未満の素数 $p$($2$ と $d$ を割るものを除く)の記号をすべて計算し、$(d\mid p)$ が $p \bmod m$ だけで決まるような最小の $m$ を、$m=1$ から順に全数探索した。

$d$ $d \bmod 4$ 最小の $m$ $|\mathrm{disc}(d)|$ $4|d|$
$-1$ $3$ $4$ $4$ $4$
$2$ $2$ $8$ $8$ $8$
$-2$ $2$ $8$ $8$ $8$
$3$ $3$ $12$ $12$ $12$
$-3$ $1$ $\mathbf{3}$ $3$ $12$
$5$ $1$ $\mathbf{5}$ $5$ $20$
$-5$ $3$ $20$ $20$ $20$
$6$ $2$ $24$ $24$ $24$
$7$ $3$ $28$ $28$ $28$
$13$ $1$ $\mathbf{13}$ $13$ $52$
$17$ $1$ $\mathbf{17}$ $17$ $68$
$-7$ $1$ $\mathbf{7}$ $7$ $28$
$-11$ $1$ $\mathbf{11}$ $11$ $44$
$21$ $1$ $\mathbf{21}$ $21$ $84$
$29$ $1$ $\mathbf{29}$ $29$ $116$
$-19$ $1$ $\mathbf{19}$ $19$ $76$

十六個すべてで、最小の $m$ は $|\mathrm{disc}(d)|$ にちょうど一致した。(証明終)

観察 3.2 定義は $d$ を $p$ で割り、定理は $p$ を判別式で割る。定義のどこにも、答が $p$ について周期的であるべき理由は書かれていない。相互法則とは、この周期性の主張である。どちらの側で割るかが入れ替わること、それが「相互」という語の指しているものである。

観察 3.3 周期があること自体が、法則の中身である。周期の値は、その次に来る問いにすぎない。

4. 分離子は $d \bmod 4$ である

検算 4.1:上の表から、$4|d|$ と最小の $m$ の比を取る。

$d \bmod 4$ 例 $4|d| \div$ 最小の $m$
$1$ $-3,\,5,\,13,\,17,\,-7,\,-11,\,21,\,29,\,-19$ $\mathbf{4}$
$2$ または $3$ $-1,\,2,\,-2,\,3,\,-5,\,6,\,7$ $1$

(証明終)

観察 4.2 $4|d|$ は常に周期である。だが最小とは限らない。$d\equiv 1\pmod 4$ のときだけ、真の法はその四分の一に落ちる。動かすと動くものは $d \bmod 4$ であって、$d$ の大きさでも符号でもない。

観察 4.3 したがって法は「都合よく選ばれた数」ではない。$4$ を掛けるかどうかを決めているのは $d \bmod 4$ であり、そこに選択の余地はない。論文95 の言葉でいえば、これは規約ではなく事実の側にある。

5. $4$ と $8$ は、二つの理由ではなく一つである

観察 5.1 第一補充則は $p \bmod 4$ についての主張であり、第二補充則は $p \bmod 8$ についての主張である。二つの違う数が、二つの違う理由で現れているように見える。

検算 5.2:測定値を並べる。

$d$ 最小の $m$(測定) $|\mathrm{disc}(d)|$ 対応する補充則
$-1$ $\mathbf{4}$ $4$ 第一
$2$ $\mathbf{8}$ $8$ 第二
$-2$ $\mathbf{8}$ $8$ 二つの積

さらに $20000$ 未満のすべての奇素数で $(2\mid p)$ を $p\bmod 8$ ごとに集めると、$p\equiv 1,7$ では常に $+1$、$p\equiv 3,5$ では常に $-1$ であり、一つの類の中で値が割れた例は一つもなかった。(証明終)

観察 5.3 $4$ と $8$ は同根である。どちらも $|\mathrm{disc}|$ であり、違うのは $d$ の値だけである。二つの補充則は二つの定理ではなく、一つの主張を $d=-1$ と $d=2$ で読んだものである。

観察 5.4 本体系は「一語・別根」を言うことが多い。ここではその逆をしている。別々に見えていた二つの数に、一つの住所を与えた。論文31 が立体角の $\pi$ とガウス積分の $\pi$ を同根と確かめ、論文142 がウンルーとホーキングの $2\pi$ を同根と確かめたのに続いて、これが三度目である。

6. それでも、法則は根を与えない

検算 6.1:相互法則によるヤコビ記号の計算(べき乗を一度も使わない)と、トネリ=シャンクスによる平方根の構成を、同じ素数で並べる。

$p$ $p \bmod 8$ 可否の判定 平方根の構成
$1000003$ $3$ $4$ 手 $20$ 手
$10000019$ $3$ $7$ 手 $24$ 手
$100000007$ $7$ $6$ 手 $27$ 手
$1000000007$ $7$ $\mathbf{5}$ 手 $\mathbf{30}$ 手

いずれも $x^2\equiv a \pmod p$ を満たすことを確かめた。(証明終)

観察 6.2 隔たりは手数だけではない。トネリ=シャンクスは、まず非剰余を一つ見つけるところから始まる。そして $2,3,5,\dots$ と順に試す以外の方法を持たない。

検算 6.3:$1$ から $199$ までに非剰余がいくつあるかを数える。

$p$ $1..199$ の非剰余の個数 最小の非剰余
$1000003$ $105$ $2$
$10000019$ $99$ $2$
$100000007$ $97$ $\mathbf{5}$

(証明終)

観察 6.4 個数は定理が言う。非零の $p-1$ 類のうちちょうど半数が非剰余である。だが定理はそのうちの一つも名指さない。数えるのは定理であり、一つ産むのは探索である。最小の非剰余を決定的に多項式時間で出す方法は知られていない。

観察 6.5 論文163 が「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けたのと同じ形である。相互法則は「在るか」に答え、「どれか」には答えない。論文25 が「解けない」を三つに分けたときと同じく、ここでも許した道具が分離子になっている。

7. 点呼

観察 7.1 

文 何で割るか 動かすと動くもの 住所
$(d\mid p)$ の定義 $d$ を $p$ で $d$ $p$ ごとに計算
相互法則 $p$ を $|\mathrm{disc}(d)|$ で $d \bmod 4$ 周期=判別式
第一補充則 $p$ を $4$ で $d=-1$ $|\mathrm{disc}(-1)|=4$
第二補充則 $p$ を $8$ で $d=2$ $|\mathrm{disc}(2)|=8$
平方根の構成 、 許した道具 探索であって定理ではない

観察 7.2 定義と定理は違うものを見ている。補充則の $4$ と $8$ は一つの根であり、法は選ばれていない。そして可否を知ることと、根を持つことは、最後まで別のままである。

8. 結論

  1. 法則と二つの補充則を定義から検算した(検算2.1):$1830$ 対、破れ $0$。
  2. 最小の周期は判別式である(検算3.1):十六個の $d$ すべてで $m=|\mathrm{disc}(d)|$。
  3. 分離子は $d \bmod 4$(検算4.1):$d\equiv 1$ のとき $4|d|$ は四倍過剰。
  4. 補充則の $4$ と $8$ は同根(検算5.2):どちらも $|\mathrm{disc}|$。
  5. 法則は根を与えない(検算6.1・6.3):$5$ 手対 $30$ 手、そして非剰余は探索でしか出てこない。

結び:定義は $d$ を $p$ で割る。定理は $p$ を判別式で割る。割る向きが入れ替わることに驚けるかどうかが、この法則を読めたかどうかの分かれ目であり、$4$ と $8$ という二つの数が実は一つだったことは、その驚きのささやかな配当である。

参考文献

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  2. Legendre, A.-M. (1798). Essai sur la théorie des nombres. Paris: Duprat.
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  4. Tonelli, A. (1891). Bemerkung über die Auflösung quadratischer Congruenzen. Göttinger Nachrichten.
  5. Shanks, D. (1973). Five number-theoretic algorithms. Proceedings of the Second Manitoba Conference on Numerical Mathematics.
  6. Ireland, K., & Rosen, M. (1990). A Classical Introduction to Modern Number Theory (2nd ed.). New York: Springer.
  7. 山岸勇輝 (2026). 等号にも別根がある [論文16] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600471
  8. 山岸勇輝 (2026). 「解けない」は三つの別根を持つ [論文25]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22090297
  9. 山岸勇輝 (2026). 次元を持たない $\pi$ [論文31]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22090430
  10. 山岸勇輝 (2026). 必然性の四つの根 [論文86]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21744839
  11. 山岸勇輝 (2026). 規約と事実を分ける [論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
  12. 山岸勇輝 (2026). 動かすと、$2\pi$ だけが残る [論文142]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082281
  13. 山岸勇輝 (2026). 同じ $H^2$ でも、係数が違えば量子化しない [論文147]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22083144
  14. 山岸勇輝 (2026). 同じ指標表を持ちながら、同型でない [論文152]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22084202
  15. 山岸勇輝 (2026). 「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」は、別の文である [論文163]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092677
  16. 山岸勇輝 (2026). 「等価原理」は三つある [論文165]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092957

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「定義は d を p で割り、定理は p を判別式で割る」[論文166]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22093052

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 定義は d を p で割り、定理は p を判別式で割る [論文166]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/166 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22093052

Yamagishi, Y. (2026). The Definition Divides d by p; the Theorem Divides p by the Discriminant [Paper 166]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/166; DOI: 10.5281/zenodo.22093052

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