【論文157】二乗の点呼

要旨

この体系は、あちこちで指数 $2$ に出会ってきた。個々の $2$ については書いてきたが、横断して点呼した稿がまだ無い。本稿はそれを、一つの試験、何を動かせばその $2$ が動くか、で行う。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、逆二乗の $2$ は $d-1$ である。$d$ 次元の球対称な調和関数を解くと、力の指数は $d=2,\dots,6$ でそれぞれ $1,2,3,4,5$ になる。次元を動かせば動く(第2節)。

第二に、ボルンの $2$ は次元では動かない。そして動かしているのはユニタリ性である。$\sum_i|\psi_i|^p$ がユニタリ変換で保存されるのは$p=2$ のときだけである。$p=1,1.5,2.5,3,4$ では変化が $0.18$ から $0.67$ に及ぶのに対し、$p=2$ では $8.882\times10^{-16}$(本稿で計算)。ヒルベルト空間の次元を $2,3,5,8,13$ と変えても $10^{-15}$ 台のまま動かない(第3節)。

第三に、伊藤の $2$ は道の粗さで動く。二次変分は $n^{1-2H}$ で振る舞うはずであり、実際に測った傾きは $H=0.2,0.35,0.5,0.65,0.8$ で $0.5965,\ 0.3028,\ 0.0046,\ -0.3081,\ -0.5917$、予測 $1-2H$ と $0.01$ 以内で一致した(本稿で計算)(第4節)。

第四に、これが本稿の新しい部分である。最小二乗の $2$ は、仮定した誤差則そのものである。$\sum|r_i|^p$ の最小化は密度 $\propto e^{-|r|^p}$ の最尤推定であり、勝つ指数は、データを生んだ法則の指数と一致する。ガウス誤差では $p=2$($0.1565$ 対 $0.1983$)、ラプラス誤差では $p=1$($0.1782$ 対 $0.2199$)、そしてコーシー誤差では $p=1$ が $0.2632$、$p=2$ は $128.3741$、約 $500$ 倍の差である(第5節)。

第五に、クリフォードの $2$ は動かせない。$v^2=Q(v)$ は代数の定義そのもので、動かすべき径数が存在しない(第6節)。

一つの問いに、三つの答えと、二つの「該当なし」がある(第7節)。

射程(何を示さないか)

本稿の射程:新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。逆二乗則、ボルン則、伊藤の補題、最尤推定、クリフォード代数はいずれも標準的である。また本稿は、個々の $2$ について体系が既に書いたことを撤回しない。論文53 は「ボルンの指数 $2$ は二つの別根から来る」と書き、論文132 は「伊藤の $2$ は次元ではない」と書いた。本稿が加えるのは、(i) 五つの $2$ を一つの試験で横断点呼したこと、(ii) ユニタリ性が $p=2$ を一意に選ぶことを数で示したこと、(iii) 二次変分の傾きが $1-2H$ に一致することを測ったこと、(iv) 最小二乗の $2$ が「仮定した誤差則」であると住所を書き、コーシー分布で $500$ 倍の差として見せたことである。

1. 記法と位置づけ

本稿を通じて用いる試験は一つである:その $2$ が動くには、何を動かさねばならないか。動かすべきものが見つかれば、その $2$ の住所はそこにある。動かすべきものが無ければ、それは定義か、あるいは一意性定理が固定している。

位置づけ:論文86 は「必然性の四つの根」を、論文100 は王道の交差を点呼した。論文117 は一つの現象(スケール不変性)が四通りに指数を選ぶことを示した。本稿はその逆向きである。一つの数($2$)が、いくつの別の場所から来ているかを数える。

2. 逆二乗の $2$ は $d-1$ である

検算 2.1:$d$ 次元の球対称な調和関数は $f”+\frac{d-1}{r}f’=0$ を満たす。解いて力の指数を読むと

$d$ ポテンシャル 力 指数
2 $C_1+C_2\log r$ $r^{-1}$ 1
3 $C_1+C_2/r$ $r^{-2}$ 2
4 $C_1+C_2/r^2$ $r^{-3}$ 3
5 $C_1+C_2/r^3$ $r^{-4}$ 4
6 $C_1+C_2/r^4$ $r^{-5}$ 5

(証明終)

観察 2.2 逆二乗の $2$ は、$d-1$ を $d=3$ で読んだ値である。動かすべきものは空間次元(論文01・論文156)。

3. ボルンの $2$:ユニタリ性が一意に選んでいる

検算 3.1:$n$ 次元のユニタリ行列 $U$ と単位ベクトル $\psi$ を無作為に取り、$\sum_i|\psi_i|^p$ が $U$ で変わるかを見る($n=6$、$400$ 組の最悪値)。

$p$ $\sum|\psi_i|^p$ の最大変化
1 $6.698\times10^{-1}$
1.5 $2.279\times10^{-1}$
2 $\mathbf{8.882\times10^{-16}}$
2.5 $1.798\times10^{-1}$
3 $4.248\times10^{-1}$
4 $4.364\times10^{-1}$

(証明終)

検算 3.2:$p=2$ のまま次元を変える。

$n$ 最大変化
2 $9.992\times10^{-16}$
3 $7.772\times10^{-16}$
5 $8.882\times10^{-16}$
8 $8.882\times10^{-16}$
13 $7.772\times10^{-16}$

(証明終)

観察 3.3 保存されるのは $p=2$ のときだけであり、それは次元に依らない。動かすべきものは空間次元ではなく、時間発展がユニタリであるという要求のほうである。

観察 3.4 本稿はこれをボルン則の導出とは呼ばない。導出はグリーソンの定理が与えており(論文71)、そこでの仮定は本稿の無作為試験より遥かに弱い。本稿が示したのは、「他の指数ではそもそも確率が保たれない」という、一段手前の事実だけである。

4. 伊藤の $2$:動かすべきものは道の粗さである

検算 4.1:ハースト指数 $H$ の非整数ブラウン運動を厳密に生成し、$[0,1]$ 上の二次変分を刻み幅を細かくしながら測る。理論では $n^{1-2H}$ で振る舞う。

$H$ $\sum(\Delta X)^2$($n=2^{10},2^{12},2^{14},2^{16}$) 傾き $1-2H$ 判定
0.2 $64.700,\ 145.476,\ 334.388,\ 771.699$ $0.5965$ $0.60$ 発散
0.35 $7.866,\ 12.208,\ 18.386,\ 27.804$ $0.3028$ $0.30$ 発散
0.5 $0.979,\ 0.998,\ 0.988,\ 1.004$ $\mathbf{0.0046}$ $0.00$ 有限で非零
0.65 $0.129,\ 0.083,\ 0.055,\ 0.036$ $-0.3081$ $-0.30$ 消滅
0.8 $0.015,\ 0.007,\ 0.003,\ 0.001$ $-0.5917$ $-0.60$ 消滅

(証明終)

観察 4.2 測った傾きは $1-2H$ と $0.01$ 以内で一致した。二次変分が有限かつ非零であるのは $H=1/2$ のときだけである。動かすべきものは道の粗さであって、空間次元ではない(論文132)。

5. 芯:最小二乗の $2$ は、仮定した誤差則である

事実 5.1:$\sum_i|r_i|^p$ の最小化は、密度が $\propto e^{-|r|^p}$ である誤差についての最尤推定と同じである。$p=2$ はガウス、$p=1$ はラプラスに対応する。したがって $p$ はデータの性質ではなく、置いた仮定の名前である。

検算 5.2:真の位置を $3.0$ とし、$40$ 点の標本を $2000$ 回引いて、$p=1$ と $p=2$ の推定量の二乗平均誤差を測る。

実際に引いた誤差 $p=1$ の誤差 $p=2$ の誤差 勝つ指数
ガウス $e^{-r^2}$ $0.1983$ $\mathbf{0.1565}$ $p=2$
ラプラス $e^{-|r|}$ $\mathbf{0.1782}$ $0.2199$ $p=1$
コーシー(裾が厚い) $\mathbf{0.2632}$ $\mathbf{128.3741}$ $p=1$

(証明終)

観察 5.3 勝つ指数は、データを生んだ法則の指数と一致する。最小二乗の $2$ は「誤差」一般の性質ではなく、ガウスを仮定したという事実そのものである。

観察 5.4 コーシー誤差での差は約 $500$ 倍である。これは精度の劣化ではなく、推定量が破綻しているということである。コーシー分布は分散を持たないので、二乗を最小にするという方針そのものが意味を失う。論文129 が「分散が発散すれば分散版の不確定性は何も言っていない」と書いたのと、同じ形の失敗である。

観察 5.5 したがって最小二乗の $2$ は、逆二乗の $2$ とも、ボルンの $2$ とも、伊藤の $2$ とも別根である。動かすべきものは、次元でも粗さでもなく、置いた確率分布である。

6. クリフォードの $2$ は動かせない

検算 6.1:クリフォード代数の定義関係は $v^2=Q(v)$ である。パウリ代数で確かめると

$\sigma_x^2-I$ $[\,0\ \ 0\,;\ 0\ \ 0\,]$
$\sigma_y^2-I$ $[\,0\ \ 0\,;\ 0\ \ 0\,]$
$\sigma_z^2-I$ $[\,0\ \ 0\,;\ 0\ \ 0\,]$

(証明終)

観察 6.2 ここには動かすべき径数が存在しない。$2$ を替えても「別のクリフォード代数」にはならず、クリフォード代数でなくなるだけである(論文104・論文148 の「$\varepsilon^2=0$ は環の定義」と同じ型)。

7. 点呼

観察 7.1 

その $2$ 動かすと動くもの 一般形 住所
逆二乗の $2$ 空間次元 $d$ $d-1$ 調和性(01・156)
ボルンの $2$ 該当なし(ユニタリ性が固定) $2$ 53・68・71
伊藤の $2$ 道の粗さ $H$ $H=1/2$ でのみ有限 132・148
最小二乗の $2$ 仮定した誤差則 $e^{-|r|^p}$ の $p$ 本稿
クリフォードの $2$ 該当なし(環の定義) $2$ 104・148
フーリエの $1/2$ 該当なし(極値の値) $1/2$ 129

観察 7.2 一つの問いに、三つの答えと、三つの「該当なし」がある。動かすべきものは、次元・粗さ・仮定した法則のいずれか、あるいはそもそも存在しない。

観察 7.3 「該当なし」の三つも、互いに同じではない。ボルンの $2$ は一意性定理が固定し、クリフォードの $2$ は定義が固定し、フーリエの $1/2$ は極値の値として出る。動かないという結果が同じでも、動かない理由は三つとも違う。

8. 結論

  1. 逆二乗の $2$ は $d-1$ である(検算2.1)。次元で動く。
  2. $\sum|\psi|^p$ を保存するのは $p=2$ だけである(検算3.1)。$8.882\times10^{-16}$ 対 $10^{-1}$ 台。
  3. その $p=2$ は次元に依らない(検算3.2)。$n=2$ から $13$ まで $10^{-15}$ 台。
  4. 二次変分の傾きは $1-2H$ に一致する(検算4.1)。$H=1/2$ でのみ有限。
  5. 最小二乗の $2$ は仮定した誤差則である(検算5.2)。コーシーでは $0.2632$ 対 $128.3741$。
  6. クリフォードの $2$ は動かせない(検算6.1)。

結び:同じ形の指数が、これだけ違う場所から来ている。$2$ を見たときに問うべきなのは「なぜ $2$ なのか」ではなく、何を動かせばそれが $2$ でなくなるのかである。その問いに答えが無いとき、そのときだけ、その $2$ は動かないものとして書いてよい。

参考文献

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  18. 山岸勇輝 (2026). 球殻の内部が平らなのは、平均値定理のせいではない [論文156]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22091565

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「二乗の点呼」[論文157]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22091931

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 二乗の点呼 [論文157]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/157 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22091931

Yamagishi, Y. (2026). A Census of the Twos [Paper 157]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/157; DOI: 10.5281/zenodo.22091931

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