要旨
市区町村にある産業小分類の数は、人口の常用対数でほぼ決まる(R001、R² = 0.925)。
本稿は、その残差が、所得・地価・人口の増減で説明できるかを調べた。
どれもほとんど説明しない。 残差との相関は、1人あたり課税対象所得で r = +0.106(1,721市区町村)、商業地の地価(対数)で r = +0.064(1,352市区町村)、5年の人口増減率で r = −0.082(1,889市区町村)である。
所得と地価が両方ある1,186市区町村で、人口だけのあてはめ(R² = 0.9101)に3つを足しても R² = 0.9236 にしかならない。
一方、都道府県ごとの残差の中央値は、−23.4 から +15.0 まで広がる。 幅は38.4分類で、残差の標準偏差(25.6分類)を超える。
高いのは福井県(+15.0)・広島県(+14.9)・山梨県(+13.5)、低いのは沖縄県(−23.4)・福岡県(−20.7)・神奈川県(−19.3)である。北海道は +1.0 で47都道府県中25位、ちょうど真ん中にあたる。
人口で説明した残りを説明するのは、その市区町村が持つ富の水準ではなく、どこにあるかである。
1. はじめに
R001 は、市区町村にある産業小分類の数が人口の常用対数でほぼ決まることを示し、残差をその市区町村に固有の量として使うことを提案した。
本稿の問いは、その次にあたる。
残差は、何で説明できるか。
もっともらしい候補は、住民の所得、土地の価格、人口の増減である。いずれも公開データで市区町村ごとに得られる。
2. データ
| 事業所 | 総務省・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」(2021年6月1日) |
| 人口 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日(および2021年1月1日) |
| 所得 | 総務省「市町村税課税状況等の調」令和7年度。納税義務者1人あたり課税対象所得 |
| 地価 | 令和8年 地価公示(国土数値情報)。商業地の平均 円/㎡ |
| 突き合わせ | 市区町村 |
|---|---|
| 人口と分類がある | 1,889 |
| 所得がある | 1,721 |
| 地価がある | 1,352 |
| 所得と地価が両方ある | 1,186 |
商業地の標準地が無い市区町村では、地価が欠ける。 欠けるのは小さな市区町村に偏っており、無作為ではない。
3. 結果
3-1 どれもほとんど説明しない
人口だけのあてはめは ある分類の数 = 134.93 × log₁₀(人口) − 378.69(R² = 0.925、1,889市区町村)。その残差との相関は次のとおり。
| 変数 | 相関 | 市区町村 |
|---|---|---|
| 1人あたり課税対象所得(千円) | +0.106 | 1,721 |
| 商業地の地価(円/㎡、対数) | +0.064 | 1,352 |
| 5年の人口増減率 | −0.082 | 1,889 |

図1 商業地の地価と残差(1,352市区町村)。
灰色の点はほかの市区町村、青の線は残差0(人口からの予測どおり)、橙の点は釧路管内。横軸は常用対数の目盛である。
3-2 変数を足しても R² はほとんど上がらない
所得と地価が両方ある1,186市区町村で、同じ母集団のまま比べる。
| 説明変数 | R² |
|---|---|
| 人口だけ | 0.9101 |
| 人口+所得 | 0.9104 |
| 人口+地価 | 0.9132 |
| 人口+所得+地価 | 0.9171 |
| 人口+所得+地価+人口の増減率 | 0.9236 |
3つ全部を足して、上がり幅は +0.0135 である。
3-3 都道府県による違いのほうが大きい
市区町村が10以上ある都道府県について、残差の中央値を取る。
| 高いほう | 中央値 | 市区町村 |
|---|---|---|
| 福井県 | +15.0 | 17 |
| 広島県 | +14.9 | 30 |
| 山梨県 | +13.5 | 27 |
| 石川県 | +12.4 | 19 |
| 島根県 | +12.0 | 19 |
| 低いほう | 中央値 | 市区町村 |
|---|---|---|
| 青森県 | −13.3 | 40 |
| 神奈川県 | −19.3 | 58 |
| 福岡県 | −20.7 | 72 |
| 沖縄県 | −23.4 | 41 |
上から下までの幅は 38.4分類で、残差の標準偏差(25.6分類)を超える。
所得・地価・人口増減のどれよりも、都道府県の違いのほうが大きい。
北海道は +1.0、47都道府県中25位で、ちょうど真ん中である。
3-4 釧路総合振興局管内
| 市町村 | 人口 | 残差 | 1人あたり課税対象所得(千円) | 商業地の地価(円/㎡) | 5年の人口増減率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 釧路市 | 151,566 | +19.7 | 3,121.2 | 35,140 | −8.51% |
| 釧路町 | 18,021 | −11.5 | 2,971.0 | 56,500 | −7.07% |
| 厚岸町 | 7,976 | +13.2 | 3,310.8 | ― | −12.00% |
| 浜中町 | 5,172 | −16.4 | 3,460.0 | ― | −8.69% |
| 標茶町 | 6,698 | −5.6 | 3,364.9 | ― | −9.79% |
| 弟子屈町 | 6,327 | +7.8 | 3,415.9 | ― | −8.79% |
| 鶴居村 | 2,368 | −4.6 | 3,357.2 | ― | −6.03% |
| 白糠町 | 6,840 | −6.8 | 2,665.6 | ― | −9.27% |
8市町村のうち6つで、商業地の地価が得られない。 商業地の標準地が置かれていないためである。
所得がいちばん高いのは浜中町(3,460.0千円)で、残差はいちばん低い(−16.4)。所得の高さが分類の多さに結びついていない。
なお釧路町の地価(56,500円/㎡)は釧路市(35,140円/㎡)より高い。市の中心部と、隣接する町の商業地とで、標準地の置かれ方が違うためと考えられるが、確かめていない。
4. 考察
4-1 否定的な結果である
本稿の結論は「説明できなかった」である。所得も地価も人口増減も、残差をほとんど説明しない。
これは残差の使い道を狭めるのではなく、はっきりさせる。 残差は、住民の富の水準を言い換えたものではない。
人口で説明した残りは、別の何かである。
4-2 「どこにあるか」のほうが大きい
都道府県の違い(幅38.4分類)が、所得・地価・人口増減のどれよりも大きかった。
これは、残差に地域のまとまりに由来する成分があることを示す。
低い側に神奈川県(−19.3)・福岡県(−20.7)が並ぶのは、単位Aが政令指定都市を区に分けていることと関係する可能性がある。
区は市の一部であり、機能が区をまたいで分かれていれば、区ごとの分類数は市全体より少なく出る。この仮説は、単位B(政令市を1市として数える)で確かめられる。本稿では確かめていない。
沖縄県(−23.4)については、説明を持たない。
4-3 次に何を見るか
残差を説明する候補として、本稿が試していないものに、昼間人口と夜間人口の比、隣接する市区町村の規模、道路や鉄道のつながり、産業の来歴がある。
いずれも、この市区町村が周りとどうつながっているかに関わる。3-3 の結果は、その方向を示している。
5. 限界
- 事業所は令和3年、人口は2026年1月1日、所得は令和7年度、地価は令和8年で、時点がそろっていない
- 商業地の標準地が無い市区町村は、地価の分析から外れる。 欠けは小さな市区町村に偏っており、無作為ではない
- 都道府県ごとの中央値は、その都道府県の市区町村の構成(政令市の区を含むかどうかなど)に左右される
- 相関と回帰は関係の強さの目安で、原因と結果の向きは示さない
- 残差が正だから豊か、負だから機会がある、とは言えない
6. 再現の手順
- R001 と同じ手順で、人口だけのあてはめの残差を出す
- 総務省「市町村税課税状況等の調」から、納税義務者1人あたり課税対象所得を取る
- 国土数値情報の地価公示から、市区町村ごとの商業地の平均価格を作る
- 市区町村コードで突き合わせ、相関と、変数を足したときの R² を出す
- 都道府県ごとに残差の中央値を取る
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_187)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
参考文献・データの出典
- 総務省統計局・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 総務省「市町村税課税状況等の調」令和7年度
- 国土交通省「地価公示」令和8年(国土数値情報)
- 山岸勇輝「市区町村の人口と、そこにある産業小分類の数」(R001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22872218
1〜4は e-Stat および各府省のサイトで公開されている。
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「人口で説明した残りは、所得でも地価でも説明できない。都道府県による違いのほうが大きい [R004]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22872530
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「人口で説明した残りは、所得でも地価でも説明できない」[R004]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22872530
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 人口で説明した残りは、所得でも地価でも説明できない [R004]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/R004 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22872530
Yamagishi, Y. (2026). What Population Leaves Unexplained Is Not Explained by Income or Land Prices [R004]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/R004; DOI: 10.5281/zenodo.22872530
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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