Yamagishi Complexity Torus Lab山岸勇輝ラボ

【F049】ティックの無い枠に足を作ると、値は動かないのに数えた回数が動く

要旨

本稿が問うのは、ティックの無い枠に足を作るか作らないかで、指標の答えがどれだけ変わるか、である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、★ 欠けた枠は 1 時間足で 0.0234、金だけ 0.0369 ある。 そして予言①は外れた。時刻ではなく特定の日に固まっている(2021-05-31 に 20 本、2020-11-30 に 19 本、12 月 25 日に 14 本)(第3節)。

第二に、★ 値はほとんど動かない。 移動平均のずれの中央は三つの期間とも 0.0000 pips である。そもそも窓に欠けた枠が入っている足が 0.0835 から 0.1754 しかない(第4節)。

第三に、★ 判定はもっと動かない。 価格が移動平均の上か下かの食い違いは、期間 20・50・200 のどれでも 0.0061 である。RSI が 70 を超えたかは 0.0031 である(第5節)。

第四に、これが本稿の芯である。★★ だが数え上げた回数は動く。 移動平均 20 と 80 のクロスの回数は 1.0140 から 1.0587 倍(中央 1.0238)に増える(第6節)。

第五に、★★ ATR も、中央では何も起きないのに端で壊れる。 比の中央は 1.0000 だが、中央どうしの比は 0.9732、比の平均は 0.9824、いちばん下がった窓では 0.0690 倍である(第5節)。

第六に、★ これは市場の性質ではない。 合成乱数でも ATR の比は中央 1.0000 で同じである(第7節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。欠測の埋め方が指標を動かすこと自体は既知である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。特定の取引ソフトを論じない。どのソフトがどちらの作り方かは調べていない(第7節)。売買を論じない。成績も損益も測っていない。予言①④が外れた。①は欠けた枠の在りかを取り違えた(第3節・第5節)。埋め方を一つに決めている。前の終値で埋め、24 時間以上の空きは埋めない(第7節)。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。予測を主張しない。

1. 記法と問い

為替には気配が更新されない枠がある。その枠に足を作るか作らないかは、取引ソフトの実装の違いであって、相場の性質ではない。

言われること 言われないこと
二十本の移動平均が下から上に抜けた その二十本に、動かなかった足が入っていたか
ATR は 15 pips だった その十四本のうち何本が「ティックの無い枠」だったか
同じチャートを見ている 足の本数が同じとは限らない

観察 1.1:★ 作れば「動かなかった足」が一本増え、作らなければ足が詰まる。 どちらも同じ相場を見ている。

観察 1.2:★ 足の形が足の切り方に属することは [F020] で測ってある。 本稿が変えるのは切り方ではなく、切った先に足を置くかどうかである。

観察 1.3:本稿の分離子は、ティックの無い枠に足を作ったかである。 銘柄・期間・格子・指標をすべて固定し、足を置くかどうかだけを変える。

問い:値はどれだけ違い、判定は何本食い違い、数えた回数はどう変わるのか。

2. 測る量と設計を、先に書く

走らせる前に宣言し、実行時には変えていない。

格子 5分 / 15分 / 1時間(中値・完成足のみ)
A 作らない ティックの無い枠は飛ばす(この系列のふだんの作り方)
B 作る 24 時間未満の空きだけを前の終値で埋める(始値=高値=安値=終値)
指標 SMA 20 / 50 / 200 / RSI 14(ウィルダー平滑)/ ATR 14
判定 価格が SMA の上か下か / RSI が 70 を超えたか
クロス SMA 20 と 80 の交差の回数
突き合わせ ★ A に在る足の時刻だけで比べる
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列・欠けた枠の位置は実測のまま)
分離子 ティックの無い枠に足を作ったか
銘柄・期間 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD/2019–2024

観察 2.1:★ 週末は埋めない。 空きが 24 時間以上なら埋めない、という規則にしてある。取引ソフトも週末の足は作らないからである。

観察 2.2:★ 比べるのは A に在る足の時刻だけである。 B にはその枠が必ず在るので、同じ壁時計の時刻どうしで突き合わせられる。

観察 2.3:一時間足は 36,534 本が 37,415 本になる(USDJPY)。五分足は 438,283 本が 448,934 本になる。

予言(測る前に書いた)

① 欠けた枠は低流動の時刻に集中する。

② ★ 期間が長い指標ほど、ずれが長く残る。

③ ★ 判定の食い違いは、値のずれより小さい。価格はふだんならし線から離れているからである。

④ ★★ ATR は下がる。動かなかった足を一本足すと、値幅ゼロが平均に入る。

⑤ 移動平均のクロスの回数が変わる。

⑥ 合成乱数でも同じだけずれる。

3. 欠けた枠はどれだけあり、いつなのか

計算 3.1 足種ごと(四銘柄の中央)

足種 作らない版 作る版 埋めた本数 割合
5m 438,241 448,868 10,627 0.0237
15m 146,126 149,635 3,509 0.0235
1h 36,534 37,410 875 0.0234

観察 3.2:★ 割合は足種によらずほぼ一定(0.0234 から 0.0237)である。 金だけ 0.0369 と高い(五分足 0.0374・十五分足 0.0373)。

計算 3.3 いつ欠けているのか(USDJPY・1時間足)

日付 欠けた枠の本数
2021-05-31 20
2020-11-30 19
2024-12-25 14
2019-12-25 14
2023-12-25 14
2024-10-31 8
2024-10-22 8
2023-05-03 8

観察 3.4:★★ 予言①は外れた。時刻ではなく、特定の日に固まっている。 月末(2021-05-31 の 20 本、2020-11-30 の 19 本)とクリスマス(12 月 25 日の 14 本)である。

観察 3.5:曜日で見ると、月曜 0.0295 と日曜 0.0298 が高く、金曜 0.0162 が低い。

観察 3.6:★ 時刻では UTC 23 時の 0.0429 が最大で、UTC 0 時から 3 時は 0.0000 である。 ★ 私はこれを「低流動の時刻」と読みかけたが、逆である。欠けた日にその時間帯が抜けているだけで、時刻そのものの性質ではない。

図1 欠けた枠は、流動性の薄い時刻に集中する

図1:横が UTC の時刻、縦が欠けた枠の割合。★ 図の題は予言①のまま置いてある。測った結果は、そう読めないことを示している。

4. 値はほとんど動かない

計算 4.1 移動平均のずれ(1時間足・pips・四銘柄の中央)

期間 ずれ中央 99%点 最大 ずれた足の割合 判定の食い違い
20 0.0000 17.9142 55.3850 0.0835 0.0061
50 0.0000 22.5362 68.1035 0.1004 0.0061
200 0.0000 39.3752 77.0714 0.1754 0.0061

観察 4.2:★★ 中央は三つとも 0.0000 pips である。 ほとんどの足は、そもそも窓に欠けた枠が入っていない。

観察 4.3:予言②は当たった。 ★ ずれた足の割合は 0.0835 から 0.1754 へ増える。窓が長いほど、欠けた枠が入る機会が多いからである。

観察 4.4:★ だが端では大きい。 99 パーセント点は 17.9142 から 39.3752 pips、最大は 55.3850 から 77.0714 pips である。

観察 4.5:★ つまり「中央値では何も起きていないのに、端では大きい」。 これは [F047] で ATR について測ったのと同じ形である。

5. 判定はもっと動かない。ATR は端で壊れる

計算 5.1 RSI と ATR(1時間足・四銘柄の中央)

量 値
RSI の値のずれ中央 0.0000
RSI の値のずれ 99 パーセント点 4.6025
RSI の値のずれ 最大 18.6025
RSI 70 超えの判定の食い違い 0.0031
ATR(作らない版)中央 pips 15.8304
ATR(作る版)中央 pips 15.4696
ATR の中央どうしの比 0.9732
ATR の比 中央 1.0000
ATR の比 平均 0.9824
ATR の比 最小 0.0690

観察 5.2:予言③は当たった。 ★ 移動平均の値は最大 77.0714 pips ずれるのに、判定の食い違いは 0.0061 しかない。 RSI も、値は最大 18.6025 ずれるのに、70 超えの食い違いは 0.0031 である。

観察 5.3:★ 判定の食い違いが期間 20・50・200 のどれでも 0.0061 でそろうのは、食い違いを作っているのが窓の長さではなく、欠けた枠そのものだからだと読める。 ただし本稿はそれを直接測っていない。

観察 5.4:★★ 予言④は半分外れた。ATR の比の中央は 1.0000 で動かない。 だが中央どうしの比は 0.9732、比の平均は 0.9824 で、確かに下がっている。

観察 5.5:★★ そしていちばん下がった窓では 0.0690 倍である。 十四本のうちほとんどが値幅ゼロの足になった窓が実在する。 そこでは ATR が十四分の一以下になる。

観察 5.6:★ 中央だけを見ると「何も起きていない」、端を見ると「十四分の一」。同じ一つの量である。

6. だが数えた回数は動く

計算 6.1 移動平均 20 と 80 のクロスの回数

銘柄 足種 作らない版 作る版 差 比
USDJPY 5m 7,071 7,249 +178 1.0252
USDJPY 15m 2,270 2,313 +43 1.0189
USDJPY 1h 550 560 +10 1.0182
EURUSD 5m 7,055 7,202 +147 1.0208
EURUSD 15m 2,331 2,414 +83 1.0356
EURUSD 1h 555 565 +10 1.0180
GBPUSD 5m 7,091 7,250 +159 1.0224
GBPUSD 15m 2,305 2,369 +64 1.0278
GBPUSD 1h 573 581 +8 1.0140
XAUUSD 5m 6,672 6,972 +300 1.0450
XAUUSD 15m 2,215 2,341 +126 1.0569
XAUUSD 1h 528 559 +31 1.0587

観察 6.2:★★ これが本稿の芯である。予言⑤は当たった。回数の比は中央 1.0238、幅 1.0140 から 1.0587 である。

観察 6.3:★★ 値のずれの中央が 0.0000 で、判定の食い違いが 0.0061 しかないのに、回数は 12 通りすべてで増えている。 一つも減っていない。

観察 6.4:★ 増えるのは、埋めた足が線を平らにして、ゼロの近くで行き来する回数を増やすからだと読める。 ただし本稿は機序を測っていない。

観察 6.5:★ 金がいちばん大きい(五分足 1.0450・十五分足 1.0569・一時間足 1.0587)。欠けた枠の割合が 0.0369 と高いことと向きが合う。

観察 6.6:★ つまり二つの取引ソフトが同じデータで同じ 20 と 80 のクロスを表示していても、「何回クロスしたか」は 1.0140 から 1.0587 倍ずれうる。

図2 値はずれるのに、判定はあまり食い違わない

図2:横が移動平均の期間、縦が割合。棒が判定の食い違い、破線が埋めた枠の割合である。

7. 基準線と限界

計算 7.1 合成乱数で同じことをする(1時間足)

銘柄 実測 SMA200 のずれ 合成乱数 実測 ATR比 合成乱数 ATR比
USDJPY 0.0000 0.0000 1.0000 1.0000
EURUSD 0.0000 0.0000 1.0000 1.0000
GBPUSD 0.0000 0.0000 1.0000 1.0000
XAUUSD 5.8942 7.3836 1.0000 1.0000

観察 7.2:予言⑥は当たった。 ATR の比は実測も合成乱数も中央 1.0000 である。

観察 7.3:★ 欠けた枠の位置は実測のまま置き、値動きだけ差し替えてある。 それで同じ答えが出るということは、これは市場の性質ではなく、暦と実装の性質である。

観察 7.4:★ 金だけ SMA200 のずれの中央がゼロでない(実測 5.8942・合成乱数 7.3836)。欠けた枠が多いので、中央の足でも窓に入ってくるからである。

観察 7.5:★ この基準線が何についてゼロなのかは [F033] で測ってある。

限界

  1. ⚠️ 予言①を取り違えた。 欠けた枠を「低流動の時刻」と読んだが、実際は月末とクリスマスと祝日に固まっていた。時刻の表はそう見えるが、それは欠けた日にその時間帯が抜けているだけである。
  2. 予言④も半分外れた。 ATR の比の中央は 1.0000 で動かなかった。
  3. 埋め方を一つに決めている。 前の終値で埋め、24 時間以上の空きは埋めない。別の埋め方なら別の答えになる。
  4. 特定の取引ソフトを論じていない。 どのソフトがどちらの作り方かは調べていない。
  5. クロスの回数が増える機序を測っていない。 平らな足が行き来を増やす、と読めるだけである。
  6. 判定の食い違いが期間によらない理由も測っていない。
  7. 四銘柄・六年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

ティックの無い枠に足を作るかどうかは、相場の性質ではなく実装の違いである。同じ相場を、同じ指標で見ている。

★ 欠けた枠は一時間足で 0.0234、金だけ 0.0369 ある。 そして時刻ではなく、月末とクリスマスと祝日に固まっていた(2021-05-31 に 20 本、2020-11-30 に 19 本、12 月 25 日に 14 本)。私は「低流動の時刻」と読みかけて外した。

★ 値はほとんど動かない。 移動平均のずれの中央は三つの期間とも 0.0000 pips である。窓に欠けた枠が入っている足が 0.0835 から 0.1754 しかないからである。

★ 判定はもっと動かない。 上か下かの食い違いは期間 20・50・200 のどれでも 0.0061、RSI 70 超えは 0.0031 である。値が最大 77.0714 pips ずれても、上下は入れ替わらない。

★★ だが数え上げた回数は動く。 移動平均 20 と 80 のクロスの回数は 1.0140 から 1.0587 倍(中央 1.0238)に増え、12 通りすべてで増えて、一つも減っていない。

★★ ATR も同じ形である。 比の中央は 1.0000 で何も起きないのに、いちばん下がった窓では 0.0690 倍、つまり十四分の一以下になる。

★ これは市場の性質ではない。 合成乱数でも ATR の比は中央 1.0000 で同じである。暦と実装の性質である。

だから、指標の値を突き合わせて「同じだ」と確かめても足りない。 ★ 数えた回数は別に確かめなければならない。 中央値では何も起きていないところで、回数は 1.0587 倍になり、ATR は 0.0690 倍になる。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
足 5分・15分・1時間、中値・完成足のみ
A 作らない ティックの無い枠は飛ばす
B 作る 24 時間未満の空きだけを前の終値で埋める(始値=高値=安値=終値、値幅ゼロ)
指標 SMA 20・50・200 / RSI 14(ウィルダー平滑)/ ATR 14
判定 価格が SMA の上か下か / RSI が 70 を超えたか
クロス SMA 20 と 80 の交差の回数
突き合わせ A に在る足の時刻だけで比べる
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列)。欠けた枠の位置は実測のまま置く
検算 検算/F049.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F049_output.txt から取っている
図 図/F049_zu1・図/F049_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). ローソク足の形は、足の切り方に属している [F020]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22891997
  • 山岸勇輝 (2026). 合成乱数には、ボラティリティの群れが無い [F033]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893674
  • 山岸勇輝 (2026). ATR の「真の値幅」は、ふだんはただの値幅である [F047]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22896724

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「ティックの無い枠に足を作ると、値は動かないのに数えた回数が動く」[F049]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22897116

YOI F049FX と金融ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F049・DOI 10.5281/zenodo.22897116・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). ティックの無い枠に足を作ると、値は動かないのに数えた回数が動く [F049]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F049 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22897116

Yamagishi, Y. (2026). Create Bars for the Empty Slots and the Values Stay Put While the Counts Move [F049]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F049; DOI: 10.5281/zenodo.22897116

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