Yamagishi Complexity Torus Lab山岸勇輝ラボ

【F050】一分足の太い裾とボラティリティの群れは、半分が時計の産物である

要旨

本稿が問うのは、一本を何で区切ったかが、リターンの形をどれだけ作っているか、である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、★ 一定にしたものと、成り行きに任せたものが、きれいに入れ替わる。 一分足は時間の幅が 1.31 倍しかないのにティック数の幅が 10.38 倍あり、ティック足はティック数の幅が 1.00 倍(定義から)なのに時間の幅が 7.04 倍ある(第3節)。

第二に、★★ 太い裾は、刻み方で半分になる。 超過尖度は一分足 120.2788、ティック足 61.3744 で、1.9598 倍である(第4節)。

第三に、★★ ボラティリティの群れも半分になる。 \|リターン\| のラグ 1 自己相関は 0.3077 から 0.1767 へ、0.5743 倍である(第5節)。

第四に、これが本稿の芯である。★★ 決め手は基準線である。真の値が正規で無相関の合成乱数を一分足で見ると、超過尖度 2.2459・自己相関 0.1812 が出る。 ティック足で見ると −0.0007 と −0.0001 に戻る(第7節)。

第五に、★ 時間帯の偏りは、吸収されるのではなく本数として表に出る。 一分足は 1.0647 倍しか偏らないのに、ティック足は 6.7105 倍偏る(第6節)。

第六に、★ 値動きの散らばりは [F018] で既に測ってある。本稿が加えるのは尖度・自己相関・基準線である(第4節・第7節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。時間変形と従属確率過程は古典的な題材である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。売買を論じない。成績も損益も測っていない。値動きの散らばりは [F018] と重なる。本稿が加えるのは尖度・自己相関・基準線である(第4節)。刻み方を二つに固定している。時計とティックの数である(第7節)。ティックの無い枠に足を作らない。その規約が答えを動かすことは [F049] で測ってある(第7節)。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。予測を主張しない。

1. 記法と問い

足を作るには、何かを一定にしなければならない。

一定にするもの 成り行きに任せるもの 呼び名
時間 一本に入るティックの数 一分足
ティックの数 一本にかかる時間 ティック足

観察 1.1:★ どちらも「一本」と呼ばれるが、一定にしたものが違う。

観察 1.2:★ ティック数で刻んだ足が時計で刻んだ足と別の時計であることは [F018] で測ってある。 そこで測ったのは値動きの散らばりだった。本稿が測るのは、リターンの形である。

観察 1.3:本稿の分離子は、何で刻んだかである。 銘柄・期間・ティックの並びをすべて固定し、区切り方だけを変える。

問い:区切り方は、太い裾とボラティリティの群れを、どれだけ作っているのか。

2. 測る量と設計を、先に書く

走らせる前に宣言し、実行時には変えていない。

A 一分足 60,000 ミリ秒ごと。ティックの無い枠は作らない
B ティック足 N ティックごと。★ N = 総ティック数 ÷ 一分足の本数(本数をそろえるため)
リターン 終値どうしの差(pips)
尖度 超過尖度(正規なら 0)
自己相関 |リターン| のラグ 1
時刻 UTC。足の終わりの時刻で数える
基準線 ティックまで合成乱数(3 系列)。★ 時刻とティックの並びは実測のまま
分離子 何で刻んだか(時計か、ティックの数か)
銘柄・期間 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD/2019–2024

観察 2.1:★ 本数をそろえるのが要である。 そろえないと「足が細かいから違う」だけの比較になる。

観察 2.2:N は USDJPY 86・EURUSD 76・GBPUSD 80・XAUUSD 151 ティックである。 本数は一分足 2,181,459・2,181,955・2,182,565・2,090,977、ティック足 2,183,483・2,184,429・2,183,491・2,090,836 である。

観察 2.3:★ 基準線では、時刻とティックの並びを実測のまま置き、値動きだけ差し替える。 だから「ティックがいつ何本来たか」は実測と同じである。

予言(測る前に書いた)

① 対称になる。時計で刻めば一本のティック数が大きく動き、ティックで刻めば一本の時間が大きく動く。

② ★★ ティック足のリターンのほうが、尖度が小さい(正規に近い)。

③ ★ ティック足は時間帯の偏りを吸収する。

④ ★ \|リターン\| の自己相関は、ティック足のほうが弱い。

⑤ 合成乱数では、二つの足種の尖度の差が小さくなる。

⑥ ★ 一本あたりの値動きの大きさは、ティック足のほうが揃う。

3. 一定にしたものと、成り行きに任せたもの

計算 3.1 一本の時間と、一本のティック数(四銘柄の中央)

足種 時間 10%点 時間 中央 時間 90%点 時間の幅 ティック 10%点 ティック 中央 ティック 90%点 ティック数の幅
一分足 45.5 57.5 59.6 1.31 16 63 172 10.38
ティック足 16.5 42.3 115.6 7.04 83 83 83 1.00

観察 3.2:予言①は当たった。 ★ 一分足は時間の幅が 1.31 倍しかないのに、ティック数の幅が 10.38 倍ある。

観察 3.3:★ ティック足はその逆で、ティック数の幅が 1.00 倍(定義から)なのに、時間の幅が 7.04 倍ある。

観察 3.4:★★ つまり「一本」という言葉は、どちらも同じだけの何かを表していない。 一方は時間を、もう一方は出来事の数を数えている。

4. 太い裾は、刻み方で半分になる

計算 4.1 リターンの形(四銘柄の中央)

足種 本数 |r| 平均 ばらつき 超過尖度 |r| の CV
一分足 2,181,707 1.1360 1.9533 120.2788 1.2799
ティック足 2,183,487 1.3248 1.9415 61.3744 0.9753

観察 4.2:予言②は当たった。 ★★ 超過尖度は 120.2788 から 61.3744 へ、1.9598 倍下がる。

観察 4.3:予言⑥も当たった。 \|r\| の CV は 1.2799 から 0.9753 へ下がる。★ [F018] は一本あたりの時間の中央をそろえて同じ量を測っており、そちらとも向きが揃う。取り方が違っても同じ答えが出た、という確認である。

計算 4.4 銘柄ごとの超過尖度

銘柄 一分足 ティック足 比
USDJPY 219.2766 124.6253 1.7595
EURUSD 114.2092 51.3963 2.2221
GBPUSD 126.3484 71.3525 1.7708
XAUUSD 98.3260 50.9362 1.9304

観察 4.5:★ 四銘柄すべてで 1.7595 から 2.2221 倍であり、向きが揃っている。

観察 4.6:★ ただしティック足でも 50.9362 から 124.6253 あり、正規(0)にはほど遠い。 刻み方で消えるのは半分である。

図1 一分足は時刻を等分し、ティック足は活発な時刻に集まる

図1:横が UTC の時刻、縦がその時刻に立った足の割合。丸が一分足、四角がティック足で、点線が 24 分の 1 である。

5. 群れも、刻み方で半分になる

計算 5.1 \|リターン\| のラグ 1 自己相関

銘柄 一分足 ティック足 比
USDJPY 0.3280 0.2178 0.6639
EURUSD 0.2858 0.1405 0.4915
GBPUSD 0.2930 0.1758 0.5999
XAUUSD 0.3223 0.1776 0.5511
四銘柄の中央 0.3077 0.1767 0.5743

観察 5.2:予言④は当たった。 ★★ 自己相関は 0.3077 から 0.1767 へ、0.5743 倍下がる。

観察 5.3:★ 四銘柄すべてで 0.4915 から 0.6639 倍であり、向きが揃っている。

観察 5.4:★ ここでも、ティック足に残るのは半分である。 群れが全部消えるわけではない。

6. 時間帯の偏りは、吸収されるのではなく表に出る

計算 6.1 時刻ごとの本数の割合(四銘柄の中央)

時(UTC) 一分足 ティック足 時(UTC) 一分足 ティック足
0 0.0430 0.0295 12 0.0412 0.0645
1 0.0430 0.0398 13 0.0411 0.0771
2 0.0430 0.0303 14 0.0412 0.0840
3 0.0429 0.0246 15 0.0411 0.0707
4 0.0429 0.0204 16 0.0412 0.0504
5 0.0429 0.0271 17 0.0410 0.0383

観察 6.2:予言③は当たった。 偏りは一分足 1.0647 倍に対し、ティック足 6.7105 倍である(6.3027 倍)。

観察 6.3:★★ ただし「吸収する」は言い方が正しくない。 ティック足は、時間帯の偏りを本数の偏りとして表に出している。 いちばん多いのは UTC 14 時(0.0840)、いちばん少ないのは UTC 21 時(0.0150)である。

観察 6.4:★ 一分足が 1.0647 倍しか偏らないのは当然である。時刻を等分しているからである。 偏っていないのではなく、偏りを見えなくしている。

7. ★ 基準線が決め手、合成乱数でも時計なら裾と群れが出る

計算 7.1 値動きだけを合成乱数に差し替える

足種 実測の尖度 合成乱数の尖度 実測の自己相関 合成乱数の自己相関
一分足 120.2788 2.2459 0.3077 0.1812
ティック足 61.3744 −0.0007 0.1767 −0.0001

観察 7.2:★★ これが本稿の芯である。合成乱数の真の値は、正規(尖度 0)で無相関(自己相関 0)である。 ティック足で見ると、そのとおり −0.0007 と −0.0001 が出る。

観察 7.3:★★ ところが同じ合成乱数を一分足で見ると、超過尖度 2.2459・自己相関 0.1812 が出る。 何も無いところから、太い裾とボラティリティの群れが生まれている。

観察 7.4:★★ 作っているのは、一分に入るティックの数が時刻で違うことである。 ティックの少ない分と多い分が混ざると、リターンの分布は正規から離れ、隣どうしが似てくる。

観察 7.5:予言⑤は当たった。 尖度の差(一分足 − ティック足)は実測 58.9044、合成乱数 2.2466 である。

観察 7.6:★ だから実測の尖度 120.2788 のうち、時計が作っているのは 2.2459 だけではない。 刻み方を変えて消えるのは 58.9044 であり、その中に合成乱数でも出る 2.2466 が含まれている。 残りは市場の側の性質である。

観察 7.7:★ 合成乱数にボラティリティの群れが無いことは [F033] で測ってある。 本稿が加えるのは、群れが無い系列でも一分足で見れば 0.1812 の自己相関が出る、ということである。

図2 ティックで刻むと、リターンは正規に近づく

図2:横が銘柄、縦が超過尖度(対数目盛り)。左が一分足、右がティック足である。

限界

  1. ⚠️ 刻み方を二つに固定している。 時計とティックの数である。出来高足・練行足は入れていない。
  2. 本数をそろえる取り方を一つに決めている。 総ティック数 ÷ 一分足の本数である。
  3. ティックの無い枠に足を作っていない。 その規約が答えを動かすことは [F049] で測ってある。
  4. 値動きの散らばりは [F018] と重なる。 本稿が加えるのは尖度・自己相関・基準線である。
  5. 時計が作る分と市場の分を、きれいに分けていない。 差 58.9044 の中に合成乱数の 2.2466 が含まれる、としか言っていない。
  6. 売買を論じていない。 成績も損益も測っていない。
  7. 四銘柄・六年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

足を作るには、何かを一定にしなければならない。一分足は時間を、ティック足はティックの数を一定にする。

★ 一定にしたものと、成り行きに任せたものは、きれいに入れ替わる。 一分足は時間の幅 1.31 倍・ティック数の幅 10.38 倍、ティック足はティック数の幅 1.00 倍・時間の幅 7.04 倍である。

★★ そして太い裾は、刻み方で半分になる。 超過尖度は 120.2788 から 61.3744 へ(1.9598 倍)、四銘柄すべてで向きが揃う。

★★ ボラティリティの群れも半分になる。 自己相関は 0.3077 から 0.1767 へ(0.5743 倍)である。

★★ 決め手は基準線である。真の値が正規で無相関の合成乱数を、一分足で見ると超過尖度 2.2459・自己相関 0.1812 が出る。ティック足で見ると −0.0007 と −0.0001 に戻る。 何も無いところから、時計が裾と群れを作っている。

★ 作っているのは、一分に入るティックの数が時刻で違うことである。 ティック足の本数は UTC 14 時の 0.0840 から UTC 21 時の 0.0150 まで 6.7105 倍偏っており、一分足はそれを 1.0647 倍に見せている。

★ ただし刻み方で消えるのは半分である。 ティック足でも尖度は 50.9362 から 124.6253 あり、正規からはほど遠い。残りは市場の側の性質である。

だから「一分足のリターンは裾が太く、ボラティリティが群れる」と言うときには、どこまでが時計の話かを分けなければならない。 ★ 真の値がゼロの系列でも、一分足で見れば 2.2459 と 0.1812 が出る。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
A 一分足 60,000 ミリ秒ごと。ティックの無い枠は作らない
B ティック足 N ティックごと。N = 総ティック数 ÷ 一分足の本数(年ごと・銘柄ごと)
リターン 終値どうしの差(pips)
尖度 超過尖度(正規なら 0)
自己相関 |リターン| のラグ 1
時刻 UTC。足の終わりの時刻で数える
基準線 ティックまで合成乱数(3 系列)。時刻とスプレッドは実測のまま置く
検算 検算/F050.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F050_output.txt から取っている
図 図/F050_zu1・図/F050_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). ティック数で刻んだ足は、時計で刻んだ足と別の時計である [F018]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22891916
  • 山岸勇輝 (2026). 合成乱数には、ボラティリティの群れが無い [F033]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893674
  • 山岸勇輝 (2026). ティックの無い枠に足を作ると、値は動かないのに数えた回数が動く [F049]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22897116

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「一分足の太い裾とボラティリティの群れは、半分が時計の産物である」[F050]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22897369

YOI F050FX と金融ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F050・DOI 10.5281/zenodo.22897369・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 一分足の太い裾とボラティリティの群れは、半分が時計の産物である [F050]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F050 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22897369

Yamagishi, Y. (2026). The Fat Tails and Volatility Clustering of Minute Bars Are Half an Artefact of the Clock [F050]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F050; DOI: 10.5281/zenodo.22897369

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