Yamagishi Complexity Torus Lab山岸勇輝ラボ

【F052】三役好転は、件数を減らす以上のことをしていない

要旨

本稿が問うのは、条件を三つ掛けることが、件数を減らす以外に何をしているか、である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、★ 件数は大きく減る。 三つ全部で通過率 0.3336、件数は 36,459 本から 11,876 本へ 3.0700 分の一になる(第3節)。

第二に、これが本稿の芯である。★★ ところが方向の値は動かない。 D は +1.5497 から +1.7419 pips へ、0.1922 しか動かない(第3節)。

第三に、★★ 同じ通過率の無作為な条件と、区別がつかない。 三つ全部での差は +0.1984 pips で、平均の標準誤差 0.6338 を下回る。七通りの差 ÷ ばらつき は中央 0.8892、最大 2.0235 である(第4節)。

第四に、★ 三つの条件は独立ではない。 実際の通過率は三つの積の 2.9314 倍である。別々のことを言っているのではなく、同じ上昇を三回言い換えている(第5節)。

第五に、★ 合成乱数でも同じ形になる。 三つ全部の通過率は 0.3435、D は +1.1826 pips、積との比は 3.0702 倍である(第6節)。

第六に、★ 日次 t は下がる。 +0.9962 から −3.3964 へ動くが、これは件数と符号の変化であって、方向の情報が増えたことではない(第3節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。条件を掛ければ件数が減ることは自明である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。売買を論じない。成績もコストも測っておらず、出口も論じていない(第7節)。一目の期間を慣用に固定している。9 / 26 / 52 / 26 である(第7節)。買いだけを見ている。三役好転は買いの宣言だからである(第7節)。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。予測を主張しない。

1. 記法と問い

「三役好転」は、三つの条件を同時に満たした状態を指す。

条件 中身
① 転換線が基準線の上にある
② 価格が雲の上にある
③ 遅行スパンが二十六本前の価格の上にある

観察 1.1:★ 条件を足せば件数は減る。それは定義から決まっている。 問題は、減った分のほかに何かが起きているかである。

観察 1.2:★ 雲は二十六本前の先行スパンを見る。 未来にずらして描いた過去であることは [F002] で測ってある。本稿もその規約で組む。

観察 1.3:本稿の分離子は、条件をいくつ掛けたかである。 銘柄・期間・格子・先の長さをすべて固定し、掛ける条件の数だけを変える。

問い:条件を掛けることと、無作為に同じ割合だけ間引くことは、区別がつくのか。

2. 測る量と設計を、先に書く

走らせる前に宣言し、実行時には変えていない。

格子 1時間足(中値・完成足のみ)/ 先の長さ 24 本
一目 転換線 9 / 基準線 26 / 先行スパンB 52 / 先行のずらし 26 / 遅行 26
条件① 転換線 > 基準線
条件② 終値 > 雲の上端(二十六本前の先行スパン A と B の大きいほう)
条件③ 終値 > 二十六本前の終値
向き 買いだけ(+1)。三役好転は買いの宣言である
D 平均(向き × これから先の値動き)。単位は pips
t 日次クラスタ
対照 ★ 同じ通過率の無作為な条件(20 回引き直して平均)
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列)
分離子 条件をいくつ掛けたか(中身か、件数か)
銘柄・期間 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD/2019–2024

観察 2.1:★ 対照が要である。 件数だけ同じに減らして、中身は無作為にする。それに勝てなければ「選んでいる」のではなく「減らしている」だけである。

観察 2.2:使える足は USDJPY 36,459・EURUSD 36,479・GBPUSD 36,460・XAUUSD 34,817 本である。 ★ 三つの条件はすべて、その足の終値までの情報だけで決まる。

観察 2.3:八通りの組み合わせすべて(条件なしを含む)で測る。 ★ 一つずつ、二つずつ、三つ全部を並べる。

予言(測る前に書いた)

① 条件を足すごとに、件数がほぼ掛け算で減る。

② ★★ D(向き × 先の値動き)は動かない。

③ ★★ 同じ通過率の無作為な条件と区別がつかない。

④ 日次 t は、件数が減るぶんだけ下がる。

⑤ 合成乱数でも同じ形になる。

⑥ ★ 三つの条件は互いに強く相関しているので、通過率は三つの積より大きい。

3. 条件を足すと、何が減って何が減らないか

計算 3.1 八通りの組み合わせ(四銘柄の中央)

条件 通過率 件数 D(pips) 日次 t
(無し) 1.0000 36,459 +1.5497 +0.9962
① 0.4875 17,359 +2.2067 −2.4906
② 0.4499 16,018 +1.8605 −4.1092
③ 0.5202 18,526 +2.2766 −3.8491
①+② 0.3493 12,436 +1.9381 −3.3247
①+③ 0.4197 14,946 +1.9462 −2.8816
②+③ 0.3956 14,085 +1.7807 −4.4914
①+②+③ 0.3336 11,876 +1.7419 −3.3964

観察 3.2:予言①は当たった。 件数は 36,459 本から 11,876 本へ、3.0700 分の一になる。 ★ 条件を重ねると、そろえた分だけ件数が減ることは [F010] で測ってある。本稿はそれを一つの指標の中で見ている。

観察 3.3:★★ 予言②も当たった。D は +1.5497 から +1.7419 pips へ、0.1922 しか動かない。

観察 3.4:★ 一つずつでも動きは小さい(+1.8605 から +2.2766)。そして三つ全部にすると、むしろ一つだけのときより下がる。

観察 3.5:日次 t は +0.9962 から −3.3964 へ動く。 ★ だがこれは件数と符号の変化であって、方向の情報が増えたということではない。次節で対照と比べる。

4. 同じ通過率の無作為な条件と、区別がつくか

件数だけ同じに減らして、中身は無作為にする。それと比べる。

計算 4.1 三役と無作為(四銘柄の中央)

条件 D(三役) D(無作為) 差 平均の標準誤差 無作為のばらつき 差 ÷ ばらつき
① +2.2067 +1.5718 +0.6350 0.5377 0.5220 1.2165
② +1.8605 +1.6521 +0.2084 0.5458 0.4150 0.5022
③ +2.2766 +1.5147 +0.7619 0.5236 0.3765 2.0235
①+② +1.9381 +1.5077 +0.4303 0.6169 0.4076 1.0557
①+③ +1.9462 +1.5192 +0.4270 0.5789 0.4802 0.8892
②+③ +1.7807 +1.5064 +0.2743 0.5847 0.4629 0.5926
①+②+③ +1.7419 +1.5435 +0.1984 0.6338 0.4925 0.4029

観察 4.2:★★ これが本稿の芯である。三つ全部での差は +0.1984 pips で、平均の標準誤差 0.6338 を下回る。

観察 4.3:★ 差 ÷ ばらつき は中央 0.8892、最大 2.0235 である。 2 を超えるのは③だけで、七通り中一つである。

観察 4.4:★★ そして条件を足すほど、差は小さくなる。 ③だけなら +0.7619、三つ全部なら +0.1984 である。条件を重ねるほど、無作為な間引きに近づく。

観察 4.5:★ つまり三役好転は、件数を減らす以上のことをしていない。 「選んでいる」のではなく「減らしている」。

図1 条件を足すと件数は減る。独立なら点線まで減るはずだった

図1:横が掛けた条件の数、縦が通過率。丸が実際の通過率、四角が三つが独立だとしたときの通過率である。

5. 三つの条件は、独立に掛からない

計算 5.1 通過率と、三つの積

銘柄 ①の通過率 ②の通過率 ③の通過率 三つの積 実際の通過率 実際 ÷ 積
USDJPY 0.5276 0.5048 0.5449 0.1451 0.3772 2.5993
EURUSD 0.4576 0.4157 0.4948 0.0941 0.3054 3.2454
GBPUSD 0.4705 0.4318 0.5043 0.1024 0.3181 3.1048
XAUUSD 0.5045 0.4680 0.5361 0.1266 0.3491 2.7579

観察 5.2:予言⑥は当たった。 ★ 実際の通過率は、三つの積の 2.9314 倍である。

観察 5.3:★★ つまり三つは別々のことを言っているのではない。 同じ上昇を三回言い換えている。

観察 5.4:★ 独立だったなら、通過率は 0.1451 から 0.0941 まで落ちていたはずである。 実際には 0.3772 から 0.3054 までしか落ちない。

観察 5.5:★ これは第4節と同じことを、別の角度から言っている。 三つとも同じ価格から作られているので、同じ向きを向く。

6. 合成乱数で同じことをする

計算 6.1 実測と合成乱数(四銘柄の中央)

条件 実測の通過率 合成乱数の通過率 実測 D 合成乱数 D
(無し) 1.0000 1.0000 +1.5497 +2.1154
① 0.4875 0.4917 +2.2067 +2.3377
② 0.4499 0.4497 +1.8605 +1.7527
③ 0.5202 0.5100 +2.2766 +2.2634
①+② 0.3493 0.3608 +1.9381 +1.4874
①+③ 0.4197 0.4246 +1.9462 +2.1049
②+③ 0.3956 0.3945 +1.7807 +1.8762
①+②+③ 0.3336 0.3435 +1.7419 +1.1826

観察 6.2:予言⑤は当たった。 ★ 合成乱数でも三つ全部の通過率は 0.3435 で、実測の 0.3336 と近い。

観察 6.3:★★ 合成乱数でも、実際の通過率は積の 3.0702 倍である(実測は 2.9314 倍)。条件が重なるのは市場の性質ではなく、三つとも同じ価格から作られているためである。

観察 6.4:★ 合成乱数の D も +1.1826 pips で、実測の +1.7419 と近い。 ★ この基準線が何についてゼロなのかは [F033] で測ってある。

図2 件数は減るのに、方向の値は動かない

図2:横が掛けた条件の数、縦が D(pips)。丸が三役好転、四角が同じ通過率の無作為な条件である。

7. 限界

  1. ⚠️ 出口を論じていない。 固定の先までの値動きで測っており、利確も損切りも入れていない。
  2. 一目の期間を慣用の 9 / 26 / 52 / 26 に固定している。 別の期間なら通過率も変わる。
  3. 先の長さを 24 本に固定している。
  4. 買いだけを見ている。 三役好転は買いの宣言だからである。売りの「三役逆転」は測っていない。
  5. 売買の成績もコストも測っていない。
  6. 無作為な対照を 20 回しか引いていない。 ばらつきの推定はそのぶん粗い。
  7. 四銘柄・六年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

三役好転は、三つの条件を同時に満たした状態である。条件を足せば件数は減る。それは定義から決まっている。問題は、減った分のほかに何が起きているかである。

★ 件数は 36,459 本から 11,876 本へ、3.0700 分の一になる。

★★ ところが方向の値は動かない。 D は +1.5497 から +1.7419 pips へ、0.1922 しか動かない。

★★ そして同じ通過率の無作為な条件と、区別がつかない。 三つ全部での差は +0.1984 pips で、平均の標準誤差 0.6338 を下回る。差 ÷ ばらつき は中央 0.8892 で、2 を超えるのは七通り中一つだけである。

★★ しかも条件を足すほど、差は小さくなる。 ③だけなら +0.7619、三つ全部なら +0.1984 である。条件を重ねるほど、無作為な間引きに近づいていく。

★ 理由の一つは、三つが独立ではないことである。 実際の通過率は三つの積の 2.9314 倍で、別々のことを言っているのではなく、同じ上昇を三回言い換えている。

★ それは市場の性質でもない。 合成乱数でも積の 3.0702 倍であり、通過率も 0.3435 で実測の 0.3336 と近い。三つとも同じ価格から作られているからである。

だから「三つの条件が揃った」と言うときに確かめるべきなのは、揃ったかどうかではない。 ★ 同じだけ件数を減らす無作為な条件に勝っているかどうかである。 本稿の測定では、勝っていない。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
足 1時間足・中値・完成足のみ
一目 転換線 9 / 基準線 26 / 先行スパンB 52 / 先行のずらし 26 / 遅行 26
条件 ① 転換線 > 基準線 / ② 終値 > 雲の上端(26 本前の先行スパン A と B の大きいほう)/ ③ 終値 > 26 本前の終値
向き 買いだけ(+1)
D 平均(向き × これから 24 本先の値動き)。単位は pips
t 日次クラスタ
対照 同じ通過率の無作為な条件。20 回引き直して平均
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列)
検算 検算/F052.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F052_output.txt から取っている
図 図/F052_zu1・図/F052_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). 一目均衡表の雲は、二十六本先へ描いた過去である [F002]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22880552
  • 山岸勇輝 (2026). 多時間軸をそろえても、そろえた分だけ件数が減る [F010]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22891380
  • 山岸勇輝 (2026). 合成乱数には、ボラティリティの群れが無い [F033]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893674

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「三役好転は、件数を減らす以上のことをしていない」[F052]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22898121

YOI F052FX と金融ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F052・DOI 10.5281/zenodo.22898121・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 三役好転は、件数を減らす以上のことをしていない [F052]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F052 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22898121

Yamagishi, Y. (2026). The Three-Way Ichimoku Signal Does Nothing Beyond Cutting the Count [F052]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F052; DOI: 10.5281/zenodo.22898121

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