要旨
本稿が問うのは、条件を三つ掛けることが、件数を減らす以外に何をしているか、である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、★ 件数は大きく減る。 三つ全部で通過率 0.3336、件数は 36,459 本から 11,876 本へ 3.0700 分の一になる(第3節)。
第二に、これが本稿の芯である。★★ ところが方向の値は動かない。 D は +1.5497 から +1.7419 pips へ、0.1922 しか動かない(第3節)。
第三に、★★ 同じ通過率の無作為な条件と、区別がつかない。 三つ全部での差は +0.1984 pips で、平均の標準誤差 0.6338 を下回る。七通りの差 ÷ ばらつき は中央 0.8892、最大 2.0235 である(第4節)。
第四に、★ 三つの条件は独立ではない。 実際の通過率は三つの積の 2.9314 倍である。別々のことを言っているのではなく、同じ上昇を三回言い換えている(第5節)。
第五に、★ 合成乱数でも同じ形になる。 三つ全部の通過率は 0.3435、D は +1.1826 pips、積との比は 3.0702 倍である(第6節)。
第六に、★ 日次 t は下がる。 +0.9962 から −3.3964 へ動くが、これは件数と符号の変化であって、方向の情報が増えたことではない(第3節)。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。条件を掛ければ件数が減ることは自明である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。売買を論じない。成績もコストも測っておらず、出口も論じていない(第7節)。一目の期間を慣用に固定している。9 / 26 / 52 / 26 である(第7節)。買いだけを見ている。三役好転は買いの宣言だからである(第7節)。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。予測を主張しない。
1. 記法と問い
「三役好転」は、三つの条件を同時に満たした状態を指す。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| ① | 転換線が基準線の上にある |
| ② | 価格が雲の上にある |
| ③ | 遅行スパンが二十六本前の価格の上にある |
観察 1.1:★ 条件を足せば件数は減る。それは定義から決まっている。 問題は、減った分のほかに何かが起きているかである。
観察 1.2:★ 雲は二十六本前の先行スパンを見る。 未来にずらして描いた過去であることは [F002] で測ってある。本稿もその規約で組む。
観察 1.3:本稿の分離子は、条件をいくつ掛けたかである。 銘柄・期間・格子・先の長さをすべて固定し、掛ける条件の数だけを変える。
問い:条件を掛けることと、無作為に同じ割合だけ間引くことは、区別がつくのか。
2. 測る量と設計を、先に書く
走らせる前に宣言し、実行時には変えていない。
| 格子 | 1時間足(中値・完成足のみ)/ 先の長さ 24 本 |
| 一目 | 転換線 9 / 基準線 26 / 先行スパンB 52 / 先行のずらし 26 / 遅行 26 |
| 条件① | 転換線 > 基準線 |
| 条件② | 終値 > 雲の上端(二十六本前の先行スパン A と B の大きいほう) |
| 条件③ | 終値 > 二十六本前の終値 |
| 向き | 買いだけ(+1)。三役好転は買いの宣言である |
| D | 平均(向き × これから先の値動き)。単位は pips |
| t | 日次クラスタ |
| 対照 | ★ 同じ通過率の無作為な条件(20 回引き直して平均) |
| 基準線 | 足の中まで合成乱数(3 系列) |
| 分離子 | 条件をいくつ掛けたか(中身か、件数か) |
| 銘柄・期間 | USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD/2019–2024 |
観察 2.1:★ 対照が要である。 件数だけ同じに減らして、中身は無作為にする。それに勝てなければ「選んでいる」のではなく「減らしている」だけである。
観察 2.2:使える足は USDJPY 36,459・EURUSD 36,479・GBPUSD 36,460・XAUUSD 34,817 本である。 ★ 三つの条件はすべて、その足の終値までの情報だけで決まる。
観察 2.3:八通りの組み合わせすべて(条件なしを含む)で測る。 ★ 一つずつ、二つずつ、三つ全部を並べる。
予言(測る前に書いた)
① 条件を足すごとに、件数がほぼ掛け算で減る。
② ★★ D(向き × 先の値動き)は動かない。
③ ★★ 同じ通過率の無作為な条件と区別がつかない。
④ 日次 t は、件数が減るぶんだけ下がる。
⑤ 合成乱数でも同じ形になる。
⑥ ★ 三つの条件は互いに強く相関しているので、通過率は三つの積より大きい。
3. 条件を足すと、何が減って何が減らないか
計算 3.1 八通りの組み合わせ(四銘柄の中央)
| 条件 | 通過率 | 件数 | D(pips) | 日次 t |
|---|---|---|---|---|
| (無し) | 1.0000 | 36,459 | +1.5497 | +0.9962 |
| ① | 0.4875 | 17,359 | +2.2067 | −2.4906 |
| ② | 0.4499 | 16,018 | +1.8605 | −4.1092 |
| ③ | 0.5202 | 18,526 | +2.2766 | −3.8491 |
| ①+② | 0.3493 | 12,436 | +1.9381 | −3.3247 |
| ①+③ | 0.4197 | 14,946 | +1.9462 | −2.8816 |
| ②+③ | 0.3956 | 14,085 | +1.7807 | −4.4914 |
| ①+②+③ | 0.3336 | 11,876 | +1.7419 | −3.3964 |
観察 3.2:予言①は当たった。 件数は 36,459 本から 11,876 本へ、3.0700 分の一になる。 ★ 条件を重ねると、そろえた分だけ件数が減ることは [F010] で測ってある。本稿はそれを一つの指標の中で見ている。
観察 3.3:★★ 予言②も当たった。D は +1.5497 から +1.7419 pips へ、0.1922 しか動かない。
観察 3.4:★ 一つずつでも動きは小さい(+1.8605 から +2.2766)。そして三つ全部にすると、むしろ一つだけのときより下がる。
観察 3.5:日次 t は +0.9962 から −3.3964 へ動く。 ★ だがこれは件数と符号の変化であって、方向の情報が増えたということではない。次節で対照と比べる。
4. 同じ通過率の無作為な条件と、区別がつくか
件数だけ同じに減らして、中身は無作為にする。それと比べる。
計算 4.1 三役と無作為(四銘柄の中央)
| 条件 | D(三役) | D(無作為) | 差 | 平均の標準誤差 | 無作為のばらつき | 差 ÷ ばらつき |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ① | +2.2067 | +1.5718 | +0.6350 | 0.5377 | 0.5220 | 1.2165 |
| ② | +1.8605 | +1.6521 | +0.2084 | 0.5458 | 0.4150 | 0.5022 |
| ③ | +2.2766 | +1.5147 | +0.7619 | 0.5236 | 0.3765 | 2.0235 |
| ①+② | +1.9381 | +1.5077 | +0.4303 | 0.6169 | 0.4076 | 1.0557 |
| ①+③ | +1.9462 | +1.5192 | +0.4270 | 0.5789 | 0.4802 | 0.8892 |
| ②+③ | +1.7807 | +1.5064 | +0.2743 | 0.5847 | 0.4629 | 0.5926 |
| ①+②+③ | +1.7419 | +1.5435 | +0.1984 | 0.6338 | 0.4925 | 0.4029 |
観察 4.2:★★ これが本稿の芯である。三つ全部での差は +0.1984 pips で、平均の標準誤差 0.6338 を下回る。
観察 4.3:★ 差 ÷ ばらつき は中央 0.8892、最大 2.0235 である。 2 を超えるのは③だけで、七通り中一つである。
観察 4.4:★★ そして条件を足すほど、差は小さくなる。 ③だけなら +0.7619、三つ全部なら +0.1984 である。条件を重ねるほど、無作為な間引きに近づく。
観察 4.5:★ つまり三役好転は、件数を減らす以上のことをしていない。 「選んでいる」のではなく「減らしている」。

図1:横が掛けた条件の数、縦が通過率。丸が実際の通過率、四角が三つが独立だとしたときの通過率である。
5. 三つの条件は、独立に掛からない
計算 5.1 通過率と、三つの積
| 銘柄 | ①の通過率 | ②の通過率 | ③の通過率 | 三つの積 | 実際の通過率 | 実際 ÷ 積 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| USDJPY | 0.5276 | 0.5048 | 0.5449 | 0.1451 | 0.3772 | 2.5993 |
| EURUSD | 0.4576 | 0.4157 | 0.4948 | 0.0941 | 0.3054 | 3.2454 |
| GBPUSD | 0.4705 | 0.4318 | 0.5043 | 0.1024 | 0.3181 | 3.1048 |
| XAUUSD | 0.5045 | 0.4680 | 0.5361 | 0.1266 | 0.3491 | 2.7579 |
観察 5.2:予言⑥は当たった。 ★ 実際の通過率は、三つの積の 2.9314 倍である。
観察 5.3:★★ つまり三つは別々のことを言っているのではない。 同じ上昇を三回言い換えている。
観察 5.4:★ 独立だったなら、通過率は 0.1451 から 0.0941 まで落ちていたはずである。 実際には 0.3772 から 0.3054 までしか落ちない。
観察 5.5:★ これは第4節と同じことを、別の角度から言っている。 三つとも同じ価格から作られているので、同じ向きを向く。
6. 合成乱数で同じことをする
計算 6.1 実測と合成乱数(四銘柄の中央)
| 条件 | 実測の通過率 | 合成乱数の通過率 | 実測 D | 合成乱数 D |
|---|---|---|---|---|
| (無し) | 1.0000 | 1.0000 | +1.5497 | +2.1154 |
| ① | 0.4875 | 0.4917 | +2.2067 | +2.3377 |
| ② | 0.4499 | 0.4497 | +1.8605 | +1.7527 |
| ③ | 0.5202 | 0.5100 | +2.2766 | +2.2634 |
| ①+② | 0.3493 | 0.3608 | +1.9381 | +1.4874 |
| ①+③ | 0.4197 | 0.4246 | +1.9462 | +2.1049 |
| ②+③ | 0.3956 | 0.3945 | +1.7807 | +1.8762 |
| ①+②+③ | 0.3336 | 0.3435 | +1.7419 | +1.1826 |
観察 6.2:予言⑤は当たった。 ★ 合成乱数でも三つ全部の通過率は 0.3435 で、実測の 0.3336 と近い。
観察 6.3:★★ 合成乱数でも、実際の通過率は積の 3.0702 倍である(実測は 2.9314 倍)。条件が重なるのは市場の性質ではなく、三つとも同じ価格から作られているためである。
観察 6.4:★ 合成乱数の D も +1.1826 pips で、実測の +1.7419 と近い。 ★ この基準線が何についてゼロなのかは [F033] で測ってある。

図2:横が掛けた条件の数、縦が D(pips)。丸が三役好転、四角が同じ通過率の無作為な条件である。
7. 限界
- ⚠️ 出口を論じていない。 固定の先までの値動きで測っており、利確も損切りも入れていない。
- 一目の期間を慣用の 9 / 26 / 52 / 26 に固定している。 別の期間なら通過率も変わる。
- 先の長さを 24 本に固定している。
- 買いだけを見ている。 三役好転は買いの宣言だからである。売りの「三役逆転」は測っていない。
- 売買の成績もコストも測っていない。
- 無作為な対照を 20 回しか引いていない。 ばらつきの推定はそのぶん粗い。
- 四銘柄・六年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。
結び
三役好転は、三つの条件を同時に満たした状態である。条件を足せば件数は減る。それは定義から決まっている。問題は、減った分のほかに何が起きているかである。
★ 件数は 36,459 本から 11,876 本へ、3.0700 分の一になる。
★★ ところが方向の値は動かない。 D は +1.5497 から +1.7419 pips へ、0.1922 しか動かない。
★★ そして同じ通過率の無作為な条件と、区別がつかない。 三つ全部での差は +0.1984 pips で、平均の標準誤差 0.6338 を下回る。差 ÷ ばらつき は中央 0.8892 で、2 を超えるのは七通り中一つだけである。
★★ しかも条件を足すほど、差は小さくなる。 ③だけなら +0.7619、三つ全部なら +0.1984 である。条件を重ねるほど、無作為な間引きに近づいていく。
★ 理由の一つは、三つが独立ではないことである。 実際の通過率は三つの積の 2.9314 倍で、別々のことを言っているのではなく、同じ上昇を三回言い換えている。
★ それは市場の性質でもない。 合成乱数でも積の 3.0702 倍であり、通過率も 0.3435 で実測の 0.3336 と近い。三つとも同じ価格から作られているからである。
だから「三つの条件が揃った」と言うときに確かめるべきなのは、揃ったかどうかではない。 ★ 同じだけ件数を減らす無作為な条件に勝っているかどうかである。 本稿の測定では、勝っていない。
データと再現
| データ | 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy |
| 期間 | 2019–2024(六年) |
| 銘柄 | USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD |
| 足 | 1時間足・中値・完成足のみ |
| 一目 | 転換線 9 / 基準線 26 / 先行スパンB 52 / 先行のずらし 26 / 遅行 26 |
| 条件 | ① 転換線 > 基準線 / ② 終値 > 雲の上端(26 本前の先行スパン A と B の大きいほう)/ ③ 終値 > 26 本前の終値 |
| 向き | 買いだけ(+1) |
| D | 平均(向き × これから 24 本先の値動き)。単位は pips |
| t | 日次クラスタ |
| 対照 | 同じ通過率の無作為な条件。20 回引き直して平均 |
| 基準線 | 足の中まで合成乱数(3 系列) |
| 検算 | 検算/F052.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F052_output.txt から取っている |
| 図 | 図/F052_zu1・図/F052_zu2(png・svg・英語版) |
| 乱数の種 | 固定。再実行しても同じ値が出る |
| 土台の検査 | _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt |
参考文献
- 山岸勇輝 (2026). 一目均衡表の雲は、二十六本先へ描いた過去である [F002]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22880552
- 山岸勇輝 (2026). 多時間軸をそろえても、そろえた分だけ件数が減る [F010]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22891380
- 山岸勇輝 (2026). 合成乱数には、ボラティリティの群れが無い [F033]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893674
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「三役好転は、件数を減らす以上のことをしていない」[F052]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22898121
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F052・DOI 10.5281/zenodo.22898121・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 三役好転は、件数を減らす以上のことをしていない [F052]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F052 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22898121
Yamagishi, Y. (2026). The Three-Way Ichimoku Signal Does Nothing Beyond Cutting the Count [F052]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F052; DOI: 10.5281/zenodo.22898121
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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