【論文264】同じ現象の中に、格子で変わる数と変わらない数が同居している

要旨

論文117 と120 は、指数が普遍であることを扱った。本稿が問うのは、その普遍性がどこまでかである。答は、同じ現象の中に境目が走っている。パーコレーションでは、閾値は格子ごとに $2.8$ 倍ひらくのに、臨界指数は一つも動かない。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、閾値を並べる。三角格子サイトと正方格子ボンドは厳密に $1/2$、正方格子サイトは $0.592746$、蜂の巣サイトは $0.6970$、単純立方ボンドは $\mathbf{0.2488}$ である(第2節)。

第二に、閾値はよく動く。最小 $0.2488$ から最大 $0.6970$ まで $\mathbf{2.8014}$ 倍ひらく。格子を変えるだけで、つながり始める濃度が三倍近く変わる(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。同じ二次元なら、三角でも正方でも蜂の巣でも、$\beta=5/36=\mathbf{0.138889}$、$\nu=4/3$ で完全に一致する(第3節)。

第四に、次元を変えると指数は動く。三次元では $\beta\approx0.4181$、$\nu\approx0.8751$、格子では動かず、次元でだけ動く(第3節)。

第五に、二つの数の役目が違う。閾値はどこで起きるかを決め、指数はどう起きるかを決めている(第4節)。

第六に、六次元より上では止まる。$d\ge6$ で $\beta=1$、$\nu=1/2$ に固定される。次元でだけ動いていた数が、そこで動くのをやめる(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。三角格子サイトと正方格子ボンドの閾値が厳密に $1/2$ であること、二次元の指数が $\beta=5/36$、$\nu=4/3$ であること、上部臨界次元が $6$ であること、普遍性という考え方は、いずれも標準的である。パーコレーションの理論を作らない。使うのは文献値の一覧と、比の計算だけである。閾値を計算しない。数値的な閾値($0.592746$ など)は引用値であり、本稿で求めたものではない。指数を計算しない。二次元の厳密値も三次元の数値も引用値である。普遍性を証明しない。なぜ格子に依らないのかは扱わない。依らないという事実を、依る量と並べて置くだけである。くりこみ群に立ち入らない。論文117 と120 が扱う。相転移の一般論を作らない。臨界点 $20$ 件($08$・$117$・$120$・$203$〜$205$・$209$・$212$)は相転移の臨界性を扱っており、本稿はつながりの閾値を扱う。三次元の値の精度を主張しない。$0.4181$ も $0.8751$ も数値計算による推定であり、桁が確定しているとは言わない。既刊との関係:論文117 はスケール不変性が四通りに指数を選ぶことを分け、$\Pi$ 群がちょうど一つという条件を書いた。本稿はその指数が普遍である側に立ち、同じ現象の中で普遍でない量と並べる。論文120 は次元解析が二通りに破れることを示した。あちらは破れ方の分類、本稿は破れない量と破れる量の同居である。論文94 は「次元」が一つではないことを示した。本稿の「次元」は空間の次元であり、フラクタル次元ではない。論文201 は「完備」が四つの別の主張であることを数えた。本稿は一つの現象を二つの持ち物に分ける。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿は逆に、動かない桁を並べる。加えたのは閾値の広がりを $2.8014$ 倍という具体的な数で出したこと、同じ次元の三つの格子で指数が完全に一致することを並べたこと、「どこで」と「どう」という二つの役目に分けたこと、上部臨界次元で指数が動くのをやめると書いたことである。

1. 記法と位置づけ

設定:格子の各点(サイト)または各辺(ボンド)を、確率 $p$ で「通れる」ことにする。$p$ を上げていくと、あるところで無限に広がる連結成分が現れる。その $p$ を閾値 $p_c$ という。

受け取るもの:論文117 と120 は、臨界指数が普遍であることを扱った。本稿はそれを前提として受け取る。なぜ普遍なのかは扱わない。

問い:その普遍性は、どこまで届いているのか。

答は、同じ現象の中に境目が走っている。閾値は格子の持ち物で、指数は次元の持ち物である。

2. 閾値は格子ごとに動く

検算 2.1:文献値を並べる。

格子 種類 $p_c$
二次元 三角 サイト $\mathbf{1/2}$(厳密)
二次元 正方 ボンド $\mathbf{1/2}$(厳密)
二次元 正方 サイト $0.592746$
二次元 蜂の巣 サイト $0.6970$
三次元 単純立方 ボンド $\mathbf{0.2488}$
三次元 単純立方 サイト $0.3116$

観察 2.2 最小 $0.2488$、最大 $0.6970$、比は $\mathbf{2.8014}$ 倍である。同じ「パーコレーション」という現象なのに、始まる濃度が三倍近く違う。

観察 2.3 二次元の中だけで見ても $1/2$ から $0.6970$ まで動く。次元を変えなくても動く。閾値は格子の細部を見ている。

観察 2.4 正直に書くべき点、$0.592746$ や $0.3116$ は数値計算による値であり、厳密値が知られているのは $1/2$ の二行だけである。本稿はこれらを引用しており、自分で求めてはいない。

3. 芯:指数は格子を見ていない

設定:閾値の近くでは、無限クラスターに属する確率が $P_\infty\sim(p-p_c)^\beta$、相関長が $\xi\sim|p-p_c|^{-\nu}$ で振る舞う。この $\beta$ と $\nu$ を臨界指数という。

検算 3.1:同じ二次元の三つの格子で並べる。

格子 $p_c$ $\beta$ $\nu$
三角 サイト $0.5$ $\mathbf{0.138889}$ $\mathbf{1.333333}$
正方 サイト $0.592746$ $\mathbf{0.138889}$ $\mathbf{1.333333}$
蜂の巣 サイト $0.6970$ $\mathbf{0.138889}$ $\mathbf{1.333333}$

観察 3.2 左から二列目は $0.5$ から $0.6970$ まで $\mathbf{1.394}$ 倍動いている。右の二列は一桁も動いていない。$\beta=5/36$、$\nu=4/3$ で、三つとも同じ分数である。

検算 3.3:次元を変える。

次元 $d$ $\beta$ $\nu$
$2$ $5/36=0.138889$ $4/3=1.333333$
$3$ $\approx0.4181$ $\approx0.8751$
$6$ 以上 $1$ $1/2$

観察 3.4 格子を変えても動かなかった数が、次元を変えると動く。$\beta$ は $0.138889$ から $0.4181$ へ $\mathbf{3.01}$ 倍になる。閾値とは見ているものが違う。

観察 3.5 分離子、何を動かすとどちらが動くか。格子を動かすと閾値だけが動き、次元を動かすと指数だけが動く。二つの旋回軸が直交している。

4. 二つの数の役目が違う

検算 4.1:二つを役目で分ける。

量 何を決めるか 格子で動くか 次元で動くか
閾値 $p_c$ どこで起きるか 動く($2.8014$ 倍) 動く
指数 $\beta,\nu$ どう起きるか 動かない 動く

観察 4.2 閾値は「いつ始まるか」を、指数は「始まったあとどう立ち上がるか」を決めている。同じ現象の中に、細部を見ている量と、見ていない量が同居している。

観察 4.3 実務への含意、閾値を知りたければ格子を正確に指定せねばならず、指数を知りたければ次元だけ言えばよい。どちらを測っているのかで、必要な情報の量が違う。

5. 六次元より上では、指数も動くのをやめる

検算 5.1:次元を上げていく。

次元 $d$ $\beta$ 状態
$2$ $0.138889$ 次元ごとに違う
$3$ $\approx0.4181$ 次元ごとに違う
$6$ $1$ 上部臨界次元
$7$ $1$ もう動かない
$100$ $1$ もう動かない

観察 5.2 $d\ge6$ では平均場の値に固定される。閾値は依然として格子ごとに動くのに、指数は次元にも依らなくなる。普遍性の階段が、そこでもう一段上がる。

観察 5.3 三段になっている。閾値は格子ごと、指数は $d<6$ で次元ごと、$d\ge6$ で完全に一つ。同じ一つの現象の中に、細部への依存度が三段階ある。

6. 点呼と結び

  1. 閾値の一覧(検算2.1):$1/2$、$0.592746$、$0.6970$、$0.2488$、$0.3116$。
  2. 閾値は $2.8014$ 倍ひらく(観察2.2):$0.2488$ から $0.6970$。
  3. 二次元の中だけでも動く(観察2.3):$1/2$ から $0.6970$。
  4. 指数は三つの格子で完全一致(検算3.1):$0.138889$ と $1.333333$。
  5. 閾値は $1.394$ 倍動いている(観察3.2):同じ表の中で。
  6. 次元を変えると指数が動く(検算3.3):$\beta$ が $3.01$ 倍。
  7. 旋回軸が直交している(観察3.5):格子は閾値、次元は指数。
  8. 役目が違う(検算4.1):どこでと、どう。
  9. 六次元で止まる(検算5.1):$\beta=1$、$\nu=1/2$ に固定。
  10. 依存度は三段(観察5.3):格子ごと、次元ごと、完全に一つ。

結び:論文117 と120 が扱った普遍性は、現象まるごとの性質ではなかった。同じパーコレーションという現象の中に、境目が走っている。閾値は格子の持ち物で、単純立方ボンドの $0.2488$ から蜂の巣サイトの $0.6970$ まで $\mathbf{2.8014}$ 倍ひらく。一方、臨界指数は次元の持ち物で、三角でも正方でも蜂の巣でも $\beta=5/36$、$\nu=4/3$ から一桁も動かない。そして六次元より上では、指数は次元にも依らなくなる。細部への依存度が三段になっている。分けるものは一つ、どの量が、何の持ち物なのかを書き出すこと。書き出せば、格子を正確に指定すべき場面と、次元だけ言えばよい場面が分かれる。書き出さなければ、$0.2488$ と $0.6970$ を同じ数の測定誤差だと読んでしまう。

参考文献

  1. Broadbent, S. R. and Hammersley, J. M. (1957). Percolation Processes. Mathematical Proceedings of the Cambridge Philosophical Society, 53(3).
  2. Stauffer, D. and Aharony, A. (1994). Introduction to Percolation Theory, 2nd edition. London: Taylor and Francis.
  3. Grimmett, G. (1999). Percolation, 2nd edition. Berlin: Springer.
  4. Kesten, H. (1980). The Critical Probability of Bond Percolation on the Square Lattice Equals 1/2. Communications in Mathematical Physics, 74(1).
  5. den Nijs, M. P. M. (1979). A Relation between the Temperature Exponents of the Eight-Vertex and q-State Potts Model. Journal of Physics A, 12(10).
  6. Wang, J., Zhou, Z., Zhang, W., Garoni, T. M. and Deng, Y. (2013). Bond and Site Percolation in Three Dimensions. Physical Review E, 87(5).
  7. 山岸勇輝 (2026). 「次元」は一つではない [論文94]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758581
  8. 山岸勇輝 (2026). スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
  9. 山岸勇輝 (2026). 次元解析は、二通りに破れる [論文120]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22036433
  10. 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
  11. 山岸勇輝 (2026). 「完備」は四つの別の主張である [論文201]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22109052

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ現象の中に、格子で変わる数と変わらない数が同居している」[論文264]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22169720

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ現象の中に、格子で変わる数と変わらない数が同居している [論文264]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/264 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22169720

Yamagishi, Y. (2026). Inside One Phenomenon Live a Number That Moves with the Lattice and a Number That Does Not [Paper 264]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/264; DOI: 10.5281/zenodo.22169720

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