要旨
アインシュタイン($1907$)とデバイ($1912$)は、低温の比熱でまったく違う答を出す。本稿が問うのは、何が二人を分けたのかである。答は、量子化ではない。どちらも振動子を同じだけ量子化しており、違うのは状態密度 $g(\omega)$ だけである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、低温でどれだけ違うかを数える。$T/\theta=0.05$ でデバイは $\mathbf{9.740757\times10^{-3}}$、アインシュタインは $\mathbf{8.244615\times10^{-7}}$、比は $\mathbf{11814.7}$ 倍である(第3節)。
第二に、高温では区別がつかない。$T/\theta=1.00$ では $0.951732$ と $0.920674$ で、比は $\mathbf{1.0}$、低温でだけ別れる(第3節)。
第三に、これが本稿の芯である。ずれ方の形が違う。デバイは冪、アインシュタインは指数関数である。同じ測り方をアインシュタインに当てると「指数 $\mathbf{34.067}$」という無意味な値が出る(第4節)。
第四に、$T^3$ の $3$ は次元である。$d$ 次元で解いて低温の指数を測ると、$\mathbf{1.000137}$、$\mathbf{2.000000}$、$\mathbf{3.000000}$、$\mathbf{3.999998}$ と出る。指数がそのまま次元である(第5節)。
第五に、その次元は状態密度から来ている。$g(\omega)\propto\omega^{d-1}$ だから $C\propto T^d$ になる。量子化の式には $d$ が一度も現れない(第5節)。
第六に、その状態密度に $4\pi$ が座っている。$k$ 空間の球面から $g(\omega)\propto 4\pi k^2$ が出る。$4\pi=\mathbf{12.566371}$ は球の立体角そのものである(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。アインシュタイン模型、デバイ模型、低温での $T^3$ 則、状態密度の導出は、いずれも標準的である。固体物理を作らない。使うのは二つの積分と、対数比による指数の測定だけである。格子力学を扱わない。分散関係を線形とだけ置き、実際のフォノン分散も、光学枝も、非調和項も扱わない。どちらの模型が正しいとも言わない。デバイのほうが実測に近いという事実は引くが、どちらも近似であって、本稿はその優劣を主題にしない。電子比熱を扱わない。金属の低温比熱には $T$ に比例する電子の寄与があるが、本稿は格子の寄与だけを見る。デバイ温度の値を主張しない。すべて $T/\theta$ という比で書いており、特定の物質の $\theta$ を使っていない。数値は離散化されている。積分は台形則で刻み $40000$、比較は $T/\theta=0.02$ と $0.04$ の二点である。デバイ長と混同しない。既刊のデバイ $10$ 件はプラズマのデバイ長(論文22・52・54)であり、本稿の格子のデバイ模型とは別物である。同じ人名の別の仕事である。ブロッホ球・ブリルアンとも混同しない。既刊の「ブロッホ」$19$ 件は量子ビットのブロッホ球、「ブリルアン」は波動伝播と観測の代価であって、いずれも結晶の話ではない。既刊との関係:論文02 は逆二乗場に純粋立体角 $4\pi$ が現れることを示した。本稿の第6節は、同じ $4\pi$ が状態密度の中にも座っていることを書く。論文258 は $4\pi$ が出る条件を三つに書き出した。本節はその条件を満たす場所(球・三次元・等方)である。論文117 と120 は指数がどう決まるかを扱った。本稿は一つの指数の正体が空間の次元だった場合を数で出す。論文144 は指数を、何が保存しているかの署名として読んだ。本稿の署名は次元である。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿も指数を対数比で測る。加えたのは低温で二つの模型が $11814.7$ 倍ずれることを計算したこと、冪と指数関数の違いを「同じ測り方を当てると無意味な値が出る」という形で見せたこと、$d$ 次元で解いて指数が $1.000137$ から $3.999998$ まで次元に一致することを確かめたこと、その次元が状態密度から来ており、量子化の式には現れないと書いたことである。
1. 記法と位置づけ
設定:固体の格子比熱を、二つの模型で計算する。どちらも振動子のエネルギーを $\hbar\omega$ の整数倍に量子化する。そこは共通である。
| 模型 | 量子化するか | 状態密度 $g(\omega)$ |
|---|---|---|
| アインシュタイン($1907$) | する | すべて同じ $\omega$(デルタ関数) |
| デバイ($1912$) | する | 線形分散から $\propto\omega^{2}$ |
問い:では、二人を分けたのは何か。
答は、状態密度だけである。量子化は同じで、$g(\omega)$ の一行だけが違う。
注意:本稿の「デバイ」は格子のデバイ模型である。既刊に $10$ 件あるデバイはプラズマのデバイ長であり、同じ人名の別の仕事である。混同しない。
2. 高温では区別がつかない
設定:以下、比熱は $C/(3Nk)$ で書く。高温極限で $1$ に近づく形である(デュロン=プティ)。
検算 2.1:$T/\theta$ を下げていく。
| $T/\theta$ | デバイ | アインシュタイン | 比 |
|---|---|---|---|
| $1.00$ | $0.951732$ | $0.920674$ | $\mathbf{1.0}$ |
| $0.50$ | $0.825408$ | $0.724062$ | $1.1$ |
| $0.20$ | $0.368635$ | $0.170742$ | $2.2$ |
| $0.10$ | $7.582100\times10^{-2}$ | $4.540405\times10^{-3}$ | $16.7$ |
| $0.05$ | $\mathbf{9.740757\times10^{-3}}$ | $\mathbf{8.244615\times10^{-7}}$ | $\mathbf{11814.7}$ |
観察 2.2 高温では二つの模型が同じ答を出す。$T/\theta=1.00$ で $0.951732$ と $0.920674$、差は $3\%$ ほどである。ここで二人を区別することはできない。
観察 2.3 $T/\theta$ を $20$ 分の $1$ にすると、比が $1.0$ から $\mathbf{11814.7}$ まで開く。低温でだけ別れる。模型の差は温度によって見えたり見えなかったりする。
3. 芯:ずれ方の形が違う
設定:低温で二つがどう振る舞うかを、形で見る。デバイは冪 $T^3$、アインシュタインは指数関数 $\exp(-\theta/T)$ である。
検算 3.1:$T/\theta=0.02$ と $0.04$ の二点をとり、対数比で「指数」を測る。
| 模型 | $T/\theta=0.02$ | $T/\theta=0.04$ | 測った指数 |
|---|---|---|---|
| デバイ(三次元) | $2.078061\times10^{-4}$ | $1.662448\times10^{-3}$ | $\mathbf{3.000000}$ |
| アインシュタイン | $4.821875\times10^{-19}$ | $8.679965\times10^{-9}$ | $\mathbf{34.067}$ |
観察 3.2 デバイは $3.000000$ ときれいに出る。冪則だからである。アインシュタインは $34.067$ という意味のない値が出る。冪則ではないので、指数を測るという操作自体が当てはまらない。
観察 3.3 $34.067$ は測り方が間違っているという印である。別の二点をとれば別の値が出る。$\exp(-\theta/T)$ は $\exp(-50)=1.93\times10^{-22}$ から $\exp(-25)=1.39\times10^{-11}$ へ動いており、比が温度に依存する。
観察 3.4 分離子、何を動かすと別物になるか。状態密度が $\omega=0$ の近くに状態を持つかどうかである。デバイは持つので、いくら冷やしても励起できる低い振動が残り、冪で落ちる。アインシュタインは持たないので、$\hbar\omega$ より下では何も励起できず、指数関数で落ちる。
4. $T^3$ の $3$ は、空間の次元である
設定:デバイ模型を $d$ 次元で解く。線形分散のままで、状態密度だけが $g(\omega)\propto\omega^{d-1}$ に変わる。
検算 4.1:同じ二点で指数を測る。
| 次元 $d$ | $T/\theta=0.02$ | $T/\theta=0.04$ | 測った指数 |
|---|---|---|---|
| $1$ | $6.578486\times10^{-2}$ | $1.315822\times10^{-1}$ | $\mathbf{1.000137}$ |
| $2$ | $2.884937\times10^{-3}$ | $1.153975\times10^{-2}$ | $\mathbf{2.000000}$ |
| $3$ | $2.078061\times10^{-4}$ | $1.662448\times10^{-3}$ | $\mathbf{3.000000}$ |
| $4$ | $1.990901\times10^{-5}$ | $3.185438\times10^{-4}$ | $\mathbf{3.999998}$ |
観察 4.2 測った指数が、そのまま次元と一致する。$1.000137$、$2.000000$、$3.000000$、$3.999998$、$T^3$ の $3$ は空間の次元である。
観察 4.3 ここが本稿の一番の点である。量子化の式(プランク分布)には $d$ が一度も現れない。$d$ が入ってくるのは状態密度からだけである。だから「$T^3$ は量子効果だ」という言い方は、半分しか言っていない。
観察 4.4 正直に書くべき点、$d=1$ で $1.000137$ とわずかにずれるのは、$T/\theta=0.02$ がまだ十分低温でないためである。数値の限界であって、法則の破れではない。
5. その状態密度に、$4\pi$ が座っている
設定:三次元の $k$ 空間で、半径 $k$ 以内の状態数を数える。
$$N(<k)=V\cdot\frac{\frac{4}{3}\pi k^3}{(2\pi)^3},\qquad
g(\omega)\,d\omega=3V\cdot\frac{4\pi k^2\,dk}{(2\pi)^3}$$
検算 5.1:この式に立っている定数を読む。
| 定数 | 値 | 由来 |
|---|---|---|
| $4\pi$ | $\mathbf{12.566371}$ | 球の全立体角 |
| $\frac{4}{3}\pi$ | $4.188790$ | 球の体積 |
| $(2\pi)^3$ | $248.050213$ | 一状態あたりの $k$ 空間の体積 |
| $3$ | $3$ | 偏極の数(縦 $1$ +横 $2$) |
観察 5.2 $4\pi$ が状態密度の中に立っている。論文02 が逆二乗場で見た $4\pi$ と同じものである。どちらも球の全立体角であり、別根ではない。
観察 5.3 論文258 は $4\pi$ が出る条件を点源・三次元・等方の三つに書き出した。ここはその三つが揃っている。$k$ 空間の原点から等方に、三次元の球面を数えている。
観察 5.4 そして $d$ 次元では $4\pi$ が別の立体角に変わり、$k^2$ が $k^{d-1}$ に変わる。そこから $g(\omega)\propto\omega^{d-1}$、そして $C\propto T^d$ が出る。第4節で測った指数の出どころが、この一行である。
6. 点呼と結び
- どちらも量子化している(第1節):共通点は量子化のほう。
- 高温では同じ(検算2.1):$0.951732$ と $0.920674$、比 $1.0$。
- 低温で $11814.7$ 倍(検算2.1):$T/\theta=0.05$ で。
- 形が違う(検算3.1):デバイは冪、アインシュタインは指数関数。
- $34.067$ は無意味(観察3.2):冪則でないものに指数を測った印。
- 分離子は $\omega=0$ の近く(観察3.4):低い振動が残るかどうか。
- 指数は次元と一致(検算4.1):$1.000137$、$2.000000$、$3.000000$、$3.999998$。
- 量子化の式に $d$ は無い(観察4.3):$d$ は状態密度から入る。
- $4\pi$ が状態密度に座る(検算5.1):$12.566371$、球の全立体角。
- 論文02 と同根(観察5.2):別根ではない。
結び:アインシュタインとデバイを分けたのは、量子化ではなかった。二人とも同じだけ量子化しており、違うのは状態密度 $g(\omega)$ の一行だけである。その一行が、低温で $\mathbf{11814.7}$ 倍の差を作り、ずれ方の形まで変える。デバイは冪で落ち、アインシュタインは指数関数で落ちるので、同じ測り方を当てると $34.067$ という無意味な値が返る。そして $T^3$ の $3$ は、$d$ 次元で解いて測れば $1.000137$、$2.000000$、$3.000000$、$3.999998$ と出る。空間の次元そのものである。その次元は量子化の式には一度も現れず、状態密度からだけ入ってくる。そしてその状態密度には $4\pi=12.566371$ が座っており、論文02 が見た立体角と同じものである。分けるものは一つ、どの一行が違うのかを書き出すこと。書き出せば、量子化のせいにしてよい部分と、幾何のせいにすべき部分が分かれる。書き出さなければ、$T^3$ の $3$ を量子力学の手柄にしてしまう。
参考文献
- Einstein, A. (1907). Die Plancksche Theorie der Strahlung und die Theorie der spezifischen Waerme. Annalen der Physik, 327(1).
- Debye, P. (1912). Zur Theorie der spezifischen Waermen. Annalen der Physik, 344(14).
- Ashcroft, N. W. and Mermin, N. D. (1976). Solid State Physics. New York: Holt, Rinehart and Winston.
- Kittel, C. (2005). Introduction to Solid State Physics, 8th edition. New York: Wiley.
- Born, M. and Huang, K. (1954). Dynamical Theory of Crystal Lattices. Oxford: Clarendon Press.
- Landau, L. D. and Lifshitz, E. M. (1980). Statistical Physics, Part 1, 3rd edition. Oxford: Butterworth-Heinemann.
- 山岸勇輝 (2026). 4$\pi$質量相殺定理 [論文02]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21403931
- 山岸勇輝 (2026). スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
- 山岸勇輝 (2026). 次元解析は、二通りに破れる [論文120]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22036433
- 山岸勇輝 (2026). 指数は、何が保存しているかの署名である [論文144]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082585
- 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
- 山岸勇輝 (2026). $4\pi$ が出るのは、源が点のときだけである [論文258]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169011
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「低温比熱で二つの模型を分けたのは、量子化ではなく状態密度である」[論文265]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22169749
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/265・DOI 10.5281/zenodo.22169749・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 低温比熱で二つの模型を分けたのは、量子化ではなく状態密度である [論文265]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/265 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22169749
Yamagishi, Y. (2026). What Separated the Two Low-Temperature Models Is Not Quantisation but the Density of States [Paper 265]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/265; DOI: 10.5281/zenodo.22169749
@misc{yamagishi2026yoi265,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {What Separated the Two Low-Temperature Models Is Not Quantisation but the Density of States},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/265},
doi = {10.5281/zenodo.22169749},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
8072577ff0cc7173093590cbde45c63a65b0f856779b96efd7e96cc88c951e30 yamagishi_yoi265_v1_jp.pdfbefb2f2b30527058d7b43cb8fc99e5430182d3aab027747969c512b2ba10685a yamagishi_yoi265_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。