要旨
バスが平均 $10$ 分間隔で来るとする。あなたが乗るバスの前の間隔は、平均して何分か。本稿が問うのは、「平均間隔」が一つの量かである。答は、二つあるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、バス側の平均は $10$ 分である。ポアソン過程なら間隔は指数分布で、平均が $10$ 分になる(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。あなたが落ちる間隔の平均は $\mathbf{20}$ 分であり、ちょうど $2$ 倍である(第2節)。
第三に、待ち時間も $10$ 分である。直前のバスからの経過も $10$ 分で、$10+10=20$(第3節)。
第四に、離散の例で手で確かめられる。間隔 $5,5,5,5,20$ でバス側 $8.0$ 分、乗客側 $\mathbf{12.5}$ 分である(第4節)。
第五に、一般則は $1+CV^2$ である。等間隔なら $\mathbf{1}$、ポアソンなら $\mathbf{2}$(第5節)。
第六に、分離子は「誰を標本にしたか」である(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ポアソン過程、指数分布の無記憶性、検査パラドックス、長さバイアスは、いずれも標準的である。確率過程を作らない。使うのは一つの重み付き平均と、一つの変動係数だけである。待ち行列理論を作らない。混雑も、サービス時間も、複数路線も一切扱わない。実際のバスを論じない。現実の運行は等間隔に近く、ポアソンではない。$2$ 倍は「間隔が完全にランダムなら」の値である。ポアソンを仮定していることを隠さない。第2・3節は到着がポアソン過程であることに立つ。現実のばらつきは $CV<1$ のことが多く、そのぶん比は $2$ より小さい(第5節)。乗客の到着も一様と仮定する。時刻表を見て来る乗客には当てはまらない。でたらめな時刻に来る場合の話である。パラドックスと呼ぶが矛盾ではない。二つの平均は別の量であり、食い違って当然である。「パラドックス」は驚きの名であって、矛盾の名ではない。既刊との関係:論文220 は「独立」が四つあり、たがいに何も言わないと数えた。本稿は「平均」が二つあり、標本の取り方で分かれる場合である。論文194 は四つの平均が一つの族だと示した。あちらは同じ標本に対する四つの平均、本稿は同じ量に対する二つの標本の取り方であり、分かれる場所が違う。論文292 は足せるのは対数だけだと示した。本稿も素朴な平均が答を外す場合である。論文255 は「精度」が二つあり較正で消えるのは一方だけだと分けた。本稿の長さバイアスは標本の取り方に由来し、精度を上げても消えない。加えたのは乗客側の平均が $20$ 分でバス側の $2$ 倍だと計算したこと、離散の例で $8.0$ 対 $12.5$ と手で確かめたこと、一般則を $1+CV^2$ と書いたこと、分離子を「誰を標本にしたか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:バスがポアソン過程で到着する。到着率 $\lambda=1/10$(毎分)、すなわち平均間隔 $10$ 分である。
あなたは時刻表を見ずに、でたらめな時刻にバス停へ行く。
問い:あなたが乗るバスの、その前のバスからの間隔は、平均して何分か。
観察 1.1 素朴には $10$ 分と答えたくなる。バスの平均間隔が $10$ 分だからである。だが違う。
2. 芯:あなたが落ちる間隔の平均は $20$ 分である
観察 2.1 理由は長さバイアスである。長い間隔ほど、そこに落ちる確率が高い。$20$ 分の間隔は $5$ 分の間隔の$4$ 倍の時間を占めるので、$4$ 倍落ちやすい。
検算 2.2:間隔の分布を $f(x)$ とすると、あなたが落ちる間隔の分布は $x f(x)/E[x]$ である(長さで重み付け)。指数分布 $f(x)=\lambda e^{-\lambda x}$ なら、形状 $2$ のガンマ分布になる。
| 量 | 値 |
|---|---|
| バスの間隔の平均 $1/\lambda$ | $\mathbf{10.0000}$ 分 |
| あなたが落ちる間隔の平均 $2/\lambda$ | $\mathbf{20.0000}$ 分 |
| 比 | $\mathbf{2.0000}$ 倍 |
観察 2.3 これが本稿の芯である。バスの平均間隔は $10$ 分、あなたが乗るバスの間隔は $20$ 分、どちらも正しく、ちょうど $2$ 倍違う。
観察 2.4 矛盾ではない。標本の取り方が違う。バス側はバスを等しく数え、乗客側は時間を等しく数える。同じ列を、別の重みで見ている。
3. 待ち時間も $10$ 分で、合わせて $20$ 分になる
検算 3.1:
| 量 | 値 |
|---|---|
| あなたの待ち時間の平均 | $\mathbf{10.0000}$ 分 |
| 直前のバスからの経過時間の平均 | $\mathbf{10.0000}$ 分 |
| 合計(=落ちた間隔) | $\mathbf{20.0000}$ 分 |
観察 3.2 待ち時間が $10$ 分なのは無記憶性による。指数分布は「どれだけ待ったか」を覚えていないので、いつ来ても残り $10$ 分である。$5$ 分待った後でも、まだ平均 $10$ 分待つ。
観察 3.3 前後が対称であることに注意する。前に $10$ 分、後に $10$ 分、だから合わせて $20$ 分の間隔に落ちている。
観察 3.4 ここに気持ちの悪さの正体がある。「平均 $10$ 分間隔」と聞けば「平均 $5$ 分待つ」と思うのに、実際は $10$ 分待つ、待ち時間もまた $2$ 倍である。
観察 3.5 正直に書くべき点、これはポアソンを仮定した値である。現実のバスは等間隔に近く運行される。そのぶん比は $2$ より小さい(第5節)。
4. 離散の例で、手で確かめられる
設定:間隔が $5,5,5,5,20$ 分(合計 $40$ 分)の一日を考える。
検算 4.1:
| 計算 | 値 | |
|---|---|---|
| バス側の平均 | $40/5$ | $\mathbf{8.0000}$ 分 |
| 乗客側の平均 | $\sum g^2/\sum g=500/40$ | $\mathbf{12.5000}$ 分 |
| 比 | $\mathbf{1.5625}$ 倍 |
観察 4.2 $20$ 分の間隔は、全体 $40$ 分のうち$\mathbf{50\%}$ の時間を占める。ところがバスの本数では $5$ 本中 $1$ 本、すなわち $20\%$ にすぎない。時間で数えるか、本数で数えるかの差である。
観察 4.3 したがって乗客の半分は $20$ 分の間隔に落ちる。バスの側から見れば「ほとんどの便は $5$ 分間隔」なのに、乗る側から見れば「半分は $20$ 分待ちの回」である。
観察 4.4 この例は手で全部確かめられる。$500=5^2\times4+20^2=100+400$、$500/40=12.5$、確率論を使わずに、同じ現象が出る。
5. 一般則は $1+CV^2$ である
設定:間隔の平均を $\mu$、標準偏差を $\sigma$、変動係数を $CV=\sigma/\mu$ とすると、比は $1+CV^2$ である。
検算 5.1:
| 運行 | $CV$ | 比 $=1+CV^2$ |
|---|---|---|
| 等間隔($10,10,10,10,10$) | $0.0000$ | $\mathbf{1.0000}$ |
| 第4節の例($5,5,5,5,20$) | $0.7500$ | $\mathbf{1.5625}$ |
| ポアソン(指数分布) | $1.0000$ | $\mathbf{2.0000}$ |
観察 5.2 等間隔ならバイアスは無い(比 $1$)。すべての間隔が同じなら、どこに落ちても同じだからである。バイアスはばらつきから生まれる。
観察 5.3 そしてポアソンでちょうど $2$である。指数分布の $CV$ がちょうど $1$だからである。$1+1^2=2$。
観察 5.4 $CV$ が $1$ を超えれば$2$ を超える。バスが団子になって走るなら($CV>1$)、待ち時間はさらに悪化する。実際にバスが団子になるのは、遅れたバスほど客を多く拾うためであり、これは別の機構である。
観察 5.5 論文255 は「精度」が二つあり、較正で消えるのは一方だけだと分けた。ここでの長さバイアスは標本の取り方に由来する。時計を精密にしても、標本を増やしても消えない。
6. 分離子:誰を標本にしたか
観察 6.1 分離子、何を動かすと、$10$ 分と $20$ 分が入れ替わるか。何を等しく数えるかである。
| 何を等しく数えるか | 答 | |
|---|---|---|
| バス側の平均 | バスを $1$ 本ずつ | $10$ 分 |
| 乗客側の平均 | 時間を $1$ 分ずつ | $20$ 分 |
観察 6.2 二行とも正しい平均である。標本が違うだけである。「平均間隔は何分か」という問いが、二つの問いを覆っている。
観察 6.3 同じ構造は他にもある。
| 場面 | 対象側の平均 | 標本側の平均 |
|---|---|---|
| バス | バス $1$ 本ずつ | 時間で重み |
| 学級規模 | 学級 $1$ つずつ | 生徒で重み(大きい学級に多く居る) |
| 友人の数 | 人 $1$ 人ずつ | 辺で重み(友達が多い人ほど友人に選ばれる) |
観察 6.4 三行とも同じ長さバイアスである。「あなたの友人は、平均してあなたより友人が多い」という命題もここから出る。一つの機構が、三つの現象を覆っている。
観察 6.5 論文220 は「独立」が四つあり、たがいに何も言わないと数えた。本稿の二つの平均もたがいに何も言わない。片方を知っても、他方は $CV$ を知らねば出ない。
観察 6.6 正直に書くべき点、これは矛盾ではない。「パラドックス」という名は驚きに付いた名であって、矛盾に付いた名ではない。二つの平均は別の量であり、食い違って当然である。
7. 点呼と結び
- バス側の平均は $10.0000$ 分(検算2.2):ポアソン過程。
- 乗客側の平均は $20.0000$ 分(検算2.2):ちょうど $2$ 倍。
- 待ち時間も $10.0000$ 分(検算3.1):無記憶性による。
- 前後が対称(観察3.3):$10+10=20$。
- 離散例でバス側 $8.0000$ 分(検算4.1):乗客側 $12.5000$ 分。
- $20$ 分は時間の $50\%$(観察4.2):本数では $20\%$。
- 等間隔なら比 $1.0000$(検算5.1):バイアスはばらつきから。
- ポアソンで $CV=1$(観察5.3):$1+1^2=2$。
- 学級規模・友人の数も同じ(観察6.3):一つの機構。
- 矛盾ではない(観察6.6):別の量である。
結び:バスが平均 $10$ 分間隔で来るとき、あなたが乗るバスの間隔は平均 $\mathbf{20}$ 分である。ちょうど $2$ 倍であり、どちらも正しい。バス側はバスを等しく数え、乗客側は時間を等しく数えるからである。待ち時間も同じ理屈で $10$ 分になる。無記憶性により、前に $10$ 分、後に $10$ 分で、合わせて $20$ 分の間隔に落ちている。離散の例なら手で確かめられる。間隔 $5,5,5,5,20$ で、バス側 $\mathbf{8.0}$ 分に対し乗客側 $\mathbf{12.5}$ 分。$20$ 分の間隔は本数では $20\%$ にすぎないのに、時間では $\mathbf{50\%}$ を占める。一般則は $\mathbf{1+CV^2}$ である。等間隔なら $\mathbf{1}$(バイアス無し)、ポアソンなら $CV=1$ でちょうど $\mathbf{2}$。バイアスはばらつきから生まれる。分けるものは一つ、何を等しく数えたか。同じ機構が、学級規模にも、友人の数にも効いている。「あなたの友人は、平均してあなたより友人が多い」も、ここから出る。
参考文献
- Feller, W. (1971). An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Volume II. New York: Wiley.
- Cox, D. R. (1962). Renewal Theory. London: Methuen.
- Ross, S. M. (1996). Stochastic Processes. New York: Wiley.
- Feld, S. L. (1991). Why Your Friends Have More Friends Than You Do. American Journal of Sociology, 96(6).
- Hemenway, D. (1982). Why Your Classes Are Larger Than “Average”. Mathematics Magazine, 55(3).
- 山岸勇輝 (2026). 四つの平均は一つの族であり、等号の柵は一つしかない [論文194]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106809
- 山岸勇輝 (2026). 「独立」は四つあり、たがいに何も言わない [論文220]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119838
- 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883
- 山岸勇輝 (2026). 足せるのは対数だけである [論文292]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171519
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「あなたが乗るバスの間隔は、平均の 2 倍である」[論文308]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22172305
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). あなたが乗るバスの間隔は、平均の 2 倍である [論文308]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/308 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22172305
Yamagishi, Y. (2026). The Gap between the Buses You Board Is Twice the Average [Paper 308]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/308; DOI: 10.5281/zenodo.22172305
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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