要旨
「森の半分を失えば、種の半分を失う」と語られる。本稿が問うのはその比例が成り立つかである。答えは成り立たず、ずれは指数が全部決めている。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、種数面積関係は $S=cA^{z}$ であり、島嶼では $z=0.25$ 前後とされる(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。面積を半分にすると、種は $\mathbf{0.840896}$ 残る(第2節)。
第三に、面積を $10$ 分の $1$ にしても $\mathbf{0.562341}$ 残る(第2節)。
第四に、逆に、種を半分にするには面積を $\mathbf{0.0625}$($6.25$ パーセント)まで減らす必要がある(第3節)。
第五に、$z$ を $0.15$ と $0.35$ に変えると、半分の面積で残る種が $0.9013$ と $0.7846$ に分かれる(第4節)。
第六に、分離子は指数 $z$ であって、面積でも分類群でもない(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。種数面積関係・アレニウスの冪則・島嶼生物地理はすべて既知である。生態学を作らない。島嶼生物地理の平衡理論や、絶滅の負債(extinction debt)には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。実データを扱わない。特定の地域の種数は用いない。$z=0.25$ は明示した仮定である。保全政策を論じない。どれだけ保護すべきかという規範的な判断はしない。式の帰結だけを出す。時間を扱わない。面積が減ってから新しい平衡に達するまでの時間は主題ではない。平衡の値だけを比べる。分類群を分けない。$z$ が分類群や地理でどう変わるかは主題ではない。既刊との関係:論文354 は長さが曲線を測る量でなくなることを示した。そこでも指数が結論を支配した。論文345 は同じ対数が比と個数を数えていたことを示した。そこでも「何を数えているか」が問題だった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。面積の損失と種の損失は、その基準で別根である。論文358 は約束が数を決めることを示した。ここでは $z$ が観測から来るのか仮定から来るのかが問題になる。加えたのは、四つの面積比で残る種を数に出したこと、種を半分にする面積 $0.0625$ を逆算したこと、その値を戻すと厳密に $0.5$ になることを確かめたこと、$z$ を動かすと結論が大きく変わることを示したこと、分離子を $z$ に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:種数 $S$ と面積 $A$ を冪則で結ぶ。
$$S=cA^{z},\qquad
\frac{S_{\text{後}}}{S_{\text{前}}}=\left(\frac{A_{\text{後}}}{A_{\text{前}}}\right)^{z},\qquad z=0.25$$
観察 1.1 $z=1$ なら比例する。面積が半分なら種も半分、直観はこの場合を想定している。
観察 1.2 だが実測される $z$ は $1$ よりずっと小さい。島嶼で $0.25$ 前後、そのぶん、比例からずれる。
観察 1.3 ずれの向きは一つである。$z<1$ なら、種の減りは面積の減りより緩い。本稿はその大きさを数で出す。
問い:面積を半分にすると、種はどれだけ残るか。
2. 半分にしても $0.840896$ 残る
計算 2.1:残す面積の割合に対する、残る種の割合(本稿で計算・$z=0.25$)。
| 残す面積 | 残る種 | 失う種 | 面積比 / 種数比 |
|---|---|---|---|
| $0.90$ | $0.974004$ | $0.025996$ | $0.9240$ |
| $\mathbf{0.50}$ | $\mathbf{0.840896}$ | $0.159104$ | $0.5946$ |
| $\mathbf{0.10}$ | $\mathbf{0.562341}$ | $0.437659$ | $0.1778$ |
| $0.01$ | $0.316228$ | $0.683772$ | $0.0316$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。面積を半分にしても、種は $\mathbf{0.840896}$ 残る。失うのは $15.9104$ パーセントであって、$50$ パーセントではない。
観察 2.3 $10$ 分の $1$ にしてもまだ半分以上残る。$0.562341$、面積を $90$ パーセント失って、種は $43.7659$ パーセントしか失わない。
観察 2.4 右端の列が、ずれの大きさを示す。面積比が $0.10$ のとき種数比は $0.562341$ で、その比は $0.1778$、残る種の割合は、残る面積の割合の $5.6234$ 倍である。
観察 2.5 $1$ パーセントまで減らしてなお $0.316228$ 残る。$100$ 分の $1$ の面積で三分の一の種、冪則の指数が小さいことの帰結である。
3. 種を半分にするには $6.25$ パーセント
計算 3.1:逆に「種が半分になる面積」を解く(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 種が半分になる面積の割合 | $\mathbf{0.062500}$($6.25$ パーセント) |
| その値を戻したときの種の割合 | $0.500000000000$ |
| 閉じた式 | $0.5^{1/z}=0.5^{4}$ |
観察 3.2 $0.0625$ は $0.5^{4}$ である。$z=0.25$ だから $1/z=4$、切りのよい数が出るのは偶然ではなく、指数の逆数が整数だからである。
観察 3.3 式が閉じている。$0.0625^{0.25}=0.500000000000$、計算の誤りではない。
観察 3.4 つまり非対称である。面積を半分にしても種は $16$ パーセントしか減らないが、種を半分にするには面積を $94$ パーセント削る。同じ「半分」でも、どちらの量の半分かで話が全く違う。
観察 3.5 この非対称が、二通りの読み方を生む。「半分失っても種は $84$ パーセント残る」とも「$94$ パーセント削らないと半減しない」とも言える。同じ一つの式である。
4. 結論を支配しているのは $z$ である
計算 4.1:$z$ を変えたときの、面積半分での残存率(本稿で計算)。
| $z$ | 面積半分で残る種 | 種を半分にする面積 |
|---|---|---|
| $0.15$ | $\mathbf{0.901250}$ | $0.009843$ |
| $0.25$ | $0.840896$ | $0.062500$ |
| $0.35$ | $\mathbf{0.784584}$ | $0.138011$ |
| $1.00$ | $0.500000$ | $0.500000$ |
観察 4.2 $z$ を $0.15$ と $0.35$ に振ると、残存率が $0.9013$ と $0.7846$ に分かれる。差は $0.1167$、「面積半分で何割残るか」の答が、$z$ の見積りだけで一割以上動く。
観察 4.3 種を半分にする面積のほうは、もっと大きく動く。$0.009843$ と $0.138011$、$14.02$ 倍、残存率の差 $0.1167$ に対して、逆問題のほうがはるかに $z$ に敏感である。
観察 4.4 $z=1$ なら比例が戻る。面積半分で種も半分、式が効いていることの確認になる。
観察 4.5 正直に言えば、$z$ は測るものであって、選ぶものではない。だが分類群・地域・面積の範囲で変わる。本稿は $z$ の推定法を扱っておらず、$0.25$ を仮定として置いただけである。
5. 分離子:指数 $z$
観察 5.1 分離子、指数 $z$ であって、面積でも分類群でもない。
| $z$ | 面積半分で | 逆に半分にするには | 比例するか |
|---|---|---|---|
| $\mathbf{0.15}$ | $90.1$ パーセント残る | $0.98$ パーセントまで | しない |
| $\mathbf{0.25}$ | $84.1$ パーセント残る | $6.25$ パーセントまで | しない |
| $\mathbf{1.00}$ | $50.0$ パーセント残る | $50$ パーセントまで | する |
観察 5.2 一つの数が三行を分けている。面積も分類群も同じ、$z$ だけで、答が $90.1$ から $50.0$ まで動く。
観察 5.3 論文354 と同じ形である。論文354 では長さの伸びの指数が次元を決めた。ここでは面積の指数が種数を決める。どちらも、一つの指数が全部を支配している。
観察 5.4 分離子は動かせない。$z$ は生態系の性質であって、設計できる量ではない。測るしかない。だからこそ、$z$ を仮定した議論には出所を明記する必要がある。
観察 5.5 正直に言えば、$0.840896$ も $0.0625$ も、$z=0.25$ という明示した仮定の上での値である。別の $z$ なら別の数が出る。動かないのは、$z<1$ なら種の減りが面積の減りより緩いという向きだけである。
観察 5.6 最後に一つ、同じ式から、正反対の印象を与える二つの文が作れる。「半分失っても $84$ パーセント残る」と「半減させるには $94$ パーセント削る必要がある」。どちらも正しい。どちらを言うかを選んだ人は、式ではなく強調を選んでいる。
6. 点呼と結び
- $S=cA^{z}$、$z=0.25$(第1節):島嶼の目安。
- 面積半分で $0.840896$ 残る(計算 2.1):失うのは $15.9104$ パーセント。
- $10$ 分の $1$ で $0.562341$ 残る(計算 2.1):まだ半分以上。
- $1$ パーセントで $0.316228$(計算 2.1):三分の一が残る。
- 種を半分にするには $0.0625$(計算 3.1):$0.5^{4}$。
- 戻すと $0.500000000000$(観察 3.3):式が閉じている。
- $z=0.15$ で $0.901250$(計算 4.1):$z=0.35$ なら $0.784584$。
- 逆問題は $14.02$ 倍動く(観察 4.3):$z$ に敏感。
- $z=1$ なら比例が戻る(観察 4.4):式が効いている。
- $z$ は測るもの(観察 5.4):設計できない。
結び:「森の半分を失えば、種の半分を失う」と語られる。その比例は、指数が $1$ のときにだけ成り立つ。だが実測される指数は $1$ よりずっと小さい。種数面積関係 $S=cA^{z}$ の $z$ は島嶼で $0.25$ 前後とされ、そのぶん比例からずれる。$z<1$ なら、種の減りは面積の減りより緩い。面積を半分にしても、種は $\mathbf{0.840896}$ 残る。失うのは $15.9104$ パーセントであって $50$ ではない。$10$ 分の $1$ にしてもまだ $\mathbf{0.562341}$ 残り、面積を $90$ パーセント失って種は $43.7659$ パーセントしか失わない。$1$ パーセントまで減らしてなお $0.316228$ 残る。逆向きに問うと、話が反転する。「種が半分になる面積」を解くと $\mathbf{0.0625}$、すなわち $6.25$ パーセントまで減らす必要がある($z=0.25$ なので $0.5^{4}$、戻すと $0.500000000000$)。面積を半分にしても種は $16$ パーセントしか減らないが、種を半分にするには面積を $94$ パーセント削る。同じ「半分」でも、どちらの量の半分かで話が全く違う。そして結論を支配しているのは $z$ である。$z$ を $0.15$ と $0.35$ に振ると面積半分での残存率は $\mathbf{0.901250}$ と $\mathbf{0.784584}$ に分かれ、種を半分にする面積のほうは $0.009843$ と $0.138011$、$14.02$ 倍も動く。逆問題のほうが $z$ にはるかに敏感である。$z=1$ にすれば比例が戻り、式が効いていることが確かめられる。分けているものは一つ、指数 $z$ であって、面積でも分類群でもない。面積も分類群も同じまま、$z$ だけで答が $90.1$ から $50.0$ パーセントまで動く。論文354 で長さの伸びの指数が次元を決めたのと同じ形である。ただし $z$ は測るものであって設計できないので、$z$ を仮定した議論には出所を明記する必要がある。正直に言えば、$0.840896$ も $0.0625$ も $z=0.25$ という明示した仮定の上での値であり、本稿は $z$ の推定法を扱っていない。動かないのは、$z<1$ なら種の減りが面積の減りより緩いという向きだけである。最後に一つ、同じ式から、正反対の印象を与える二つの文が作れる。「半分失っても $84$ パーセント残る」と「半減させるには $94$ パーセント削る必要がある」。どちらも正しい。どちらを言うかを選んだ人は、式ではなく強調を選んでいる。
参考文献
- Arrhenius, O. (1921). Species and Area. Journal of Ecology.
- Preston, F. W. (1962). The Canonical Distribution of Commonness and Rarity. Ecology.
- MacArthur, R. H., Wilson, E. O. (1967). The Theory of Island Biogeography. Princeton: Princeton University Press.
- Rosenzweig, M. L. (1995). Species Diversity in Space and Time. Cambridge: Cambridge University Press.
- He, F., Hubbell, S. P. (2011). Species-area relationships always overestimate extinction rates from habitat loss. Nature.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ $\log_2$ が、片方では比を、もう片方では個数を数えている』[論文345]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682287
- 山岸勇輝 (2026). 『長さは、曲線を測る量ではなくなることがある』[論文354]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22696977
- 山岸勇輝 (2026). 『被写界深度の「深さ」は、測定値ではなく約束である』[論文358]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697216
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「面積を半分にしても、種は半分にならない」[論文372]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22698241
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 面積を半分にしても、種は半分にならない:そして種を半分にするには面積を 6.25 パーセントにする [論文372]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/372 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22698241
Yamagishi, Y. (2026). Halving the Area Does Not Halve the Species — And Halving the Species Takes Cutting the Area to 6.25 Per Cent [Paper 372]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/372; DOI: 10.5281/zenodo.22698241
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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