【論文372】面積を半分にしても、種は半分にならない

要旨

「森の半分を失えば、種の半分を失う」と語られる。本稿が問うのはその比例が成り立つかである。答えは成り立たず、ずれは指数が全部決めている。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、種数面積関係は $S=cA^{z}$ であり、島嶼では $z=0.25$ 前後とされる(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。面積を半分にすると、種は $\mathbf{0.840896}$ 残る(第2節)。

第三に、面積を $10$ 分の $1$ にしても $\mathbf{0.562341}$ 残る(第2節)。

第四に、逆に、種を半分にするには面積を $\mathbf{0.0625}$($6.25$ パーセント)まで減らす必要がある(第3節)。

第五に、$z$ を $0.15$ と $0.35$ に変えると、半分の面積で残る種が $0.9013$ と $0.7846$ に分かれる(第4節)。

第六に、分離子は指数 $z$ であって、面積でも分類群でもない(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。種数面積関係・アレニウスの冪則・島嶼生物地理はすべて既知である。生態学を作らない。島嶼生物地理の平衡理論や、絶滅の負債(extinction debt)には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。実データを扱わない。特定の地域の種数は用いない。$z=0.25$ は明示した仮定である。保全政策を論じない。どれだけ保護すべきかという規範的な判断はしない。式の帰結だけを出す。時間を扱わない。面積が減ってから新しい平衡に達するまでの時間は主題ではない。平衡の値だけを比べる。分類群を分けない。$z$ が分類群や地理でどう変わるかは主題ではない。既刊との関係:論文354 は長さが曲線を測る量でなくなることを示した。そこでも指数が結論を支配した。論文345 は同じ対数が比と個数を数えていたことを示した。そこでも「何を数えているか」が問題だった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。面積の損失と種の損失は、その基準で別根である。論文358 は約束が数を決めることを示した。ここでは $z$ が観測から来るのか仮定から来るのかが問題になる。加えたのは、四つの面積比で残る種を数に出したこと、種を半分にする面積 $0.0625$ を逆算したこと、その値を戻すと厳密に $0.5$ になることを確かめたこと、$z$ を動かすと結論が大きく変わることを示したこと、分離子を $z$ に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:種数 $S$ と面積 $A$ を冪則で結ぶ。

$$S=cA^{z},\qquad
\frac{S_{\text{後}}}{S_{\text{前}}}=\left(\frac{A_{\text{後}}}{A_{\text{前}}}\right)^{z},\qquad z=0.25$$

観察 1.1 $z=1$ なら比例する。面積が半分なら種も半分、直観はこの場合を想定している。

観察 1.2 だが実測される $z$ は $1$ よりずっと小さい。島嶼で $0.25$ 前後、そのぶん、比例からずれる。

観察 1.3 ずれの向きは一つである。$z<1$ なら、種の減りは面積の減りより緩い。本稿はその大きさを数で出す。

問い:面積を半分にすると、種はどれだけ残るか。

2. 半分にしても $0.840896$ 残る

計算 2.1:残す面積の割合に対する、残る種の割合(本稿で計算・$z=0.25$)。

残す面積 残る種 失う種 面積比 / 種数比
$0.90$ $0.974004$ $0.025996$ $0.9240$
$\mathbf{0.50}$ $\mathbf{0.840896}$ $0.159104$ $0.5946$
$\mathbf{0.10}$ $\mathbf{0.562341}$ $0.437659$ $0.1778$
$0.01$ $0.316228$ $0.683772$ $0.0316$

観察 2.2 これが本稿の芯である。面積を半分にしても、種は $\mathbf{0.840896}$ 残る。失うのは $15.9104$ パーセントであって、$50$ パーセントではない。

観察 2.3 $10$ 分の $1$ にしてもまだ半分以上残る。$0.562341$、面積を $90$ パーセント失って、種は $43.7659$ パーセントしか失わない。

観察 2.4 右端の列が、ずれの大きさを示す。面積比が $0.10$ のとき種数比は $0.562341$ で、その比は $0.1778$、残る種の割合は、残る面積の割合の $5.6234$ 倍である。

観察 2.5 $1$ パーセントまで減らしてなお $0.316228$ 残る。$100$ 分の $1$ の面積で三分の一の種、冪則の指数が小さいことの帰結である。

3. 種を半分にするには $6.25$ パーセント

計算 3.1:逆に「種が半分になる面積」を解く(本稿で計算)。

量 値
種が半分になる面積の割合 $\mathbf{0.062500}$($6.25$ パーセント)
その値を戻したときの種の割合 $0.500000000000$
閉じた式 $0.5^{1/z}=0.5^{4}$

観察 3.2 $0.0625$ は $0.5^{4}$ である。$z=0.25$ だから $1/z=4$、切りのよい数が出るのは偶然ではなく、指数の逆数が整数だからである。

観察 3.3 式が閉じている。$0.0625^{0.25}=0.500000000000$、計算の誤りではない。

観察 3.4 つまり非対称である。面積を半分にしても種は $16$ パーセントしか減らないが、種を半分にするには面積を $94$ パーセント削る。同じ「半分」でも、どちらの量の半分かで話が全く違う。

観察 3.5 この非対称が、二通りの読み方を生む。「半分失っても種は $84$ パーセント残る」とも「$94$ パーセント削らないと半減しない」とも言える。同じ一つの式である。

4. 結論を支配しているのは $z$ である

計算 4.1:$z$ を変えたときの、面積半分での残存率(本稿で計算)。

$z$ 面積半分で残る種 種を半分にする面積
$0.15$ $\mathbf{0.901250}$ $0.009843$
$0.25$ $0.840896$ $0.062500$
$0.35$ $\mathbf{0.784584}$ $0.138011$
$1.00$ $0.500000$ $0.500000$

観察 4.2 $z$ を $0.15$ と $0.35$ に振ると、残存率が $0.9013$ と $0.7846$ に分かれる。差は $0.1167$、「面積半分で何割残るか」の答が、$z$ の見積りだけで一割以上動く。

観察 4.3 種を半分にする面積のほうは、もっと大きく動く。$0.009843$ と $0.138011$、$14.02$ 倍、残存率の差 $0.1167$ に対して、逆問題のほうがはるかに $z$ に敏感である。

観察 4.4 $z=1$ なら比例が戻る。面積半分で種も半分、式が効いていることの確認になる。

観察 4.5 正直に言えば、$z$ は測るものであって、選ぶものではない。だが分類群・地域・面積の範囲で変わる。本稿は $z$ の推定法を扱っておらず、$0.25$ を仮定として置いただけである。

5. 分離子:指数 $z$

観察 5.1 分離子、指数 $z$ であって、面積でも分類群でもない。

$z$ 面積半分で 逆に半分にするには 比例するか
$\mathbf{0.15}$ $90.1$ パーセント残る $0.98$ パーセントまで しない
$\mathbf{0.25}$ $84.1$ パーセント残る $6.25$ パーセントまで しない
$\mathbf{1.00}$ $50.0$ パーセント残る $50$ パーセントまで する

観察 5.2 一つの数が三行を分けている。面積も分類群も同じ、$z$ だけで、答が $90.1$ から $50.0$ まで動く。

観察 5.3 論文354 と同じ形である。論文354 では長さの伸びの指数が次元を決めた。ここでは面積の指数が種数を決める。どちらも、一つの指数が全部を支配している。

観察 5.4 分離子は動かせない。$z$ は生態系の性質であって、設計できる量ではない。測るしかない。だからこそ、$z$ を仮定した議論には出所を明記する必要がある。

観察 5.5 正直に言えば、$0.840896$ も $0.0625$ も、$z=0.25$ という明示した仮定の上での値である。別の $z$ なら別の数が出る。動かないのは、$z<1$ なら種の減りが面積の減りより緩いという向きだけである。

観察 5.6 最後に一つ、同じ式から、正反対の印象を与える二つの文が作れる。「半分失っても $84$ パーセント残る」と「半減させるには $94$ パーセント削る必要がある」。どちらも正しい。どちらを言うかを選んだ人は、式ではなく強調を選んでいる。

6. 点呼と結び

  1. $S=cA^{z}$、$z=0.25$(第1節):島嶼の目安。
  2. 面積半分で $0.840896$ 残る(計算 2.1):失うのは $15.9104$ パーセント。
  3. $10$ 分の $1$ で $0.562341$ 残る(計算 2.1):まだ半分以上。
  4. $1$ パーセントで $0.316228$(計算 2.1):三分の一が残る。
  5. 種を半分にするには $0.0625$(計算 3.1):$0.5^{4}$。
  6. 戻すと $0.500000000000$(観察 3.3):式が閉じている。
  7. $z=0.15$ で $0.901250$(計算 4.1):$z=0.35$ なら $0.784584$。
  8. 逆問題は $14.02$ 倍動く(観察 4.3):$z$ に敏感。
  9. $z=1$ なら比例が戻る(観察 4.4):式が効いている。
  10. $z$ は測るもの(観察 5.4):設計できない。

結び:「森の半分を失えば、種の半分を失う」と語られる。その比例は、指数が $1$ のときにだけ成り立つ。だが実測される指数は $1$ よりずっと小さい。種数面積関係 $S=cA^{z}$ の $z$ は島嶼で $0.25$ 前後とされ、そのぶん比例からずれる。$z<1$ なら、種の減りは面積の減りより緩い。面積を半分にしても、種は $\mathbf{0.840896}$ 残る。失うのは $15.9104$ パーセントであって $50$ ではない。$10$ 分の $1$ にしてもまだ $\mathbf{0.562341}$ 残り、面積を $90$ パーセント失って種は $43.7659$ パーセントしか失わない。$1$ パーセントまで減らしてなお $0.316228$ 残る。逆向きに問うと、話が反転する。「種が半分になる面積」を解くと $\mathbf{0.0625}$、すなわち $6.25$ パーセントまで減らす必要がある($z=0.25$ なので $0.5^{4}$、戻すと $0.500000000000$)。面積を半分にしても種は $16$ パーセントしか減らないが、種を半分にするには面積を $94$ パーセント削る。同じ「半分」でも、どちらの量の半分かで話が全く違う。そして結論を支配しているのは $z$ である。$z$ を $0.15$ と $0.35$ に振ると面積半分での残存率は $\mathbf{0.901250}$ と $\mathbf{0.784584}$ に分かれ、種を半分にする面積のほうは $0.009843$ と $0.138011$、$14.02$ 倍も動く。逆問題のほうが $z$ にはるかに敏感である。$z=1$ にすれば比例が戻り、式が効いていることが確かめられる。分けているものは一つ、指数 $z$ であって、面積でも分類群でもない。面積も分類群も同じまま、$z$ だけで答が $90.1$ から $50.0$ パーセントまで動く。論文354 で長さの伸びの指数が次元を決めたのと同じ形である。ただし $z$ は測るものであって設計できないので、$z$ を仮定した議論には出所を明記する必要がある。正直に言えば、$0.840896$ も $0.0625$ も $z=0.25$ という明示した仮定の上での値であり、本稿は $z$ の推定法を扱っていない。動かないのは、$z<1$ なら種の減りが面積の減りより緩いという向きだけである。最後に一つ、同じ式から、正反対の印象を与える二つの文が作れる。「半分失っても $84$ パーセント残る」と「半減させるには $94$ パーセント削る必要がある」。どちらも正しい。どちらを言うかを選んだ人は、式ではなく強調を選んでいる。

参考文献

  1. Arrhenius, O. (1921). Species and Area. Journal of Ecology.
  2. Preston, F. W. (1962). The Canonical Distribution of Commonness and Rarity. Ecology.
  3. MacArthur, R. H., Wilson, E. O. (1967). The Theory of Island Biogeography. Princeton: Princeton University Press.
  4. Rosenzweig, M. L. (1995). Species Diversity in Space and Time. Cambridge: Cambridge University Press.
  5. He, F., Hubbell, S. P. (2011). Species-area relationships always overestimate extinction rates from habitat loss. Nature.
  6. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『同じ $\log_2$ が、片方では比を、もう片方では個数を数えている』[論文345]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682287
  8. 山岸勇輝 (2026). 『長さは、曲線を測る量ではなくなることがある』[論文354]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22696977
  9. 山岸勇輝 (2026). 『被写界深度の「深さ」は、測定値ではなく約束である』[論文358]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697216

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「面積を半分にしても、種は半分にならない」[論文372]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22698241

YOI 372第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 面積を半分にしても、種は半分にならない:そして種を半分にするには面積を 6.25 パーセントにする [論文372]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/372 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22698241

Yamagishi, Y. (2026). Halving the Area Does Not Halve the Species — And Halving the Species Takes Cutting the Area to 6.25 Per Cent [Paper 372]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/372; DOI: 10.5281/zenodo.22698241

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  author = {Yamagishi, Yuuki},
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