要旨
並べ替えの手順は人によって違う。本稿は、違っても一つだけ変わらないものがあることを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、同じ置換を作る手順は一通りではない。四つの巡回は長さ $3$ で $16$ 通り、長さ $5$ で $640$ 通りの分け方を持つ(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。長さすら一通りではない。$3$ でも $5$ でも作れ、長いほうが $40$ 倍も多い(第2節)。
第三に、それでも偶奇は一つに決まる。偶数の長さでは一通りも作れない($0$ 通り)(第2節)。
第四に、その偶奇は別の二つの数え方とも一致する。$n=4$ の置換 $24$ 個すべてで、転倒数の偶奇と、$n$ から巡回の数を引いた値の偶奇が食い違わなかった($0$ 件)(第3節)。
第五に、偶置換はちょうど半分である。$24$ 個のうち $12$ 個で、割合 $0.500000$ である(第3節)。
第六に、この一意性があるから行列式が書ける。符号つきの和 $49.500000000$ と掃き出し $49.500000000$ が差 $7.105\times10^{-15}$ で合う(第4節)。
キーワード:置換の符号、互換、転倒数、行列式、全数え上げ、偶奇。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。置換の符号が分解の仕方によらないこと、転倒数の偶奇と $n$ から巡回の数を引いた値の偶奇が一致すること、交代群の位数が $n!/2$ であること、行列式がライプニッツの式で書けることは、いずれも既知である。群論を作らない。交代群の単純性や表現論には入らない。実在の並べ替えを論じない。整列の手数や、実際の作業の段取りは主題ではない。パズルを扱わない。盤の上の駒の動かし方は論文601 の射程である。数え上げの範囲を広げない。長さ $7$ 以上の分け方は数えていない。既刊との関係:論文601 は $15$ パズルの局面の半分がどう動かしても届かないことを示し、射程注記で「本稿の偶奇は駒の並びの偶奇(置換行列の行列式の符号)」と書いて、符号そのものは使うだけにした。本稿はその席には座らず、隣に置く。あちらは盤の形が偶奇の効きを決める。こちらは偶奇がなぜ一つに決まるかである。論文247 は「偶数と奇数で分かれる」が一つの現象ではないことを八つに数えた。そこに行列式の符号も並んでいる。先客はそちらである。加えたのは、同じ置換を作る分け方を長さごとに数えて $16$ 通りと $640$ 通りを出したこと、偶数の長さが $0$ 通りだと確かめたこと、三つの数え方の偶奇が $24$ 個すべてで一致すると確かめたこと、分離子を「長さか、偶奇か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:$n$ 個のものの並べ替えを置換と呼び、二つだけを入れ替える操作を互換と呼ぶ。どの置換も互換の積で書けるが、書き方は一つではない。
$$\mathrm{inv}(p)=\#\{(i,j): i<j,\ p_i>p_j\},\qquad
\mathrm{sgn}(p)=(-1)^{\mathrm{inv}(p)}=(-1)^{\,n-c(p)}$$
$c(p)$ は巡回の数である。本稿は $n=4$ で、四つの巡回 $(1,2,3,0)$ を相手にする。
問い:手順が違っても変わらないものは何か。
2. 手順も長さも一通りではない
計算 2.1:$6$ 種類の互換を並べて、長さごとに何通りの分け方が $(1,2,3,0)$ を作るかを数えた。
| 長さ | 分け方の数 |
|---|---|
| $1$ | $0$ 通り |
| $2$ | $0$ 通り |
| $3$ | $16$ 通り |
| $4$ | $0$ 通り |
| $5$ | $640$ 通り |
| $6$ | $0$ 通り |
観察 2.2 これが本稿の芯である。手順も長さも一通りではない。最短は $3$ だが $5$ でも作れ、$5$ のほうが $40$ 倍も多い。同じ場所へ行く道が一本ではないのと同じで、遠回りはいくらでもある。
観察 2.3 それでも偶数の長さは一通りも無い。$1$・$2$・$4$・$6$ はすべて $0$ 通りである。つまり長さは決まらないのに、長さの偶奇は決まっている。
観察 2.4 この「決まっている」は、数えた結果である。$0$ を見たら疑うべきだが、ここでは奇数の側に $16$ と $640$ が出ているので、探し方が悪かったのではない。同じ探索が、奇数では当たり、偶数では一つも当たらない。
3. 三つの数え方が同じ偶奇を返す
計算 3.1:$(1,2,3,0)$ について、三つの量を出した。
| 数えたもの | 値 | 偶奇 |
|---|---|---|
| 最短の分け方の長さ | $3$ | 奇 |
| 転倒数 | $3$ | 奇 |
| $n$ から巡回の数を引いた値 | $4-1=3$ | 奇 |
計算 3.2:$n=4$ の置換 $24$ 個すべてで、転倒数の偶奇と、$n$ から巡回の数を引いた値の偶奇を比べた。
| 数えたもの | 値 |
|---|---|
| 置換の数 | $24$ 個 |
| 二つの偶奇の食い違い | $0$ 件 |
| 偶置換の数 | $12$ 個 |
| その割合 | $0.500000$ |
観察 3.3 一つも食い違わなかった。一方は大小の逆転を数え、もう一方は輪の本数を数えるだけで、途中はまったく違う。だから「符号」は、どれか一つの数え方の別名ではない。
観察 3.4 偶置換はちょうど半分である。$24$ 個のうち $12$ 個で、割合は $0.500000$ である。互換を一つ掛ける操作が偶と奇を一対一に取り替えるからである。
4. だから行列式が書ける
計算 4.1:$4\times4$ の行列で、行列式を二通りに出した。
| 出し方 | 値 |
|---|---|
| 符号つきの和(置換 $24$ 個ぶん) | $49.500000000$ |
| 掃き出し(符号を使わない) | $49.500000000$ |
| 二つの差 | $7.105\times10^{-15}$ |
| 二行を入れ替えたとき | $-49.500000000$ |
観察 4.2 符号が一つに決まらなければ、この式は書けない。ライプニッツの式は置換ごとに $\pm1$ を掛けるので、その $\pm1$ が分解の仕方で変わったら値が定まらない。第2節で数えた「偶数の長さは $0$ 通り」が、この式の存在を支えている。
観察 4.3 二行を入れ替えると符号だけが変わる。和は $0.000\times10^{0}$ になる。行の入れ替えは一つの互換だから、すべての置換の偶奇がいっせいに反転する。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、手順の長さを問うか、偶奇を問うかである。長さは遠回りで増やせるが、偶奇は何をしても変わらない。前者は道の話、後者は行き先の属性である。
観察 5.2 論文601 の隣に置く。601 は $15$ パズルの局面の半分が届かないことを示し、その偶奇を駒の並びの偶奇として使った。あちらは盤の形が偶奇の効きを決める。こちらは偶奇がなぜ一つに決まるかを数える。使う側と、支える側である。論文247 は「偶数と奇数で分かれる」を八つに数え、行列式の符号もそこに並べた。先客はそちらである。
観察 5.3 言わないこと。群論も、実在の並べ替えも、パズルも扱わない。示したのは、決まらないものと決まるものが同じ手順の中に同居しているということである。
6. 点呼と結び
- 長さ $3$ で $16$ 通り(計算 2.1):最短。
- 長さ $5$ で $640$ 通り(計算 2.1):$40$ 倍・本稿の芯。
- 偶数の長さは $0$ 通り(計算 2.1):奇数では当たる。
- 転倒数 $3$・$n$ から巡回を引いて $3$(計算 3.1):同じ偶奇。
- $24$ 個で食い違い $0$(計算 3.2):途中はまったく違う。
- 偶置換 $12$ 個(計算 3.2):割合 $0.500000$。
- 符号つきの和 $49.500000000$(計算 4.1):置換 $24$ 個ぶん。
- 掃き出しも $49.500000000$(計算 4.1):差 $7.105\times10^{-15}$。
- 二行を入れ替えると $-49.500000000$(計算 4.1):一つの互換。
- 長さか、偶奇か(観察 5.1):分離子・論文601・247。
結び:手順は一通りに決まらないのに、偶奇だけは一通りに決まる。四つの巡回を二つずつの入れ替えの積で作る分け方は、長さ $3$ で $16$ 通り、長さ $5$ で $640$ 通りあり、長いほうが $40$ 倍も多い。遠回りがいくらでもできるからである。ところが偶数の長さでは一通りも作れず、その偶奇は転倒数の偶奇とも、$n$ から巡回の数を引いた値の偶奇とも一致して、$n=4$ の置換 $24$ 個すべてで食い違わない。一方は大小の逆転を数え、もう一方は輪の本数を数えるだけで、途中を共有していないからである。この一意性があるから行列式が書け、符号つきの和 $49.500000000$ と掃き出し $49.500000000$ が差 $7.105\times10^{-15}$ で合う。既刊との位置:論文601 が偶奇を使った側に立つのに対し、本稿はそれを支える側に隣として立ち、論文247 が並べた八つの分かれの一つを開いた。正直に言えば、数えたのは $n=4$ と長さ $6$ までで、それより大きい場合は数えていない。
参考文献
- Artin, M. (2011). Algebra. Pearson.
- 山岸勇輝 (2026). 『「偶数と奇数で分かれる」は、一つの現象ではない』[論文247]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/247 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22159832
- 山岸勇輝 (2026). 『15 パズルの局面の半分は、どう動かしても届かない』[論文601]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/601 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22805752
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「手順は一通りに決まらないのに、偶奇だけは一通りに決まる」[論文841]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/841
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/841・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 手順は一通りに決まらないのに、偶奇だけは一通りに決まる [論文841]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/841
Yamagishi, Y. (2026). The Procedure Is Not Determined, but Its Parity Is [Paper 841]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/841
@misc{yamagishi2026yoi841,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Procedure Is Not Determined, but Its Parity Is},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/841},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
0e9f9c75e01318807ce656d754cc8b5ab8eb4758eedc7ca7b3e840162580c79d yamagishi_yoi841_v1_jp.pdfae47c3b5019cea2ce745f82d3455a228fffad16406eaf0d48ccdd7e0aa732d17 yamagishi_yoi841_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。