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【論文536】式の形を借りたのか、導いたのかは、境目の外で分かる

要旨

フィッツの法則は、シャノンの通信路容量から導かれたとしばしば言われる。本稿が示すのは、原型が容量の満たすべき性質を破っており、導出ではなく形の借用だったと数で言えることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、二つの式は一点でだけ重なる。$D/W=1$ で原型もシャノン型も $\mathbf{1.000000}$ を返す(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。原型は負になる。$D/W=0.5$ で $\mathbf{0.000000}$、$D/W=0.25$ で $\mathbf{-1.000000}$ であり、情報量としてありえない値を返す(第2節)。

第三に、容量の形は負になれない。$C=B\log_{2}(1+S/N)$ は $S/N\ge0$ なので $0$ 以上で、$S/N=0$ でちょうど $\mathbf{0}$ になる(第3節)。

第四に、だから原型は容量の形を満たしていない。同じ $\log_{2}$ を使っていても、満たすべき性質が違う(第3節)。

第五に、差は大きい領域でも消えない。比は $D/W=10$ で $\mathbf{1.249317}$、$100$ で $\mathbf{1.148034}$、$10000$ でもまだ $\mathbf{1.075246}$ である(第4節)。

第六に、分離子は、境目の外で試すことである。使う範囲の中では二つは似ており、範囲の外へ出したときに片方だけが壊れる(第5節)。

キーワード:フィッツの法則、シャノン=ハートレーの式、情報理論、ヒューマンインタフェース、外挿。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。フィッツの法則も、シャノン=ハートレーの式も、後年のシャノン型の書き換えも標準的である。フィッツの法則の当否を論じない。人の動作をどれだけよく記述するかは主題ではない。実験データを扱わない。当てはめの良さも、係数 $a$ と $b$ の値も出さない。歴史の意図を推し量らない。フィッツが何を考えていたかではなく、式が満たす性質だけを見る。情報理論の解釈をしない。人の運動が情報路であるかどうかには立ち入らない。書き換えを改良と呼ばない。シャノン型が負にならないことを示すだけで、どちらを使うべきかは述べない。$D/W$ が小さい領域を実務的だと主張しない。目標が始点より広い場合は実験の設計としては特殊である。それでも式の性質は式の性質である。既刊との関係:論文345 は同じ $\log_{2}$ が片方では比を、もう片方では個数を数えていると示した。本稿は同じ対を、導出か借用かという別の軸で見る。数えているものではなく、満たすべき性質を比べる。論文304 は「容量」が無限長でしか達成できない数だと示した。達成できないとしても、容量は負にならない。その性質が本稿の判定に使える。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。二つは「道筋」の基準で別根である。加えたのは、二つの式を境目の外まで並べたこと、原型が $D/W=0.25$ で $\mathbf{-1.000000}$ を返すと示したこと、容量が負になれないことを $S/N=0$ の値で確かめたこと、比が $D/W=10000$ でも $\mathbf{1.075246}$ 残ると測ったこと、分離子を「境目の外で試す」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:フィッツの法則は、距離 $D$ の目標に幅 $W$ で到達する時間を

$$MT=a+b\cdot ID,\qquad ID=\log_{2}\!\left(\frac{2D}{W}\right)$$

と書く。後年、これを $ID=\log_{2}(D/W+1)$ と書き換える流儀が広まった。

シャノンの容量:通信路容量は $C=B\log_{2}(1+S/N)$ である。

観察 1.1 形が似ている。どちらも $\log_{2}$ の中に比が入る。フィッツ自身がシャノンの定理を引いており、そこから来ていると読まれてきた。

観察 1.2 似ていることは、導かれたことを意味しない。論文345 は同じ $\log_{2}$ が別のものを数えていると示した。本稿は数えているものではなく、式が満たすべき性質を比べる。

問い:借りたのか、導いたのかを、数で分けられるか。

2. 境目の外へ出す

計算 2.1:二つの $ID$ を、$D/W$ を広く動かして比べる。

$D/W$ 原型 $\log_{2}(2D/W)$ シャノン型 $\log_{2}(D/W+1)$
$0.25$ $\mathbf{-1.000000}$ $\mathbf{0.321928}$
$0.50$ $\mathbf{0.000000}$ $\mathbf{0.584963}$
$1.00$ $\mathbf{1.000000}$ $\mathbf{1.000000}$
$2.00$ $2.000000$ $1.584963$
$10.00$ $4.321928$ $3.459432$
$100.00$ $7.643856$ $6.658211$

観察 2.2 重なるのは一点だけである。$D/W=1$ でどちらも $\mathbf{1.000000}$、そこを外れると、上でも下でも離れる。

観察 2.3 これが本稿の芯である。原型は $D/W=0.5$ で $\mathbf{0.000000}$、$D/W=0.25$ で $\mathbf{-1.000000}$ を返す。難しさが負になる。情報量としてありえない。

観察 2.4 シャノン型はどこでも正である。$D/W=0.25$ でも $\mathbf{0.321928}$、$D/W>0$ である限り $\log_{2}(1+D/W)>0$ で、符号が変わらない。

観察 2.5 負になる領域は実験では稀である。目標が始点より広い場合、だから実務では見つからなかった。境目の外へ出さないと、二つは区別できない。

3. 容量は負になれない

観察 3.1 $C=B\log_{2}(1+S/N)$ は構造上 $0$ 以上である。雑音に対する信号の比は負になれないので、$1+S/N\ge1$、$S/N=0$ でちょうど $\mathbf{0}$ になり、それより下は無い。

観察 3.2 これは容量の定義から来ている。容量は「区別して送れる符号語の個数」の対数である。個数は $1$ 以上なので、対数は $0$ 以上になる。負の容量という状態が無い。

観察 3.3 だから原型は容量の形を満たしていない。$-1.000000$ を返す式は、どんな通信路の容量でもない。同じ $\log_{2}$ を使っていても、満たすべき性質が違う。

観察 3.4 論文304 の柵とも噛み合う。あちらは容量が無限長でしか達成できない数だと示した。達成できるかどうかと、負になれるかどうかは別の性質である。達成できなくても負にはならない。

観察 3.5 論文300 の「道筋」の基準で別根である。容量は符号語の数え上げから出る。原型の $ID$ は、距離と幅の比を対数の目盛に載せたものである。至る道が共有されていない。

4. 差はどこまで残るか

計算 4.1:二つの $ID$ の比を、$D/W$ を大きくしながら測った。

$D/W$ 原型/シャノン型
$2$ $\mathbf{1.261860}$
$10$ $\mathbf{1.249317}$
$100$ $\mathbf{1.148034}$
$10000$ $\mathbf{1.075246}$

観察 4.2 比は単調に縮む。$\mathbf{1.261860}$ から $\mathbf{1.075246}$ へ、$D/W$ が大きいところでは二つの式は近づく。

観察 4.3 それでも消えない。$D/W=10000$ でも $\mathbf{7.5}$ パーセント違う。$\log_{2}2 = 1$ という定数のずれが残るからで、$\log$ が大きくなるほど相対的には薄まるが $0$ にはならない。

観察 4.4 当てはめでは吸収されてしまう。$MT=a+b\cdot ID$ の $a$ と $b$ を自由に選べる。定数のずれは $a$ が、比例のずれは $b$ が吸収する。実験の当てはまりだけでは二つを分けられない。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、境目の外で試すことである。使う範囲の中では二つは似ており、係数で吸収される。範囲の外へ出したときに、片方だけが壊れる。

観察 5.2 壊れ方が主張になっている。「負の情報量」という状態が無いことは、情報理論の側の性質である。その性質を破る式は、情報理論から導かれてはいない。

観察 5.3 これは形の借用を責める話ではない。形を借りて有用な法則を作ることは、それ自体では誤りではない。誤りになるのは、借りたものを導いたと呼ぶときである。

観察 5.4 論文345 と軸が違う。あちらは同じ $\log_{2}$ が何を数えているかを分けた。本稿は、式が満たすべき性質を破るかどうかで分ける。数えているものが違うことと、導出の関係が無いことは、別の主張である。

観察 5.5 言わないこと。フィッツの法則の当否は論じない。人の動作をどれだけよく記述するかは主題ではなく、実験データも当てはめの係数も出していない。

6. 点呼と結び

  1. $D/W=1$ でどちらも $\mathbf{1.000000}$(計算 2.1):重なるのは一点。
  2. 原型は $D/W=0.5$ で $\mathbf{0.000000}$(計算 2.1):難しさが消える。
  3. $D/W=0.25$ で $\mathbf{-1.000000}$(観察 2.3):本稿の芯。
  4. シャノン型は $\mathbf{0.321928}$(観察 2.4):どこでも正。
  5. 容量は $S/N=0$ で $\mathbf{0}$(観察 3.1):それより下は無い。
  6. 負の容量という状態が無い(観察 3.2):個数の対数だから。
  7. 比は $D/W=10$ で $\mathbf{1.249317}$(計算 4.1):$100$ で $\mathbf{1.148034}$。
  8. $10000$ でも $\mathbf{1.075246}$(観察 4.3):消えない。
  9. 係数が吸収する(観察 4.4):当てはまりでは分けられない。
  10. 分離子は境目の外(観察 5.1):範囲の中では似ている。
  11. 借用そのものは誤りでない(観察 5.3):導いたと呼ぶのが誤り。

結び:フィッツの法則は、シャノンの通信路容量から導かれたとしばしば言われる。境目の外へ出すと、二つは分かれる。原型 $\log_{2}(2D/W)$ とシャノン型 $\log_{2}(D/W+1)$ が重なるのは $D/W=1$ の一点だけで、そこではどちらも $\mathbf{1.000000}$ を返す。原型は $D/W=0.5$ で $\mathbf{0.000000}$、$D/W=0.25$ で $\mathbf{-1.000000}$ となり、難しさが負になる。シャノン型は $D/W=0.25$ でも $\mathbf{0.321928}$ で、$D/W>0$ である限り符号が変わらない。負になる領域は目標が始点より広い場合で、実験では稀である。だから実務では見つからなかった。容量は負になれない。$C=B\log_{2}(1+S/N)$ は $S/N\ge0$ から $0$ 以上で、$S/N=0$ でちょうど $\mathbf{0}$ になる。それは定義から来ている。容量は区別して送れる符号語の個数の対数で、個数は $1$ 以上だから対数は $0$ 以上になる。負の容量という状態が無い。だから $-1.000000$ を返す式は、どんな通信路の容量でもない。同じ $\log_{2}$ を使っていても、満たすべき性質が違う。論文304 は容量が無限長でしか達成できないと示したが、達成できないことと負になれることは別の性質で、達成できなくても負にはならない。差は大きい領域でも消えない。比は $D/W=2$ で $\mathbf{1.261860}$、$10$ で $\mathbf{1.249317}$、$100$ で $\mathbf{1.148034}$、$10000$ でもまだ $\mathbf{1.075246}$ である。単調に縮むが $0$ にはならない。$\log_{2}2=1$ という定数のずれが残るからである。ところが $MT=a+b\cdot ID$ の $a$ と $b$ を自由に選べるので、定数のずれは $a$ が、比例のずれは $b$ が吸収する。実験の当てはまりだけでは二つを分けられない。分離子は、境目の外で試すことである。使う範囲の中では二つは似ていて係数に吸収され、範囲の外へ出したときに片方だけが壊れる。壊れ方そのものが主張になっている。負の情報量という状態が無いのは情報理論の側の性質であり、その性質を破る式は情報理論から導かれてはいない。論文300 の「道筋」の基準でいえば、容量は符号語の数え上げから出て、原型の $ID$ は距離と幅の比を対数の目盛に載せたもので、至る道が共有されていない。論文345 は同じ $\log_{2}$ が何を数えているかを分けた。本稿は満たすべき性質を破るかどうかで分けたので、軸が違う。正直に言えば、これは形の借用を責める話ではない。形を借りて有用な法則を作ることはそれ自体では誤りではなく、誤りになるのは借りたものを導いたと呼ぶときである。フィッツの法則の当否は論じておらず、人の動作をどれだけよく記述するかも主題ではない。実験データも当てはめの係数も出していないし、歴史の意図も推し量っていない。人の運動が情報路であるかどうかにも立ち入らず、書き換えを改良とも呼んでいない。言えるのは、原型が容量の満たすべき性質を破っており、そのことは境目の外へ出せば数で示せる、そこまでである。

参考文献

  1. Cover, T. M., & Thomas, J. A. (2006). Elements of Information Theory (2nd ed.). Wiley.
  2. Fitts, P. M. (1954). The Information Capacity of the Human Motor System in Controlling the Amplitude of Movement. Journal of Experimental Psychology.
  3. MacKenzie, I. S. (1992). Fitts’ Law as a Research and Design Tool in Human-Computer Interaction. Human-Computer Interaction.
  4. Shannon, C. E. (1948). A Mathematical Theory of Communication. Bell System Technical Journal.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「容量」は、無限長でしか達成できない数である』[論文304]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172081
  7. 山岸勇輝 (2026). 『同じ $\log_2$ が、片方では比を、もう片方では個数を数えている』[論文345]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682287

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「式の形を借りたのか、導いたのかは、境目の外で分かる」[論文536]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014123

YOI 536第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 式の形を借りたのか、導いたのかは、境目の外で分かる [論文536]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/536 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014123

Yamagishi, Y. (2026). Whether a Formula Was Borrowed or Derived Shows Outside the Working Range [Paper 536]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/536; DOI: 10.5281/zenodo.23014123

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