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【論文582】倍音の並びを決めるのは、閉じた端ではなく、そこからの管の広がり方である

要旨

管楽器の倍音は、「片端が閉じた管は奇数倍、両端が開いた管は全部」と説明されることが多い。本稿が示すのは、同じく片端を閉じた管でも、円柱なら奇数倍だけ、円錐なら全部の倍音がそろい、その間を閉じた端から頂点までの距離が一つの式で連続につなぐことである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、円柱の二つの極限、長さ $0.60$ m で、両端の開いた円柱は基音 $\mathbf{285.8333}$ Hz・倍音は $1$・$2$・$3$ 倍、片端を閉じた円柱は $\mathbf{142.9167}$ Hz・倍音は $1$・$3$・$5$ 倍である(第2節)。

第二に、頂点まで閉じた円錐は、閉じているのに開いた円柱のように鳴る。基音は $\mathbf{285.8333}$ Hz で、第二の共鳴との比はちょうど $\mathbf{2.000000}$ である(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。閉じた端から頂点までの距離 $x_0$ を変えると、第二の共鳴との比は $2$ から $3$ へ連続に動く。$x_0/L=0.1$ で $\mathbf{2.012230}$、$0.3$ で $\mathbf{2.111700}$、$1$ で $\mathbf{2.421768}$、$3$ で $\mathbf{2.719873}$ である(第4節)。

第四に、間の管は、純正な音程で跳ばない。$x_0/L=0.3$ の第二の共鳴は $\mathbf{1294.0857}$ セント上で、八度($1200$)でも十二度($\mathbf{1901.955001}$)でもない(第4節)。

第五に、基音も動く。同じ長さのまま、$x_0/L=0.05$ で $\mathbf{272.3177}$ Hz、$3$ で $\mathbf{159.9641}$ Hz まで下がる(第4節)。

第六に、分離子は、閉じた端から見た管の広がり方である。閉じているかどうかではなく、閉じた端のそばで断面が広がっていくか、一定のままか、が倍音の並びを決める(第5節)。

キーワード:管楽器、円錐管、倍音、共鳴、リード楽器。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。円柱と円錐の管の共鳴はどれも標準的である。理想の管に限る。壁は硬く、損失は無く、開いた端の補正(管の外に少しはみ出す長さ)も入れていない。リードや吹き口の体積を入れていない。実際の楽器では、閉じた端の近くの体積が共鳴を少しずらす。数は代表値である。長さ $0.60$ m、音速 $343$ m/s と置いた。楽器を設計しない。どの楽器がどの音域かも書かない。円柱の管(クラリネット)が十二度で、円錐の管(サクソフォンやオーボエ)が八度で跳ぶ、という型だけを使う。既刊との関係:論文299 は、太鼓に音程が無いのは方程式のせいではなく境界のせいだと示し、射程注記で楽器を論じないとしていた。本稿はその席に座る。境界の形が倍音の並びを選ぶという根は同じで、本稿が加えるのは、円柱と円錐という二つの極限を一つの数 $x_0$ が連続につなぐことである。論文466 は、全部の音程を同時に合わせられないことを、セントで数えて示した。本稿の間の管の第二の共鳴は、そのどの純正な音程にも当たらない。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「円柱は奇数倍」と「円錐は全部」は、$\tan kL=-kx_0$ という一つの式の両端であり、同根である。加えたのは、閉じた円錐台の共鳴の条件を $\tan kL=-kx_0$ に置き、二つの極限(比 $2$ と $3$)を数値で確かめたこと、その間で第二の共鳴との比と基音がどう動くかを並べたこと、分離子を閉じた端から見た広がり方に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:円錐の管では、音圧は頂点からの距離 $x$ について $p=(A/x)\sin(kx+\phi)$ の形をとる。狭い端(頂点から $x_0$)を閉じ、広い端(そこから長さ $L$ 先)を開くと、閉じた端で空気が動かず、開いた端で音圧が $0$ になる条件から

$$\tan kL=-k\,x_0$$

が出る。$x_0\to0$ は頂点まで閉じた円錐、$x_0\to\infty$ は円柱の極限である。

観察 1.1 管楽器の倍音は、端が閉じているかどうかで説明されることが多い。片端が閉じた管は奇数倍、両端が開いた管は全部の倍音を持つ、と、ところがリードで片端を閉じた楽器にも、奇数倍だけのものと、全部の倍音を持つものがある。

問い:片端を閉じた管の倍音の並びを決めているのは何か。

2. 二つの円柱

計算 2.1:長さ $0.60$ m・音速 $343$ m/s で、端の補正を入れずに出した。

管 基音 倍音
両端の開いた円柱 $\mathbf{285.8333}$ Hz $1$・$2$・$3$ 倍
片端を閉じた円柱 $\mathbf{142.9167}$ Hz $1$・$3$・$5$ 倍

観察 2.2 片端を閉じた円柱は、八度低く鳴り、十二度で跳ぶ。第二の共鳴は基音の $3$ 倍で、$1200\log_2 3=\mathbf{1901.955001}$ セント上にある。円柱の管の楽器(クラリネット)が、強く吹くと八度ではなく十二度上へ跳ぶのはこのためである。

3. 閉じた円錐

計算 3.1:頂点まで閉じた円錐($x_0\to0$)では、条件は $\tan kL=0$ で、共鳴は $kL=\pi, 2\pi,\dots$ である。数値でも $kL=\mathbf{3.141593}$・$\mathbf{6.283185}$、比はちょうど $\mathbf{2.000000}$($10^{-6}$)。

観察 3.2 閉じているのに、開いた円柱のように鳴る。基音は $\mathbf{285.8333}$ Hz で、両端の開いた同じ長さの円柱と $10^{-6}$ で一致し、倍音も全部そろう。円錐の管の楽器(サクソフォンやオーボエ)が八度で跳ぶのはこのためである。端が閉じていることは、奇数倍だけになる理由ではなかった。

4. 間をつなぐ

計算 4.1:閉じた端から頂点までの距離 $x_0$ を変え、$\tan kL=-kx_0$ の最初の二つの根を二分法で出した。

$x_0/L$ $kL$(第一・第二) 基音 第二の共鳴との比 セント
$0.05$ $\mathbf{2.993043}$・$\mathbf{5.992091}$ $\mathbf{272.3177}$ Hz $\mathbf{2.002006}$ $\mathbf{1201.7360}$
$0.1$ $\mathbf{2.862773}$・$\mathbf{5.760558}$ $\mathbf{260.4653}$ Hz $\mathbf{2.012230}$ $\mathbf{1210.5546}$
$0.3$ $\mathbf{2.498399}$・$\mathbf{5.275869}$ $\mathbf{227.3133}$ Hz $\mathbf{2.111700}$ $\mathbf{1294.0857}$
$1$ $\mathbf{2.028758}$・$\mathbf{4.913180}$ $\mathbf{184.5836}$ Hz $\mathbf{2.421768}$ $\mathbf{1531.2727}$
$3$ $\mathbf{1.758164}$・$\mathbf{4.781983}$ $\mathbf{159.9641}$ Hz $\mathbf{2.719873}$ $\mathbf{1732.2469}$

観察 4.2 これが本稿の芯である。第二の共鳴との比は、$x_0$ とともに $2$ から $3$ へ単調に、連続に動く。円柱の極限($x_0/L=10^6$)では比は $\mathbf{2.999999}$、$kL=\mathbf{1.570797}$・$\mathbf{4.712389}$ で、奇数倍の並びに戻る。円柱と円錐は別々の型ではなく、一つの式の両端である。

観察 4.3 間の管は、純正な音程で跳ばない。$x_0/L=0.3$ の第二の共鳴は $1294.0857$ セント上で、八度でも十二度でもない。倍音が整数倍に並ばない管では、強く吹いたときの跳び先が音程としてそろわない。楽器として使える管が、円錐に近いか円柱に近いかのどちらかに寄るのはこのためである。

観察 4.4 基音も動く。同じ長さ $0.60$ m のまま、$x_0/L=0.05$ で $272.3177$ Hz、$3$ で $159.9641$ Hz まで下がる。広がり方は、並びだけでなく高さも決めている。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、閉じた端から見た管の広がり方である。閉じた端のそばで断面が広がっていく円錐なら、閉じた端の近くで音圧がすぐ弱まり、開いた端と同じ役を果たす。断面が一定の円柱なら、閉じた端は最後まで閉じた端のままで、奇数倍だけが残る。閉じているかどうかではなく、閉じた端からどう広がるかが並びを決める。

観察 5.2 論文299 と同根である。あちらは、太鼓に音程が無いのは方程式のせいではなく境界のせいだと示し、射程注記で楽器を論じないとしていた。本稿はその席に座る。境界の形が倍音の並びを選ぶという根は同じで、本稿が加えるのは、円柱と円錐の二つの極限を一つの数 $x_0$ が連続につなぐことである。

観察 5.3 論文466 の純正な音程のどれにも当たらない。あちらは、五度を積むと八度とずれ、全部の音程を同時には合わせられないことをセントで数えた。本稿の間の管の第二の共鳴は、そもそもどの純正な音程にも乗らない。

観察 5.4 論文300 の基準では同根である。「円柱は奇数倍」と「円錐は全部」は、$\tan kL=-kx_0$ という一つの式の $x_0\to\infty$ と $x_0\to0$ の端である。別々の規則に見えていたものが、一つの式の両端だった。

観察 5.5 言わないこと。楽器を設計しない。どの楽器がどの音域かも書かない。示したのは、倍音の並びを決めるのが閉じた端ではなく、そこからの広がり方だということである。

6. 点呼と結び

  1. 両端の開いた円柱 $\mathbf{285.8333}$ Hz(計算 2.1):倍音は全部。
  2. 片端を閉じた円柱 $\mathbf{142.9167}$ Hz(計算 2.1):奇数倍だけ。
  3. 十二度は $\mathbf{1901.955001}$ セント(観察 2.2):円柱の管が跳ぶ先。
  4. 閉じた円錐の比 $\mathbf{2.000000}$(計算 3.1):閉じているのに開いた円柱のよう。
  5. $x_0/L=0.1$ で $\mathbf{2.012230}$(計算 4.1):わずかに外れる。
  6. $x_0/L=1$ で $\mathbf{2.421768}$(計算 4.1):中ほど。
  7. 円柱の極限で $\mathbf{2.999999}$(観察 4.2):本稿の芯・一つの式の両端。
  8. $x_0/L=0.3$ で $\mathbf{1294.0857}$ セント(観察 4.3):純正な音程で跳ばない。
  9. 基音は $\mathbf{272.3177}$ から $\mathbf{159.9641}$ Hz へ(観察 4.4):高さも動く。
  10. 分離子は閉じた端から見た広がり方(観察 5.1):閉じているかどうかではない。

結び:管楽器の倍音は、端が閉じているかどうかで説明されることが多い。ところが片端を閉じた管でも、倍音の並びは管の広がり方で変わる。長さ $0.60$ m で、片端を閉じた円柱は基音 $\mathbf{142.9167}$ Hz で倍音は奇数倍だけになり、強く吹くと十二度、$\mathbf{1901.955001}$ セント上へ跳ぶ。同じく片端を閉じても、頂点まで閉じた円錐は基音が両端の開いた円柱と同じ $\mathbf{285.8333}$ Hz で、倍音は全部そろい、第二の共鳴との比はちょうど $\mathbf{2.000000}$ である。その間を、閉じた端から頂点までの距離 $x_0$ が $\tan kL=-kx_0$ で連続につなぐ、第二の共鳴との比は $x_0/L=0.1$ で $\mathbf{2.012230}$、$0.3$ で $\mathbf{2.111700}$、$1$ で $\mathbf{2.421768}$、$3$ で $\mathbf{2.719873}$ と単調に上がり、円柱の極限で $\mathbf{2.999999}$ に戻る。間の管は $0.3$ で $\mathbf{1294.0857}$ セントと、八度でも十二度でもない所へ跳び、基音も $\mathbf{272.3177}$ から $\mathbf{159.9641}$ Hz まで動く。使える管が円錐か円柱のどちらかに寄るのは、倍音を整数倍にそろえるためである。分離子は、閉じた端から見た管の広がり方である。広がっていく円錐では閉じた端の近くで音圧がすぐ弱まって開いた端と同じ役を果たし、一定の円柱では閉じた端が最後まで閉じた端のままで奇数倍だけが残る。論文300 の基準で、二つの型は一つの式の両端であり同根である。既刊との位置、論文299 と同じく境界の形が並びを選び、本稿はその射程注記が空けていた楽器の席に座って、二つの極限を一つの数でつないだ。論文466 の純正な音程のどれにも、間の管の跳び先は乗らない。正直に言えば、理想の管で、壁は硬く、損失も端の補正もリードの体積も入れていない。長さと音速は代表値で、楽器は設計しておらず、どの楽器がどの音域かも書かない。示したのは、並びを決めるのが閉じた端ではなく、そこからの広がり方だということである。

参考文献

  1. Benade, A. H. (1976). Fundamentals of Musical Acoustics. Oxford University Press.
  2. Fletcher, N. H., & Rossing, T. D. (1998). The Physics of Musical Instruments (2nd ed.). Springer.
  3. Rayleigh, J. W. S. (1877). The Theory of Sound. Macmillan.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『太鼓に音程が無いのは、境界のせいであって方程式のせいではない』[論文299]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171877
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『全部を合わせられないことは、証明された事実である』[論文466]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733284

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「倍音の並びを決めるのは、閉じた端ではなく、そこからの管の広がり方である」[論文582]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014349

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 倍音の並びを決めるのは、閉じた端ではなく、そこからの管の広がり方である [論文582]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/582 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014349

Yamagishi, Y. (2026). What Sets the Series of Overtones Is Not the Closed End but How the Tube Widens from It [Paper 582]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/582; DOI: 10.5281/zenodo.23014349

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