要旨
$n\ge3$ のとき、$x^n+y^n=z^n$ に互いに素な正の整数の解は無い(フェルマーの最終定理。ワイルズが $1995$ 年に証明した)。本稿は証明をせず、この「解が無い」に届く道を並べ、それぞれがどの指数まで届くかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、無限降下の道は $n=4$ に届く。$x^4+y^4=z^2$ の解は $3000$ まで $1$ つも無く、同じ探し方で $x^2+y^2=z^2$ の互いに素な解は $534$ 個見つかった。指数が $4$ で割り切れれば、この道で済む(第3節)。
第二に、クンマーの道は正則な素数に届く。素数 $p$ が正則(ベルヌーイ数 $B_2,\ldots,B_{p-3}$ の分子を $p$ が割らない)なら、指数 $p$ で解は無い。$3$ 以上 $1000$ 未満の素数 $167$ 個のうち正則なのは $103$ 個(割合 $0.616766$)で、$100$ 未満で正則でないのは $37$・$59$・$67$ だけだった(第4節)。
第三に、これが本稿の芯である。二つの道を合わせても、届かない指数が残る。$4$ で割り切れず、正則な奇素数も因数に持たない指数は、$1000$ 以下に $\mathbf{92}$ 個あり、最小は $37$ だった。道具ごとに届く指数の範囲が違い、全部に届いたのはワイルズの道だけである(第5節)。
第四に、ABC 予想からの道は大きな指数に届く(条件付き)、反例があれば、その組の質 $\log z^n/\log\mathrm{rad}(xyz)$ は必ず $n/3$ を超える。$n\ge5$ なら $5/3$ を超え、論文641 で確かめた知られた最高 $1.629912$ を上回る。$c<10^6$ の $1268$ 組に $q>5/3$ は $1$ つも無かった。一方 $n=3$・$4$ の下限 $1$・$4/3$ を超える組はある(第6節)。
第五に、多項式の世界では一行で済み、近い組は解ではない。係数の小さい多項式の総当たりで、$n=2$ は $20$ 組見つかり、$n=3$・$4$ は $0$ だった(メイソン=ストザースの帰結)。整数では $9^3+10^3=12^3+1$ のように $1$ だけずれる組が $2000$ までに $18$ 組あるが、ぴったりの組は無い(第2節・第7節)。
キーワード:フェルマーの最終定理、無限降下法、正則素数、ベルヌーイ数、クンマー。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。最終定理とその証明(ワイルズ、テイラーとワイルズ、$1995$)、$n=4$ の無限降下(フェルマー)、正則素数についてのクンマーの定理($1850$ 年ごろ)、正則でない素数の一覧、正則な素数の割合が $e^{-1/2}$ に近いという予想(ジーゲル)、ABC 予想から大きな指数が除かれること(グランヴィルとタッカーの解説ほか)は、いずれも既知である。最終定理を証明しない。ワイルズの道(フライ曲線とモジュラー性)は、数で追えないので住所だけを書く。「別根」とは呼ばない。分かれているのは現象の源ではなく証明の道具なので、「別の道」と呼ぶ。同じ名前の別の定理に注意する。論文603 のフェルマーの判定(小定理)、論文608 のクンマーの定理(繰り上がり)は、本稿のフェルマー・クンマーとは別の定理である。既刊との関係:論文641 は、ABC 予想が多項式では定理で整数では予想であることを数え、多項式のフェルマーを一行の帰結として置いた。本稿はその多項式の道と ABC からの道を、整数の最終定理への道の点呼の中に置き直す。論文31 は、ラマヌジャンの級数の $\pi$ をモジュラー形式の周期と住所づけた。ワイルズの道もモジュラー形式を通る。加えたのは、正則素数を二つの道筋で $1000$ まで判定したこと、降下とクンマーのどちらでも届かない指数を数えたこと、反例の質の下限 $n/3$ を既知の組と突き合わせたこと、分離子を「道具ごとに届く指数の範囲」に置いたことである。
1. 記法と問い
最終定理:$n\ge3$ のとき、$x^n+y^n=z^n$ に互いに素な正の整数の解は無い。$n$ の約数 $d$ について、$x^n+y^n=z^n$ の解は $(x^{n/d})^d+(y^{n/d})^d=(z^{n/d})^d$ の解になる。$3$ 以上のどの $n$ も $4$ か奇素数で割り切れるので、$n=4$ と奇素数 $p$ について解が無いことを言えば足りる。
問い:この「解が無い」に、どの道具が、どの指数まで届くか。
2. 多項式の世界
計算 2.1:係数が $-2$ から $2$ の整数で次数 $2$ 以下の多項式 $124$ 個から、互いに素で定数でない組 $x(t)$・$y(t)$ を選び、$x^n+y^n$ が多項式の $n$ 乗になるものを探した($t=2$ から $8$ の値で絞り、因数分解で確かめた)。$n=2$ では $20$ 組見つかり($(2t)^2+(t^2-1)^2=(t^2+1)^2$ を含む)、$n=3$・$4$ では $1$ 組も無かった。
観察 2.2 多項式の世界では、どの $n\ge3$ にも一行で届く。論文641 のメイソン=ストザースの定理を当てると、$D$ を次数の最大として $nD\le3D-1$ となり、$n<3$ でなければならない。ただしこれは多項式の最終定理であって、整数の最終定理への道ではない。整数には、その証明が使う微分が無い。
3. 無限降下の道(n=4)
計算 3.1:$1\le x\le y\le3000$ で $x^4+y^4=z^2$ となる整数 $z$ を探すと、$1$ つも無かった。同じ探し方で、互いに素な $x^2+y^2=z^2$ の解は $534$ 個見つかった(探し方が働いていることの陽性対照)。
観察 3.2 フェルマー自身の道は、解があれば、より小さい解が作れることを示して、解の存在を否定する(無限降下)。$x^4+y^4=z^4$ は $x^4+y^4=(z^2)^2$ の特別な場合なので、$n=4$ はこれで済む、そして $4$ で割り切れる指数は、すべて $n=4$ に帰着する。
4. クンマーの道(正則な素数)
計算 4.1:奇素数 $p$ が正則とは、ベルヌーイ数 $B_2,B_4,\ldots,B_{p-3}$ の分子を $p$ が割らないことである。正確なベルヌーイ数を使う道筋と、$p$ で割った余りだけを漸化式で追う道筋の二つで判定し、$p<200$ のすべての素数で結果が一致した。そのうえで $p<1000$ まで判定した。
| $3$ 以上 $1000$ 未満の素数 | $167$ 個 |
|---|---|
| 正則 | $103$ 個(割合 $0.616766$) |
| 正則でない | $64$ 個 |
| $100$ 未満の正則でない素数 | $37$・$59$・$67$ |
正則でない度合いが $2$ 以上の素数は $157$($k=62$・$110$)、$691$($k=12$・$200$)など $14$ 個、$491$・$617$・$647$ は $3$ だった。割合 $0.616766$ は、ジーゲルの予想の $e^{-1/2}=0.606531$ と $+0.010236$ の差である。
観察 4.2 クンマーの道は、正則な素数にだけ届く。そして正則でない素数が限りなくあることは知られているが、正則な素数が限りなくあるかは、まだ分かっていない。この道が届く範囲の広さそのものが、未解決の問いである。
5. 二つの道の届かない指数
計算 5.1:指数 $n=3$ から $1000$ のうち、$4$ で割り切れず、正則な奇素数も因数に持たないもの(無限降下にもクンマーの道にも帰着しないもの)を数えると、$92$ 個だった。小さい順に $37$・$59$・$67$・$74$・$101$・$103$・$118$・$131$・$134$・$149$ と続く。どれも、奇素因数がすべて正則でない素数で、$4$ で割り切れない。
観察 5.2 これが本稿の芯である。道具ごとに届く指数の範囲が違い、二つを合わせても $1000$ 以下に $92$ 個の穴が残る。無限降下は $4$ の倍数に、クンマーの道は正則な奇素数を因数に持つ指数に届く。$37$ のように正則でない素数そのものには、どちらも届かない。同じ「解が無い」でも、どの道で届いたかは指数ごとに違い、全部に届いたのはワイルズの道(フライ曲線とモジュラー性)だけである。
6. ABC 予想からの道(条件付き)
計算 6.1:互いに素な $x<y<z$ で $x^n+y^n=z^n$ なら、$\mathrm{rad}(x^ny^nz^n)=\mathrm{rad}(xyz)\le xyz<z^3$ なので、この組の質は
$$q=\frac{\log z^n}{\log\mathrm{rad}(xyz)}>\frac{n}{3}$$
を満たす。$n/3$ は $n=3$ で $1.000000$、$4$ で $1.333333$、$5$ で $1.666667$、$6$ で $2.000000$、$7$ で $2.333333$ である。
| 知られた最高の質($2+3^{10}\times109=23^5$、論文641) | $1.629912$($5/3$ との差 $-0.036755$) |
|---|---|
| $c<10^6$ の $q>1$ の組 | $1268$ 個(最高 $1.567887$) |
| そのうち $q>4/3$ | $20$ 個 |
| そのうち $q>5/3$ | $0$ 個 |
観察 6.2 反例があれば、$n\ge5$ ではこれまでに見つかったどの組よりも質の高い組になる。ABC 予想が正しければ、質が $5/3$ を超える組は有限個しかないので、大きな指数の反例は限られる。一方 $n=3$・$4$ の下限 $1$・$4/3$ を超える組は $c<10^6$ にもあり、この道だけでは除けない。ABC からの道は大きな指数に届き、小さな指数は無限降下とクンマーの道が受け持つ。
7. 近いが無い
計算 7.1:$2\le x\le y\le2000$ で、$x^3+y^3$ が立方数と $1$ だけずれる組は $18$ 組あった($z^3+1$ の側 $9$ 組、$z^3-1$ の側 $9$ 組)。小さい順に $6^3+8^3=9^3-1$、$9^3+10^3=12^3+1$($1729$)、$64^3+94^3=103^3+1$ である。$x^3+y^3=z^3$ の組は $1$ つも無かった。
観察 7.2 近い組があることは、解があることの手がかりにならない。$1$ だけずれる組は $2000$ までに $18$ 組あるが、ずれが $0$ の組は無い。「解が無い」は、近さの問題ではなく、ぴったり等しくなれない構造の問題である。
8. 分離子
観察 8.1 分離子は、道具ごとに届く指数の範囲である。無限降下は $4$ の倍数、クンマーの道は正則な素数、ABC からの道は(条件付きで)大きな指数、多項式の道は多項式の世界に届く。どれも一部で、$1000$ 以下に $92$ 個の穴が残る。同じ「解が無い」を、別々の道具がそれぞれの範囲で支え、全部を支えたのはワイルズの道だけである。
観察 8.2 論文641・論文31・論文603・論文608 と並べる。641 は多項式の道と ABC からの道の出どころで、31 はモジュラー形式に住所を書いた。603 のフェルマーの判定と 608 のクンマーの定理は、同じ人の別の定理である。名前が同じでも、指している定理が違えば道具も違う。
観察 8.3 言わないこと。最終定理を証明しない。ワイルズの道は住所だけを書いた。「別根」とも呼ばない。示したのは、四つの道がそれぞれどの指数まで届くか、そして届かない指数の数である。
9. 点呼と結び
- 多項式では $n=3$・$4$ の解が $0$(計算 2.1):$n=2$ は $20$ 組。
- 多項式の道は整数の道ではない(観察 2.2):微分が無い。
- $x^4+y^4=z^2$ は $3000$ まで $0$(計算 3.1):陽性対照は $534$。
- 正則な素数は $103/167$(計算 4.1):$0.616766$。
- $100$ 未満の正則でない素数は $37$・$59$・$67$(計算 4.1):二つの道筋が一致。
- 正則な素数が限りなくあるかは未解決(観察 4.2):道の広さが問い。
- 二つの道の届かない指数は $\mathbf{92}$ 個(計算 5.1):最小は $37$。
- 道具ごとに範囲が違う(観察 5.2):本稿の芯。
- 反例の質は $n/3$ 超え(計算 6.1):$n\ge5$ で既知の最高を上回る。
- $1$ だけずれる組は $18$、ぴったりは $0$(計算 7.1):近さは手がかりにならない。
結び:$n\ge3$ で $x^n+y^n=z^n$ に解が無いというフェルマーの最終定理に、無限降下は $n=4$ から、クンマーの道は正則な素数から届き、$1000$ 未満の奇素数の $0.616766$ が正則だった。二つを合わせても、$1000$ 以下の指数のうち $92$ 個(最小は $37$)には届かない。反例があればその質は $n/3$ を超えるので、ABC 予想からの道は条件付きで大きな指数に届くが、小さな指数には届かない。多項式の世界では一行で済み、整数の $1$ だけずれる組は解ではない。分離子は、道具ごとに届く指数の範囲である。既刊との位置、論文641 の多項式の道と ABC の道が、整数の最終定理への道の点呼の中に入る。正直に言えば、ワイルズの道には住所を書いただけで、最終定理の証明には入っていない。
参考文献
- Granville, A., & Tucker, T. J. (2002). It’s as easy as abc. Notices of the American Mathematical Society.
- Taylor, R., & Wiles, A. (1995). Ring-theoretic properties of certain Hecke algebras. Annals of Mathematics.
- Washington, L. C. (1997). Introduction to Cyclotomic Fields. Springer.
- Wiles, A. (1995). Modular elliptic curves and Fermat’s Last Theorem. Annals of Mathematics.
- 山岸勇輝 (2026). 『次元を持たない $\pi$』[論文31]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22090430
- 山岸勇輝 (2026). 『561 は、互いに素などの底で試しても、フェルマーの判定を通る』[論文603]. Zenodo.
- 山岸勇輝 (2026). 『パスカルの三角形の奇数は、行の番号を二進法で書いたときの 1 の数で決まる』[論文608]. Zenodo.
- 山岸勇輝 (2026). 『ABC 予想は多項式では定理で、整数では予想である。証明に要る微分が整数には無い』[論文641]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22805478
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「フェルマーの最終定理への道は道具で範囲が違い、降下とクンマーは 92 個の指数に届かない」[論文642]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22805604
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). フェルマーの最終定理への道は道具で範囲が違い、降下とクンマーは 92 個の指数に届かない [論文642]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/642 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22805604
Yamagishi, Y. (2026). The Roads to Fermat’s Last Theorem Reach Different Exponents, and Descent and Kummer Together Miss 92 Exponents up to 1000 [Paper 642]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/642; DOI: 10.5281/zenodo.22805604
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