Yamagishi Complexity Torus Lab山岸勇輝ラボ

箱の中身を入れ替えても、外の重力は少しも変わらない:外から読めるのは、皮一枚ぶんの数だけだった

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人の体のように形のいびつな物でも、うまく切り分ければ、一つ一つは外から見て単純な「カプセル」になっているのではないか。中で何が起きていても、外からは決まった形にしか見えない、という意味です。私はこの考えを、計算で確かめることにしました。

確かめると、カプセルは本当にありました。立方体の箱の中身を大きく入れ替えても、外の重力は少しも変わりません。外から読めるのは、「角度の型ごとに一つの数」、つまり皮一枚に描ける模様の分だけでした。ただし、それを決めていたのは中身の形ではなく、重力や電気の場が従う方程式の形でした。

この文章の計算は、このページのために新しく行ったものと、査読を経ていない、著者自身による公開(プレプリント)の論文によります。

羊皮紙の上に、左から銀河、地球、人の体、細胞、原子を一つずつ円で包んで並べ、虫めがねのような線で次々に拡大してつないだ絵。真ん中は、円と正方形の中で腕と脚を二通りに広げた人
扉の絵 銀河、地球、人の体、細胞、原子。大きさは違っても、どれも閉じた皮で包めます。皮の外から読めるのは、角度の型ごとに一つの数、つまり皮一枚に描ける模様の分だけです(場の方程式が二階なら)。真ん中は、レオナルド・ダ・ヴィンチの人体図(ウィトルウィウス的人体図)の構図にならいました。

要点

  • 重力や電気のように、距離の2乗で弱まる力では、閉じた皮の外から読める中身は「角度の型ごとに一つの数」だけです。それ以外の中身は、外からは一つも見えません。
  • 形は選びません。立方体の中の密度を、決まった形で0.100から1.225まで入れ替えても、外の重力の変化は計算の誤差の大きさだけでした。
  • 外から読める数の個数を決めるのは、場が従う方程式の階数です。二階なら1個、四階なら2個、六階なら3個で、こうした局所の方程式から生まれない場では、個数が止まりません。
  • 皮の上に4πが残るのは、質量のない場のときだけです。情報が境界の大きさで決まる「面積則」は、また別の理由から来ます。

箱の中を入れ替えても、外は変わらない

一辺2の立方体の箱を考えます。中には密度1の物が一様に詰まっています。この中身を入れ替えます。ある所を薄くし、そのまわりを濃くするのですが、薄くする量と濃くする量はちょうど同じにします。全部の重さは変わりません。

入れ替えの形には、決まった選び方があります。箱の内側にだけある滑らかな山φを考え、その「曲がり具合」(ラプラシアンΔφ)の形に密度を動かします。山は箱の中心からずらし、形も縦横高さで変えてあります。

実験1箱の中を入れ替えて、外の場を測る

つまみで入れ替えの強さを変えます。ボタンで、力の法則を替えられます。

中の密度(いちばん薄い所)
中の密度(いちばん濃い所)
外の場の変化(4点の最大)

実験1 断面は高さz=0.3の面で、濃い所ほど色が濃くなります。外の4点は、箱の面のすぐ外、上、角の外、遠くです。場の変化は、一様な箱の場との比で、縦の目盛りは10倍ごとです。

つまみを1にすると、中の密度は0.100から1.225まで動きます。いちばん薄い所は、もとの10分の1です。それでも、重力(距離の2乗で弱まる力、場で言えば1/r)のままでは、外の4点の場の変化は計算の誤差の大きさだけです。外から測る限り、この箱と一様な箱は見分けがつきません。

ボタンで力の法則を替えると、話が変わります。もし力が距離の3乗で弱まる(場が1/r²)なら、同じ入れ替えで外の場が最大0.048%変わります。小さく見えますが、計算の誤差とは桁がまったく違い、外から入れ替えが見えます。

湯川の場(遠くで急に弱まる、重さのある場)でも、この入れ替えは見えます(最大0.025%)。ところが、入れ替えの形を湯川の場に合わせて(Δ−1)φにすると、また見えなくなります。外から見えない入れ替えの形は、中身ではなく、場の方程式が決めています。

中身を、皮一枚へ移す

外から見えない入れ替えがこれほどあるなら、極端なことができるはずです。中身を全部、外側の皮の上へ移してしまうことです。

半径1の球の中に、重さ1の点を一つ置きます。この点を、皮の上の薄い膜に置き換えます。膜の濃さは、点に近い所ほど濃くします。決まった形(ポアソン核)で移すと、外の場は点のときと寸分違わなくなります。

実験2点を、皮の上の膜に置き換える

つまみで、点を中心から皮の近くまで動かします。皮の線の太さが、膜の濃さです。

膜の濃さ(最大÷最小)
中心の場(膜)
中心の場(点)
外(z=2)の場:膜も点も

実験2 軸の上の場は、点の場を実線、膜の場を破線で描きました。皮(z=1)より外では二つが重なり、中では違います。

点を中心から0.6の所に置くと、膜の濃さはいちばん濃い所と薄い所で64倍違います。皮は、中の点がどこにあったかを覚えています。中心の場は、膜が1.000、点が1.667で違いますが、皮の外の場はどこでも同じです(z=2で、どちらも0.714)。

点が真ん中にあると、膜の濃さはどこでも同じで、1/(4π)になります。4πは半径1の球の表面積、つまり全部の向き(全立体角)です。中身を皮に移すと、分母に4πが出てきます。

外から読める数は、いくつか

皮の上の膜は、角度によって濃さが変わる模様です。模様は、角度の細かさごとの「型」に分けられます。全体の量が型0、片寄りが型1、楕円のような伸び方が型2、と細かくなっていきます。同じ細かさℓの型は、向きの違いで2ℓ+1個あります(球面調和関数)。地球の重力や磁場を測るときにも、この型で数を並べます。

そこで、中の重さの散らばりのうち、一つの型の部分が外へいくつの数を運ぶかを数えます。中の半径20か所から外の半径20か所への「運び方」を表にして、その表がいくつの独立な数を運べるか(特異値の数)を見ます。運び方は細かさℓだけで決まり、向きにはよりません。

実験3外へ運ばれる数を数える

ボタンで場を選び、つまみで角度の型ℓを選びます。棒の高さは10倍ごとの目盛りです。

外へ出る数(10⁻⁹より大きい)
場が従う方程式

実験3 いちばん大きい値で割った特異値を、大きい順に10本並べました。灰色の帯は計算の誤差の大きさ、破線は数える線(10⁻⁹)です。

重力や電気の場(1/r)では、どの型でも数は1個です。2本目の値は、いきなり計算の誤差の大きさまで落ちます。湯川の場も1個です。r(重調和)では2個、r³(三重調和)では3個で、やはりそこで崖のように落ちます。ところが1/r²やガウスの形では、値はなだらかに減り続け、どこで切るかは線の引き方しだいになります。論文では18通りの場で同じことを数え、決まった個数で止まったのは10通りでした(論文1107)。

角度の型ℓ=2で外へ運ばれる数を、六つの場で並べた線。1/rと湯川は2本目で、重調和は3本目で、三重調和は4本目で誤差の大きさまで落ち、1/r²とガウスは減り続ける
図1 角度の型ℓ=2で外へ運ばれる数(論文の計算)。崖のように落ちる場と、なだらかに減る場に分かれます。

なぜ、個数が決まるのか

重力や電気の場は、空っぽの所で「ラプラス方程式」という二階の方程式に従います。二階というのは、場所で2回微分した量が式に入る、という意味です。湯川の場もヘルムホルツの場(音や光の波)も二階です。r(重調和)は四階、r³(三重調和)は六階の方程式から生まれます。1/r²やガウスの形は、回転させても形の変わらない局所の方程式からは、どの階数でも生まれません。

場が二階の方程式から生まれると、皮の上で決まる数は、型ごとに1個で足ります。四階なら2個、六階なら3個です。外へ出る数の個数は、その場を生む方程式の階数の半分です(同じ場を生む方程式がいくつかあるときは、一番低い階数で数えます)。このつながりは、数学では昔から知られています(アルマンシの展開、1899年)。逆に、こうした方程式から生まれない場では、中の細かい散らばりまで少しずつ外へ漏れ出し、個数が止まりません。

この違いは、場の式を角度の型に分けたときに見えます。1/rの式を分けると、各項がちょうど一つの型に収まります。1/r²の式を分けると、一つの項がいくつもの型にまたがります。論文では、この「またがり方」の係数が、1/rでは一つの型だけ、重調和では二つの型だけ、1/r²では偶数のすべての型に入ることを確かめました。

4πが皮に残るのは、質量のない場のときだけ

外へ出る数が型ごとに1個であることと、皮の上の総量が半径によらず保たれることは、別の話です。点の源から出る場が、球の皮をどれだけ貫くか(流束)を、半径を変えて測ります。

実験4場に重さを持たせて、流束を測る

つまみで場の重さκを変えます。κ=0が、重力や電気のような質量のない場です。

流束(半径1)
流束(半径4)

実験4 流束は4π(1+κR)e^(−κR)です。点は半径0.5、1、2、4での値です。

κ=0では、流束はどの半径でも4π=12.566です。これがガウスの法則です。κ=1にすると、流束は半径1で9.246、半径4で1.151と減っていきます。それでも、実験3のとおり、湯川の場で外へ出る数は型ごとに1個のままです。型0の数も一つ外へ出ますが、流束は半径とともに減り、その数をそのまま表さなくなります。

つまり、皮一枚で中身を代表できること(方程式が二階で局所的であること)と、皮の上に4πが保たれること(場の質量が0であること)は、理由が別です。電気の場合、場の質量が0であることは、破れていないゲージ対称性という性質が質量を許さないことに当たります。電荷が「遠くの球面の上の積分」として測れることは、ネーターの第二定理として知られています(論文107)。

中の数と、外の数

中を細かく刻むと、外から見えない部分がどれだけあるかが数えられます。

実験5中の未知数と、外から見える数

中を半径の向きに何段に刻むかと、角度の型を何次まで取るかを選びます。

中の未知数
外から見える数
見える割合

実験5 見える割合は1/Mで、角度の型の上限には依りません。

半径を20段、角度の型を10次まで刻むと、中の未知数は2420個、外から見える数は121個で、見える割合は5%です。外から見える数は皮の上の模様一枚分で、中の数は体積の分あります。中を細かく刻むほど、見えない部分が増えます。

境界から中が決まる問題もあります。体の表面に電極を当て、電圧と電流の対応を測ると、中の電気の通りやすさは一つに決まります(通りやすさが向きによらない場合。カルデロン問題、論文99)。どちらも境界で測る問題ですが、こちらは決まり、重さの散らばりは決まりません。測るものが「皮の上の関数から関数への対応」か、「皮の上の関数一つ」かが違うからです(論文1051)。

ホログラフィーと、どこが同じでどこが違うか

「境界が中身を表す」という言い方は、ホログラフィーの名でも語られます。けれど物理には、境界の大きさで決まるものが少なくとも三つあり、理由がそれぞれ違います。一つ目は、ここまで見てきた場の数です。理由は、場が二階の局所の方程式に従うことでした。

二つ目は、情報の量です。原子のように、近くどうしだけが結びついた物を、部分と残りに切り分けます。温かい状態では、部分と残りが共有する情報(相互情報量)は、切り口をまたぐ結びつきだけで上から押さえられ、部分の体積ではなく、切り口の面積で増えます。これはどの温度でも成り立ちます(Wolfら、2008年)。Wolfらの論文は、ホログラフィー原理を引き合いに出したうえで、それに似たことが、すでに確かめられた古典と量子の物理から出てくると書いています。いちばん低い状態の「もつれ」が面積で増えることは、質量のない自由な場でSrednicki(1993年)が計算で示しました。ただし、いちばん低い状態では、どんな物でもそうなるとは限りません。

立方体の一辺に対して、もつれ・相互情報量は傾き2で、部分の熱のエントロピーは傾き3で増える両対数の線
図2 ばねでつないだ三次元の格子から立方体を切り出したとき(論文の計算)。もつれと相互情報量は傾き2(面積)、部分の熱のエントロピーは傾き3(体積)で増えます。

論文の計算では、もつれは一辺の2.07乗と2.08乗で、相互情報量は2.02乗で、部分の熱のエントロピーは2.95乗で増えました。熱のエントロピーは体積で、共有する情報は面積で増えます。理由は相互作用が近くどうしだけであることで、場の方程式の階数とは別の理由です。

三つ目が、重力のホログラフィーです。ブラックホールのエントロピーは地平線の面積で決まります(論文1093)。量子重力では、エネルギーが境界の項になることが、境界に情報があるという考えの足場の一つになっています(Laddhaら、2021年)。ここで見た「外から見えるのは型ごとに一つの数」は、それとは別の、古典の場の話です。二つが重なるのは、重力ではエネルギーが型0の数として皮に出る、という所だけです。

人の体の重力は、この上限からは遠く離れています。重さ70 kgの物を同じ体積の球と見ると、重力のコンパクトさ2GM/(Rc²)は4.07×10⁻²⁵で、体の熱のエントロピーは、重力の決める面積の上限の10⁻⁴²から10⁻⁴⁰の大きさしかありません。

モジュールという直感について

はじめの考えに戻ります。いびつな物でも、切り分ければ一つ一つが外から単純なカプセルに見える。これは正しいことが分かりました。重力や電気では、どんな形で切っても、外へ出るのは皮一枚の模様だけで、その模様を変えない動きなら、中は外から見えずに動けます。

ただ、それを決めているのは、中の密度が1/r²であること(論文02のm=4π)ではありませんでした。どんな密度でも、場の方程式が二階で局所的であれば、カプセルになります。密度1/r²のもう一つの「2」は、球殻の重さがそろう性質(論文01)と、地平線のつり合い(論文1092)の側にありました。体のほとんどは、cmの目盛りではほぼ一様な密度で、密度1/r²のモジュールではありません。それでも、カプセルの性質は成り立ちます。

よくある問い

外からは、中身が何も分からないのですか?

何も分からないわけではありません。角度の型ごとに一つずつ、たとえば全部の重さ(型0)や重心の片寄り(型1)は分かります。分からないのは、それ以外の、皮の上の模様を変えない散らばりです。

これでホログラフィー原理が確かめられたのですか?

いいえ。ホログラフィー原理は重力とエントロピーの上限の話で、ここではそれを示していません。ここで確かめたのは、境界の大きさで決まるものが三つあり、理由がそれぞれ違う、ということです。

球でなくても成り立つのですか?

成り立ちます。実験1は立方体で、入れ替えの山も中心からずらしてあります。外から見えない入れ替えΔφは、どんな形の中でも作れます。

論文と文献

論文はどれもCC BY 4.0で公開しています。

  • 論文1107「場の方程式が二階なら、閉じた皮の外から読める中身は、角度の型ごとに一つの数である」:このページの計算のもと。
  • 論文01「球対称密度分布におけるn=2の唯一性定理」:球殻の重さがそろう密度1/r²。
  • 論文02「4π質量相殺定理」:m=4π。
  • 論文99「境界から内部を読む」:カルデロン問題。
  • 論文107「二つのネーター」:電荷は境界の積分。
  • 論文1051「境界から内部が決まるかは、何を何個測るかで決まる」:未知数とデータの数。
  • 論文1092「密度1/r²の「2」は二つあり、球殻の重さの2と地平線のつり合いの2が重なるのは3次元だけである」:二つの2。
  • 論文1093「ブラックホールのエントロピーは3次元では地平線の断面の円盤の面積と同じ数で、写真に写る影の円盤はその27/4倍である」:重力のエントロピー。
  • Srednicki, M. (1993). Entropy and area. Physical Review Letters.
  • Wolf, M. M., Verstraete, F., Hastings, M. B., and Cirac, J. I. (2008). Area laws in quantum systems: Mutual information and correlations. Physical Review Letters.
  • Laddha, A., Prabhu, S. G., Raju, S., and Shrivastava, P. (2021). The holographic nature of null infinity. SciPost Physics.