前の記事「逆二乗則の地図」で、横に距離の指数、縦に空間の次元をとった一枚の地図を描きました。その地図には、黄色く塗った斜めの列があります。指数がちょうど次元と同じになる所で、ここでは足し算がいつまでも止まりません。
「空いているマス目に、まだ定理が眠っていないだろうか」。そう思って、この黄色の斜めを数で調べてみました。わかったのは、止まらない足し算が、三つの部品にきれいに分かれるということです。この記事では、式をなるべく使わずに、その中身を図で紹介します。くわしい計算は論文1098 にまとめました。
方眼紙の点を、円の中で足してみる
方眼紙の格子の点(縦も横も整数の所)を思い浮かべてください。真ん中の点を原点にして、ほかの点それぞれに「距離の 2 乗分の 1」の重みを付けます。近い点ほど重く、遠い点ほど軽い。重力や光の明るさと同じ、逆二乗の重みです。
この重みを、半径 R の円の中にある点の分だけ足してみます。
- 半径 10:点は 316 個で、和は 17.079016
- 半径 100:点は 31,416 個で、和は 31.520224
- 半径 1000:点は 3,141,548 個で、和は 45.987645
点の数がほぼ π×R² になっているのも面白いところですが、見てほしいのは和のほうです。半径を 10 倍にするたびに、和はおよそ 14.467569 ずつ増えていきます。いつまでも止まりませんが、増え方はとてもゆっくりです(数学では「対数で増える」と言います)。

なぜ止まらないのか:どの輪も同じだけ足す
理由は、点を輪に分けるとよく見えます。半径 1〜2、2〜4、4〜8 というように、外へ行くたびに半径を 2 倍にした輪を考えます。外の輪ほど点の数は多く(8 個、36 個、148 個、600 個と、ほぼ 4 倍ずつ)、一つ一つの重みは軽く(距離が 2 倍なので 4 分の 1)なります。この二つが打ち消し合って、どの輪もほとんど同じだけ和に足します。

同じだけ足す輪が、どこまでも続く。だから和は止まりません。これは、平面(2 次元)で指数が 2 のとき、つまり指数と次元が等しいときにだけ起きることで、地図の黄色の斜めの正体です。
増える分を取り除くと、「方眼紙の数」が残る
増え方はわかっているので、その分(2π ln R)を引いてみます。すると、和は 2.584982 という一つの数に落ち着きました(図 1 の右)。
この数は、方眼紙という格子そのものが持っている数です。じつは昔から知られた式(クロネッカーの極限公式)で書けて、オイラーの定数 γ や、Γ(1/4) という特別な数が顔を出します。ここでは「方眼紙の数」と呼んでおきます。
正方形で足すと、円より 0.691310 大きい
では、円ではなく正方形で囲んで足したらどうなるでしょう。半分の辺が R の正方形で足して、同じように増える分を引くと、答えは円のときより 0.691310 大きくなりました。格子で実際に数えると、R=3000 で 0.692372 まで近づいています。この 0.691310 は 2π ln 2 − 4G という形をしていて、G はカタランの定数(0.915966)と呼ばれる数です。
形がどこに入るのかを調べると、答えはとても素直でした。原点から縁までの距離を、あらゆる向きについて測り、その「対数の平均」をとる。形の効き目は、それだけで決まります。言い換えると、R が大きいとき、どんな形で足しても、「縁までの距離の幾何平均」を半径とする円で足したのと同じになります。私はこれを「効きの半径」と呼んでいます。
- 正方形(半分の辺 1)の効きの半径は 1.116306。同じ面積の円の半径 1.128379 より、ほんの少し小さくなります。
- 楕円(半径 2 と 1)の効きの半径は 1.333333。二つの半径の調和平均 2×2×1÷(2+1)=4/3 と、ぴったり同じです。同じ面積の円の半径は 1.414214 です。

同じ大きさなら、円(球)がいちばん得
効きの半径は、いつも「同じ面積(体積)の円や球の半径」以下になります。等しくなるのは、原点を中心にした円や球のときだけです。数学ではイェンセンの不等式と呼ばれる関係から、すぐに出てきます。

重みの大きい近い点から順に取っていくのがいちばん得、という直感を、そのまま数にした形です。3 次元の立方体と 4 次元の立方体でも、格子の点を実際に足して確かめました(立方体で 2.416955、4 次元の立方体で 5.099693 という形の数に寄っていきます)。
方眼紙を三角に替えても、形の数は変わらない
次に、格子そのものを替えてみます。玉を平らにいちばん密に並べたときの並び(三角の格子)にして、点の密度は方眼紙とそろえます。
すると「方眼紙の数」にあたる数は 2.518477 に変わりました(方眼紙より 0.066504 小さい)。ところが、正方形と円の差は、R=1000 で 0.691593 と、方眼紙のときと同じ 0.691310 に寄っていきます。

形の数は格子を知らず、格子の数は形を知らない。三つの部品は、互いに混ざりませんでした。三角の格子の数には、方眼紙の Γ(1/4) の代わりに、Γ(1/3) という別の特別な数が出てきます。
次元を変えると、格子の数の「顔」が変わる
同じことを、1 次元から 8 次元まで調べました(重みは「距離の次元乗分の 1」)。格子の数は、次元ごとに違う「顔」を見せます。
- 1 次元:2γ=1.154431。オイラーの定数だけでできています。調和級数の話で、ジップの法則を扱った論文435 と同じ場所です。
- 2 次元:2.584982。Γ(1/4) が出ます。
- 4 次元:4.632326。グレイシャーの定数 A(1.282427)が出ます。
- 6 次元:5.677514。β′(3) と ζ(3) が出ます。
- 8 次元:8.337340。式の中の ln 2 が、ちょうど打ち消し合って消えます。
- 3・5・7 次元:3.821924・5.131696・6.662093。今回の道では閉じた式にならず、数としてだけ出ました。

私たちの住む 3 次元の数 3.821924 は、この道では閉じない側にいました。ほかの道で閉じるかどうかは、まだ確かめていません。また、閉じた次元 1・2・4・6・8 は、数の世界で有名な 1・2・4・8(実数・複素数・四元数・八元数)と似ていますが、6 が入るところが違います。並びが似ているだけでは同じ根とは呼ばない、というのが私の決まりです。
磁石の向きの重みでは、形の数だけが残る
ここまでは、どの向きにも同じ重みを付けてきました。今度は、棒磁石の向きのように、縦の向きにはプラス、横の向きにはマイナスの重みを付けてみます(双極子の重み)。ぐるっと一周して平均すると、ちょうど 0 になる重みです。
すると、止まらずに増える分が消えます。方眼紙の数も、輪ごとにプラスとマイナスが打ち消し合って 0 になります。残るのは形の数だけで、それは物理で「反電場係数(反磁場係数)」と呼ばれている量そのものでした。
- 球で足すと 0
- 細い針で足すと 4π/3=4.188790
- 薄い板で足すと −8π/3=−8.377580

反電場係数は、磁石や誘電体の形によって、中の場がどれだけ弱まるかを表す数で、教科書では楕円体の積分で計算します。それが、「縁までの距離の対数を、磁石の向きの重みで平均したもの」と一行で書けることになります。前の論文1097 で、格子に並べた双極子の和が、球で 0、針で 4π/3、板で −8π/3 になると数えましたが、その数はこの形の数だけから出ていました。
格子の回り方と、重みの回り方が合うと、残る
最後に、もう少し細かい模様の重みを試しました。一周するあいだに、プラスの山が 4 つ、マイナスの谷が 4 つある重み(cos4θ)です。これも平均すると 0 なので、止まらずに増える分はありません。
ところが、方眼紙では輪ごとに打ち消し合わず、和は 2.507655 という数に落ち着きました。三角の格子では、どの輪もきっちり打ち消し合って 0 になります。山と谷が 6 つずつの重み(cos6θ)では、その逆になり、三角の格子で 4.501541 が残りました。

方眼紙は 90 度回すと元に戻り、三角の格子は 60 度回すと元に戻ります。重みの模様が、格子を回しても変わらないときだけ、和が残るのです。残った数を高い精度で計算して、数どうしの関係を探す道具にかけると、方眼紙の 2.507655 は Γ(1/4)⁸/(384π³)(レムニスケートの定数 ϖ を使うと ϖ⁴/(6π))、三角の格子の 4.501541 は √3Γ(1/3)¹⁸/(2048π⁸) という形と、40 桁以上一致しました(証明はしていません)。ここでも、方眼紙には Γ(1/4)、三角の格子には Γ(1/3) が出てきます。
まとめ:止まらない足し算の三つの部品
黄色の斜めの足し算は、次の三つに分かれました。
| 部品 | 何が決めるか | 例 |
|---|---|---|
| 止まらずに増える分 | 重みを一周平均した値(平均が 0 なら消える) | 方眼紙で、半径 10 倍ごとに +14.467569 |
| 格子の数 | 格子と次元(形にはよらない) | 方眼紙 2.584982、三角の格子 2.518477、3 次元 3.821924 |
| 形の数 | 縁までの距離の対数の平均(格子にはよらない) | 正方形 0.691310、磁石の重みでは反電場係数 |
何を動かすと別物になるか(私は分離子と呼んでいます)は、二つありました。重みを一周平均して 0 になるかどうかで、止まらない増え方があるかが決まります。格子を回したときにその重みが輪ごとに消えるかどうかで、格子の数が残るかが決まります。形の数は、いつも残ります。
この記事について
この記事は、新しい法則を主張するものではありません。エプスタインのゼータ関数、クロネッカーの極限公式、反電場係数など、使った道具はどれも昔から知られたものです。私がしたのは、それらを逆二乗則の地図の黄色の斜めに並べ、三つの部品に分けて、1 次元から 8 次元まで数で確かめたことです。数はすべて、論文の検算のスクリプトが出したものです。どの論文も、査読を経ていないプレプリントです。
- 論文1098 指数が次元に等しい格子の和では、形は縁までの距離の対数の平均として入る
- 論文1097 格子に並べた双極子の場の和は足す形で決まり、球で 0、細い針で 4π/3、薄い板で −8π/3 になる
- 論文1094 商圏の重力モデルの「距離の 2 乗」は、地図の上では客の総数がちょうど収まらなくなる境目の指数である
- 論文435 どの順位でも一定なのに、合計は決まらない
- 論文230 「−」は七つあり、そのうち一つは足し算を戻さない
- 論文01 球対称密度分布における n=2 の唯一性定理
地図の全体は、前の記事「逆二乗則の地図」にあります。