物理と数学には「そうなるしかない」ことがたくさんあります。ボールをどう握りつぶしても、表面の曲がりを全部足すと同じ数になります。摩擦がなければ、回るコマは回り続けます。5 次方程式には、2 次方程式のような解の公式がありません。3 次元の空間では、重力も光も距離の 2 乗で弱まります。
どれも「決まっている」と言います。けれど、なぜ決まっているのかと聞くと、答えの種類が違います。私は論文86 で、この「なぜ」を四つに分けました。形、対称性、代数、次元です。このページでは、それぞれを部屋と呼びます。
部屋の見分け方は単純で、壊してみることです。壊そうとしても壊れないもの、壊れるときの壊れ方が、部屋ごとに違います。ここではスライダーとボタンで実際に壊しながら、四つの部屋を回ります。最後に、部屋の数を数えたら足りなかった話をします。論文1050 で、私自身の論文を読み直して数えた結果です。
この文章は、査読を経ていない、著者自身による公開(プレプリント)の論文の内容をまとめたものです。部屋の分け方は私の分類で、ガウス、ネーター、ガロアの定理と重さを比べるものではありません。分けているのは、決まり方の種類です。動かせる図は、このページのために作りました。

要点
- 「決まっている」には種類があります。形、対称性、代数、次元で、決まり方が別です。
- 見分ける方法は壊してみることです。穴を開ける、対称性を崩す、次数を上げる、次元を変える。動くものが部屋ごとに違います。
- 部屋どうしはつながることがあります。ただ、つながっていることと、同じであることは別です。
- 題名で「一意」「ただ一つ」などを名乗る私の論文 64 本を読むと、42 本が四つの部屋の外にありました。部屋を足していっても、29 本は名前のないまま残りました。
形の部屋:どう引っ張っても、合計は動かない
サイコロのような多面体を思い浮かべてください。一つの頂点に集まる面の角を足しても、平らな 360 度には届きません。足りない分を、その頂点の「角の欠け」と呼びます。立方体なら一つの頂点に 90 度の角が三つ集まるので、欠けは 90 度です。頂点は 8 個あるので、合計は 720 度です。
この合計を、壊してみます。
点をつまんで動かすと、形が変わります。点のない所をなぞると、全体が回ります。
- 頂点の数 V
- 辺の数 E
- 面の数 F
- V−E+F
- つまんだ頂点の欠け
一つの頂点の欠けは大きく動きます。正二十面体の 60 度が、引っ張ると 113.87 度にもなります。それでも合計は 720.00 度のままです。
理由は三角形にあります。どんな形の三角形でも、内角の和は 180 度です。だから、面が全部三角形の多面体では、角の欠けの合計は 360V−180F になり、頂点と面の数だけで決まります。面の数 F と辺の数 E の間には 3F=2E という関係があるので、この式は 360×(V−E+F) と書き直せます。位置をいくら動かしても、数は変わりません。
穴を開けると V−E+F が 2 から 0 に変わり、合計も 720 度から 0 度に跳びます。途中の値は通りません。形の部屋の数を決めているのは、形の細かい様子ではなく、穴がいくつあるかという種類です。なめらかな面でこれを言ったものが、ガウス=ボネの定理です。720 度はラジアンで 4π です。
もう少し正確に
向きづけられた閉曲面 M では、ガウス曲率 K の積分は ∫K dA=2πχ(M) で、χ はオイラー標数です。球面は χ=2 なので 4π、穴が g 個の面は χ=2−2g です。多面体の形はデカルトの角の欠損の定理で、論文224 と論文67 で扱いました。
対称性の部屋:時間がたっても、減らない
次の部屋の「動かない」は、意味が違います。今度は形を揉むのではなく、時間を進めます。
平らな机の上で、ばねにつないだ玉を回します。どの向きにも同じ強さで引かれるなら、回る勢い(角運動量)は保たれます。ばねの強さが時間で変わらないなら、エネルギーも保たれます。
ネーターの定理は、これが偶然ではないと言います。回しても法則が同じなら、回る勢いが保たれる。時間をずらしても法則が同じなら、エネルギーが保たれる。変え方が一つあるごとに、保たれる量が一つあります。
本当に対応しているかは、片方の対称だけを崩せば分かります。
「回転の崩し」は向きによって引く強さを変えます。「時間の崩し」はばねの強さを時間で変えます。グラフの点線が、保たれているときの高さです。
- エネルギーの揺れ
- 回る勢いの揺れ
| 崩したもの | エネルギーの揺れ | 回る勢いの揺れ |
|---|---|---|
| 何も崩さない | 0.00 % | 0.00 % |
| 回転だけ(0.4) | 0.00 % | 197.53 % |
| 時間だけ(0.4) | 184.10 % | 0.00 % |
| 両方(0.4) | 168.05 % | 242.92 % |
回転の対称だけを崩すと、回る勢いだけが揺れて、エネルギーは動きません。時間の対称だけを崩すと、その逆です。保たれる量は、対応する対称にだけ頼っています。
形の部屋との違いは、入力が要ることです。形の部屋の 720 度は、何も頼まなくても動きません。対称性の部屋の保存量は、対称性があるときにだけ現れます。どちらも「動かない」と言いますが、動かない相手が違います。
もう少し正確に
作用 S=∫L dt が連続変換の下で不変なら、対応する保存量が一つあります。時間並進にはエネルギー、空間並進には運動量、回転には角運動量が対応します。実験の模型は、質量 1 の玉に U=½k(t)(x²+(1+ε)y²)、k(t)=1+δ sin(1.7t) を与え、速度ベルレ法で刻み 0.01 で解いています。論文80 と論文84 で扱いました。
代数の部屋:できるか、できないか
三つ目の部屋では、動かないのは値ではありません。決まっているのは、できるか、できないかです。
2 次方程式には解の公式があります。3 次にも 4 次にもあります。5 次には、足し算、掛け算、根号だけで書ける公式がありません。ルフィニとアーベルがそれを示し、ガロアが理由を「解の入れ替え」の言葉で説明しました。
n 次方程式の解は n 個あるので、入れ替え方は全部で n! 通りです。ここで、二つの入れ替え a と b の「差」を考えます。a をして、b をして、a を戻して、b を戻す。a と b の順番が関係なければ、元に戻ります。戻らなければ、その分が差です。
差を全部集めると、入れ替えの仲間が小さくなります。根号を一段使うことが、この差を一段取ることに当たります。差を取り続けて 1 通り(何もしない)まで落ちれば、公式があります。
次数を選び、「差を取る」を何度か押してください。
| 次数 | 差を取ったときの入れ替えの数 | 解の公式 |
|---|---|---|
| 2 次 | 2→1 | ある |
| 3 次 | 6→3→1 | ある |
| 4 次 | 24→12→4→1 | ある |
| 5 次 | 120→60→60→… | ない |
| 6 次 | 720→360→360→… | ない |
なぜ 5 で止まるのか。手で確かめられます。三つの玉を回す動きを a と b にして、差を取ります。玉が 4 個のときと 5 個のときを比べてください。
上から順に a、b、a を戻す、b を戻す、と進みます。a は左から三つの玉を回し、b は右から三つの玉を回します。
玉が 4 個だと、二つの回転は重なりすぎて、差は「二組の入れ替え」になります。この形は、もう一度差を取ると消えます。玉が 5 個あると、二つの回転が一か所だけで重なるように置けて、差がまた三つの回転になります。三つの回転がいくらでも生き残るので、差を取っても 60 通りから減りません。5 という数は、回転が逃げ続けるのに足りる場所の数です。
なお、公式がないのは文字のままの一般の 5 次方程式の話で、x⁵=2 のように根号で解ける式はあります。
もう少し正確に
方程式が根号で解けることと、ガロア群が可解であることは同じです。可解とは、交換子群を取り続けて単位群に達することです。対称群 S₅ の交換子群は A₅ で、A₅ の交換子群は A₅ 自身なので、列は止まります。実験 4 の a=(1 2 3)、b=(3 4 5) では、交換子は三つの巡回になります。論文85 で扱いました。
次元の部屋:その次元で、ただ一つ
四つ目の部屋は、私自身の定理の部屋です。
中心からの距離 r で、密度が 1/rⁿ の形で薄まるとします。同じ厚さの皮を考えると、皮の面積は外へ行くほど広がり、密度は薄まります。3 次元では、面積が r² で増えるので、n=2 のときだけ打ち消し合って、どの皮も同じ重さになります。ほかの指数では、外の皮か内の皮のどちらかが重くなります。
これが論文01 の唯一性定理です。空間の次元を変えると、答えが動きます。4 次元なら n=3 です(論文08)。
皮の線の太さが、皮の重さです。グラフの点線に重なれば、どの半径でも同じ重さです。
- 皮の重さの指数 d−1−n
- 半径 2 倍で皮の重さは
ここで指数を決めているのは、形でも、時間でも、入れ替えでもありません。空間の次元です。条件を一つ置くと、次元が答えを一点に絞ります。この定理は唯一性定理のページで、もっと詳しく動かせます。
もう少し正確に
3 次元で ρ(r)=r⁻ⁿ の球殻の質量の増え方 dm/dr は 4πr²⁻ⁿ で、半径に依らないのは n=2 だけです。一般の次元では r の (d−1−n) 乗になるので、n=d−1 だけが残ります。このとき単位球の中の総量は全立体角に一致し、3 次元では 4π です(論文02)。
四つを比べる:何に対して動かないのか
四つの部屋を並べると、同じ「決まっている」の中身が別だと分かります。
| 部屋 | 問い | 決まるもの | どう壊すか | 代表 |
|---|---|---|---|---|
| 形 | どう変形しても動かないのは何か | 数(720 度、4π) | 穴を開ける | ガウス=ボネ |
| 対称性 | 時間がたっても動かないのは何か | 保たれる量 | 対称を崩す | ネーター |
| 代数 | できることとできないことを分けるのは何か | できるか、できないか | 次数を変える | ガロア |
| 次元 | その次元でただ一つなのは何か | ただ一つの指数 | 次元を変える | 唯一性定理 |
言葉が同じでも、部屋が同じとは限りません。ガロアの入れ替えもネーターの回転も「対称性」と呼ばれますが、片方はとびとびの入れ替えで、片方はなめらかな変え方です。実験 3 の入れ替えに、保たれる量は出てきません。
部屋はつながることもあります。
- 次元の部屋3 次元では、皮の重さがそろう指数は n=2 だけ
- そこから距離の 2 乗で弱まる形が出る
- 形の部屋全方向を足すと 4π になる
一本の鎖に見えます。けれど、壊し方が違います。穴を開けると 4π は動きますが、n=2 は動きません。次元を変えると n=2 は動きます。動かすものが別なので、別の部屋です。つながっていることと、同じであることは別です。数の一致だけで部屋を同じと見なさない、というのが論文86 のいちばんの要点でした。
どれも私の論文の題名や中身です。札は論文1050 の表のとおりです。
どんな地図も、必ず何かを歪める。角度と面積を同時に保つ地図はない。
球の曲がりは、どの地図に写しても消えません。形の部屋です(論文212)。
電流を流すと、付く金属の重さは一通りに決まる。銅なら 1 A を 1 時間で 1.185494 g。
電荷の保存が決めています。対称性の部屋です(論文713)。
干支は 120 通りではなく、60 通りしかない。
10 と 12 の最大公約数が 2 なので、現れる組が半分になります。代数の部屋です(論文605)。
でたらめに歩くと、2 次元では必ず元の場所へ帰ってくるが、3 次元ではそうならない。
帰ってこられるかを決めるのは、次元で決まる分母の指数です。次元の部屋です(論文199)。
「必ず終わる」と「必ず正しい」は、取り替えられない。
計算の手続きの話で、四つのどれにも入りません。次の節は、この「どれでもない」の話です(論文844)。
部屋の外の 42 本:四つでは足りなかった
論文86 で、私は「少なくとも四つ」と書きました。四つで尽きるとは書いていません。尽きるかどうかは、数えれば分かります。そこで論文1050 で、自分の論文を点呼しました。
読む論文を私の好みで選ばないように、当時の 1,048 本から、題名に「一意」「唯一」「ただ一つ」「しかない」「のみ」「必ず」のどれかを含むものを機械で取り出しました。64 本ありました。これを一本ずつ読んで、札を貼りました。
| 札 | 本数 |
|---|---|
| 形 | 3 |
| 対称性 | 2 |
| 代数 | 10 |
| 次元 | 6 |
| 二つ以上の混ざり | 1 |
| どれでもない | 42 |
およそ三分の二が、四つの部屋の外に落ちました。別の読み手なら別の札を貼る論文もあるはずです。そこで札は表に固定して、誰でも確かめられるようにしました。下の粒を押すと、一本ずつ題名が読めます。
次の手は部屋を足すことです。因果(順序だけで決まること)と、情報の上限(これ以上は入らないということ)を足して六つにする案は、自然に見えます。試します。
上のボタンで部屋を足すと、粒の札が変わります。粒を押すと論文の題名が出ます。「?」が、まだどの部屋にも入らない粒です。

六つにしても、戻ってきたのは 1 本だけでした。逆問題を足して七つにしても 39 本が残ります。測度、手続きでは決まらないこと、単位と規約、論理と、名前を付けられるだけ付けても、29 本が残りました。残りは減りますが、0 にはなりません。
網にかからないもの:情報の上限
六つにしたとき、情報の上限の部屋に入った論文は 0 本でした。論文がなかったのではありません。論文73、論文88、論文112 はこの話をしていますが、64 本の中に入っていません。上限の主張は「これ以上は入らない」であって、「これ一つに決まる」ではないからです。題名に「一意」と書く理由がありません。点呼の網の目より細い、別の種類の決まり方です。
では、情報の上限は形の部屋に入るのでしょうか。上限は球面の面積 A で決まり(ベーケンシュタイン。プランク単位で A/4)、形の部屋の 4π も球面の上の量です。同じ部屋に見えます。これも壊して確かめられます。半径を変えます。
スライダーで半径を動かします。縦軸も横軸も、一目盛りで 10 倍です。
- 曲率の積分
- 面積の上限 A/4
同じ球面から出た二つの量が、半径の変化にまったく違う動き方をします。片方は半径に依らず、片方は面積として増えます。だから、面積が入っているというだけでは、形の部屋に入れられません。部屋を足すときに怖いのは「実は元の部屋だった」ことで、それは尺度を変えれば確かめられます。
部屋の数は、閉じていない
私はここで数を閉じませんでした。いくつあれば足りるかは言えません。言えるのは、四つでは足りず、六つでも足りず、名前を付けられるだけ付けても 29 本が残ったことです。
29 本の中には、煙の量を決める天井の高さも、水平線も、木の真ん中も入っています。どれも「そうなるしかない」と言える話なのに、なぜそうなるしかないのかの種類に、まだ名前がありません。同じ部屋の仲間がいくつかいるのかもしれませんし、それぞれが別の部屋かもしれません。
ガウスが曲がりの合計に気づき、ネーターが対称性と保存量を結び、ガロアが入れ替えで不可能を説明したとき、部屋に名前が付きました。部屋の数が閉じていないということは、名前のついていない「そうなるしかない」が、まだ見つかる余地があるということです。次の部屋に名前を付けるのは、このページを読んでいるあなたかもしれません。
よくある質問
四つの部屋は間違いだったのですか?
いいえ。論文86 は四つを区別したのであって、四つで尽きるとは書いていません。論文1050 が足したのは、書かれていない側の数です。ただ、一つ分かったことがあります。論文1050 を書いた時点で、論文86 を引く論文は 46 本あり、最後は番号 175 で、それ以降の 874 本は一度も引いていませんでした。同じころに書いた論文300 を引く論文は、その時点で 334 本あり、最大は番号 1027 でした。反証された形跡はなく、なぜ止まったかは測っていません。
四つを一つにまとめることはできないのですか?
このページでは、まとめません。部屋どうしがつながることと、同じであることは別だからです。分けて数えること自体が、論文86 の要点でした。
部屋は全部でいくつあるのですか?
分かりません。論文1050 は「四つでは足りない」を数で示しましたが、「いくつで足りる」は言っていません。
64 本は著者の論文だけです。世界全体の話と言えるのですか?
言えるのは、私の論文のうち題名で一意を名乗る 64 本についてです。ただ、四つの部屋の名前である定理は世界の共有財産で、外に落ちた論文の題材(煙、水平線、木の中心など)も世界の話です。点呼の単位を変えれば数は動くので、同じやり方で別の論文の集まりを数えることもできます。
論文と文献
論文はどれも CC BY 4.0 で公開しています。もとの二本は論文86「必然性の四つの根」と論文1050「必然の根は四つでは足りず、六つでも足りない」です。
- Gauss, C. F. (1827). Disquisitiones generales circa superficies curvas、Bonnet, O. (1848):ガウス=ボネの定理。
- Descartes, R. (1860). De solidorum elementis:角の欠損の定理。
- do Carmo, M. P. (1976). Differential Geometry of Curves and Surfaces. Prentice-Hall.
- Noether, E. (1918). Invariante Variationsprobleme. Nachr. Ges. Wiss. Göttingen.
- Galois, É. (1846, 没後). Œuvres mathématiques:J. Liouville 編。
- Bekenstein, J. D. (1973). Black holes and entropy. Physical Review D.
- Zeeman, E. C. (1964). Causality implies the Lorentz group. Journal of Mathematical Physics.