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ダンベルとドーナツの雲は、満たすとまん丸に戻る:半分と満杯の殻は、外から形が読めない

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化学や物理の本には、電子の雲の絵が並んでいます。pの雲は縦長のダンベル、dの雲は四つ葉や、ドーナツを巻いたダンベルです。原子は、本当にこんなにでこぼこした形をしているのでしょうか。その形は、外から見えるのでしょうか。そして、ドーナツの形は、電子が中心へ落ちるのを防いでいるのでしょうか。

前の読みもの「箱の中身を入れ替えても、外の重力は少しも変わらない」で、閉じた皮の外から読めるのは、角度の型ごとに一つの数だけだと確かめました。今回は、その数を電子の雲で数えます。殻に電子を一つずつ入れていくと、外へ出る数は増えたり減ったりしますが、ちょうど半分と満杯のところで全部0になり、雲はまん丸に戻ります。

この文章の計算は、このページのために新しく行ったものと、査読を経ていない、著者自身による公開(プレプリント)の論文によります。

要点

  • 電子の雲の形は、外の電気の場には「角度の型ごとの数」として出ます。一つの殻の雲が出せる型は決まっていて、pの雲は型2だけ、dは型2と型4、fは型2・4・6だけです。
  • 殻に電子を一つずつ入れると、外へ出る数の個数は増えたり減ったりし、ちょうど半分(部屋ごとに1個)と満杯で0個に戻ります。雲はまん丸になり、外から形は読めません。
  • まん丸に戻る理由は、同じ殻の部屋を全部足すと、濃さがどの向きでも(2ℓ+1)/4πになることです。分母の4πは、全部の向きの大きさです。
  • 部屋の数1・3・5・7を積むと正方形になります。その数n²は4次元の球面の上に描ける模様の数と同じで、水素の殻の席の数2n²はここから出ます。
  • 雲のドーナツの形は、水素の電子が中心へ落ちない理由ではありません。雲の形が落ちるかどうかを分けるのは、中心の近くで引きつけるポテンシャルがちょうど1/r²(力は距離の3乗に反比例)のときだけです。

雲の絵は、向きごとの濃さを描いている

電子の雲の絵は、電子がどの向きに見つかりやすいかを描いたものです。原点から見て、ある向きの濃さを、その向きの長さにして点を打つと、図1のような面ができます。中心からの距離による広がり(論文1096で数えた皮ごとの重さ)は、この絵には入っていません。

電子が入る部屋(軌道)は、角度の細かさℓで分かれます。ℓ=0がs、1がp、2がd、3がfで、同じℓの部屋は2ℓ+1個あります。図1は、pとdの部屋の雲を一つずつ足していったものです。

pとdの電子の雲の形を、向きごとの濃さを長さにした面で八つ並べた図。上の段はp_zの縦のダンベル、p_zとp_xの和、p_xとp_yの和のドーナツ、pの三つ全部の球。下の段はd_z²、d_xzの四つ葉、dの三つ、dの五つ全部の球
図1 pとdの雲の形。向きごとの濃さを、原点からの長さにして描きました。一つ、二つ、三つと足すと形が変わり、全部の部屋がそろうとまん丸になります。

pzだけなら縦のダンベル、pxとpyを足すと横に平たいドーナツです。三つ全部を足すと、でこぼこが消えて球になります。dの五つでも同じです。

電子を一つずつ入れて、外へ出る数を数える

雲のでこぼこは、外の電気の場にどう出るでしょうか。前の読みものと同じ道具を使います。雲の向きごとの濃さを型に分けると、型0は全部の電荷、型1は片寄り、型2は楕円のような伸び(四重極)で、型4、型6と細かくなります。同じ型ℓ′には向きの違いで2ℓ′+1個の数があり、皮の外からは、その一つ一つが読めます。

一つの殻の電子は、中心からの距離による広がりがみな同じです。そのため、外へ出る数は、向きごとの濃さだけで決まります。ここでは、型1から上の数のうち、0でないものの個数を「外へ出る数」と呼んで数えます。

部屋の選び方は二通りあります。px・py・pzのように向きの決まった部屋(実の軌道)と、z軸のまわりを回るm=+1・0・−1の部屋(回る軌道)です。回る軌道の雲は、z軸のまわりに回しても形が変わりません(ドーナツやダンベル)。

実験1殻に電子を一つずつ入れる

ボタンで殻と部屋の選び方を選び、つまみで電子を一つずつ入れます。もう一つのつまみで、雲をz軸のまわりに回して見られます。

入れた電子/満杯
外へ出る数(0でないもの)
雲の形

実験1 雲は、向きごとの濃さを原点からの長さにした面を網で描き、いちばん長い所で大きさをそろえました。棒は型2・4・6の外へ出る数の強さで、その殻に電子を入れていく間の最大で割っています。外へ出る数は、10⁻¹⁰より大きいものを数えました。

p殻に実の軌道で1個入れると、外へ出る数は1個、2個で3個です。3個目で部屋ごとに1個ずつ、ちょうど半分になり、外へ出る数は0個に戻ります。4個目からは同じ並びがもう一度くり返され、6個で満杯になると、また0個です。並べると、0・1・3・0・1・3・0です。

d殻は0・2・6・2・4・0・2・6・2・4・0で、5個と10個で0個になります。f殻は7個と14個です(図2)。回る軌道で入れると並びは変わりますが(p殻なら0・1・1・0・1・1・0)、半分と満杯で0個になるのは同じです。

p・d・fの殻に電子を0個から満杯まで入れたときの、外へ出る数の個数の棒グラフ。pは3個と6個、dは5個と10個、fは7個と14個で0になる
図2 p・d・fの殻に電子を一つずつ入れたときの、外へ出る数の個数(実の軌道)。0個の所に印を付けました。そこで雲はまん丸です。

外へ出るのは、型2から型2ℓまでの偶数の型だけです。pの雲が出せるのは型2の数だけで、dは型2と型4、fは型2・4・6です。型1や型3のような奇数の型は、どの雲でも0です。雲の濃さは、正反対の向きでいつも同じだからです。

半分と満杯で、まん丸に戻る理由

理由は、部屋の足し算にあります。同じℓの部屋の雲を全部足すと、濃さはどの向きでもちょうど(2ℓ+1)/4πになり、でこぼこが消えます。球面調和関数の足し算の性質(加法定理)から出ることで、原子の物理ではウンゼルトの定理と呼ばれています。

実験2部屋を一つずつ足す

つまみでℓを選び、もう一つのつまみで、足す部屋の数を増やします。

全部足したときの濃さ(2ℓ+1)/4π
でこぼこの幅(最大−最小)

実験2 横は向きθ(真上の0度から真下の180度)、縦は濃さです。細い線は一つ一つの部屋、太い線は足した濃さ、破線は(2ℓ+1)/4πの高さです。足す順はm=0、+1、−1、+2、−2…で、濃さがz軸のまわりで変わらない部屋(回る軌道)で描きました。

ℓ=2で一つずつ足すと、でこぼこの幅は0.398、0.298、0.298、0.149と小さくなり、5個目で0になります。そのときの濃さは0.397887で、(2×2+1)/4πです。

半分の殻では、部屋ごとに電子が1個ずつ入っているので、雲の濃さはこの和そのものです。満杯では部屋ごとに2個なので、和の2倍です。どちらも、どの向きでも同じ濃さです。部屋の選び方を実の軌道から回る軌道に替えても、全部足した和は変わりません。

分母の4πは、全部の向きの大きさ(全立体角)です。濃さ(2ℓ+1)/4πを全部の向きで足し合わせると、部屋の数2ℓ+1が戻ってきます。前の読みもので、中心の点を皮に移したときの膜の濃さが1/(4π)だったのと同じ形です。

実際の原子でも、ネオン(2pに6個)や窒素(2pに3個)のいちばん低い状態では、電子全体の回る勢い(軌道角運動量)が0で、雲は丸くなります。

水素の雲で、縦の伸びを測る

外へ出る数がどれくらいの大きさかを、水素の2pの雲で測ります。縦(zの向き)への伸びを表す四重極Qzz=〈3z²−r²〉を、ボーア半径の2乗を単位にして計算しました(電子の電荷の符号は除いています)。

雲Qzz
縦のダンベル(pz)+24
横のダンベル(px)−12
ドーナツ(m=+1)−12
ドーナツ二つ(m=+1と−1)−24
三つ全部(pz・px・py)0

縦に伸びたダンベルは+24、横に平たいドーナツは−12です。縦のダンベル一つとドーナツ二つを足すと、+24−24でちょうど0になります。2pの雲の半径の2乗の平均〈r²〉は30で、縦のダンベルの24はその5分の4です。

部屋を積むと、正方形になる

ℓの部屋は2ℓ+1個あります。sは1、pは3、dは5、fは7です。一つの部屋には電子が2個まで(スピンの上向きと下向き)入るので、席の数は2、6、10、14で、周期表のs・p・d・fのブロックの幅になります(論文112)。

部屋の数を小さい方から積むと、1、1+3=4、1+3+5=9、16、25で、どれも正方形の数n²です。水素の原子では、殻nにℓ=0からn−1までの部屋があり、どれも同じエネルギーです。席の数は2n²で、2、8、18、32、50と並びます。

実験3部屋を積んで正方形を作る

つまみで殻の番号nを選びます。

部屋の数(n²)
席の数(2n²)

実験3 ℓ=0の部屋を角に置き、ℓ=1、2、…の部屋をL字に重ねていくと、一辺nの正方形になります。

周期表の行の長さは2、8、8、18、18、32、32です。2n²の数が並んでいますが、2を除いて二度ずつ出てきます。電子がたくさんある原子では、同じnでもs・p・d・fのエネルギーがずれ、満たす順が水素と変わるからです。原子核にも、殻が満ちると落ち着く数(魔法数)があります。ただし原子核では、部屋の数え方だけで合うのは最初の三つ(2、8、20)までで、四つ目からはスピン軌道結合というもう一つの機構が要ります(論文293)。

正方形の数n²には、別の顔があります。球面の上に描ける模様の数を、空間の次元を変えて数えました。

次数ℓ0123456
平面の円1222222
3次元の球面135791113
4次元の球面14916253649

4次元の球面の上では、次数ℓの模様が(ℓ+1)²個あり、ちょうど正方形の数です。フォックは1935年に、水素の束縛された電子の運動量の空間を4次元の球面へ写すと、エネルギーが同じ状態がその球面の上の同じ次数の模様になることを示しました。殻nの部屋がn²個そろって同じエネルギーになるのは、3次元の回転より大きな、この4次元の回転の対称性のためです(論文79)。平面の軌道で同じ写し方をすると、エネルギーが同じ速度の円が球の大円になることは、「惑星の速度の矢の先は円をえがく」で見ました。

雲のドーナツは、電子が中心へ落ちるのを防いでいるか

ドーナツの形の雲を見ると、電子は真ん中の穴を避けて回り、そのおかげで中心へ落ちないようにも見えます。けれど水素では、まん丸のsの雲でも、電子は中心へ落ちません。

落ちないのは、電子を狭い所に閉じ込めるほど動きが激しくなり、その分のエネルギーが距離の2乗に反比例して増えるからです。原子核の引きのポテンシャルは距離に反比例して深くなるだけなので、中心に近づくと、閉じ込めの分が必ず勝ちます。雲の形がなくても、電子は落ちません。

雲の形(ℓ)が、落ちるか落ちないかを分けるのは、中心の近くで引きつけるポテンシャルがちょうど1/r²のとき(力は距離の3乗に反比例)だけです。そのときだけ、引きと閉じ込めの分が同じ割合で深くなり、強さの比べ合いになります。三次元で、引きの強さをg(ħ²/2mを1とする単位)とすると、落ちる境はg=(ℓ+½)²で、sでは0.25、pでは2.25、dでは6.25です。回る勢いの壁ℓ(ℓ+1)/r²だけで比べた境0、2、6より、どれもちょうど1/4だけ高くなっています。回っていないsの状態でも、三次元では強さ0.25までは落ちません。この1/4は三次元の値で、二次元では0になります(論文1108)。ただし角度の型が守るのは、その型の状態だけです。

ちょうど1/r²の形のポテンシャルは、相対論の原子にも現れます。原子核を点とみなすと、クーロンのポテンシャルの二乗から1/r²の形の分が生まれ、いちばん内側の電子のエネルギーの標準の式は、原子番号がおよそ137を超えると実数の答えを持たなくなります。そこで数学が壊れるわけではないことも知られています(Voronovら、2007年)。実際の原子核には大きさがあり、話は原子番号およそ170の所へ移ります。

よくある問い

電子の雲は、本当にダンベルやドーナツの形をしているのですか?

雲の絵は、一つの部屋(軌道)の電子がどの向きに見つかりやすいかを描いたものです。同じℓの部屋は同じエネルギーなので、部屋の選び方は一通りではありません。実の軌道で書くとダンベル、回る軌道で書くとドーナツが出てきます。けれど、殻が半分や満杯のときは、どちらの選び方でも、全部足した雲はまん丸です。

外から形が読めないなら、中の電子の並び方は分からないのですか?

外の電気の場の、型ごとの数からは読めません。光の色(スペクトル)を調べるなど、別の測り方では読めます。

「4次元の球面」は、原子が4次元にあるという意味ですか?

いいえ。原子は3次元の空間にあります。4次元の球面は、電子の運動量の空間を写した先の、計算のための球です。エネルギーが同じ部屋の数を数えるのに、ちょうどよい見方になっています。

論文と文献

論文はどれもCC BY 4.0で公開しています。

  • 論文1107「場の方程式が二階なら、閉じた皮の外から読める中身は、角度の型ごとに一つの数である」:外から読める数。
  • 論文1108「角度の型が中心への落下を防げるのは、中心の近くで引きつけるポテンシャルがちょうど1/r²のときだけである」:落ちる境。
  • 論文1096「電子の雲の皮ごとの重さは、局所の指数がちょうど2の半径で山になり、円の状態ではそれがボーアの半径n²である」:雲の、中心からの距離による広がり。
  • 論文79「n=2の隠れた対称性」:逆二乗の力の余分な保存量と、4次元の回転の対称性。
  • 論文112「割り当てられた領域と、その中の自由」:s・p・d・fの席の数。
  • 論文293「魔法数は、二つの機構から出ている」:原子核の魔法数。
  • Fock, V. (1935). Zur Theorie des Wasserstoffatoms. Zeitschrift für Physik.
  • Voronov, B. L., Gitman, D. M., and Tyutin, I. V. (2007). Dirac Hamiltonian with superstrong Coulomb field. Theoretical and Mathematical Physics.