1964 年 3 月 13 日、物理学者のファインマンは、カリフォルニア工科大学の新入生に向けて、惑星がなぜ楕円をえがくのかを、高校の平面幾何だけで説明する講義をしました。その講義は長いあいだ忘れられ、録音と数枚のメモだけが残りました。のちにデイヴィッド・グッドスタインとジュディス・グッドスタインがそれを読み解き、1996 年に本にまとめました。
その講義の鍵が、速度の円です。惑星の速度の矢を、どの時刻のものも同じ一点から描くと、矢の先は円をえがきます(ハミルトン 1847)。私は論文1103 で、この円から軌道について何が読めるか、そして何がこの線を円にしているかを、数で確かめました。
この文章は、査読を経ていない、著者自身による公開(プレプリント)の論文の内容をまとめたものです。地球の速さの積は、この記事のために計算しました。
要点
- 惑星の速度の矢を一点から描くと、矢の先は円に並びます。地球なら、半径 29.7888 km/s の円で、中心は速さ 0 の点から 0.4975 km/s ずれています。
- 速さ 0 の点が円の内にあれば、軌道は楕円で、回り続けます。円の外にあれば双曲線で、去っていきます。
- 去っていく物の曲がる角は、速さ 0 の点から円を見込む角です。遠くでの速さは、そこから円に引いた接線の長さです。
- 軌道の上で向きが正反対の二つの速度は、速さを掛けるといつも同じ数になります。地球の近日点と遠日点の速さの積は 887.13 km²/s² です。
- 速度の線が円になるのは、力が距離の二乗に反比例するときだけです。軌道が閉じるばねの力でも、円にはなりません。
速度の矢を一点に集める
軌道の上の各点で、惑星はそれぞれの向きと速さで動いています。その速度を矢で描き、矢の根元を全部一点に集めてみます。すると矢の先は、きれいな円の上に並びます。この線を、ハミルトンはホドグラフと名づけました。

私は、離心率 0.0167・0.5・0.9 の三つの軌道を数値で解き、速度の先に円を当てはめました。円からのずれは、半径の 3.4×10⁻¹² 以下でした。円の半径は GM/h(h は角運動量)で、中心のずれは、その離心率倍です。
地球の場合、長半径 1 天文単位・離心率 0.0167 の模型で、円の半径は 29.7888 km/s、中心のずれは 0.4975 km/s です。速さがいちばん速いのは近日点で 30.2863 km/s、いちばん遅いのは遠日点で 29.2914 km/s です。円の半径は二つの平均、ずれは差の半分にあたります。
円の中心には、もう一つの意味があります。逆二乗の力で動く物には、軌道の長軸の向きを指して変わらない、もう一本の矢(離心率ベクトル)があります。円の中心は、その矢を直角に回した所にありました(一致は 2.75×10⁻¹¹ 以内)。
円だけから、軌道が描ける
ファインマンの講義の作図は、この円から軌道そのものを描き出します。円を直角に回し、速さ 0 の点と円の上の点を結んだ線分の垂直二等分線を引いていくと、その線たちが包む形は楕円になります。私の計算でも、作図した点の位置は、同じ時刻の軌道の位置を縮めたものと 1.14×10⁻¹¹ 以内で一致しました。速度の円だけから、軌道の形と、各時刻の位置が出てきます。
円の内か外か:回り続けるか、去っていくか
速さ 0 の点が、速度の円の内にあるか外にあるかで、運命が分かれます。内にあれば軌道は楕円で、回り続けます。ちょうど円の上なら放物線です。外にあれば双曲線で、二度と戻りません。
数で言うと、エネルギーは、速さ 0 の点の円に対する方べき(中心までの距離の二乗から半径の二乗を引いた数)の半分です。点が円の内なら方べきは負、外なら正になります。この式はミルナーが 1983 年に書いていて、私は六つの軌道で確かめました(差は 2.7×10⁻¹³ 以下)。

正反対の向きの速さを掛けると、いつも同じ
中学校で習う「方べきの定理」が、ここで効いてきます。円の内側の一点を通る直線は円と二点で交わり、二点までの距離の積は、直線の向きによらず同じです。速度の円で言えば、軌道の上で向きが正反対の二つの速度は、速さの積がいつも同じになります。その値は GM/a(a は長半径)です。
地球の模型では、近日点の速さ 30.2863 km/s と遠日点の速さ 29.2914 km/s の積が 887.13 km²/s² で、GM/a の 887.13 km²/s² と一致します。近日点と遠日点だけでなく、正反対の向きのどの組でも同じです。私は円を当てはめずに軌道のデータから 12 の向きで確かめ、ずれは 5.8×10⁻⁸ 以下でした。
去っていく物の曲がる角
太陽の近くを通り過ぎて去っていく物は、向きを曲げられます。その曲がる角は、速さ 0 の点から速度の円を見込む角でした。そして遠くでの速さは、その点から円に引いた接線の長さです。離心率 2 の軌道では 60 度、3 では 38.942441 度曲がり、遠くまで数値で積分した角と 10⁻¹¹ 度以内で一致しました。
速さ 0 の点、円の中心、接点は直角三角形をつくります。これが、原子核で曲げられるアルファ粒子の角を表すラザフォードの式(1911)そのものです。直角に曲がるのは、接線の長さが円の半径と等しいとき(離心率 √2)です。
円になるのは、逆二乗の力だけ
では、何がこの線を円にしているのでしょう。速度の線の曲がり具合(曲がりの半径)を計算すると、「力 × 距離の二乗 ÷ 角運動量」になります。距離の二乗に反比例する力(逆二乗)では、これが距離によらず一定なので、円になります。
力の強さの距離への効き方(冪)を変えて、太陽にいちばん近い点が 1、いちばん遠い点が 2 の軌道で比べました。曲がりの半径のいちばん大きい値 ÷ いちばん小さい値は、ばね(冪 +1)で 8.000000、冪 −1 で 2.000000、冪 −1.5 と −2.5 で 1.414214、逆二乗でだけ 1.000000 でした。

面白いのはばねです。ばねの力でも軌道は閉じます。軌道がいつも閉じる力は、逆二乗とばねの二つだけです(ベルトランの定理)。ところが速度の線が円になるのは、逆二乗の一つだけでした。軌道が閉じることと、速度の線が円になることは、別の条件です。
この話が言っていないこと
- 新しい定理は主張していません。速度の円(ハミルトン 1847)、エネルギーとの関係(ミルナー 1983)、ラザフォードの式(1911)は、どれも知られた結果で、論文1103 は数値で確かめ、並べて読むところまでです。
- 扱っているのは、一つの太陽と一つの惑星の平面の運動です。惑星どうしの引き合いや、一般相対論による近日点の移りは入れていません。
- 地球の数は、長半径 1 天文単位・離心率 0.0167 の模型の値です。
よくある質問
地球の速度の円は、ほとんど真ん中に速さ 0 の点がありますね
そうです。地球の軌道はほぼ円なので、ずれは 0.4975 km/s と、半径 29.7888 km/s に比べてとても小さくなります。彗星のように細長い軌道ほど、速さ 0 の点は円の縁に近づきます。
同じエネルギーの軌道の円には、何か共通点がありますか
あります。エネルギーが同じ軌道の速度の円を、球の表面に写し戻すと、どれも大円(球の中心を通る円)になります(フォック 1935)。私の計算では、写した点の平面は球の中心を 3.4×10⁻¹² 以内で通りました。この円の仲間は、光が円をえがくマクスウェルの魚眼レンズの光の道と同じ円の族です(論文1045)。
ばねの速度の線は、どんな形ですか
原点を中心とする楕円です。軌道そのものも原点を中心とする楕円で、速度の線は、それと同じ形・同じ向きの楕円になり、大きさだけが違います。円にはなりません。
もとの論文
- 論文1103「惑星の速度の矢の先は円をえがき、速さ 0 の点がその円の内にあれば回り続け、外にあれば去っていく」
- 論文79「n=2 の隠れた対称性」
- 論文1072「ばねの楕円を二乗すると、ケプラーの楕円になる」
- 論文1045「マクスウェルの魚眼で光が円を描くのは、屈折率が球面の地図の縮尺だからである」
論文はどれも CC BY 4.0 で公開しています。