平らな紙に、半径 r の円を描きます。円周は 2πr です。では、地球の上で同じことをしたらどうなるでしょう。ある地点から、地面に沿ってちょうど 1000 km 離れた点を全部結ぶと、一つの輪ができます。その輪を一周すると、2π×1000 km=6283.19 km ではなく、それより 25.77 km 短くなります。
この足りなさは、地球が丸いことの、いちばん素朴なしるしです。しかも、地球の外に出なくても、地面の上で長さを測るだけで手に入ります。私は論文1104 で、この足りなさが何を測っているのかを、いろいろな曲がった面で確かめました。答えは少し意外でした。紙を丸めた円柱の上では、円周は少しも足りません。平均すると曲がっていない石けん膜の上では、逆に円周が余ります。
この文章は、査読を経ていない、著者自身による公開(プレプリント)の論文の内容をまとめたものです。地球とみかんの数は、この記事のために計算しました。
要点
- 曲がった面に描いた円(中心から面に沿って同じ距離にある点の輪)は、円周が 2πr からずれます。地球なら、半径 100 km の円で 25.7993 m、1000 km の円で 25.767863 km 足りません。
- 円周を地面に沿った直径で割った値(測った円周率)は、地球の上では π より小さくなります。北極を中心に測ると、北緯 60 度の線ではちょうど 3、赤道ではちょうど 2 です。
- 足りなさを半径の三乗で割ると、面の曲がりが出ます。円周を測るだけで、面の外に出ずに曲がりが分かります。
- 紙を丸めた円柱は外から見て曲がっていますが、上の円は円周がちょうど 2πr です。平均すると曲がっていない石けん膜では、円周が余ります。円周が測るのは面の中の曲がり(ガウス曲率)で、外から見た曲がりではありません。
- 空間の次元を変えると、足りなさの割合が変わります。
地球の上の円
地球を半径 6371 km の球とします。北極から地面に沿って r だけ離れた点の輪(緯線)の円周は 2πR sin(r/R) で、2πr より短くなります。半径 10 km の円では 0.0258 m(約 2.6 cm)、100 km では 25.7993 m、1000 km では 25.767863 km 足りません。
小さな円なら、足りなさは πr³/(3R²) でよく近似できます。1000 km では 25.799626 km で、本当の値との差は 0.03 km ほどです。
円周を地面に沿った直径で割った値を、ここでは測った円周率と呼びます。平らな紙なら π=3.14159… ですが、地球の上では円が大きいほど小さくなります。半径 1000 km の円では 3.128708722 です。そして北極を中心にすると、きれいな値が出てきます。北緯 60 度の線は、北極から地面に沿って 3335.8 km の円で、円周は 20015.1 km、地面に沿った直径は 6671.7 km です。その比は、ちょうど 3 になります。赤道まで行くと、ちょうど 2 です。

みかんで確かめる
同じことは台所でも確かめられます。皮の半径が 4 cm のみかんに、皮に沿って半径 3 cm の円を描くと、円周は 2π×3=18.8496 cm ではなく、17.1315 cm です。1.7181 cm、つまり 1 割近く足りません(比 0.9089)。糸を皮に沿わせて測れば、手で確かめられる大きさです。
船の上の円:星の高度が同じ点の輪
海の上で星の高度を測ると、自分がいるのは「その星が同じ高度に見える点の輪」の上だと分かります。この輪は、星の真下の点を中心にした、地面の上の円です。航海の計算では、自分のまわりのごく一部だけを使うので、輪をまっすぐな線とみなします(論文807 でも、そう近似しました)。
輪の全体を見ると、地球の丸さが出てきます。星の高度が 60 度なら、輪の半径は地面に沿って 3335.8 km で、円周は半径の 2π 倍の 0.954930 しかありません。高度 30 度なら半径 6671.7 km で、0.826993 です。足りない長さは 7252.4 km にもなります。
足りなさから、曲がりが出る
では、この足りなさは何を測っているのでしょうか。半径 1 の球で円を小さくしながら、3(2πr−C)/(πr³) という値を計算しました。足りなさを半径の三乗で割り、決まった数を掛けたものです。半径 0.4 で 0.992030409、0.02 で 0.999980000 と、球の曲がり 1 に近づきました。円の面積の足りなさから同じように出した値も 1 に近づき、円周の足りない割合は、面積の足りない割合のちょうど 2 倍に近づきました(1.999987)。
小さな円の円周や面積の足りなさから曲がりが出ることは、1848 年にベルトラン、ディゲ、ピュイズーが示した、古くから知られた事実です。大事なのは、測っているのが面の上の長さだけだということです。面の上に住む小さな生き物でも、巻き尺一本で、自分の住む面が曲がっているかどうかを知ることができます。ガウスは 1828 年に、このように面の上の長さだけで決まる曲がりがあることを示しました。
紙を丸めた円柱では、少しも足りない
ここからが、私がいちばん面白いと思ったところです。円柱は、外から見ればはっきり曲がっています。ところが円柱の上に描いた円は、半径 0.5 でも 1.5 でも 3.0 でも、円周がちょうど 2πr でした(差は 1 兆分の 1 より小さい)。
理由は簡単です。円柱は、平らな紙を丸めただけの面です。紙に半径 3 cm の円を描いてから丸めても、紙の上の長さは変わらないので、円周は 18.8496 cm のままです。円周が測るのは紙の中の曲がりで、紙を丸めても、それは生まれません。
石けん膜の上では、円周が余る
逆の例もあります。二つの輪の間に張った石けん膜(懸垂面)は、二つの向きの曲がりが打ち消しあって、平均すると曲がっていない面です(論文1102)。ところが、その首の上に描いた円は、円周が 2πr より長くなりました。半径 0.1 の円で 2πr の 1.001662520 倍です。足りなさから出した曲がりは −1 に近づきます(−0.999900019)。二つの向きの曲がりの平均は 0 でも、積は −1 なのです。この膜が輪の間隔によって切れる話は、記事「二つの輪の間の石けん膜は、間隔が半径の 1.3255 倍で切れる」に書きました。

平均ではなく、積を測っている
球、円柱、石けん膜の首、ドーナツ(トーラス)の外側・内側・上の六つの点で、足りなさから出した曲がりを並べました。横軸に二つの向きの曲がりの積(ガウス曲率)を取ると、点は斜めの線にきれいに載ります。横軸に平均の曲がりを取ると、まったく載りません。円柱とドーナツの上は平均の曲がりが 0.5 でも足りなさは 0、石けん膜の首は平均が 0 でも −1 です。

円周が測るのは、外から見た曲がりではなく、面の上を歩いて測れる曲がりです。これが、論文1104 でいちばん伝えたかったことです。
次元を変えると
同じことは、三次元以上の曲がった空間でも起きます。球の表面積と体積が、平らな空間より少しずつ足りなくなります。足りない割合の比は、二次元(円周と面積)では 2 でしたが、三次元(表面積と体積)では 1.666667、四次元では 1.5 になります。曲がりが負の空間では、同じ大きさで逆に余ります。相対論の速さの空間がその例です(論文60)。
この話が言っていないこと
- 新しい定理は主張していません。小さな円の足りなさから曲がりが出ることは 1848 年から知られていて、論文1104 は数値で確かめるところまでです。
- 地球は、半径 6371 km のきれいな球と置きました。本当の地球は少しつぶれていて、細かい数は少し変わります。
- 天測の実際の補正(大気による光の曲がりなど)には入っていません。
- 空間そのものの曲がりを重力と結びつける話には、入っていません。
よくある質問
地図の上に描いた円は、どうなりますか
中心からの距離を正しく描く地図では、地球の上で足りない円周を、平らな紙の上で 2πr まで引き伸ばすしかありません。だから、どんな地図もどこかが歪みます(論文409)。
北緯 60 度の線が「円周率 3」になるのは、たまたまですか
たまたまではありません。北緯 60 度の線の円周は、赤道のちょうど半分です。北極からの距離は地球の半径の π/6 倍なので、地面に沿った直径は半径の π/3 倍です。赤道の半分(π×半径)をこれで割ると、ちょうど 3 になります。
どうして平均の曲がりは測れないのですか
円周は、面の上の長さだけで決まります。紙を伸ばさずに曲げたり丸めたりしても、紙の上の長さは変わりません。平均の曲がりはこの曲げ方で変わりますが、二つの向きの曲がりの積は変わりません(ガウスの驚異の定理)。だから円周に出てくるのは、積のほうです。
もとの論文
- 論文1104「地球に描いた半径 1000 km の円は円周が 25.77 km 足りないが、紙を丸めた円柱の上の円は少しも足りない」
- 論文1102「輪の間の石けん膜は間隔が半径の 1.3255 倍で切れるが、同じ形の鎖はいつでも垂れる」
- 論文807「天測の位置の誤差は、偶然なら交角を直角に、共通の偏りなら星で囲むと小さく、交角の効きは逆向き」
- 論文60「速度空間の球としての c」
論文はどれも CC BY 4.0 で公開しています。