レーダーもソナーも、病院の超音波も、こうもりも、音や電波を出して、跳ね返りを聞きます。前に「逆二乗則の地図」で、送る点と受ける点が同じ所にあるなら、届く強さは距離の4乗で弱まると書きました。距離の2乗で薄まる皮を、往きと帰りで二回くぐるからです。
今回は、送る点と受ける点を離します。神戸大学の木村建次郎先生らが、波で中を映すときに使う形です(前の記事「見えない入れ替えは、周波数を変えると見えてくる」)。そのとき、こだまの何が変わり、何が変わらないのか。そして、こだまはどうして出した形のまま返ってくるのか。答えは、三次元という数にありました。
この文章の計算は、このページのために新しく行ったものと、査読を経ていない、著者自身による公開(プレプリント)の論文によります。

要点
- 送る点と受ける点を離すと、こだまは往きと帰りで二枚の皮をくぐり、強さは4πの二乗と二つの距離の積で割られます。届く時刻は道のりの和で決まり、同じ時刻に届く点は回転楕円体(断面では楕円)の上に並びます。
- 同じ時刻に届く楕円の上でも、強さは違います。道のりの和が4の楕円では、頂と脇で強さが1.333333倍、その二乗が1.777778倍違います。
- 三次元では、こだまは弱まりながら、出した形のまま届きます。五次元では形が微分に近づき、二次元では届いたあとも尾を引きます。
- 弱まりながら形を変えずに届くのは、三次元だけです。流れを保つ指数(d−1)/2と、ラプラスの式の解の指数d−2が重なるのが三次元だからです(一次元の平面波は、弱まらずに形を保ちます)。
往きと帰りで、皮が二枚
中心から出た波は、半径rの球面に広がります。その面積は4πr²なので、どの球面を通る流れも同じになるように、波の強さは距離の2乗で薄まり、振幅は距離に反比例します。これは私の唯一性定理(論文01)の指数2そのもので、波の流れの保存から指数が一つに決まることは論文41と論文53に書きました。
送る点から出た波が、散乱点で一度跳ね返って受ける点に届くと、皮を二枚くぐります。往きの距離をρ1、帰りの距離をρ2とすると、こだまの強さは(4π)²ρ1ρ2で割られ、届く時刻は道のりの和ρ1+ρ2で決まります。同じ時刻に届く点は、送る点と受ける点を焦点とする回転楕円体の上に並びます。断面で見ると楕円です。
つまみで散乱点を左右と上下に動かします。金の破線が、同じ時刻にこだまが届く楕円です。
- 道のりの和(届く時刻)
- 距離の積 ρ1ρ2
- 同じ楕円の脇との強さの比
道のりの和が4の楕円で比べます。頂(2, 0, 0)ではρ1ρ2=3、脇(0, √3, 0)ではρ1ρ2=4です。二つのこだまは同じ時刻に届きますが、強さは1.333333倍、その二乗は1.777778倍違います。時刻が決めるのは道のりの和だけです。強さを(4π)²ρ1ρ2で割り戻して跳ね返りの強さを取り出すには、楕円の上のどこか、つまり散乱点の位置も分かっている必要があります。
送る点と受ける点が同じ所なら、ρ1=ρ2で、距離を2倍にすると強さの二乗は0.062500倍(16分の1)になります。これは論文335が書いた往復の冪で、論文335は送る点と受ける点を離した形を扱っていませんでした。今回の計算(論文1111)は、その離した形を数えています。
三次元では、こだまは形を変えずに届く
三次元の波の式の解は、出した形を距離のぶんだけ遅らせ、1/(4πr)倍したものです。論文1111でも、近い散乱点(0, 0, 2)と遠い散乱点(0, 0, 4)のこだまを、届く時刻にそろえ、強さを戻して重ねると、計算の桁の範囲で重なりました。式から言えることを、数で確かめたものです。三次元では、こだまは距離によらず、出した形のまま届きます。これは、どの次元でも成り立つことではありません。下の図で、空間の次元を替えてみてください。
ボタンで空間の次元を、つまみで距離を選びます。灰色が出した形(幅1のパルス)です。
- 形の一致(三次元・五次元は相関、二次元はτ=5に残る大きさ)
五次元では、外へ向かう波に、出した形の微分が混ざります。距離10で、最もよく重ねた相関は0.688416で、遠くでは0.606531(e^(−1/2))に近づきます。形が、出した形の微分に替わっていくからです。二次元では、届いたあとも尾を引きます。距離10で、届いてからτ=5に山の0.406428、τ=20に0.157827が残りました。三次元では信号が後に残らないことは、ホイヘンスの原理として知られていて(論文247)、3以上の奇数の次元で成り立ちます。けれど五次元のように、尾を引かなくても形は変わります。形も変えないのは、三次元だけでした。

なぜ三次元なのか:二つの指数が重なる
d次元で、中心から出る波の振幅を、距離の何乗で弱めればよいかを考えます。条件は二つあります。一つは、どの球面を通る流れも同じになることです。球面の広さは距離のd−1乗で増えるので、強さは距離のd−1乗で薄まり、振幅は距離の(d−1)/2乗で弱まります。これは唯一性定理の皮の数え方を、波の強さに当てたものです。
もう一つは、波の式そのものが、形を崩さずに解を許すことです。そのためには、振幅の弱まり方が、ラプラスの式の球対称の解(定数か、距離のd−2乗に反比例するもの)でなければなりません。二つを満たさないと、波の式に入れたときに残りが出ます。残りの係数は(d−1)(3−d)/4で、0になるのはd=1とd=3だけです。
つまみで空間の次元dを動かします。丸で囲んだ所が、二つの指数の重なる三次元です。
- 流れを保つ指数
- ラプラスの解の指数
- 形を変えずに届くための残り
流れを保つ指数(d−1)/2とラプラスの解の指数d−2は、三次元でどちらも1になって重なります。一次元は振幅が弱まらない平面波で、残りは0ですが、距離で弱まりながら形を保つ球面波は、三次元にしかありません。これは古典的な計算で、偏微分方程式の教科書の演習にも見えます。
私の論文には、三次元でだけ重なる二つの数の話がいくつもあります。唯一性定理の記事でも、次元を動かすと「2」が二つに分かれ、重なるのは三次元だけだと書きました。形を保つこだまは、その仲間にもう一つ加わる例です。
1/r²の二つの役
重力や電気の1/r²は、中身の外には湧き出しが無い場で、閉じた面を通る量は、中身がどこにあっても中の量の4π倍です。閉じた皮の外から角度の型ごとに一つの数しか読めないのは、この4πからではなく、場の方程式が二階で局所的であることから来ます(論文1107)。この意味で、1/r²の場は中身を外から隠します。
波では、同じ流れの保存が振幅を1/rに決め、三次元ではその振幅がラプラスの解と重なるので、こだまが形を変えずに届きます。時刻が道のりの和を決め、散乱点の位置が分かれば、強さを二枚の皮の4πで割り戻せます。次元を動かすと、静かな場の1/r²と波の強さの1/r²は一緒に動くので、同じ根です。形を保つことは、それとは別の重なりで、三次元だけのことです。ただし、木村先生らが送る点と受ける点を離して中を映せるのは、こだまが形を保つからというより、二点で測る量が、皮の上の関数一つに収まらないからです。
よくある問い
二次元の世界では、こだまは使えないのですか?
使えないわけではありませんが、届いたあとも信号が尾を引くので、届いた時刻から道のりをそのまま読むことができません。尾を差し引く計算が要ります。
五次元でも、ホイヘンスの原理は成り立つのでは?
成り立ちます。五次元でも、波は届いたあとに尾を引きません。それでも、届く形は出した形の微分が混ざったものになります。尾を引かないことと、形を保つことは別のことです。
同じ時刻に届くこだまは、どれも同じ強さですか?
いいえ。同じ楕円の上でも、強さは距離の積ρ1ρ2で決まり、送る点か受ける点に近い頂のほうが強くなります。道のりの和が4の楕円では、頂が脇の1.333333倍です。
論文と文献
論文はどれもCC BY 4.0で公開しています。
- 論文1111「1/r²は、静かな場では中身を外から隠し、波ではこだまを形を変えずに運ぶ」:このページの計算のもと。
- 論文1107「場の方程式が二階なら、閉じた皮の外から読める中身は、角度の型ごとに一つの数である」:外へ出るのが型ごとに一つの数であること。
- 論文335「往復すると、冪が変わる」:送る点と受ける点が同じ所のときの往復の冪。
- 論文247「「偶数と奇数で分かれる」は、一つの現象ではない」:ホイヘンスの原理と次元の偶奇。
- 論文01「球対称密度分布におけるn=2の唯一性定理」:皮の数え方。
- 論文41「干渉縞は、指数を覚えていない」:球面波の流れの保存。
- 論文53「山岸・ボルン則幾何構造理論」:外向きの球面波の流れ。
- 論文1092「密度1/r²の「2」は二つあり、球殻の重さの2と地平線のつり合いの2が重なるのは3次元だけである」:三次元で重なる二つの数。