前の記事「箱の中身を入れ替えても、外の重力は少しも変わらない」で、私は、閉じた皮の外から読めるのは角度の型ごとに一つの数、つまり皮一枚ぶんの模様だけだと書きました。けれど世の中には、外から中を映す技術があります。病院の超音波もそうです。神戸大学の木村建次郎先生らは、波を送る点と受ける点の両方を動かして測る理論を組み立て、電波で乳房の中を映す研究(マイクロ波マンモグラフィ)を進めています。
私は木村先生の考え方を、とても尊敬しています。以前noteに、釣りの師匠から学んだ「当たらない時を学ぶ」ことと、木村先生の逆問題が、同じ形に見えると書いたこともあります。今回は、その同じ形のうち、計算で言える部分を確かめました。外から読めない中身は、何を足すと読めるようになるのか。答えは、周波数を動かすか、二つ目の点を足すことでした。
この文章の計算は、このページのために新しく行ったものと、査読を経ていない、著者自身による公開(プレプリント)の論文によります。

要点
- 送る点を持たずに受けるだけで測る限り、重力のような静かな場でも、一つの周波数の波でも、外へ出るのは角度の型ごとに一つの数です。外から見えない入れ替えは、その周波数に合わせた形で必ずあります。
- 見えない入れ替えの形は、周波数で変わります。周波数を動かせば、すべての周波数で見えない入れ替えは無くなります。
- 周波数を帯で動かすか、送る点と受ける点の二つで測ると、読める数はなだらかに増えます。球対称の中身では、二点で一つの周波数は、受けるだけで周波数を2倍の高さまで動かしたのとほぼ同じだけ読めます。
- 木村先生らの散乱場の方程式は、何も無い所を往きと帰りの波が伝わることだけを書いた式で、一回の跳ね返りでは近似なしに成り立ちます。像は、何も無い所という式の前提が外れる点、つまり散乱点にだけ立ちます。
受けるだけで測ると、どの周波数でも型ごとに一つ
中身は半径1の球の中にあるとします。外で測る場は、重力や電気のような静かな場か、音や光のような波です。波は周波数ごとに分けて考えます。ここでの「受けるだけで測る」は、中身が出す場を、外のどこでどれだけ多く測ってもよいが、送る側の点は持たない、という意味です。
この測り方では、外へ出るのは、角度の型ごとに一つの数だけです。外の半径を変えると場は弱まりますが、その弱まり方は型と周波数で決まった形で、中身の詳しい形を運びません。私は中身を半径の向きに40段に分け、外の30の半径での場を、式の展開を使わずに数値積分で作りました。静かな場と周波数2・5・10、型0から3の16通りで、二番目の特異値は最大の2.24×10⁻¹⁴倍以下でした。外へ出る数は、どれも1個です。一つの周波数で1個であることは、論文1107もヘルムホルツの核で数えています。
一つの周波数で遠くまで届くのは、中身を細かさごとの成分に分けたもの(フーリエ変換)を、半径kの球面の上で読んだ値です。フーリエの空間の皮一枚ぶん、と言えます。重力は周波数0の場合で、その皮が中心の一点に縮みます。
見えない入れ替えは、周波数とともに移る
前の記事では、箱の中身をΔφの形(滑らかな山φの曲がり具合)に入れ替えても、外の重力が変わらないことを確かめました。波でも同じことが起きます。周波数k0の波なら、(Δ+k0²)φの形の入れ替えが、外へ何も出しません。重力のΔφは、k0=0の場合です。
ところが、ほかの周波数で測ると、同じ入れ替えが外へ出てきます。外へ出る数は、(k0²−k²)倍の重みがかかった形になります。下の図で、合わせる周波数k0と、測る周波数kを動かしてみてください。
上のつまみで入れ替えを合わせる周波数k0を、下のつまみで測る周波数kを選びます。
- いまの周波数で外へ出る数
- 合わせた周波数で外へ出る数
数で並べます。k0=5に合わせた入れ替え(Δ+25)φは、周波数0・2・5・8で、外へ1.2698413、0.8870017、−0.0000000、−0.0095429を出しました。重力に合わせたΔφは、−0.0000000、−0.1689527、−0.3590739、−0.0156601です。合わせた周波数でだけ0になり、ほかでは外へ出ます。
ただし、見えない周波数は一つとは限りません。φそのものが外へ何も出さない周波数(このφではk=8.182561)では、どちらの入れ替えも見えなくなります(図1)。有限個の周波数k1、k2、…で測るだけなら、それらを掛け合わせた形(Δ+k1²)(Δ+k2²)…ψの入れ替えが、そのどれでも見えないまま残ります。それでも、周波数を帯で動かすと、どの周波数でも見えない入れ替えは0しかありません。外へ出る数はフーリエ変換の球面の上の値で、帯で動かせばそれが分厚い球殻の全体で分かり、中身が球の中にだけあるなら、そこが0なら全部が0だからです。

周波数を動かすと、数はなだらかに増える
受けるだけで測ったまま、周波数を帯で動かします。周波数0.05から上端k_maxまでの400の値で測り、型0の中身を60段に分けて、読める数を特異値で数えました。
つまみで帯の上端k_maxを動かします。ボタンで、数える線(雑音の大きさ)を替えられます。
- 線を超える数
- k_max/π
最大の10⁻⁶倍を超える数は、上端5・10・20・40・80で5・7・11・18・31でした。上端がπ増えるごとに、およそ一つずつ増えます。k_max/πは、半径1の中に入る半波長の数です。一つの周波数のときの崖とは違って、特異値はなだらかに細ります。どこで切るかは、雑音の大きさで決まります。
二つ目の点を足す
今度は周波数を一つに決めたまま、送る点と受ける点の二つを、半径1.5の皮の上で動かします。中身は波を一度だけ跳ね返すとし、跳ね返りの強さを球対称(型0)の濃さに置きました。受けるだけ・一つの周波数では型0の数は1個ですが、二点にすると何段も読めます。
つまみで周波数kを動かします。ボタンで数える線を替えられます。
- 二点・一つの周波数
- 受けるだけ・帯 [0.05, 2k]
10⁻⁶の線で、二点・周波数5・10・20は8・11・18個を読み、受けるだけで帯[0.05, 10]・[0.05, 20]・[0.05, 40]を測った7・11・18個とほぼ同じでした。往きと帰りで、読める細かさが2kまで届くからです。これは、平面波を入れる向きと遠くで受ける向きを動かして、中身を半径2kの球まで読む回折トモグラフィー(Wolf 1969)と同じ勘定です。周波数を止めて静かな二点にしても5個読めますが、特異値の落ち方が速く、雑音に弱い読み方になります。電極を体に当てて中を読むカルデロン問題(論文99)の側の話です。

木村先生の方程式は、何も無い所の方程式だった
木村先生らは、送る点と受ける点の二点の関数として散乱場を書き、それが満たす方程式を導きました(Kimura と Kimura 2021)。一つの散乱点について、送る点からその点までの球面波と、その点から受ける点までの球面波を掛け、跳ね返りの強さを掛けて、全部の散乱点で足したものです。送る点と受ける点は一つの座標xを共有します。講究録では、この方程式(式 (2-5))は、距離の逆数の高い次の項を落とす近似として導かれています。測った面の値を境界の条件にして、この方程式を二点の空間で内側へ解き、二点を同じ点に重ねて、周波数で足す(時間を0に戻す)と、像が出ます。
私が確かめると、この方程式は、一回の跳ね返りでは近似なしに成り立っていました。理由は短く言えます。往く波と帰る波は、それぞれ何も無い所を自由に伝わる波で、どちらも一つずつ波の式を満たします。共有するxを二つに分けて考え、その二つの式を方程式に入れると、横の向きの細かさ(波数)がちょうど消えて、式全体が0になります。40桁の計算で、式の残りは項の大きさの10⁻⁴¹倍より小さく、比べに帰りだけ周波数を1.3倍にした積では0.148と0.181、静かな波の積では1.000と0.272で、0になりませんでした。送る点と受ける点のそれぞれで波の式が成り立つとして像を作る考えは、地震探査で送る点と受ける点を一緒に沈める二重平方根の式(Yilmaz と Claerbout 1980、Claerbout 1985)と同じです。
近似が実際に働くのは、そのあと、測った一つの面に合わせて送る点と受ける点の深さをそろえる段です。そこでは、往きと帰りの波の進む向きがそろう所(停留位相の点)を選んでいます。同じ理論の欧州特許の出願書類には「ほとんど厳密な解」という言葉がありますが、それは送る点と受ける点がxと深さzの二つを共有する別の配置の式についての文です。私が確かめたのは、xだけを共有する式 (2-5) です。木村先生らが、この厳密さをほかの論文で書いているかは、私は確かめていません。読んだのは、数理解析研究所の講究録の論文、超音波の論文、特許の出願書類の三つです。
この方程式には、散乱点の強さが一つも入っていません。何も無い所を往きと帰りの波が伝わることだけを書いた、いわば「何も無い所の方程式」です。だから、測った値だけを境界の条件にして、内側へ解けます。散乱点の手がかりは、測った信号(境界の値)にだけ入ります。そして方程式を内側へ解いて二点を同じ点に重ね、時間を0に戻したとき、送る点と受ける点が散乱点に重なる所、つまり何も無い所という式の前提が外れる点でだけ、値が立ちます。下の図は、その考え方を二次元で見るための、ごく簡単な見本です。木村先生らの計算そのものではありません。
つまみで、上の線に並べる点の数を変えます。どの二つも、送る点と受ける点に使います。
- 使う組の数
一組だけでは、こだまの届く時刻から「その時刻に届く点の集まり」しか分かりません。送る点と受ける点が同じなら円、離れていれば楕円です。組を増やすと、円や楕円が散乱点でだけ重なり、山が立ちます。像を、下りの波と上りの波が時刻と場所で重なる所に置く考え方は、地震探査でも古くから使われています(Claerbout 1971)。
全部の周波数がそろった理想の極限では、点の散乱体の像は一点で鋭く尖り、値は有限にとどまりません。実際の帯域では、山の幅は帯域で決まります。帯[π, 2π](周波数で0.5から1)なら包絡の最初の零は1.000000で、レーダーの距離の細かさc/2B(論文802)と同じ式です。
釣りの「静寂」と、何も無い所の方程式
私の釣りの師匠は、当たりを探すだけでなく、当たっていない時の状態を体に叩き込んでいました。noteには、それと木村先生の逆問題が同じ形に見える、木村先生は何も無い静かな空間を方程式として定義し、その静寂が破れる場所を探した、と書きました。論文89では、このつながりを科学ではない私の感想として、計算の外に置いていました。
今回、そのうちの一部は数で言えるようになりました。木村先生らの方程式は、本当に何も無い所の伝わり方だけを書いた式で、散乱点は、何も無い所という式の前提が外れる点として浮かびます。noteで「数値が発散するポイント」と書いた所も、全部の周波数がそろった理想の極限では、点の像は一点で尖るので、その意味では当たっていました。実際の帯域では、帯域で幅の決まる山になります。釣りの技そのものは、今も科学の外に置いたままです。
1/r²の二つの役
重力や電気の1/r²は、中身の外には湧き出しが無い場です。閉じた面を通る量は、面の形や中身の位置によらず中の量の4π倍になります。この4πは、場の質量が0であることから来ます。外へ出るのが角度の型ごとに一つの数であることは、それとは根が違い、場の方程式が二階で局所的であることから来ます(論文1107。質量のある湯川の場でも、外へ出るのは型ごとに一つでした)。この意味で、1/r²の場は、二階の場の代表として中身を外から隠します。
波では、同じ1/r²が別の役をします。外向きの球面波の流れが半径によらないことが、振幅を1/rに決め、三次元ではこだまが弱まりながら形を変えずに届きます。続きの記事「こだまが形を変えずに返ってくるのは、三次元だけ」で、それを確かめます。ただし、木村先生らの方法で中身が読めるのは、こだまが形を保つからというより、送る点と受ける点の二点で測る量が、皮の上の関数一つに収まらないからです。
よくある問い
重力だけで、地球の中身を全部知ることはできないのですか?
重力だけでは、角度の型ごとに一つずつしか分かりません。地震の波のように周波数を持つ波や、送る点と受ける点を変えて測る方法を足すと、中身の分かる量が増えます。
二点で測れば、どんな中身も一つに決まるのですか?
このページの計算は、波を一度だけ跳ね返す中身(ボルン近似)で、型0の濃さだけを見ています。一つに決まるかどうかと、雑音に強く読めるかどうかは別の問いで、読める数は数える線(雑音の大きさ)で動きます。
木村先生らの方法は近似なのですか?
講究録では、方程式は近似として導かれていますが、一回の跳ね返りの式に対しては、近似なしで成り立っていました。近似が働くのは、二点の深さをそろえて像を作る段です。波が何度も跳ね返る場合や、媒質が周波数で性質を変える場合は、このページでは扱っていません。
論文と文献
論文はどれもCC BY 4.0で公開しています。
- 論文1111「1/r²は、静かな場では中身を外から隠し、波ではこだまを形を変えずに運ぶ」:このページの計算のもと。
- 論文1107「場の方程式が二階なら、閉じた皮の外から読める中身は、角度の型ごとに一つの数である」:受けるだけで測るときの数え方。
- 論文89「ゼロテンションと逆問題」:釣りと逆問題のつながり。
- 論文99「境界から内部を読む」:カルデロン問題。
- 論文802「レーダーの距離は帯域、速さは観測時間で細かさが決まり、速さを一周取り違えると距離が一ます動く」:距離の細かさc/2B。
- Kimura, K., and Kimura, N. (2021). Inverse Scattering filed theory(題は原文のまま). RIMS Kokyuroku, Kyoto University.
- Yabumoto, K., Yumii, T., and Kimura, K. (2025). Research on Ultrasonic Imaging Systems Based on Scattering Field Theory. arXiv:2508.14469.
- Kimura, K., Kimura, N., and Kimura, F. (2024). Video-forming device and video-forming method. European Patent Application EP 4357766 A1.
- Wolf, E. (1969). Three-dimensional structure determination of semi-transparent objects from holographic data. Optics Communications.
- Claerbout, J. F. (1971). Toward a unified theory of reflector mapping. Geophysics.
- Yilmaz, Ö., and Claerbout, J. F. (1980). Prestack partial migration. Geophysics.
- Claerbout, J. F. (1985). Imaging the Earth's Interior. Blackwell Scientific Publications.