リンゴの皮に輪ゴムを掛けます。輪ゴムはどこに掛けても、皮の上をすべらせて一点に縮められます。ドーナツの表面ではそうはいきません。穴を回った輪ゴムは、どう動かしても縮みません。
アンリ・ポアンカレは 1904 年に、これを一つ上の次元で問いました。閉じた 3 次元の空間で、どの輪も一点に縮むなら、その空間は 3 次元の球面なのか。答えが出たのは百年近くあとです。リチャード・ハミルトンが始めたリッチ・フローの方法を、グリゴリー・ペレルマンが 2002 年から 2003 年に完成させました。答えは「はい」でした。
私の最初の論文の定理は、球を同じ厚さの皮に分けたとき、どの皮も同じ重さになる濃さは 1/r² しかない、という三行の定理です(n=2 の唯一性定理)。この 1/r² には、もう一つの名前があります。半径 r の球面の曲がり具合、ガウス曲率が、ちょうど 1/r² なのです。
濃さを皮の曲がりと読み替えると、皮の重さ 4π は、皮の曲がりの総量になります。そしてこの 4π は、ペレルマンたちの証明の奥で、実際に働いています。このページでは、その道を、図を自分の手で動かしながらたどります。証明をなぞるのではありません。3 という次元が証明のどこで効いているのかを、皮の言葉で読みます。4 次元のポアンカレ予想まで続けて書きます。
この文章は、査読を経ていない、著者自身による公開(プレプリント)の論文の内容と、このページのために新しく計算し整理した内容をまとめたものです。動かせる図は、ブラウザの中でその場で計算しています。
要点
- 定理の濃さ 1/r² は、半径 r の球面の曲率と同じ式です。皮の重さ 4π は皮の全曲率で、皮の形をどう変えても 4π のままです(ガウス=ボンネの定理)。
- どんな滑らかな 3 次元空間でも、小さな皮の広さ ÷ r² は 4π から始まります。曲率は、そこからの不足として読めます。
- 向きの数と面の数がそろうのは 3 次元だけです。だから 3 次元では、向きごとの不足で曲がり方の全部がちょうど読めます。
- 回転対称な 3 次元のリッチ・フローでは、断面の皮の面積は At=Ass−8π に従います。余分な項が消えるのは、皮が 2 次元のときだけです。
- ペレルマンの減らない量 W の 4π は、熱の 4π です。皮の 4π は別の場所にいます。輪が全部縮む空間で流れが有限の時間で終わることを示す段で、幅を削る −4π がそれです。
- 流れは形を「どこから数えても同じ」空間へ運びます。その中から球面を選ぶのは輪です。皮が自分にぶつからずに最後まで育つ空間が、3 次元球面です。
- 4 次元の皮は 3 次元球面で、全曲率にあたる数がありません。代わりに円の束(ホップ束)を持ちます。なめらかな 4 次元ポアンカレ予想は、今も開いています。
- 4 次元で先に固定できるのは空間の総量で、丸い S⁴ では 16π² です。動くのは Q と W の分け方だけで、いちばん歪んだ皮一枚が W の取り分の床を決めます(論文1105)。
- 問い
- 濃さと曲がり
- 4π からの不足
- 流れ
- 首と手術
- 減らない量
- 皮の 4π が働く場所
- 輪が球面を選ぶ
- 4 次元の皮
- なぜ 4 次元が開いているのか
- 総量と W の取り分
- ペレルマンという人
- 既知と私の仕事
- 体系の中で
- よくある質問
- 文献
問い:輪が全部縮むなら、球面か

2 次元なら、答えは昔から分かっていました。閉じた面で、どの輪も一点に縮むなら、その面は球面です。ポアンカレの問いは、同じことが 3 次元でも言えるかどうかです。
3 次元の球面 S³ は、4 次元の空間の中の x²+y²+z²+w²=1 という点の集まりです。目で見ることはできませんが、作り方は簡単です。玉を二つ用意して、表面どうしを貼り合わせます。片方の玉の中を進むと、表面でもう一つの玉の中へ抜け、その中心を通って、反対の側から元の玉へ戻ってきます。どこにも端がないのに、大きさは有限です。

この問いの前に、小さな事件がありました。1900 年にポアンカレは、穴の数(ベッティ数)が球面と同じなら球面だと述べました。4 年後の 1904 年、ポアンカレ自身がその反例を作ります。穴の数はすべて球面と同じなのに、球面ではない空間です。その空間には、縮まない輪がありました。数では分けられなかったものが、輪で分かれたのです。私の言葉では、位相幾何の最初の分離子の一つです。この空間は、あとで正十二面体の姿でもう一度出てきます。
では、定理の皮をこの空間に持ち込みます。北極を一つ決めて、そこから距離 r の点を全部集めると、2 次元の球面ができます。これが S³ の皮です。半径 1 の S³ では、皮の広さは 4π sin²r です。r=π/2 の赤道で一番大きくなり、その広さがちょうど 4π です。
スライダーで北極からの距離 r を動かします。
- 皮の広さ 4π sin²r
- 皮の広さ ÷ r²
- 4π からの不足
- 平らな空間の値
皮を北極から南極まで全部足すと、2π² になります。S³ の体積です。皮のような一枚の面で空間全体を端から端まで掃ける。このことを覚えておいてください。この「掃く」という動作は、ページの後半で、証明の中に戻ってきます。
定理の濃さは、皮の曲がりだった
3 次元の空間で、どの皮も同じ重さになる濃さは ρ(r)=1/r² だけである。そのとき皮の重さの増え方は dm/dr=4π である。
証明は定理のページに書きました。ここで見たいのは、1/r² のもう一つの顔です。半径 r の球面は、面の中で測れる曲率(ガウス曲率)が K=1/r² です。広さは 4πr² です。掛けると半径が消えます。
$$K=\frac{1}{r^{2}},\qquad K\times 4\pi r^{2}=4\pi$$定理の濃さの式と、一字も違いません。定理の濃さを皮の曲がりとして読むと、皮の重さ 4π は、皮全体の曲がりの総量、全曲率になります。そして全曲率には、昔から知られた定理があります。
$$\int_{S^{2}}K\,dA=2\pi\chi=4\pi$$ガウス=ボンネの定理です。χ はオイラー数で、球面では 2 です。皮をへこませても引き伸ばしても、穴さえ開けなければ、全曲率は 4π のままです。丸い皮の上で「どの半径でも 4π」だったものが、ここでは「どの形でも 4π」になります。
丸い取っ手をつかんで皮の形を変えます。ボタンで形を選ぶこともできます。
- 皮の広さ
- 曲率の平均
実験 1 の S³ の中でも同じです。距離 r の皮は半径 sin r の丸い球面で、曲率は 1/sin²r、広さは 4π sin²r です。掛ければ、どの皮も 4π です。
ただし、この一致には次元の条件があります。定理はどの次元にもあります。d 次元の空間では、皮の濃さは 1/rd−1 です。一方、皮の曲率の指数は次元によらず 2 です。曲率は長さの二乗の逆数だからです。つまり 1/r² の 2 は二つあります。動く 2 と、動かない 2 です。
| 空間の次元 d | 皮 | 定理の濃さ | 皮の曲率 | 曲率 × 皮の広さ |
|---|---|---|---|---|
| 2 | 円 S¹ | 1/r | 中からは測れない | なし |
| 3 | 球面 S² | 1/r² | 1/r² | 4π(半径が消える) |
| 4 | S³ | 1/r³ | 1/r² | 2π²r |
| 5 | S⁴ | 1/r⁴ | 1/r² | (8/3)π²r² |
二つの 2 は別の根です。動かしてみれば分かれます。重なるのは 3 次元だけです。濃さと曲がりが同じ式になり、掛けて半径が消え、ガウス=ボンネの保証がついた 4π が残る。これが起きる次元は一つしかありません。このページの題の意味はこれです。皮の曲がりが 4π に閉じる次元は、3 だけです。
ここで言う「閉じる」は、曲率の 1 乗の話です。5 次元の皮の S⁴ には、曲率の 2 乗を積分して閉じる数があります(ガウス=ボンネ=チャーンの定理)。曲率の 1 乗で閉じるのは、皮が 2 次元のときだけです。
どの空間も 4π から始まる
次の一歩は、定理を平らな空間の外へ持ち出すことです。曲がった 3 次元空間の中で、一点から距離 r の皮を作り、その広さ A(r) を測ります。どんな滑らかな空間でも、r を小さくすると A(r)/r² は 4π に近づきます。ごく小さな範囲では、どの空間も平らに見えるからです。そして、4π からのずれの最初の項が曲率です。
$$\frac{A(r)}{r^{2}}=4\pi\left(1-\frac{S}{18}\,r^{2}+\cdots\right)$$S はスカラー曲率で、その点の曲がり具合の総計です(球面の S² や S³ の S とは別の文字です)。定理の 4π は、どの空間のどの点でも出発点になっています。曲率とは、そこからの不足です。半径 1 の S³ では S=6 で、不足の割合は r²/3 から始まります。
| r | S³ | 平らな空間 | 双曲空間 | S³ の不足の割合 | r²/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.25 | 12.306743 | 12.566371 | 12.830361 | 0.020660 | 0.020833 |
| 0.50 | 11.553463 | 12.566371 | 13.649105 | 0.080605 | 0.083333 |
| 1.00 | 8.897913 | 12.566371 | 17.355387 | 0.291927 | 0.333333 |
表の中ほどの 3 列は、皮の広さ ÷ r² です。r を 0.01 まで小さくすると、不足 ÷ r² は 0.333329 で、式の 1/3 に近づきます。
向きごとに見ると、もっとはっきりします。中心から向き v へ細い筒を伸ばします。平らな空間で濃さが 1/r² なら、筒の中身は長さあたり一定です。これは定理を向きごとに言い直したものです。曲がった空間では筒が細り、中身は次のように減ります。
$$\frac{dm}{dr\,d\Omega}=1-\frac{\mathrm{Ric}(v,v)}{6}\,r^{2}+\cdots$$Ric(v,v) がリッチ曲率です。この式は教科書にあります。ただ、定理の側から読むと、見え方が変わります。リッチ曲率とは、n=2 のまっすぐな筒が、向き v でどれだけ細るかを測る数です。

たとえば、断面が球面のまっすぐな筒の空間 S²×ℝ では、軸の向きには筒は細りません。S² の向きに一番細ります。r=0.01 で測った不足 ÷ r² は、軸からの角が 0°、30°、60°、90° で 0、0.041667、0.125000、0.166666 でした。式の Ric/6 と 6 桁で合います(90° の式の値は 0.166667)。
向きの数と面の数
3 次元の空間には、直交する向きが 3 つあります。直交する面も 3 つあります。向き 1 と 2 が張る面、1 と 3 が張る面、2 と 3 が張る面です。面の曲がり(断面曲率)は、向きの不足から計算できます。
$$K_{12}=\frac{\mathrm{Ric}_{1}+\mathrm{Ric}_{2}-\mathrm{Ric}_{3}}{2}$$向きの不足を 3 つ測れば、面の曲がりが 3 つとも決まります。曲がり方に、不足で測れない部分が残りません。次元を動かすと、これがどれほど特別なことか分かります。
| 次元 d | 向き | 面 d(d−1)/2 | 曲率の全部(リーマン) | 不足で読める分(リッチ) | 残る分(ワイル) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2 | 2 | 1 | 1 | 3 | 0 |
| 3 | 3 | 3 | 6 | 6 | 0 |
| 4 | 4 | 6 | 20 | 10 | 10 |
| 5 | 5 | 10 | 50 | 15 | 35 |
数は独立な成分の個数です。2 次元の曲率は一つの数で、リッチ曲率の 3 成分もその一つの数で決まります。
向きの数と面の数がそろうのは 3 次元だけです。2 次元でも曲率は全部読めますが、向き 2 に対して面は 1 で、数はそろいません。4 次元からは不足で読めないワイル曲率が残ります。「定理の筒の細り」で曲がり方が過不足なく読める次元は、3 だけです。
実験 3 は、この 3=3 を手で触るものです。3 次元球面のまま、三つの向きの長さを別々に変えられる形があります。ミルナーが 1976 年に曲率を書き下した、左不変計量という形です。長さを変えると、向きの不足と面の曲がりが同時に動きます。
三つの向きの長さを変えて、「流す」を押します。流れについては次の節で説明します。
- 時間
- 大きさ(体積の 3 乗根)
- 不足のばらつき
流れ:不足をならす
1982 年、リチャード・ハミルトンは、形そのものを時間で動かす方程式を書きました。
$$\frac{\partial g}{\partial t}=-2\,\mathrm{Ric}$$g は長さの測り方です。曲率が正の向きを縮め、負の向きを伸ばします。不足の大きい向きほど速く縮むので、不足はならされていきます。これがリッチ・フローです。スカラー曲率 S は次の式に従います。
$$\frac{\partial S}{\partial t}=\Delta S+2\,|\mathrm{Ric}|^{2}$$Δ の項は熱の式と同じ形で、でこぼこをならします。2|Ric|² の項は曲率を増やします。ならす働きと、尖らせる働きが、同じ式の中にあります。
ハミルトンは同じ論文で、リッチ曲率が正の閉じた 3 次元空間はこの流れで丸くなることを示しました。計算の要は、3 次元では曲率の全部がリッチ曲率で書けることです。さきほどの 3=3 です。実験 3 で「流す」を押すと、この小さな姿が見られます。はじめの長さをどう選んでも、不足はそろっていきます。不足が負の向きがあっても同じです。別に細かく計算すると、長さ 0.7、1、1.3 から始めた形は時刻 0.246659 で消え、ほかの 4 通りの初期値も含めて、終わりの向きの不足の比はどれも 1.0002 以下でした。
丸い S³ は、半径の二乗が 1−4t で減り、時刻 1/4 に一点へ消えます。ここで時間の単位に気をつけてください。両辺の次元を合わせると、リッチ・フローの時間は秒ではなく、長さの二乗です(論文119)。これがすぐあとで効きます。
問題は、リッチ曲率が正でない形です。どこかにくびれがあれば、流れの途中でそこがつぶれ、曲率が発散して方程式が止まります。
首:皮の面積は 8π で減る
一番簡単な例で見ます。軸のまわりに回転対称な 3 次元の形を考えます。断面は丸い球面、つまり定理の皮です。軸に沿った距離を s、その場所の皮の半径を ψ とします。リッチ・フローのもとで ψ は次の式に従います(アンジェネントとクノップフの形です)。
$$\psi_{t}=\psi_{ss}-\frac{1-\psi_{s}^{2}}{\psi}$$割り算のある、扱いにくい式です。ところが皮の面積 A=4πψ² に直すと、割り算も ψs² の項も全部消えます。
$$\boxed{\,A_{t}=A_{ss}-8\pi\,}$$計算は二行です。(ψ²)t=2ψψt=2ψψss−2+2ψs²、(ψ²)ss=2ψψss+2ψs²。差を取ると −2 だけが残ります。4π を掛ければ −8π です。
皮の面積は、熱のように隣へ広がりながら、一定の速さ 8π で減っていきます。−8π は定数です。形にも、場所にも、時刻にもよりません。
この式が閉じるのは、皮が 2 次元のときだけです。断面を n 次元の球面にすると、u=ψ² は次の式に従います(計算は記号計算でも確かめました)。
$$u_{t}=u_{ss}-2(n-1)+2(n-2)\,\psi_{s}^{2}$$余分な項が消えるのは n=2 だけです。そして皮の面積が ψ² に比例するのも n=2 だけです。n=1 では −2(n−1) が 0 になります。2 次元の形の断面は円で、円には中から測る曲率がないので、首をつぶす力がありません。2 次元のリッチ・フローで首がつぶれないのはこのためです。
単位も見ておきます。面積は長さの二乗です。リッチ・フローの時間も長さの二乗です。だから面積 ÷ 時間は単位のない純粋な数で、その値が 8π です。長さの単位を変えても動きません。
8π の中身は何でしょうか。皮を一枚の面として取り出して、それ自身を 2 次元のリッチ・フローで流します。すると面積の減る速さは、こうなります。
$$\frac{dA}{dt}=-\int 2K\,dA=-2\times 4\pi=-8\pi$$ここにも 4π がいます。どんな形の球面でも、面積は 8π の速さで減ります。皮の全曲率が 4π だからです。首の −8π は、皮の全曲率の 2 倍です。
くびれの深さを決めて「流す」を押します。首が細くなって止まったら「手術」を押します。ブラウザの中でリッチ・フローを解いています。
- 時間
- 首の半径
- 面積
- 面積の減る速さ
- 8π との比
- 減らない量 λ
3 次元の形では、くびれが浅いと首は消えて全体が丸くなり、深いと首がつぶれます。このくびれの形では、境は a=0.66 のあたりです。格子を 200 と 300 にして測ると、どちらでも a=0.6563 は丸くなり、a=0.6656 はつぶれました。つぶれるまで、または丸くなって消えるまでの時間は次のとおりです。
| a | はじめの首の半径 | どうなるか | 時刻 |
|---|---|---|---|
| 0.50 | 0.5000 | 丸くなって消える | 0.1742 |
| 0.65 | 0.3500 | 丸くなって消える | 0.1396 |
| 0.70 | 0.3000 | 首がつぶれる | 0.1185 |
| 0.80 | 0.2000 | 首がつぶれる | 0.0553 |
| 0.90 | 0.1000 | 首がつぶれる | 0.0092 |
時刻は、首の半径が 0.05 を切る時刻、または首が消えたあと全体の半径が 0.08 を切る時刻です。「つぶれる」は、首が一番太い所の 0.3 倍より細くなることで判定しています。
2 次元の形では、どんなに深くくびれていても首はつぶれません。面積の減る速さは、くびれの深さ 0、0.5、0.8 で 25.13222、25.13227、25.13208 でした。8π=25.132741 です。三つの値は小数第 3 位まで同じで、8π との差は 0.01% もありません。
3 次元の首の皮を見ます。a=0.8 の流れで、首の皮の面積の減る速さを数えました。
| 首の半径 | 皮の面積 | 減る速さ | 8π との比 |
|---|---|---|---|
| 0.200 | 0.5022 | 10.424 | 0.415 |
| 0.150 | 0.2833 | 16.372 | 0.651 |
| 0.100 | 0.1255 | 19.198 | 0.764 |
| 0.070 | 0.0617 | 20.461 | 0.814 |
| 0.051 | 0.0323 | 21.218 | 0.844 |
| 0.030 | 0.0111 | 21.991 | 0.875 |

式からすぐ言えることがあります。首の一番細い所では Ass は 0 以上です。だから At は −8π より下がりません。首の皮は、8π より速くは減れません。皮の面積が A なら、つぶれるまでに少なくとも A/(8π) の時間がかかります。首の皮にとって 8π は、超えられない速さです。表の比が 1 を超えないのは、このためです。
手術:切り口は皮である

首がつぶれると方程式は止まります。ハミルトンが考え、ペレルマンが完成させた方法が手術です。細くなった首を切り、切り口に丸いふたをかぶせて、流れを続けます。3 次元の首の切り口は S² です。つまり定理の皮です。空間は、皮で切られます。
実験 4 の手術のボタンは、首の半径が 0.05 を切った所で切ります。別の計算では、a=0.8 の形を時刻 0.05534 で切りました。ふたをかぶせた二つの部品は、首を持たず、どちらも時刻 0.10409 で半径 0.08 まで丸く縮みました。そのときの丸さ(全長 ÷ π ÷ 一番太い所)は 1.0034 です。手術の前後で λ は 29.259 から 29.301 になり、ここでも下がっていません。
もちろん、これは一番簡単な場合です。実際の証明では、回転対称でない形のどこに特異点ができても切れること、切る回数が有限の時間で有限であることを示さなければなりません。それを可能にしたのが、次の量です。
ペレルマンの減らない量
手術を続けるには、曲率が大きくなる所の形を見通さなければなりません。ハミルトンの計画が止まっていた所です。ペレルマンは 2002 年の論文で、流れの中で決して減らない量を示しました。
一つは λ です。−4Δ+S という作用素の一番小さい固有値で、S はスカラー曲率です。実験 4 の λ のグラフを見てください。形がどう変わっても、線は一度も下がりません。別に精度を上げて測ると、a=0.8 の流れで λ は 6.1827 から 29.7106 まで増え、167 回測って減った回は 0 回でした。丸い S³ で確かめると 6.000000 で、厳密な値の 6 と合います。
もう一つが W です。
$$\mathcal{W}(g,f,\tau)=\int\Bigl[\tau\bigl(S+|\nabla f|^{2}\bigr)+f-3\Bigr]\,(4\pi\tau)^{-3/2}\,e^{-f}\,dV$$ここに 4π が見えます。しかし、これは皮の 4π ではありません。(4πτ)−3/2 は 3 次元のガウス分布の規格化の因子で、1 次元の積分 ∫e−x²/(4τ)dx=√(4πτ) を 3 回掛けた数の逆数です。熱が広がるときの 4π です。私は論文07で、この 4π と球面の立体角の 4π を、同じ数で住所が違うと書きました。導出の道に共通の部分がありません。
縮むだけの形では、W は定数になります。その値が形を見分けます。
| 形 | W の値 | 数 | eW |
|---|---|---|---|
| 平らな ℝ³ | 0 | 0 | 1 |
| 丸い S³ | log(2√π)−3/2 | −0.234488 | 0.790976 |
| 首 S²×ℝ | log 2−1 | −0.306853 | 0.735759 |
面白いのは首の値です。首の log 2 の 2 は、皮の面積 4π×2τ を熱の 4πτ で割って出ます。皮の 4π と熱の 4π が、分数の上と下に並んで消え、2 だけが残ります。住所の違う二つの数が出会う場所です。ただ、これは数の上の打ち消しで、二つが同じ根だという意味ではありません。
この量を使って、ペレルマンは「局所的につぶれない」ことを示しました。曲率の尺度で見たとき、小さな球の体積は消えません。おかげで、特異点の近くを拡大したときに見える形が絞られます。3 次元で縮むだけの形は、ℝ³ と、首 S²×ℝ と、丸い S³ の仲間だけです。曲率が大きくなる所は、首か、首にふたをした形か、丸くなって消える部品のどれかに見えます。切り口がいつも皮の形になるのは、このためです。
大事なことがもう一つあります。λ と W が減らないことは、3 次元に限りません。ペレルマンは論文の要旨に、この単調な量は「すべての次元で、曲率の仮定なしに」成り立つと書いています。減らない量は、3 を知りません。W の中の 4π も、次元を変えても 4π のままです。では、3 を知っている部品はどこにあるのでしょうか。
有限時間で消える:皮の 4π が働く場所
手術をくり返しても、流れがいつまでも続くのなら、結論は出ません。ポアンカレ予想に必要なのは、輪が全部縮む空間では、流れが有限の時間で全部消えることです。消えてしまえば、もとの空間は、消えた部品をつないだものだと分かります。
この段を示す道は二つあります。そのどちらにも、ガウス=ボンネの定理が出てきます。
一つはペレルマンの 2003 年の論文です。輪が張る一番小さい円板の面積 A を見ます。円板にガウス=ボンネの定理を使うと、次の不等式が出ます。Smin は空間全体のスカラー曲率の最小値です。2π は、半球の全曲率と同じ数です。
$$\frac{dA}{dt}\le-2\pi-\frac{1}{2}\,S_{\min}\,A$$もう一つはコールディングとミニコッツィの方法です。こちらは皮そのものを使います。空間を、実験 1 のように 2 次元の皮で掃きます。皮は一点から始まって、一点で終わります。掃き方は無数にあります。どの掃き方にも一番大きい皮があるので、それをできるだけ小さくする掃き方を探します。その値を空間の幅 w とします。幅は、リッチ・フローのもとで次の不等式に従います。
$$\frac{dw}{dt}\le-4\pi+\frac{3}{4\,(t+C)}\,w$$右辺の −4π について、二人は論文にこう書いています。
「(1.6) の 4π は、ガウス=ボンネの定理から来る」
Colding & Minicozzi, Width and finite extinction time of Ricci flow (2008) より、私の訳
皮の全曲率です。一番大きい皮の上で面積の減る速さを書くと、こうなります。皮は極小曲面で、KΣ は皮の曲率、|A|² は皮の第二基本形式の大きさです。
$$\frac{d}{dt}\,\mathrm{Area}(\Sigma)=-\int_{\Sigma}K_{\Sigma}\,dA-\frac{1}{2}\int_{\Sigma}\bigl(|A|^{2}+S\bigr)\,dA$$第 1 項は、皮の形にも空間の形にもよらず −4π です。実験 2 で確かめたとおりです。丸い場合で確かめると、次のように分かれます。
| 場所 | 面積の減る速さ | 数 |
|---|---|---|
| 丸い S³ の赤道の皮 | −16π=−4π−12π | −50.265482 |
| 丸い首 S²×ℝ の皮 | −8π=−4π−4π | −25.132741 |
どの場合にも −4π が入っています。第 2 項は空間の曲がりから来る分で、スカラー曲率が負になっても 3/(4(t+C)) w の項で抑えられます。不等式を積分すると、幅は有限の時間で負になると言っています。幅は負になれません。だから流れは、それまでに終わるしかありません。
輪の条件はどこで使われるのでしょうか。二人は、幅が 0 より大きいこと、そこだけだと書いています。
「この正しさが、M の位相の仮定が使われる唯一の場所である」
同じ論文より、私の訳
輪が全部縮む空間では、皮の掃き方を一点につぶすことができず、幅は 0 になれません。この段の論理は、これだけです。輪が幅を正に保ち、皮の 4π が幅を削る。二つは両立しないので、流れは有限の時間で終わる。
球を皮に分けて、どの皮にも同じ 4π が乗る。私が出発点に置いたその光景が、百年の問いの最後の一押しの場面に、ほとんどそのまま立っています。空間を皮で掃き、どの皮にも形によらず 4π があり、それが幅を削っていきます。
ここで、二つの 4π の住所を分けて書いておきます。
| 皮の 4π | 熱の 4π | |
|---|---|---|
| 出どころ | 球面の全曲率(ガウス=ボンネ)、球面の面積 | ガウス積分(熱の広がり) |
| 証明の中の場所 | 有限時間消滅の −4π、首の −8π | W の (4πτ)−3/2 |
| 次元を変えると | 4 次元の皮では消える | 4π のまま、肩の 3/2 が d/2 に変わる |
| 働く次元 | 皮が 2 次元の 3 次元空間 | すべての次元 |
そして、証明の部品を「3 を知っているか」で分けると、こうなります。これは論文114 の物差しを、証明の部品に当てたものです。
| 部品 | 働く次元 |
|---|---|
| リッチ・フローの方程式 | すべての次元 |
| λ と W が減らないこと | すべての次元 |
| 曲率の全部がリッチ曲率で書けること(3=3) | 3 次元(2 次元でも読める) |
| 曲率が大きい所では正が勝つこと(ハミルトン=アイビーの評価) | 3 次元 |
| 首の断面が S² で、皮の面積が閉じた式に従うこと | 3 次元 |
| 皮の全曲率 4π が幅を削ること | 3 次元 |
ペレルマンの減らない量は、どの次元でも働きます。それが 3 次元の問いを解けたのは、3 を知っている部品が別にそろっていたからです。そのうち下の二つは、皮が 2 次元であることから直接来ています。
輪:最後に球面を選ぶもの
流れが全部消えたとします。消える部品は、曲率が一定の空間 S³/Γ と、S²×S¹ です。もとの空間は、これらをつないだものになります。S³/Γ は、S³ を有限の群 Γ で折りたたんだ空間です。
曲率が一定の空間は、「どこから数えても同じ」空間です。どの点から測っても、皮の広さは同じ式 4π sin²r です。定理の皮の目で見れば、どれも S³ と見分けがつきません。では、何が S³ を選ぶのでしょうか。皮を大きくしていくと分かります。S³ 以外の空間では、皮が育つ途中で自分自身にぶつかります。
ポアンカレの 1904 年の反例が、ここに帰ってきます。正十二面体を用意して、向かい合う面を 36° ねじって貼り合わせた空間が、その空間です(ウェーバーとザイフェルトが 1933 年にこの形を示しました)。同じ作り方で、立方体を 90°、正八面体を 60° ねじって貼った空間も作れます。どれも曲率は一定で、S³ を同じ立体で埋めた形をしています。

立体を選び、スライダーで皮の半径を広げます。立体はドラッグで回せます。
- 皮の残り
- 皮の広さ
- S³ の皮の広さ
- 空間の体積
- 縮まない輪の一番短い長さ
- S³ を埋める個数
| 貼る立体 | 面 | ねじり | S³ を埋める個数 | 皮がぶつかる半径 | 皮がなくなる半径 | 体積 | 一番短い輪 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 立方体 | 6 | 90° | 8 | 0.785398 | 60° | 2.467401 | 1.570796 |
| 正八面体 | 8 | 60° | 24 | 0.523599 | 45° | 0.822467 | 1.047198 |
| 正十二面体 | 12 | 36° | 120 | 0.314159 | 22.24° | 0.164493 | 0.628319 |
四元数の有限群(位数 8、24、120)を実際に作り、群として閉じること、最近点の領域が立体になること、体積が 2π²÷位数になること、ねじりが表の角になることを計算で確かめました。半径は、中心からの距離(ラジアン)です。「皮がなくなる半径」は頂点までの距離を度で書いています。8 個の立方体は超立方体の表面、24 個の正八面体は正 24 胞体の表面、120 個の正十二面体は正 120 胞体の表面です。
表の 2 列を比べてください。皮がぶつかる半径は、一番短い縮まない輪の長さのちょうど半分です。皮が向こう側で自分に出会うのは、中心から出た二本の最短線がつながって、一周の輪になるときだからです。皮がぶつかることと、縮まない輪があることは、同じことを二通りに言っています。
S³ では、皮は r=π で南極に閉じるまで、一度も自分にぶつかりません。曲率が一定の空間のうち、皮が最後まで無事に育つのは S³ だけです。キリング(1891)とホップ(1926)の定理は、この裏側です。曲率が一定で、輪が全部縮む閉じた空間は、球面しかありません。
これで道が閉じます。輪が全部縮む空間に、縮まない輪を持つ部品は入れません。S²×S¹ にも、S³ 以外の S³/Γ にも、縮まない輪があります。残る部品は S³ だけで、それをつないでも S³ です。
これまでの道を、皮の順に並べます。証明の論理の順序ではなく、皮の読みの順序です。
- n=2 の唯一性定理どの皮も同じ重さになる濃さは 1/r²。それは 3 次元では皮の曲がりと同じ式である
- ガウス=ボンネの定理皮の全曲率は、どんな形でも 4π
- 小さな皮の展開どの空間も 4π から始まり、曲率はそこからの不足である
- ハミルトン流れが不足をならす。3=3 なので、ならし残しがない
- 首と手術首の皮の面積は 8π より速くは減らず、空間は皮で切られる
- ペレルマン減らない量が特異点の形を絞る
- 有限時間消滅輪が幅を正に保ち、皮の 4π が幅を削る。流れは終わる
- キリング=ホップ残るのは曲率一定の部品で、輪が S³ を選ぶ
なぜ球面なのか
輪が全部縮むと、なぜ球面なのか。皮の言葉で答えると、三段になります。
- 流れが形を、どの点からでも皮が同じ式で育つ空間へ運びます。不足がならされるのは、3 次元では不足が曲がり方の全部だからです。
- 皮の全曲率 4π が、有限の時間で部品を消します。輪が全部縮む空間では、幅が 0 になれないので、流れの方が終わります。
- 残った部品の中で、皮が自分にぶつからずに最後まで育つのは S³ だけです。曲率が一定の空間では、輪が全部縮むことと、皮がぶつからないことは同じです。
定理が言うのは「皮ごとに同じ」でした。S³ は、その皮が北極から南極まで、一度もぶつからずに育ちきる空間です。ポアンカレの問いの答えが球面であることを定理の言葉で言うと、こうなります。
4 次元:皮が 3 次元球面になる
一つ次元を上げます。4 次元の空間の皮は S³ です。3 次元のポアンカレ予想の答えが、4 次元では皮になります。定理は 4 次元にもあります。どの皮も同じ重さになる濃さは 1/r³ で、皮の重さは 2π² です(論文08)。
しかし、この皮は閉じません。曲率 × 広さは 2π²r で、半径が残ります。S³ のオイラー数は 0 で、そもそも全曲率にあたる数がありません。奇数次元の閉じた空間では、オイラー数はいつも 0 です。3 次元で証明を動かした皮の 4π は、4 次元の皮にはありません(4 次元で固定できる数は、後の節に書きます)。
代わりに、S³ には別の構造があります。ホップ束です。S³ 全体を、互いに交わらない円で埋め尽くせます。一本の円が、半径 1/2 の球面の一点に対応します。半径 R の S³ では、底の面積と円の長さの積が、ちょうど体積になります(論文08)。
$$\pi R^{2}\times 2\pi R=2\pi^{2}R^{3}$$半径 1 なら π×2π=2π² です。底の面積は 4π ではなく π です。半径 2 のとき、底も円も 4π になり、4π×4π=16π² と分かれます。ただし、これは面積と長さを比べた一致なので、長さの単位を変えると一致する半径は動きます。動かないのは、半径を 2 倍すると体積が 8 倍になることです。
ドラッグで回します。半径を動かし、見る円と貼り方を選びます。
- 底の面積
- 円の長さ
- 掛けた数
- 空間の体積

どの二本の円も、ちょうど一度絡みます。ガウスの積分で測ると絡み数は 1.000001 でした。この絡みが、球面と、ただの積を分けます。体積の積だけなら、S³ を別の埋め方で分けても同じ 19.739209 になります。積は埋め方を見分けず、絡み数が見分けます(論文1068)。ここでも、数では分かれなかったものが、輪で分かれます。
円を p 等分して貼ると、レンズ空間 L(p,1) ができます。体積は 2π²/p で、皮がぶつかる半径は π/p です。p=2、3、5 で 1.570796、1.047198、0.628319 になります。円の長さが 2π/p になり、その円が縮まない輪です。ホップ束の貼り方と、実験 5 の空間は、同じ仲間の話です。
なぜ 4 次元だけが開いているのか
「ポアンカレ予想」は、次元ごとに一つの問いではありません。「球面と同じ」を位相で読むか、なめらかさまで含めて読むかで、別の問いになります(論文1003)。
| 次元 | 位相の問い | なめらかな問い |
|---|---|---|
| 1・2 | 古典 | 古典 |
| 3 | ペレルマン(2002〜2003) | ペレルマン(3 次元では二つの問いは同じ) |
| 4 | フリードマン(1982) | 未解決 |
| 5・6 | スメイルほか(1961〜) | 解決(球面は一通り) |
| 7 以上 | スメイル、ニューマンほか | 球面が何通りもある次元が多い(7 次元は 28 通り) |
1〜139 次元のなめらかな問いを数えると、球面が一通りの次元が 8、未決が 1、異種球面のある次元が 130 です。未決の 1 が 4 次元です。解けていないのは、高い次元ではなく、ちょうど 4 次元です。
なぜ 4 次元なのか。理由の一つは足し算です。5 次元以上の証明の要は、ホイットニーの技法です。交わる二点を、2 次元の円板を使って消します。円板は 2 次元なので、5 次元以上の空間では、一般の位置で自分と交わりません。4 次元ではちょうど点で交わります。2+2=4 だからです。乱数の三角形を二枚置くと、R⁴ では割合 0.055670 で交わり、R⁵ では 0 でした(論文1004)。この困難を、フリードマンは位相の世界で乗り越えました。なめらかな世界では、ドナルドソンが、この技法が成り立たない例を示しました。
皮の側から見ると、もう一つの 4 が見えます。曲率は長さの −2 乗です。だから曲率の 1 乗は、2 次元の面の上で積分すると尺度が消えます。これがガウス=ボンネの 4π でした。曲率の 2 乗は長さの −4 乗です。だから 4 次元の上で積分すると尺度が消えます。ヤン=ミルズの ∫|F|² がそれで、ドナルドソンの理論の土台です。3 次元の証明を支えた「曲率の 1 乗 × 2 次元の皮」が、4 次元では「曲率の 2 乗 × 4 次元の空間」に席を譲ります。
円板の 2+2 と、曲率の 2×2 が、同じ根の 4 なのかどうかは、私は確かめていません。別根のまま、同じ次元に重なっているのかもしれません。4 次元に現れる対象を仕分けた論文114や、結び目を調べた論文254も、この次元の居場所を別の角度から見ています。ℝⁿ に複数のなめらかな構造があるのは n=4 だけで、しかも数えきれないほどあります。
リッチ・フローから見ても、4 次元は別の世界です。ワイル曲率の 10 成分は、不足では読めません。首の断面が 3 次元になると、さきほどの式には 2ψs² の項が残ります。皮の全曲率もありません。減らない量 W は 4 次元でも働きますが、3 を知っていた部品は 4 次元には移りません。
スライダーで空間の次元 d を動かします。三つの図で、二本の線が交わる次元を見てください。
- 定理の指数
- 向き / 面
- 皮の広さ
- 曲率の全部 / リッチ
- ワイルの成分
- 曲率 × 皮の広さの r の冪
- ポアンカレ予想
三つの組は、どれも d=3 で交わります。定理の指数 d−1 と曲率の指数 2、向きの数と面の数、皮の広さと 4π。しかし私は、この三つを一つの根にまとめません。それぞれ別の理由で 3 にいます。数が重なったというだけで同じ根と呼ばないこと、これは論文300 以来の私の決まりです。ただ、別々の理由がそろって 3 を指していること自体は、数えられる事実です。
4 次元で先に固定できる数:総量と W の取り分
ここまで、4 次元の皮には 4π にあたる数が無いと書いてきました。では 4 次元には、先に固定できる数が無いのでしょうか。あります。皮ではなく、空間そのものが持っています。閉じた 4 次元の空間では、曲率の 2 乗を積分した量がオイラー数 χ だけで決まります(チャーンの定理の 4 次元の形)。
$$\int Q\,dV+\int\|W\|^{2}\,dV=8\pi^{2}\chi$$Q はスカラー曲率と跡のないリッチ曲率から作る量で、W はワイル曲率です。丸い S⁴ では W は 0 で、Q=6/r⁴ に広さ 8π²r⁴/3 を掛けると半径が消えて、16π² が残ります。半径 1 でも 3 でも同じです。3 次元の皮の 4π と同じことが、次元を一つ上げた場所で起きています。ただし、この 16π² は (4π)² とは読みません。4π が二度現れる理由が無いからです(論文48)。
計量をどう動かしても、総量は動きません。動くのは、Q と W の分け方だけです。総量のうち W が持つ割合を f と書きます。f は尺度にも共形変換にもよりません。

チャン、ガースキー、ヤンの定理(2003)を f で言い直すと、短くなります。山辺定数が正で、Q が W に勝つなら(f<1/2)、空間は S⁴ か RP⁴ です。半分のところに壁があります。壁の値を決めているのは CP² で、この空間はちょうど f=1/2 です。裏返すと、もし異種の S⁴ があるなら、山辺定数が正のどの計量でも、W は総量の半分より多くを持ちます。
クイパーの定理を通すと、なめらかな 4 次元ポアンカレ予想は「位相が S⁴ の空間は、どれも W=0 の計量を持つか」という問いと同じです。S⁴ では W の二つの向きの量が等しいので、半分を消せれば残りの半分も消えます。
私はこの取り分を、S³ の皮を重ねた空間で計算しました(論文1105)。ホップ束の円の太さと底の大きさの比を v と書くと、W は v だけで書けて、皮の大きさは式から消えます。総量は皮の閉じ方で決まります。皮が点につぶれる端が 8π²、円だけがつぶれて面が残る端が 16π²、途中の首は 0 です。S⁴ は点と点で閉じる空間で、16π² はここから来ます。この族の中で面を持たないのは S⁴ だけです。
W の二つの向きの差は全微分になります。そこから、どの皮についても次の不等式が出ます。t は共形の時間です。
$$f\ \geq\ (1-v^{2})^{2}+2\Bigl(\frac{dv}{dt}\Bigr)^{2}$$いちばん歪んだ皮一枚が、W の取り分の床を決めます。4 次元の皮に総量の数はありませんが、形の数(η 不変量)はあって、それが床になっています。この (1−v²)² は、ヒッチンが 1974 年に求めた固有値から別の道で数えた値と、比 0.99996 以上で合いました。折り返しの皮で床にちょうど乗る空間は、ペダーセンの計量の球を二つ背中合わせにした形をしています。
いちばん歪んだ皮の比 v₀ と、そこにはさむ首の長さ L を動かします。
- W の取り分 f
- Q の取り分
- 皮の床
- 山辺定数の符号
壁の向こうも、全部が本物の S⁴ です。スカラー曲率がどこでも正のまま f を 1/2 より大きくできて、首を長くすれば 1 も超えます(皮の比 0.5、首の長さ 6 で f=1.125)。壁は「手前なら球面」と言いますが、「向こうなら球面でない」とは言いません。壁は片側にしかありません。一つの計量の f を見ても、空間の素性は分かりません。分かるとすれば、その空間の中での f の下限のほうです。
f を下げていくと止まる計量(バッハ平坦)は、点で閉じる端を持つと、W の片方の向きが消えたものに縛られます。この族の S⁴ で止まるのは、丸い計量に共形なものだけです。別の計量が止まれるのは面で閉じる端を持つ空間で、CP²#−CP² のペイジの計量(f=0.68155171)がその例です。S²×S² では、ガースキーの定理(1998)から、積の計量の f=2/3 が下限です。
これは予想の証明でも、解く道でもありません。この族の空間はどれも、もともと分かっている S⁴ や CP² で、異種の S⁴ は一つも入っていません。分かったのは問題の周りの勘定です。総量は数で決まっているので、もし違いがあるなら、それは分け方の側にあります。
ペレルマンという人
グリゴリー・ペレルマンは 1966 年、レニングラードに生まれました。2002 年 11 月 11 日、2003 年 3 月 10 日、2003 年 7 月 17 日の 3 回に分けて、証明の論文をプレプリントとして arXiv に公開しました。1 本目の最初のページの脚注に、こう書かれています。
「1992 年秋のクーラント研究所、1993 年春のニューヨーク州立大学ストーニーブルック校、1993〜95 年のミラー・フェローとしてのカリフォルニア大学バークレー校に滞在したあいだに貯めた、個人の貯金の一部で支援を受けた。これらの機会を用意するために働いてくれた、すべての人に感謝する。」
Perelman (2002) の脚注より、私の訳
証明は、クライナーとロット、モーガンとティアン、カオとジューの 3 つの組が、数年かけて細部まで検証しました。小さな穴は見つかりましたが、どれも彼の方法で埋まるものでした。
ペレルマンは 2005 年 12 月にステクロフ研究所を辞め、2006 年のフィールズ賞を辞退し、2010 年にクレイ数学研究所のミレニアム賞も辞退しました。辞退の理由の一つとして、ハミルトンの貢献は自分と同じだけ大きいという趣旨の言葉が伝えられています。ハミルトンは 2024 年 9 月 29 日に亡くなりました。
私はペレルマンを、とても尊敬しています。だれも見ていなかった所に減らない量を見つけ、3 回のプレプリントで百年の問いを閉じ、貯金で研究したことは脚注に一行だけ書いて、感謝で結んだ人です。
どこまでが既知で、どこからが私の仕事か
既知のこと。ポアンカレ予想の証明は、ペレルマンの仕事です。リッチ・フローはハミルトンの仕事です。ガウス=ボンネの定理、小さな皮の展開(グレイ 1973 など)、ミルナーの曲率の式、回転対称な流れの式、有限時間消滅の不等式、W の値、キリング=ホップの定理、ホップ束、4 次元の結果(チャーンの定理の 4 次元の形、クイパー、チャン=ガースキー=ヤン、ガースキー、ヒッチン、ペダーセン、ペイジの結果を含みます)は、どれも既知です。
論文で加えたこと。n=2 の唯一性定理とその次元の族(論文01・論文08)。W の 4π と立体角の 4π の住所を分けたこと(論文07)。ホップ分解で一致する半径は単位で動き、体積比 8 は動かないと見分けたこと(論文08)。圏の表と円板の交わりを数えたこと(論文1003・論文1004)。S³ の皮の族で W を比 v だけで書き、いちばん歪んだ皮が W の取り分の床を決めること、壁が片側にしかないことを数えたこと(論文1105)。
このページで新しく整理したこと。まだ論文にしていません。定理の濃さを皮の曲率として読むこと。曲率を 4π からの不足として読み、向きの数と面の数の一致につなぐこと。皮の面積の式 At=Ass−8π の形と、余分な項が n=2 でだけ消えること。首の W の 2 が二つの 4π の割り算で出ること。有限時間消滅の 4π を定理の皮につなぐ読み。証明の部品を「3 を知っているか」で分けた表。皮がぶつかる半径の表です。どれも公開されている式の組み合わせで、同じ形の整理を書いた文献があるかどうかは、全部は調べていません。
しないこと。このページは、別証明でも簡略化でもありません。唯一性定理が無くても、証明は一字も変わりません。皮の 4π はガウス=ボンネの定理の形で働くもので、唯一性定理から導かれるのではありません。流れを動かしているのはリッチ・フローと単連結性であるという論文07 の立場は、今も同じです。4 次元の開いた問いに、私は何も足していません。
体系の中で
ポアンカレ予想は、私の論文の体系の中で何度も戻ってくる場所です。読む順番の案を置きます。
- 論文01「球対称密度分布における n=2 の唯一性定理」:皮の定理そのもの。
- 論文02「4π質量相殺定理」:同じ事実を積分の側から書いたもの。
- 論文07「n=2唯一性定理とペレルマン・リッチフローに基づく 3次元ポアンカレ予想の構造的解釈」:三つの条件の位置と、二つの 4π。
- 論文08「n=3唯一性定理とホップファイブレーションに基づく 4次元ポアンカレ予想とエキゾチック構造の構造的解釈」:2π² とホップ分解。
- 論文103「幾何を正準形へ流す」:動的な唯一性。
- 論文110「リッチ・フローはくりこみ群フローである」:フリーダンの定理との橋。
- 論文114「「4次元らしさ」を担うのは誰か」:次元を選ぶものと選ばないもの。
- 論文119「第四の時計」:リッチ・フローの時間は長さの二乗である。
- 論文174「その特異点は、どちらの持ち物か」:広中の解消と手術の違い。
- 論文254「「四次元では結び目がほどける」も、一つの現象ではない」。
- 論文300「三百本目の点呼 ── 同根か別根かは、判定できる」:分離子の判定。
- 論文1003「ポアンカレ予想は圏ごとに別の問いで、PL でも微分でも開いたままの次元は 4 だけである」。
- 論文1004「交点を消す円板は、5 次元以上では自分と交わらず、4 次元でだけ点で交わる」。
- 論文1068「体積の積が同じでも、繊維の絡み数が束を見分ける」。
- 論文1092「密度 1/r² の「2」は二つあり、球殻の重さの 2 と地平線のつり合いの 2 が重なるのは 3 次元だけである」。
- 論文1104「地球に描いた半径 1000 km の円は円周が 25.77 km 足りないが、紙を丸めた円柱の上の円は少しも足りない」:不足の読みの 2 次元の版。
- 論文1105「4 次元球面の 16π² は Q と W で分け合い、いちばん歪んだ皮一枚が W の取り分の床を決める」:4 次元で先に固定できる数と、その分け方。
同じ不足を地球の上で測った読みものに「地球に描いた半径 1000 km の円は、円周が 25.77 km 足りない」があります。出発点の定理は「n=2 の唯一性定理」、別根の考え方は「分離子とは何か」に書きました。
同じ題材の本に『ポアンカレ予想を、球の殻で読む』があります(Google Play ブックス)。本は、数式をなるべく減らして、殻に乗る数を次元ごとに順に説明したものです。このページの不足の読み、皮の面積の式、有限時間消滅の 4π、皮がぶつかる半径の話は、本には入っていません。本を読んだ方にも、初めて読むページになるように書きました。
よくある質問
これはポアンカレ予想の別の証明ですか?
いいえ。証明はペレルマンのものです。このページは、その証明のどこで 3 という次元と 4π が効いているかを読むものです。
皮の 4π と熱の 4π は、本当に別物ですか?
はい。皮の 4π は球面の全曲率で、皮が 2 次元であることから来ます。熱の 4π はガウス積分から来て、どの次元でも同じです。数が同じだけで、導出の道に共通の部分がありません。首の W の値で分数の上と下に並ぶのは、数の上の打ち消しです。
なぜ輪の条件が要るのですか?
皮の言葉では二か所で要ります。一つは、幅が 0 になれないこと。これが流れを有限の時間で終わらせます。もう一つは、残った曲率一定の部品の中から S³ を選ぶこと。皮が自分にぶつからないのは、縮まない輪がないからです。
3 次元球面は、どんな形をしているのですか?
玉を二つ、表面どうしで貼り合わせた形です(図 2)。別の見方が、円で埋めた形です(実験 6)。どちらも同じ S³ です。
4 次元のポアンカレ予想は、解けていないのですか?
位相の問いは、1982 年にフリードマンが解きました。なめらかな問いは、2026 年の時点で未解決です。7 次元以上と違い、4 次元で球面が何通りあるのかは分かっていません。総量は位相で決まるので、違いがあるなら Q と W の分け方の側にあります(総量と W の取り分)。
図の計算は、どこまで信用できますか?
実験の図は、格子 200 の粗い計算です。最後の桁は動きます。手術の瞬間は流れの式の外にあるので、λ が減らないという定理はそこでは保証されません。本文と表の数は別に計算した値で、計算の手順は流れの丸い解と 8 桁(格子 200 で 3 次元の差 8.69 × 10⁻⁹)まで合わせてあります。つぶれる境の a=0.66 は、このくびれの形での値で、普遍の定数ではありません。
論文と文献
論文はどれも CC BY 4.0 で公開しています。論文01 の記録は YOI の記録のページにあります。
このページで確かめた主な文献です。
- Poincaré, H. (1904). Cinquième complément à l’analysis situs. Rendiconti del Circolo Matematico di Palermo.
- Killing, W. (1891)、Hopf, H. (1926). Zum Clifford-Kleinschen Raumproblem:曲率一定の空間。
- Hopf, H. (1931). Über die Abbildungen der dreidimensionalen Sphäre auf die Kugelfläche.
- Weber, C. & Seifert, H. (1933). Die beiden Dodekaederräume.
- Smale, S. (1961)、Freedman, M. (1982)、Donaldson, S. (1983, 1987):高い次元と 4 次元。
- Kuiper, N. H. (1949). On conformally-flat spaces in the large. Annals of Mathematics.
- Chang, S.-Y. A., Gursky, M. J. & Yang, P. C. (2003). A conformally invariant sphere theorem in four dimensions. Publications Mathématiques de l’IHÉS.
- Hitchin, N. J. (1974). Harmonic spinors. Advances in Mathematics、Hitchin, N. J. (1997). Einstein metrics and the eta-invariant.
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- Gursky, M. J. (1998). The Weyl functional, de Rham cohomology, and Kähler-Einstein metrics. Annals of Mathematics.
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- Perelman, G. (2003). Finite extinction time for the solutions to the Ricci flow on certain three-manifolds. arXiv:math/0307245.
- Cao, H.-D., Hamilton, R. S. & Ilmanen, T. (2004). Gaussian densities and stability for some Ricci solitons:W の値。
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- Colding, T. H. & Minicozzi, W. P. (2008). Width and finite extinction time of Ricci flow. Geometry & Topology 12.
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- Ni, L. & Wallach, N. (2008)、Cao, H.-D., Chen, B.-L. & Zhu, X.-P. (2008):縮むだけの形の分類。