要旨
磁場の中を伝わる波の速さは、アルヴェーン速度 $v_A=B/\sqrt{\mu_0\rho}$ で決まる。名前に「磁気」が付いているので、磁場が決めていると読みたくなる。本稿が問うのは、実際に効いているのはどちらかである。答は、密度である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、五つの場所で計算する。太陽コロナで $\mathbf{690.30}$ km/s、地球外核で $\mathbf{8.92}$ mm/s である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。この二つは磁場が同じ $1$ mT である。それでも $\mathbf{7.7382\times10^{7}}$ 倍違う(第3節)。
第三に、比は密度比の平方根とちょうど一致する。密度比 $5.9880\times10^{15}$ の平方根は $\mathbf{7.7382\times10^{7}}$、磁場は約分されて完全に消えている(第3節)。
第四に、磁場を動かしても足りない。実験室で $\mathbf{1}$ T をかけても $6903.0$ km/s であり、コロナの $10$ 倍にしかならない(第4節)。
第五に、地球核の $8.92$ mm/s を実感する。一年で $\mathbf{281.51}$ km、外核の厚さ $2260$ km を横切るのに $\mathbf{8.0}$ 年かかる(第5節)。
第六に、$\mu_0$ の $4\pi$ を手柄にしない。論文267 と同じ扱いで、単位系の取り方から来ている(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。アルヴェーン速度の表式、各領域の代表的な磁場と密度、音速との比較は、いずれも標準的である。磁気流体力学を作らない。使うのは一つの平方根と、二つの比だけである。アルヴェーン速度を導出しない。$v_A=B/\sqrt{\mu_0\rho}$ を引くだけであり、磁気張力から出す議論には立ち入らない。磁気再結合を扱わない。太陽フレアもダイナモも一切扱わない。地球の磁場の起源を論じない。外核の対流も、ダイナモ理論も扱わない。密度と磁場を代表値として置くだけである。代表値の精度を主張しない。磁場も密度も桁を示すための値であり、場所と時期によって大きく動く。とくにコロナの密度と地球外核の磁場は一桁の幅がある。音速の値に前提がある。第4節の $c_s$ は完全電離水素・$\gamma=5/3$・電子と陽子の両方の圧力を仮定した値である。仮定を変えれば数割動く。$\mu_0$ の $4\pi$ を発見だと言わない。論文267 が単位系の取り方から来ると書いた。本稿も同じ扱いであり、論文02 の $4\pi$ とは身分が違う。既刊との関係:論文267 は変位電流が電流でないことを示し、$\mu_0$ の $4\pi$ が単位から来ると書いた。本稿も同じ $\mu_0$ を使い、同じ扱いをする。論文256 は無次元数が二つあると模型が作れないことを扱った。本稿は一つの式の中で、どちらの変数が効いているかを分ける。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿も $7.74\times10^{7}$ という比を桁で書く。論文240 は「質量」が七つあることを数えた。本稿は一つの式の中の二つの変数を分ける。加えたのは五つの領域でアルヴェーン速度を計算して並べたこと、同じ磁場で $7.7382\times10^{7}$ 倍の差が出ることを見たこと、その比が密度比の平方根とちょうど一致すると確かめたこと、地球外核の $8.92$ mm/s を「外核横断に $8.0$ 年」という形に直したことである。
1. 記法と位置づけ
設定:導電性の流体(プラズマや溶けた鉄)の中を、磁力線に沿って波が伝わる。その速さは
$$v_A=\frac{B}{\sqrt{\mu_0\rho}}$$
である($B$ は磁場、$\rho$ は質量密度、$\mu_0=4\pi\times10^{-7}$)。
問い:この速さを決めているのは、$B$ と $\rho$ のどちらか。
答は、密度である。式の上では二つとも入っているが、実際の場面では密度の変動幅が圧倒的に広い。
注意:$\mu_0$ の中の $4\pi$ は単位系の取り方から来る。論文267 と同じ扱いで、手柄にしない。
2. 五つの場所で計算する
検算 2.1:代表的な磁場と密度を入れる。
| 場所 | $B$ [T] | $\rho$ $[\mathrm{kg/m^3}]$ | $v_A$ |
|---|---|---|---|
| 実験室プラズマ | $1.0$ | $1.67\times10^{-8}$ | $\mathbf{6903.0}$ km/s |
| 太陽コロナ | $1.0\times10^{-3}$ | $1.67\times10^{-12}$ | $\mathbf{690.30}$ km/s |
| 太陽風($1$ AU) | $5.0\times10^{-9}$ | $8.4\times10^{-21}$ | $48.67$ km/s |
| 星間物質 | $5.0\times10^{-10}$ | $1.67\times10^{-21}$ | $10.91$ km/s |
| 地球外核 | $1.0\times10^{-3}$ | $1.0\times10^{4}$ | $\mathbf{8.92}$ mm/s |
観察 2.2 一番上と一番下で $\mathbf{7.74\times10^{11}}$ 倍ひらく。同じ一つの式が、$11$ 桁にわたる速さを返している。
観察 2.3 正直に書くべき点、どの値も代表値である。コロナの密度も地球外核の磁場も一桁の幅がある。本稿が主張するのは桁の構造であって、個々の数値ではない。
3. 芯:同じ磁場でも、$7.74\times10^{7}$ 倍違う
設定:上の表で、太陽コロナと地球外核は磁場が同じ $1$ mT である。そこだけを取り出す。
検算 3.1:
| 場所 | $B$ | $\rho$ | $v_A$ |
|---|---|---|---|
| 太陽コロナ | $\mathbf{1.0\times10^{-3}}$ T | $1.67\times10^{-12}$ | $6.902983\times10^{5}$ m/s |
| 地球外核 | $\mathbf{1.0\times10^{-3}}$ T | $1.0\times10^{4}$ | $8.920621\times10^{-3}$ m/s |
| 比 | $\mathbf{1.0000}$ | $5.9880\times10^{15}$ | $\mathbf{7.7382\times10^{7}}$ |
観察 3.2 磁場の比は $1$ ちょうどである。それでも速さは $\mathbf{7.74\times10^{7}}$ 倍違う。磁場は一切効いていない。
検算 3.3:比が密度から出ていることを確かめる。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 密度比 $\rho_{\text{核}}/\rho_{\text{コロナ}}$ | $5.9880\times10^{15}$ |
| その平方根 | $\mathbf{7.7382\times10^{7}}$ |
| 速さの比(実測) | $\mathbf{7.7382\times10^{7}}$ |
| 差 | $\mathbf{0}$ |
観察 3.4 ぴたりと一致する。$B$ が同じなら $v_A\propto\rho^{-1/2}$ になるので当然だが、当然であることが本稿の要点である。磁場は約分されて完全に消えている。
観察 3.5 分離子、何を動かすと速さが変わるか。密度である。名前に「磁気」が付いていても、現実の場面で幅を作っているのは密度のほうである。
4. 磁場を動かしても、足りない
検算 4.1:磁場だけを動かして、密度の差を埋められるかを見る。
| 場所 | $B$ | $v_A$ | コロナ($690.30$ km/s)の |
|---|---|---|---|
| 実験室プラズマ | $\mathbf{1.0}$ T(コロナの $1000$ 倍) | $6903.0$ km/s | $\mathbf{10.0}$ 倍 |
| 太陽コロナ | $1.0\times10^{-3}$ T | $690.30$ km/s | $1$ 倍 |
観察 4.2 磁場を $1000$ 倍にしても、速さは $10$ 倍にしかならない。密度も $10^{4}$ 倍違うので、二つの効果が打ち消し合っている。$1000/\sqrt{10^{4}}=10$ である。
観察 4.3 地球核の $8.92$ mm/s をコロナ並みにするには、磁場を $7.74\times10^{7}$ 倍、すなわち $\mathbf{7.7\times10^{4}}$ T にせねばならない。実験室で作れる最強の定常磁場($45$ T 前後)の $\mathbf{1700}$ 倍である。磁場では埋まらない。
検算 4.4:コロナの音速と比べる。完全電離水素・$\gamma=5/3$・$T=10^{6}$ K で、電子と陽子の両方の圧力を数える。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 音速 $c_s=\sqrt{2\gamma kT/m_p}$ | $\mathbf{165.88}$ km/s |
| アルヴェーン速度 $v_A$ | $690.30$ km/s |
| 比 $v_A/c_s$ | $\mathbf{4.1615}$ |
観察 4.5 コロナでは $v_A/c_s=4.16$ で、磁気のほうが速い。だから磁場が力学を支配する。ただしこの比も、密度が決めている。
観察 4.6 正直に書くべき点、音速の値は仮定に依存する。$\gamma$ を $1$(等温)にすると $128.5$ km/s になり、比は $5.37$ になる。$4.16$ という数そのものを主張しない。
5. 地球核の $8.92$ mm/s を実感する
検算 5.1:$8.920621\times10^{-3}$ m/s を、別の単位に直す。
| 書き方 | 値 |
|---|---|
| $v_A$ | $\mathbf{8.9206}$ mm/s |
| 一年で進む距離 | $\mathbf{281.51}$ km |
| 外核(厚さ $2260$ km)を横切る時間 | $\mathbf{8.0}$ 年 |
観察 5.2 地球の中では、磁場の擾乱が外核を横切るのに $8$ 年かかる。人が歩くよりはるかに遅い。$1$ mT という、コロナと同じ強さの磁場なのにである。
観察 5.3 一方コロナでは、同じ $1$ mT の磁場で $690.30$ km/s である。太陽の半径 $7\times10^{5}$ km を横切るのに約 $17$ 分、同じ磁場で、$8$ 年と $17$ 分である。
観察 5.4 これが $7.74\times10^{7}$ 倍という数の中身である。桁で書くと実感しにくいが、時間に直すと分かる。論文190 が「稀」を対数で測ったのと逆に、ここでは対数を戻して実感に直している。
6. $\mu_0$ の $4\pi$ を手柄にしない
観察 6.1 $\mu_0=4\pi\times10^{-7}=1.2566371\times10^{-6}$ である。アルヴェーン速度の分母に $4\pi$ が入っている。
観察 6.2 論文267 は、$\mu_0$ の $4\pi$ が単位系の取り方から来ると書いた。ガウス単位系では $v_A=B/\sqrt{4\pi\rho}$ となり、$\mu_0$ が消えて $4\pi$ が露出する。どちらの書き方でも $4\pi$ は残るが、それは規約の側の $4\pi$ である。
観察 6.3 論文258 が書いた条件(点源・三次元・等方)は、ここでは満たされていない。源も無く、逆二乗でもない。論文02 の $4\pi$ とは身分が違う。
観察 6.4 したがって本稿は、この $4\pi$ について何も主張しない。同じ記号が、幾何から出る場合と単位から出る場合を持つという点だけを、論文267 に従って記録する。
7. 点呼と結び
- 五つの場所(検算2.1):$6903$ km/s から $8.92$ mm/s まで、$11$ 桁。
- 同じ $1$ mT で $7.74\times10^{7}$ 倍(検算3.1):磁場の比は $1$ ちょうど。
- 比は密度比の平方根(検算3.3):差が $0$。
- 磁場は約分されて消える(観察3.4):名前に反して効いていない。
- $1000$ 倍にしても $10$ 倍(検算4.1):密度が打ち消す。
- 埋めるには $7.7\times10^{4}$ T(観察4.3):実験室の最強磁場の $1700$ 倍。
- コロナで $v_A/c_s=4.16$(検算4.4):ただし仮定に依存する。
- 外核横断に $8.0$ 年(検算5.1):年 $281.51$ km。
- コロナなら $17$ 分(観察5.3):同じ磁場で。
結び:アルヴェーン速度は「磁気流体波の速さ」と呼ばれるが、効いているのは磁場ではなかった。太陽コロナと地球外核は磁場が同じ $1$ mT である。それでも速さは $\mathbf{7.7382\times10^{7}}$ 倍違い、その比は密度比の平方根とちょうど一致する。磁場は約分されて完全に消えている。磁場を動かしても足りない。実験室で $1000$ 倍にかけても速さは $10$ 倍にしかならず、地球核をコロナ並みにするには $\mathbf{7.7\times10^{4}}$ T、実験室の最強磁場の $1700$ 倍が要る。時間に直せば分かる。同じ $1$ mT の磁場で、地球の外核を横切るのに $8.0$ 年、太陽を横切るのに $17$ 分である。分けるものは一つ、式の中のどの変数が、実際の場面で幅を作っているのかを書き出すこと。書き出せば、名前が指しているものと、効いているものが分かれる。書き出さなければ、$8$ 年と $17$ 分の差を磁場のせいだと読んでしまう。
参考文献
- Alfven, H. (1942). Existence of Electromagnetic-Hydrodynamic Waves. Nature, 150(3805).
- Priest, E. (2014). Magnetohydrodynamics of the Sun. Cambridge: Cambridge University Press.
- Aschwanden, M. J. (2005). Physics of the Solar Corona. Berlin: Springer.
- Gubbins, D. and Roberts, P. H. (1987). Magnetohydrodynamics of the Earth’s Core. In Geomagnetism, Volume 2. London: Academic Press.
- Davidson, P. A. (2001). An Introduction to Magnetohydrodynamics. Cambridge: Cambridge University Press.
- Dziewonski, A. M. and Anderson, D. L. (1981). Preliminary Reference Earth Model. Physics of the Earth and Planetary Interiors, 25(4).
- 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
- 山岸勇輝 (2026). 「質量」は七つあり、そのうち一つは負になり、一つは押す向きで変わる [論文240]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22129765
- 山岸勇輝 (2026). 力学相似が厳密に成り立つ縮尺は、$1$ だけである [論文256]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168919
- 山岸勇輝 (2026). $4\pi$ が出るのは、源が点のときだけである [論文258]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169011
- 山岸勇輝 (2026). 変位電流は、電流ではない [論文267]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169814
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ磁場でも、コロナと地球核でアルヴェーン速度は 7.7410^7 倍違う」[論文280]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22170282
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ磁場でも、コロナと地球核でアルヴェーン速度は 7.74×10⁷ 倍違う [論文280]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/280 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22170282
Yamagishi, Y. (2026). With the Same Magnetic Field, the Alfven Speed Differs by a Factor of 7.74×10⁷ Between the Corona and the Earth’s Core [Paper 280]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/280; DOI: 10.5281/zenodo.22170282
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