【論文318】「鍵長が半分になる」は二つあり、片方は量子計算機を待たない

要旨

論文305 は、量子計算機が対称鍵の実効長を半分にすると示した(グローバー)。本稿が問うのは、半分になる道はそれだけかである。答は、もう一本あり、そちらは古典で足りるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、$23$ 人で半分を超える。同じ誕生日の組がある確率は $\mathbf{0.507297}$(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。必要な個数は $N$ ではなく $\sqrt{N}$ に比例する。$1.1774\sqrt{N}$(第3節)。

第三に、$64$ ビットなら $\mathbf{5.06\times10^{9}}$ 個で衝突する(第3節)。

第四に、これは量子計算機を待たない。古典の計算機で、いま起きている(第4節)。

第五に、二つの半分は別根である。グローバーは探索、誕生日は衝突を半分にする(第5節)。

第六に、分離子は「一つを当てるのか、二つを一致させるのか」である(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。誕生日のパラドックス、誕生日限界、衝突耐性が鍵長の半分であること、グローバーの二次加速は、いずれも標準的である。暗号を作らない。使うのは一つの積と、一つの平方根だけである。ハッシュ関数の設計を論じない。どの関数が安全かは扱わない。出力長だけから出る限界を見る。既存の攻撃を評価しない。MD5 や SHA-1 の実際の破られ方(差分攻撃)には立ち入らない。誕生日限界は下限であって、実際の攻撃はそれより速いことがある。量子計算機の実現可能性を論じない。論文305 が扱った。本稿は比較のために引くだけである。確率論を作らない。近似式 $1.1774\sqrt{N}$ の導出には立ち入らない。既刊との関係:論文305 は「安全の根拠は三つあり、量子計算機が壊すのは一つだけ」と示し、グローバーで対称鍵の実効長が半分になることを表にした($128\to64$、$256\to128$)、本稿は同じ「半分」が、量子とは無関係にもう一本の道から出ることを示す。305 が探索の側、本稿が衝突の側である。論文281 は複製できないのに訂正はできると示した。同じ暗号の家系であり、本稿はハッシュの側に立つ。論文190 は「稀」が対数の目盛りで測ると示した。本稿の $\sqrt{N}$ は対数で半分になるという、その系である。論文300 は同根か別根かは判定できると示した。本稿は二つの「半分」にその基準を当てる。論文316 は同じ整数を三つの数え方が返すと示した。本稿は同じ「半分」を二つの機構が返すという、同じ型である。加えたのは人数ごとの一致確率を計算したこと、$23$ 人で $0.507297$ と出したこと、出力長ごとに必要な個数を $1.1774\sqrt{N}$ で並べたこと、グローバーの半分と誕生日の半分を論文300 の基準で別根と判定したことである。

1. 記法と問い

事実(論文305):グローバーの探索は $2^{n}$ を $2^{n/2}$ にする。だから対称鍵 $256$ ビットの実効長は $128$ ビットになる。量子計算機が要る。

問い:半分になる道は、それだけなのか。

観察 1.1 答はもう一本あるである。そしてそちらは量子計算機を待たない。

2. $23$ 人で、半分を超える

設定:$n$ 人の誕生日が独立に一様($365$ 日)とする。全員が違う確率は $\prod_{i=0}^{n-1}(365-i)/365$ である。

検算 2.1:

人数 同じ誕生日の組がある確率
$10$ $0.116948$
$20$ $0.411438$
$\mathbf{23}$ $\mathbf{0.507297}$
$30$ $0.706316$
$50$ $0.970374$
$70$ $0.999160$

観察 2.2 $23$ 人で半分を超える。$365$ 日あるのに、$23$ 人しか要らない。直感は $180$ 人あたりを答えるが、その手前で八割方終わっている。

観察 2.3 ずれの理由は数えているものが違うことである。人の数ではなく、組の数が効く。$23$ 人なら組は $\binom{23}{2}=253$ 通りあり、$365$ と同じ桁である。

観察 2.4 「自分と同じ誕生日の人がいるか」なら話は別である。そちらは $n$ に比例し、半分を超えるのに $253$ 人要る。同じ「誕生日が重なる」が二つの問いを指している。

3. 芯:$\sqrt{N}$ に比例する

設定:$N$ 通りの値をとるハッシュに、無作為な入力を $M$ 個入れる。組の数は $\binom{M}{2}\simeq M^2/2$ で、一致確率がおよそ $1/2$ になるのは $M\simeq1.1774\sqrt{N}$ のときである。

検算 3.1:

出力長 $N=2^{n}$ 衝突が $50\%$ になる個数 $1.1774\sqrt{N}$
$32$ ビット $4.295\times10^{9}$ $\mathbf{7.716\times10^{4}}$
$64$ ビット $1.845\times10^{19}$ $\mathbf{5.057\times10^{9}}$
$128$ ビット $3.403\times10^{38}$ $\mathbf{2.172\times10^{19}}$
$256$ ビット $1.158\times10^{77}$ $\mathbf{4.007\times10^{38}}$

観察 3.2 これが本稿の芯である。必要な個数は $N$ ではなく $\sqrt{N}$ に比例する。指数が半分になる。

観察 3.3 $32$ ビットは $7.7$ 万個で衝突する。いまの計算機なら一瞬である。$43$ 億通りあっても、$7.7$ 万個で足りる。

観察 3.4 $64$ ビットでも $\mathbf{5.06\times10^{9}}$ 個である。$50$ 億個は現実に用意できる量、$64$ ビットのハッシュは、衝突耐性としては使えない。

観察 3.5 正直に書くべき点、誕生日限界は下限である。実際の攻撃は関数の構造を突いてもっと速いことがある。本稿は出力長だけから出る限界を書いており、個々の関数の強さは扱わない。

4. これは、量子計算機を待たない

検算 4.1:二つの「半分」を並べる。

何を半分にするか 要る計算機 いつから
グローバー(論文305) 探索の指数 量子 まだ
誕生日(本稿) 衝突の指数 古典 最初から

観察 4.2 下の行は、いま起きている。SHA-$256$ の衝突耐性ははじめから $128$ ビットであり、量子計算機ができても変わらない。もう半分になっているものは、もう一度は半分にならない。

観察 4.3 だから設計の作法が違う。「$128$ ビットの安全性が欲しい」なら、探索に対しては $128$ ビット、衝突に対しては $256$ ビットの出力が要る。同じ要求に、二つの答が要る。

観察 4.4 論文305 は「鍵長では対抗できない」と書いた(RSA について)。ハッシュでは対抗できる。出力長を倍にすれば衝突耐性も倍になるからである。同じ「長さを増やす」が、片方では効かず、他方では効く。

5. 二つの半分は、別根である

検算 5.1:論文300 の判定基準を当てる。

基準 結果
恒等性を保つ対応があるか いいえ。振幅増幅と鳩の巣に翻訳は無い
同じ量が入っているか いいえ。量子の回数 対 組の数
一方から他方が出るか いいえ。片方は量子力学、他方は数え上げ
値(指数の半減)は一致するか はい。どちらも $n\to n/2$

観察 5.2 三つ「いいえ」、一つ「はい」である。機構は別根で、指数の半減だけが同じ、論文316 が「同じ整数を三つの数え方が返す」と書いたのと同じ型である。

観察 5.3 なぜ両方とも「半分」なのか。どちらも平方根が出るからである。グローバーは振幅の二乗が確率だから、誕生日は組の数が個数の二乗だから。二乗が出る場所が違う。

観察 5.4 論文190 は「稀」は対数の目盛りで測ると書いた。平方根は、対数の目盛りでは半分である。だからどちらも「ビットが半分」と言える。

6. 分離子:一つを当てるのか、二つを一致させるのか

観察 6.1 分離子、一つの当たりを探すのか、二つの一致を探すのか。

探すもの 手間 例
指定された一つ(原像) $N$ 与えられた値になる入力を探す
どれでもいい二つ(衝突) $\sqrt{N}$ 同じ値になる入力の組を探す

観察 6.2 二行目は、答を選べる。どの組でもよいので当たりが $M^2/2$ 通りある。自由度が手間を平方根にする。

観察 6.3 これは第2節の二つの誕生日問題と同じ分岐である。「自分と同じ人」は指定された一つ($253$ 人要る)、「誰かと誰か」はどれでもいい二つ($23$ 人でよい)。$11$ 倍の差が、この分岐から出ている。

観察 6.4 最後に一つ、「ビット数」は一つの数ではない。同じ $256$ ビットが、原像に対しては $256$、衝突に対しては $128$、量子探索に対しては $128$、何に対する強さかを言わないかぎり、ビット数は数を持たない。論文306 が「基本単位の個数は約束である」と書いたのと同じ場所で、数の身分が文脈で決まっている。

7. 点呼と結び

  1. $23$ 人で $0.507297$(検算2.1):$365$ 日あるのに。
  2. 効くのは組の数(観察2.3):$\binom{23}{2}=253$。
  3. 「自分と同じ」なら $253$ 人(観察2.4):$11$ 倍違う。
  4. 必要数は $1.1774\sqrt{N}$(検算3.1):指数が半分。
  5. $32$ ビットは $7.7$ 万個(観察3.3):一瞬である。
  6. $64$ ビットは $5.06\times10^{9}$(観察3.4):用意できる量。
  7. 誕生日限界は下限(観察3.5):実攻撃はもっと速いことがある。
  8. 古典で足りる(検算4.1):量子計算機を待たない。
  9. 三「いいえ」一「はい」(検算5.1):機構は別根。
  10. ビット数は一つの数でない(観察6.4):何に対する強さか。

結び:論文305 は、グローバーが対称鍵の実効長を半分にすると示した($256\to128$)。半分になる道はもう一本あり、そちらは量子計算機を待たない。$365$ 日あるのに、$23$ 人で同じ誕生日の組がある確率は $\mathbf{0.507297}$、効いているのは人の数ではなく組の数で、$23$ 人なら $\binom{23}{2}=253$ 通り、$365$ と同じ桁である。そして必要な個数は $N$ ではなく $\sqrt{N}$ に比例する。$1.1774\sqrt{N}$ であり、$32$ ビットは $7.7$ 万個、$\mathbf{64}$ ビットは $\mathbf{5.06\times10^{9}}$ 個で衝突する。$50$ 億個は現実に用意できる。これは古典の計算機で、最初から起きている。SHA-$256$ の衝突耐性ははじめから $128$ ビットであり、もう半分になっているものは、もう一度は半分にならない。二つの半分は別根である。論文300 の基準で三つ「いいえ」一つ「はい」。どちらも平方根が出るのは同じだが、二乗が出る場所が違う(グローバーは振幅、誕生日は組)。分けるものは一つ、指定された一つを当てるのか、どれでもいい二つを一致させるのか。答を選べることが、手間を平方根にする。最後に一つ、「ビット数」は一つの数ではない。同じ $256$ が、原像には $256$、衝突には $128$、量子探索には $128$ である。何に対する強さかを言わないかぎり、ビット数は数を持たない。

参考文献

  1. von Mises, R. (1939). Uber Aufteilungs- und Besetzungswahrscheinlichkeiten. Revue de la Faculte des Sciences de l’Universite d’Istanbul, 4.
  2. Yuval, G. (1979). How to Swindle Rabin. Cryptologia, 3(3).
  3. van Oorschot, P. C. and Wiener, M. J. (1999). Parallel Collision Search with Cryptanalytic Applications. Journal of Cryptology, 12(1).
  4. Grover, L. K. (1996). A Fast Quantum Mechanical Algorithm for Database Search. In Proceedings of the 28th Annual ACM Symposium on Theory of Computing.
  5. Stevens, M. et al. (2017). The First Collision for Full SHA-1. In Advances in Cryptology、CRYPTO 2017. Cham: Springer.
  6. 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
  7. 山岸勇輝 (2026). 複製できないのに、訂正はできる [論文281]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171058
  8. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  9. 山岸勇輝 (2026). 「安全」の根拠は三つあり、量子計算機が壊すのは一つだけである [論文305]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172118
  10. 山岸勇輝 (2026). 「基本」単位の個数は、約束である [論文306]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172149
  11. 山岸勇輝 (2026). 同じ整数を、三つの別の数え方が返す [論文316]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208229

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「鍵長が半分になる」は二つあり、片方は量子計算機を待たない」[論文318]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22208876

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「鍵長が半分になる」は二つあり、片方は量子計算機を待たない [論文318]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/318 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22208876

Yamagishi, Y. (2026). A Key Halves for Two Different Reasons, and One of Them Is Not Waiting for a Quantum Computer [Paper 318]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/318; DOI: 10.5281/zenodo.22208876

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