【論文426】先読みは、期間を分けても高い t 値でも消えない

要旨

期間を分けて検定し、高い $t$ 値が出れば、手続きは通ったと考える。本稿が示すのは、それでは先読みが残ることである。見つけるには、評価する時点を遅らせるしかない。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、これが本稿の芯である。評価点を $0$ 秒から $59$ 秒へ動かすと、一件あたりの額は $+2.201$ から $\mathbf{-0.845}$ へ、符号ごと反転する(第2節)。

第二に、内挿したゼロ交差は $\mathbf{39.96}$ 秒である。一分の中で符号が変わる(第2節)。

第三に、別の測り方でも同じ形が出る。一分ずらすと $+1.378$ が $\mathbf{-0.411}$ になる(第2節)。

第四に、落ちる幅 $1.789$ は元の額 $1.378$ より大きい。ただの目減りではない(第2節)。

第五に、作り物で $60$ 秒だけ先を見る規則を作ると $+2.9793$、見ない規則は $-0.0648$ で、桁が違う(第3節)。

第六に、分離子は「時刻をずらしても残るか」である。期間でも $t$ 値でもない(第4節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。先読みバイアス、期間外検定、遅延検定の考え方はすべて既知である。特定の手続きや実装を論じない。どの道具を使ったか、誰が作ったかは主題ではなく、一切名指さない。先読みの原因を分類しない。区切りの規約、記録の丸め、集計の向きのどれが原因かは主題ではない。検出だけを扱う。直し方を提案しない。見つかったあとどう組み直すかは主題ではない。取引を論じない。数は時系列の観測から採ったが、売買も市場も主題ではない。遅延に強いことを良いとは言わない。遅らせても残ることは先読みが無いことの証拠になるが、その手続きが有用であることの証拠ではない。既刊との関係:論文425 は遅らせても額が落ちず確かさだけが落ちることを示した。そこでは遅れが分母を膨らませた。ここでは遅れが符号を変える。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「期間を分けて残る」と「時刻をずらして残る」は、その基準で別根である。論文317 は有意水準が一回あたりの約束であることを示した。そこでは回数が問題だった。ここでは回数を減らしても解決しない。論文422 は核心と名指された条件が結果を動かさないことを示した。そこでも、外して測るという同じ操作が効いている。加えたのは、評価点を四点でずらして額を並べたこと、ゼロ交差を内挿で $39.96$ 秒と出したこと、内挿そのものを端で自己検査したこと、落ちる幅が元の額を超えることを示したこと、作り物で先読みのある規則と無い規則を桁で分けたこと、分離子を「時刻をずらしても残るか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:ある手続きが、時刻 $\tau$ の情報を使って判断し、その結果を測るとする。 評価する時点を $\delta$ だけ遅らせた値を $V(\delta)$ と書く。

$$V(0),\ V(20),\ V(40),\ V(59)\quad(\text{秒})$$

$\delta$ を大きくしても $V$ が保たれるなら、その手続きは $\tau$ より先の情報を使っていない。

観察 1.1 期間を分けて検定するのは、当てはめすぎを見つけるためである。前半で作り、後半で試す。標準的な作法である。

観察 1.2 だが先読みは、期間を分けても両方に等しく入る。前半でも後半でも、同じだけ先を見てしまう。だから後半でも良い成績が出る。

問い:では、何を動かせば見えるのか。

2. 一分の中で、符号が変わる

計算 2.1:評価する時点を四つずらして、一件あたりの額を出す。

ずらす量 一件あたりの額
$0$ 秒 $+2.201$
$20$ 秒 $+0.907$
$40$ 秒 $-0.002$
$59$ 秒 $-0.845$

観察 2.2 ずらす前は正で、$59$ 秒ずらすと負である。符号ごと反転している。単調に減っており、途中で止まらない。

計算 2.3:$20$ 秒と $40$ 秒のあいだで線形に内挿し、ゼロ交差を求める。

$$\delta_{0}=20+20\times\frac{0.907}{0.907-(-0.002)}=\mathbf{39.96}\ \text{秒}$$

観察 2.4 内挿そのものを検査する。両端に戻すと $+0.907$ と $-0.002$ に一致する。代数が正しいことの確認である。

観察 2.5 一分より短い時間で符号が変わる。$39.96$ 秒、つまり手続きは、その一分の中の情報に寄りかかっている。

計算 2.6:別の測り方でも見る。判断の時点を一分だけ遅らせる。

$+1.378$ が $\mathbf{-0.411}$ になる。

観察 2.7 落ちる幅は $1.789$ で、元の額 $1.378$ より大きい。ただの目減りではない。一分ぶんの機会を逃したという説明では、この幅は出ない。

3. 作り物で、両方を並べる

計算 3.1:乱歩の上に、二つの規則を置く。 一方は $60$ 秒先の値を見て向きを決める(先読みあり)。他方は直前の値だけで決める(先読みなし)。

規則 一件あたりの額
先読みあり $+2.9793$
先読みなし $-0.0648$

観察 3.2 先読みありは大きく正になる。向きを当てるので、必ず正の側に出る。乱歩なので、本来は何の情報も無い。

観察 3.3 先読みなしはゼロ近傍である。$-0.0648$、境目の反対側であり、二つは桁で分かれる。

観察 3.4 この作り物には、当てるべき構造が一つも入っていない。それでも先読みを入れれば高い値が出る。高い値そのものが、情報の証拠にならない。

観察 3.5 そして期間を分けても、この差は残る。前半でも後半でも同じだけ先を見るからである。期間外検定は、この型の誤りを捕まえない。

4. 分離子

分離子:時刻をずらしても残るか。

観察 4.1 期間を分けることは、当てはめすぎには効く。形を作った標本と、試す標本を分ける。だが両方に同じ先読みが入っていれば、分けても意味が無い。

観察 4.2 高い $t$ 値も効かない。先読みは系統的なので、件数を増やすほど $t$ は上がる。$t$ が高いことは、むしろ強い先読みの兆候でありうる。

観察 4.3 時刻をずらすことだけが、この二つと独立である。先読みは時刻に紐づいている。ずらせば壊れる。壊れなければ、その情報は先にあったのではない。

観察 4.4 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「検定に通った」と呼ばれる。一方は標本の分割、一方は時刻の平行移動。動かしている軸が違う。

観察 4.5 そして区切りの規約は、実装ごとに確かめる必要がある。ある時刻の代表値が、その区間の始まりの値か終わりの値かは、集計の仕方で変わる。一行で確かめられることであり、他所の実装から持ち越してはいけない。

観察 4.6 正直に言えば、遅らせても残ることは、その手続きが有用であることの証拠ではない。先読みが無いというだけである。中身の良し悪しは別に測る必要がある。

観察 4.7 最後に一つ、道具を持っていても、当てなければ意味が無い。遅延検定は数行で書ける。難しいのは、良い結果が出たときに、それを疑って走らせることである。

5. 点呼と結び

  1. $0$ 秒で $+2.201$(計算 2.1):ずらす前。
  2. $59$ 秒で $-0.845$(計算 2.1):符号が反転。
  3. ゼロ交差は $39.96$ 秒(計算 2.3):内挿。
  4. 内挿は両端で一致(観察 2.4):自己検査。
  5. 一分ずらすと $+1.378\to-0.411$(計算 2.6):別の測り方。
  6. 落ちる幅 $1.789$ > 元の額 $1.378$(観察 2.7):目減りではない。
  7. 作り物の先読みありは $+2.9793$(計算 3.1):構造ゼロなのに。
  8. 先読みなしは $-0.0648$(観察 3.3):境目の反対側。
  9. 期間を分けても差は残る(観察 3.5):期間外検定は捕まえない。
  10. 分離子は時刻をずらしても残るか(観察 4.4):論文300 の基準で別根。

結び:期間を分けて検定し、高い $t$ 値が出れば手続きは通ったと考える。前半で作り後半で試すのは標準的な作法である。だが先読みは、期間を分けても両方に等しく入る。前半でも後半でも同じだけ先を見てしまうので、後半でも良い成績が出る。見つけるには、評価する時点を遅らせるしかない。評価点を $0$ 秒から $59$ 秒へ動かすと、一件あたりの額は $+2.201$ から $\mathbf{-0.845}$ へ、符号ごと反転する。$20$ 秒と $40$ 秒のあいだで内挿したゼロ交差は $\mathbf{39.96}$ 秒であり、内挿そのものは両端に戻すと元の値に一致する。つまり手続きは、一分より短い時間の中の情報に寄りかかっている。別の測り方でも同じ形が出て、判断の時点を一分だけ遅らせると $+1.378$ が $\mathbf{-0.411}$ になり、落ちる幅 $\mathbf{1.789}$ は元の額 $1.378$ より大きい。一分ぶんの機会を逃したという説明では、この幅は出ない。作り物で並べると、桁で分かれる。乱歩の上に置いた二つの規則のうち、$60$ 秒先を見るものは $\mathbf{+2.9793}$、見ないものは $\mathbf{-0.0648}$ である。この作り物には当てるべき構造が一つも入っていないのに、先読みを入れれば高い値が出る。高い値そのものは、情報の証拠にならない。そして期間を分けてもこの差は残る。前半でも後半でも同じだけ先を見るからで、期間外検定はこの型の誤りを捕まえない。分けているものは一つ、時刻をずらしても残るか。期間を分けることは当てはめすぎには効くが、両方に同じ先読みが入っていれば意味が無い。高い $t$ 値も効かない。先読みは系統的なので件数を増やすほど $t$ は上がり、$t$ が高いことはむしろ強い先読みの兆候でありうる。時刻をずらすことだけが、この二つと独立である。先読みは時刻に紐づいているのでずらせば壊れ、壊れなければその情報は先にあったのではない。論文300 の基準で別根であり、一方は標本の分割、一方は時刻の平行移動と、動かしている軸が違う。あわせて、区切りの規約は実装ごとに確かめる必要がある。ある時刻の代表値がその区間の始まりの値か終わりの値かは集計の仕方で変わり、一行で確かめられることであり、他所の実装から持ち越してはいけない。正直に言えば、遅らせても残ることは、その手続きが有用であることの証拠ではない。先読みが無いというだけで、中身の良し悪しは別に測る必要がある。最後に一つ、道具を持っていても、当てなければ意味が無い。遅延検定は数行で書ける。難しいのは、良い結果が出たときに、それを疑って走らせることである。

参考文献

  1. Lo, A. W., & MacKinlay, A. C. (1990). Data-Snooping Biases in Tests of Financial Asset Pricing Models. Review of Financial Studies.
  2. White, H. (2000). A Reality Check for Data Snooping. Econometrica.
  3. Kaufman, S., Rosset, S., Perlich, C., & Stitelman, O. (2012). Leakage in Data Mining: Formulation, Detection, and Avoidance. ACM Transactions on Knowledge Discovery from Data.
  4. Bailey, D. H., Borwein, J. M., López de Prado, M., & Zhu, Q. J. (2014). Pseudo-Mathematics and Financial Charlatanism. Notices of the American Mathematical Society.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない』[論文317]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208819
  7. 山岸勇輝 (2026). 『規則の核心と名指された条件を外しても、成績が動かない』[論文422]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700081
  8. 山岸勇輝 (2026). 『遅らせても額は落ちず、確かさだけが落ちた』[論文425]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700154

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「先読みは、期間を分けても高い t 値でも消えない」[論文426]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22700184

YOI 426第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 先読みは、期間を分けても高い t 値でも消えない [論文426]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/426 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22700184

Yamagishi, Y. (2026). Look-Ahead Survives Both a Split Sample and a High t [Paper 426]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/426; DOI: 10.5281/zenodo.22700184

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