【論文436】支払う額の決め方を変えるだけで、正直が最適になる

要旨

正直に言うかどうかは、人柄の問題だと思われている。本稿が示すのは、規則の側で決まる場合があることである。支払う額の決め方を一つ変えるだけで、正直が最適になる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、これが本稿の芯である。二位価格では、$90$・$100$・$110$・$140$ のどれで入札しても利得は $\mathbf{20.0000}$ で同じである(第2節)。

第二に、その利得は評価額と他者の最高との差 $\mathbf{20.0000}$ と一致する。逆算しても同じ値になる(第2節)。

第三に、評価額を下回ると取り逃し、利得はちょうど $\mathbf{0}$ になる。境目の反対側である(第2節)。

第四に、他者の最高が評価額を上回る場面では、超過入札の利得が $\mathbf{-20.0}$ になる。正直がその損を防ぐ(第3節)。

第五に、一位価格では正直な入札の利得がちょうど $\mathbf{0}$ で、$90$ に下げると $\mathbf{10.0000}$ になる(第4節)。

第六に、分離子は「自分の入札額が支払額を決めるか」である(第4節)。

キーワード:二位価格入札、ヴィックリー・オークション、耐戦略性、メカニズムデザイン、収入同値定理。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。二位価格入札、耐戦略性、収入同値定理はすべて既知である($1961$ 年以来)。定理を証明しない。正直が支配戦略であることの一般証明は行わない。一つの場面で数を入れるだけである。制度を推奨しない。どちらの方式を使うべきかは主題ではない。共謀と談合を扱わない。入札者どうしの結託、売り手による偽の入札は主題ではなく、それらがあれば結論は変わる。価値の共通部分を扱わない。各人の評価額が独立に決まっている場合だけを扱う。落札してから価値が分かる場合は別の議論が要る。収入を比べない。売り手の受け取る額がどちらで大きいかは主題ではない。既刊との関係:論文435 は各項が一定でも合計が決まらないことを示した。そこでは規則が全体を決めなかった。ここでは規則が個人の最適を決める。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「正直な人だから正直に言う」と「正直が得だから正直に言う」は、その基準で別根である。論文422 は核心と名指された条件が結果を動かさないことを示した。そこでは効くはずのものが効かなかった。ここでは効かないはずの操作が効く。論文423 は表が当たっていても売買が負けることを示した。そこでも、規則の細部が結果を裏返した。加えたのは、五つの入札額で二方式の利得を並べたこと、正直な入札の利得が差と一致することを逆算で確かめたこと、下回った場合をちょうど $0$ として境目の反対側に置いたこと、超過入札が負になる場面を別に置いたこと、一位価格で下げた方が得になることを数に出したこと、分離子を「入札額が支払額を決めるか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:ある品に対し、自分の評価額を $v$、自分の入札額を $b$、他者の最高入札を $m$ とする。 二位価格では、最高値を入れた者が落札し、支払うのは二番目の額である。

$$\text{利得}=\begin{cases}v-m & (b>m)\\ 0 & (b<m)\end{cases}$$

一位価格では、支払うのは自分の入札額である。

$$\text{利得}=\begin{cases}v-b & (b>m)\\ 0 & (b<m)\end{cases}$$

以下 $v=100$ とする。

観察 1.1 入札では、本当の値打ちを言わない方が得だと思われている。高く言えば取れるが払いすぎる。低く言えば安いが取り逃す。

観察 1.2 だからみな、いくら下げるかを考える。相手の出方を読む、読み合いが始まる。

問い:その読み合いは、規則の必然なのか。

2. 二位価格では、正直が最適になる

計算 2.1:$v=100$、$m=80$ として、五つの入札額で利得を出す。

入札額 二位価格の利得 一位価格の利得
$60$ $0.0000$ $0.0000$
$90$ $\mathbf{20.0000}$ $\mathbf{10.0000}$
$100$ $\mathbf{20.0000}$ $0.0000$
$110$ $\mathbf{20.0000}$ $-10.0000$
$140$ $\mathbf{20.0000}$ $-40.0000$

観察 2.2 二位価格の列は、落札できる限りすべて $\mathbf{20.0000}$ である。$90$ でも $140$ でも同じ、支払額が自分の入札額に依らないからである。

観察 2.3 その値は $v-m=100-80=\mathbf{20.0000}$ と一致する。逆算しても同じ、自分の入札額は、落札するかどうかだけを決めている。

観察 2.4 評価額を下回ると取り逃す。$60$ で入札すると利得はちょうど $\mathbf{0}$、境目の反対側であり、得られたはずの $20$ を丸ごと失う。

観察 2.5 つまり正直な $100$ は、最大の利得を与える手の一つである。同点はあるが、下回ることは無い。読み合いをしても、これより良くはならない。

3. 超過入札が損になる場面

計算 3.1:他者の最高が評価額を上回る場面を置く。$m=120$ とする。

入札額 落札するか 利得
$100$(正直) しない $0.0$
$140$(超過) する $\mathbf{-20.0}$

観察 3.2 超過入札で負の利得になる。$\mathbf{-20.0}$、$v-m=100-120$ と一致する。

観察 3.3 正直なら、その損を回避できる。落札しないので利得はちょうど $0$、取り逃すのではなく、取らない方が良い場面である。

観察 3.4 だから正直は、上にも下にも守っている。下げれば取り逃し、上げれば損をする。両側から挟まれて、評価額が残る。

観察 3.5 この性質は、相手の出方を知らなくても成り立つ。$m$ がいくつであっても、$b=v$ が最悪にならない。だから読み合いが要らない。

4. 分離子

分離子:自分の入札額が、支払額を決めるか。

観察 4.1 一位価格では、入札額が支払額を決める。高く言えばそのまま高く払う。だから下げる誘因が生まれる。

計算 4.2:一位価格で、正直な $100$ と、下げた $90$ を比べる。

正直な $100$ の利得はちょうど $\mathbf{0}$、$90$ に下げると $\mathbf{10.0000}$ になる。

観察 4.3 一位価格では、正直は最適でない。下げた方が明らかに得である。ただし下げすぎると取り逃すので、$60$ では $0$ に戻る。

観察 4.4 二位価格では、入札額が支払額を決めない。支払うのは他者の額である。だから下げる誘因が消える。

観察 4.5 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「正直に言った」と呼ばれる。一方は人の性質、一方は規則の帰結である。

観察 4.6 正直に言えば、共謀があれば結論は変わる。入札者どうしの結託、売り手が偽の入札を入れる場合、本稿はそれらを扱っておらず、独立に決まった評価額の場合だけを見ている。

観察 4.7 最後に一つ、正直を求めるなら、正直を得にすればよい。人を変えるのではなく、支払額の決め方を一つ変える。変えたのは規則であって、人ではない。

5. 点呼と結び

  1. 二位価格は $90$〜$140$ で全部 $20.0000$(計算 2.1):本稿の芯。
  2. その値は $v-m=20.0000$(観察 2.3):逆算で一致。
  3. $60$ では利得ちょうど $0$(観察 2.4):境目の反対側。
  4. 取り逃した分は $20$ 全部(観察 2.4):下げすぎの代償。
  5. $m=120$ で超過入札は $-20.0$(計算 3.1):$v-m$ と一致。
  6. 正直ならその損を回避(観察 3.3):ちょうど $0$。
  7. 相手を知らなくても成り立つ(観察 3.5):読み合いが要らない。
  8. 一位価格の正直は $0$(計算 4.2):最適でない。
  9. $90$ に下げると $10.0000$(計算 4.2):下げる誘因。
  10. 分離子は入札額が支払額を決めるか(観察 4.5):論文300 の基準で別根。

結び:入札では、本当の値打ちを言わない方が得だと思われている。高く言えば取れるが払いすぎ、低く言えば安いが取り逃すので、みないくら下げるかを考え、読み合いが始まる。だがその読み合いは、規則の必然ではない。二位価格では、正直が最適になる。評価額 $100$、他者の最高 $80$ のとき、$90$・$100$・$110$・$140$ のどれで入札しても利得は $\mathbf{20.0000}$ で同じである。支払額が自分の入札額に依らないからで、その値は $v-m=100-80=\mathbf{20.0000}$ と一致する。自分の入札額は、落札するかどうかだけを決めている。$60$ に下げると取り逃して利得はちょうど $\mathbf{0}$、得られたはずの $20$ を丸ごと失う。そして上げすぎても損をする。他者の最高が $120$ の場面で $140$ と入札すると利得は $\mathbf{-20.0}$ で、$v-m$ と一致する。正直なら落札しないので利得はちょうど $0$ で、その損を回避できる。下げれば取り逃し、上げれば損をするので、両側から挟まれて評価額が残る。しかもこの性質は相手の出方を知らなくても成り立つので、読み合いが要らない。分けているものは一つ、自分の入札額が、支払額を決めるか。一位価格では入札額がそのまま支払額なので下げる誘因が生まれ、正直な $100$ の利得はちょうど $\mathbf{0}$、$90$ に下げれば $\mathbf{10.0000}$ になる。ただし下げすぎれば取り逃して $0$ に戻る。二位価格では支払うのが他者の額なので、下げる誘因そのものが消える。論文300 の基準で別根であり、どちらも「正直に言った」と呼ばれるが、一方は人の性質、一方は規則の帰結である。正直に言えば、共謀があれば結論は変わる。入札者どうしの結託や、売り手が偽の入札を入れる場合は扱っておらず、独立に決まった評価額の場合だけを見ている。最後に一つ、正直を求めるなら、正直を得にすればよい。人を変えるのではなく、支払額の決め方を一つ変える。変えたのは規則であって、人ではない。

参考文献

  1. Vickrey, W. (1961). Counterspeculation, Auctions, and Competitive Sealed Tenders. Journal of Finance.
  2. Myerson, R. B. (1981). Optimal Auction Design. Mathematics of Operations Research.
  3. Krishna, V. (2009). Auction Theory (2nd ed.). Amsterdam: Academic Press.
  4. Milgrom, P. (2004). Putting Auction Theory to Work. Cambridge: Cambridge University Press.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『規則の核心と名指された条件を外しても、成績が動かない』[論文422]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700081
  7. 山岸勇輝 (2026). 『表は当たっているのに、売買は負ける』[論文423]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700114
  8. 山岸勇輝 (2026). 『どの順位でも一定なのに、合計は決まらない』[論文435]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22709070

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「支払う額の決め方を変えるだけで、正直が最適になる」[論文436]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22709288

YOI 436第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/436・DOI 10.5281/zenodo.22709288・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 支払う額の決め方を変えるだけで、正直が最適になる [論文436]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/436 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22709288

Yamagishi, Y. (2026). Change How the Price Is Set and Honesty Becomes the Best Move [Paper 436]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/436; DOI: 10.5281/zenodo.22709288

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