要旨
宿の数を、衛生行政報告例(令和6年度末、厚生労働省)の旅館業法にもとづく営業許可施設数と、経済センサス(令和3年、産業小分類751〜759)の事業所数で数え、比べた。
旅館・ホテル営業は 52,946 施設・1,782,232 室。1施設あたり 33.7 室である。
簡易宿所は、許可で 44,901、事業所で 3,265。13.75倍ちがう。 旅館・ホテル(+52.7%)とは桁が違う。この差は、簡易宿所の多くが従業者のいる「事業所」として捕捉されていないためと考えられるが、本稿では確かめていない。宿の許可ぜんぶ(98,338)とセンサスの宿泊業ぜんぶ(44,828)でも 2.19倍の開きがある。
宿は、減るより増えている。 年度中の営業許可 7,720 件に対して営業廃止 2,817 件で 2.74倍。ただし向きは地域で逆になる。東京都は14.06倍だが、岩手県は0.39倍、福島県0.45倍で、9県では廃業のほうが多い。
宿が多い県ほど、1軒は小さい(r = −0.604)。 1施設あたりの客室数は大阪府78.1室から沖縄県17.8室まで開き、人口1万人あたりの施設数は沖縄県25.6から埼玉県1.0まで開く。
北海道は 2,930 施設・122,333 室、1施設あたり 41.8 室で47都道府県中11位。釧路総合振興局管内では弟子屈町が人口1万人あたり61.64 事業所で、全国1,889市区町村の中央値3.56の17.3倍である。
1. はじめに
I005 で、釧路管内の弟子屈町は人口1万人あたりの飲食店が94.83で、全国中央値の2.7倍だった。同じ人口規模の白糠町(49.71)の1.9倍である。そこでは「住民だけが需要を作るのではない」と書き、原因は確かめないまま残した。
宿の数は、その残した問いに直接あたる。しかも旅館業法の許可には、他の業種の表に無いものが2つある。客室数と、年度中の開業・廃業の件数である。
宿はいくつあり、1軒に何室あるか。増えているのか、減っているのか。
2. データ
| 営業許可 | 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」第8表 旅館・ホテル営業の施設数・客室数及び簡易宿所・下宿営業の施設数・許可・廃止・処分件数(令和6年度末現在。許可・廃止は年度中の件数) |
| 経済センサス | 「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類 751 旅館,ホテル/752 簡易宿所/753 下宿業/759 その他の宿泊業(令和3年6月1日)。750(管理・補助的経済活動)は除く |
| 人口・65歳以上 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日 |
47都道府県すべての行がそろい、合計は全国の欄と一致する(施設 52,946、客室 1,782,232)。
衛生行政報告例には市区町村別が無い(都道府県・指定都市・中核市まで)。本稿は都道府県を単位とし、経済センサスは市区町村の値を都道府県ごとに合計した。
3. 結果
3-1 1施設あたり33.7室、そして宿の45.7%は簡易宿所
| 施設数 | 客室数 | 1施設あたり | |
|---|---|---|---|
| 旅館・ホテル営業 | 52,946 | 1,782,232 | 33.7室 |
| 簡易宿所営業 | 44,901 | (表に無い) | ─ |
| 下宿営業 | 491 | (表に無い) | ─ |
| 計 | 98,338 |
簡易宿所は旅館・ホテルの84.8%ある。 宿の数の45.7%は簡易宿所である。客室数が公表されているのは旅館・ホテル営業だけなので、「日本に客室が何室あるか」は、この表だけでは出せない。
簡易宿所が旅館・ホテルを上回る県もある。
| 旅館・ホテル | 簡易宿所 | 簡易÷旅館 | |
|---|---|---|---|
| 京都府 | 955 | 3,647 | 3.82 |
| 長野県 | 2,656 | 4,361 | 1.64 |
| 山梨県 | 1,325 | 2,080 | 1.57 |
| 沖縄県 | 3,799 | 3,804 | 1.00 |
| 北海道 | 2,930 | 3,314 | 1.13 |
3-2 簡易宿所は、許可で44,901、事業所で3,265、13.75倍
| 衛生行政報告例(令和6年度末) | 経済センサス(令和3年) | 比 | |
|---|---|---|---|
| 旅館・ホテル | 52,946 | 34,666 | +52.7% |
| 簡易宿所 | 44,901 | 3,265 | 13.75倍 |
| 許可ぜんぶ ÷ 宿泊業ぜんぶ | 98,338 | 44,828 | 2.19倍 |
I005 の飲食店営業(2.91倍)、I004 の美容所(+72.2%)、I003 の一般診療所(+26.8%)と並べても、13.75倍は桁が違う。
旅館・ホテルの +52.7% は、許可が廃業の届出まで残りうることや時点の差(3年10か月)で一部は説明できるだろう。だが簡易宿所の13.75倍は、その説明では足りない。
考えられるのは、簡易宿所の多くが「事業所」として捕捉されていないことである。 経済センサスは、従業者がいて経済活動を継続的に行う場所を事業所として数える。無人で運営される宿、家主が住みながら一部を貸す宿、他の仕事と兼ねて運営される宿は、独立した事業所として現れにくい。これは仮説であり、本稿では確かめていない。
なお、住宅宿泊事業法(民泊新法)の届出住宅は旅館業法の許可ではないため、この44,901には入っていない。
3-3 開業は廃業の2.74倍、ただし9県では逆
| 件数(年度中) | |
|---|---|
| 営業許可 | 7,720 |
| 営業廃止 | 2,817 |
| 比 | 2.74倍 |
許可の件数は、年度末の施設数(98,338)の 7.9% にあたる。宿の1割近くが、1年のうちに新しく許可を受けている。
しかし、向きは地域で逆になる。
| 増えている | 許可 | 廃止 | 比 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 1,589 | 113 | 14.06倍 |
| 香川県 | 160 | 15 | 10.67倍 |
| 沖縄県 | 524 | 57 | 9.19倍 |
| (中央値) | 2.00倍 |
| 減っている | 許可 | 廃止 | 比 |
|---|---|---|---|
| 徳島県 | 36 | 56 | 0.64倍 |
| 福島県 | 45 | 101 | 0.45倍 |
| 岩手県 | 19 | 49 | 0.39倍 |
廃止のほうが多い県が9つある(奈良0.98/和歌山0.94/三重0.93/山形0.88/富山0.81/青森0.74/徳島0.64/福島0.45/岩手0.39)。
全国の「2.74倍」は、東京都の1,589件に強く引かれている。全国の数字ひとつでは、地方で宿が減っていることが見えない。
3-4 宿が多い県ほど、1軒は小さい

図1 人口1万人あたりの施設数と、1施設あたりの客室数(47都道府県)。
灰色は都道府県、橙は北海道、青の直線は最小二乗のあてはめ。
相関は r = −0.604。 宿の多い県は、1軒あたりが小さい。
| 1軒が大きい | 施設数 | 客室数 | 1施設あたり |
|---|---|---|---|
| 大阪府 | 1,646 | 128,519 | 78.1室 |
| 愛知県 | 1,220 | 68,339 | 56.0室 |
| 京都府 | 955 | 50,075 | 52.4室 |
| 1軒が小さい | 施設数 | 客室数 | 1施設あたり |
|---|---|---|---|
| 山梨県 | 1,325 | 27,243 | 20.6室 |
| 福井県 | 877 | 15,746 | 18.0室 |
| 沖縄県 | 3,799 | 67,747 | 17.8室 |
中央値は30.8室。
人口1万人あたりでは、順位がはっきり分かれる。
| 人口1万人あたり | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 施設数(全国4.3) | 沖縄25.6/山梨16.7/長野13.3 | 愛知1.6/神奈川1.4/埼玉1.0 |
| 客室数 | 沖縄457室/山梨343室/長野317室 | 奈良81室/神奈川64室/埼玉36室 |
沖縄県と埼玉県で、人口あたりの施設数は25.6倍ちがう。 大都市圏は大きなホテルが少数、観光地は小さな宿が多数、という形である。
高齢化率との関係はほとんど無い(人口1万人あたりの施設数と r = +0.037)。宿の数は、住民の年齢構成では決まらない。
3-5 北海道と釧路総合振興局管内
北海道は 2,930 施設・122,333 室、1施設あたり 41.8室 で47都道府県中 11位。人口1万人あたりは施設5.9(19位)・客室245室(5位)。簡易宿所は3,314 で、旅館・ホテルより多い。
施設数の順位(19位)より、客室数の順位(5位)のほうが高い。 北海道の宿は、数より規模で客室を持っている。
釧路管内は、衛生行政報告例に市区町村別が無いため、経済センサスの数字のみを示す。
| 市町村 | 人口 | 旅館・ホテル | 簡易宿所 | 宿泊業計 | 宿泊/1万人 |
|---|---|---|---|---|---|
| 釧路市 | 151,566 | 69 | 2 | 115 | 7.59 |
| 釧路町 | 18,021 | 3 | 1 | 5 | 2.77 |
| 厚岸町 | 7,976 | 4 | 0 | 5 | 6.27 |
| 浜中町 | 5,172 | 7 | 3 | 10 | 19.33 |
| 標茶町 | 6,698 | 7 | 2 | 10 | 14.93 |
| 弟子屈町 | 6,327 | 31 | 3 | 39 | 61.64 |
| 鶴居村 | 2,368 | 5 | 1 | 6 | 25.34 |
| 白糠町 | 6,840 | 4 | 0 | 4 | 5.85 |
全国1,889市区町村の中央値は 3.56。8市町村のうち7つが中央値を上回る(釧路町だけが下回る)。
弟子屈町は61.64で、全国中央値の17.3倍。 人口6,327人に対して宿泊業が39ある。同じ人口規模の白糠町は5.85で、10.5倍の差がある。
参考に、人口1,000人以上で人口1万人あたりの宿泊業が多い市区町村を挙げる。
| 市区町村 | 人口 | 宿泊業 | 1万人あたり |
|---|---|---|---|
| 野沢温泉村(長野) | 3,603 | 202 | 560.6 |
| 白馬村(長野) | 9,751 | 469 | 481.0 |
| 小谷村(長野) | 2,779 | 128 | 460.6 |
| 北塩原村(福島) | 2,342 | 106 | 452.6 |
| 片品村(群馬) | 3,787 | 166 | 438.3 |
上位は温泉とスキー場の村である。弟子屈町の61.64は、この水準には遠く及ばない。
4. 考察
4-1 「事業所」でない宿がある
簡易宿所の13.75倍は、この一連の報告で見たなかで最大の差である。
I003(診療所)・I004(理容・美容)・I005(飲食)の差は、同じ対象を、許可と事業所という違う単位で数えたことによる差だった。簡易宿所の差はそれとは別で、事業所という単位そのものに乗らない宿が多数あることを示している可能性が高い。
これは、地域の宿の数を経済センサスで数えると大きく取りこぼすことを意味する。R001〜R003 で「その分類がある/無い」を経済センサスだけで数えたが、宿泊業についてはその「無い」が特に当てにならない。
ただし、どちらが実態に近いかを本稿は判定しない。 許可は残っていても実際には営業していない施設を含みうるからである。
4-2 開業と廃業は、東京と地方で逆を向いている
全国で2.74倍という数字は「宿が増えている」と読めるが、県ごとに見ると9県で廃業が上回る。岩手県では許可19件に対して廃止49件である。
平均や全国計は、向きが逆のものを足して1つにしてしまう。 地域の話をするときは、全国の数字をそのまま当てはめられない。
4-3 弟子屈町、I005 で残した問いの答え
I005 で、弟子屈町の飲食店が人口1万人あたり94.83(全国中央値の2.7倍)であることを示し、原因は確かめないままにした。
宿泊業で見ると、弟子屈町は 61.64(全国中央値の17.3倍) である。飲食店の2.7倍より、はるかに大きく振れている。宿のほうが、観光地であることをはっきり映す。
これは「飲食店の多さは観光客による」ことの証明ではない。宿が多い町では飲食店も多い、という2つの事実が並んでいるだけである。宿泊者数を用いた検証は本稿では行っていない。
4-4 客室数という、数えられる単位
この表には、他の業種の統計に無い客室数がある。施設の数だけでは大きさがわからないが、客室数があれば1軒あたりの規模が出せる。
大阪府78.1室と沖縄県17.8室は、同じ「宿1軒」でも中身が4.4倍ちがうということである。「宿が何軒ある」という数え方は、地域を比べるときには足りない。
5. 限界
- 衛生行政報告例は令和6年度末、経済センサスは令和3年6月1日、人口は2026年1月1日。時点が違う
- 衛生行政報告例は旅館業法の営業許可を受けた施設の数。経済センサスは事業所
- 客室数は旅館・ホテル営業のみ。 簡易宿所・下宿の客室数は表に無く、全国の客室総数は出せない
- 住宅宿泊事業(民泊新法)の届出住宅は旅館業法の許可ではないので、この表に入らない
- 許可・廃止は年度中の件数で、同じ施設の建て替えや承継を含みうる
- 衛生行政報告例には市区町村別が無い。釧路管内はセンサスの値のみ
- 宿泊者数・稼働率は用いていない。施設と客室の数だけを見ている
- 簡易宿所が事業所として捕捉されにくいという説明は仮説であり、検証していない
- どちらの統計が正しいかを、本稿は判定しない
6. 再現の手順
- e-Stat から「令和6年度 衛生行政報告例」第8表(CSV)を取得する。指定都市・中核市の再掲行があるので、都道府県の行だけを使う
- 47県の合計が全国の欄と一致することを確かめる(施設 52,946/客室 1,782,232)
- e-Stat から令和3年 経済センサスの産業小分類別 事業所数(市区町村別)を取得し、751・752・753・759 を都道府県ごとに合計する(750 は除く)
- 住民基本台帳の人口・65歳以上人口を都道府県ごとに合計する
- 1施設あたりの客室数、人口1万人あたりの施設数・客室数、許可÷廃止を出す
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_194)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。宿の数を、営業許可と事業所という2つの公的統計で数えて比べたものである。I003(診療所)・I004(理容・美容)・I005(飲食)と同じ問いを宿泊業に当て、そこで最大の差(13.75倍)が出た。あわせて、他の業種の統計に無い客室数と年度中の開業・廃業件数を用いた。どちらの統計が正しいかは判定しない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」第8表
- 総務省統計局・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類別 事業所数(市区町村別)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「市区町村の人口と、そこにある産業小分類の数」(R001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22872218
- 山岸勇輝「同じ診療所を2つの公的統計で数えると」(I003)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875614
- 山岸勇輝「理容所と美容所、1店あたり2人」(I004)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875820
- 山岸勇輝「飲食店営業の許可は、事業所の2.9倍」(I005)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875863
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「宿の数は、統計によって13.7倍ちがう。簡易宿所は「事業所」として数えられていない [I006]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876047
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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図表を含め、本稿の数値はすべて公的統計から計算したものである。元データそのものの権利は、各統計の公表元に従う。
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書誌
山岸勇輝(2026)「宿の数は、統計によって13.7倍ちがう」[I006]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22876047
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I006・DOI 10.5281/zenodo.22876047・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 宿の数は、統計によって13.7倍ちがう [I006]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I006 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22876047
Yamagishi, Y. (2026). The Number of Inns Differs 13.7-Fold Between Statistics: Simple Lodgings Are Not Counted as Establishments [I006]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I006; DOI: 10.5281/zenodo.22876047
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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