【論文145】圧力も引く。だから上限がある

要旨

静的な星は、いくらでも小さくはなれない。本稿は、その上限がなぜ存在するのか、何を要求して何を要求しないのか、そして何を上限しているのかを書く。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、これが本稿の芯である。一般相対論では、圧力も引く。トルマン=オッペンハイマー=ヴォルコフ方程式は、ニュートンの静水圧平衡に三つの因子を掛けた形をしている。圧力自身のエネルギー、源としての圧力、空間の曲がり。$P>0$ である限り三つとも $1$ より大きい。ニュートン重力では圧力は支えるだけだが、一般相対論では引きもする。支えを増やすと重力も強くなる。だから、ある密集度を超えるとどんな圧力も勝てない(第2節)。

第二に、限界の位置が閉じた形で出る。密度一定の内部解では、中心圧力が

$P_c/(\rho c^2)=(1-\sqrt{1-u})/(3\sqrt{1-u}-1)$、$u=2GM/(Rc^2)$ である。分母がゼロになるのはちょうど $u=8/9$(本稿で記号計算)。すなわち$R>\frac98 r_s$、ブッフダール限界である。$u=0.888$ で $P_c/(\rho c^2)=166.7$、$u\to8/9$ で発散する(第3節)。

第三に、この限界は状態方程式を要らない。要るのは静的・球対称・等方圧力・密度が外向きに増えない・密度が非負だけである。星が何でできているかを問わない(第4節)。

第四に、上限しているのは比であって質量ではない。$M$ と $R$ を同じ倍率で大きくしても $u$ は変わらない。「中性子星には最大質量がある」はブッフダールの定理ではない。それには状態方程式が要り、その密度での状態方程式は分かっていない(第5節)。

第五に、体系はいま三つの限界を持ち、要求する入力がそれぞれ違う。チャンドラセカール(論文141)は状態方程式を要して質量を、ブッフダールは何も要さず比を、地平線は物質を要さず長さを上限する(第6節)。

射程(何を示さないか)

本稿の射程:新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。トルマン(1939)、オッペンハイマー=ヴォルコフ(1939)、ブッフダール(1959)、シュヴァルツシルトの内部解はいずれも標準的である。本稿が加えるのは、TOV の三因子がすべて $1$ を超えることを明示したこと、限界の位置を密度一定解の発散として確かめたこと、上限されているのが比であって質量でないと書いたこと、三つの限界を要求する入力で並べたことだけである。$R>\frac98 r_s$ の向きに注意、半径のほうが大きい。

1. 記法と位置づけ

シュヴァルツシルト半径を $r_s=2GM/c^2$、密集度を $u=r_s/R=2GM/(Rc^2)$ と書く。$u\to1$ が地平線である。

位置づけ:既存の定理を並べ、その要求と結論を書く。新しい定理は主張しない。論文126 は存在定理は存在しか与えないと述べ、論文141 は限界が指数の一致から生まれることを書いた。本稿は三つ目の限界を、要求する入力で並べる。

2. 一般相対論では、圧力も引く

観察 2.1 (三つの因子) 静水圧平衡は、ニュートンでは $dP/dr=-Gm\rho/r^2$ である。一般相対論での対応物(TOV方程式)は
$$ \frac{dP}{dr}=-\frac{Gm\rho}{r^2}\,
\underbrace{\left(1+\frac{P}{\rho c^2}\right)}_{A}\,
\underbrace{\left(1+\frac{4\pi r^3P}{mc^2}\right)}_{B}\,
\underbrace{\left(1-\frac{2Gm}{rc^2}\right)^{-1}}_{C} $$
である。

観察 2.2 (三つとも $1$ を超える) $P>0$ かつ $2Gm<rc^2$ である限り、$A>1$、$B>1$、$C>1$ である。それぞれの意味は

何を足しているか 効果
$A$ 圧力自身がエネルギーを持つ 慣性が増える
$B$ 圧力が重力の源になる 引く力が増える
$C$ 空間が曲がっている 距離が伸びる

観察 2.3 (これが芯である) ニュートン重力では、圧力は支える側にしか現れない。一般相対論では、圧力は支えもし、引きもする。

ゆえに「潰れそうなら圧力を上げればよい」という手が、途中から効かなくなる。圧力を上げると $A$ と $B$ が大きくなり、重力の側も強くなるからである。どこかで、増やした支えより増えた重力のほうが勝つ。上限が存在する理由は、そこにある。

観察 2.4 (論文141 との対比) 論文141 では二つの力の半径についての指数が一致したことが限界を生んだ。ここでは指数ではなく、支える側が引く側にも回ることが限界を生んでいる。「限界」という一語が、二つの別の機構を指している(論文17)。

3. 限界の位置

検算 3.1(密度一定の内部解):シュヴァルツシルトの内部解では、中心圧力が
$$ \frac{P_c}{\rho c^2}=\frac{1-\sqrt{1-u}}{3\sqrt{1-u}-1},\qquad u=\frac{2GM}{Rc^2} $$
で与えられる。本稿では分母がゼロになる点を記号計算で解き、$u=8/9$ を得た。(証明終)

検算 3.2(発散の様子)

$u=r_s/R$ $R/r_s$ $P_c/(\rho c^2)$
0.100 10.000 0.0278
0.500 2.000 0.2612
0.800 1.250 1.6180
0.880 1.136 16.6603
0.888 1.126 166.666
$8/9^-$ 1.125 発散

(証明終)

観察 3.3 (向きに注意) 限界は $R>\frac98 r_s$ である。半径のほうが大きい。$u<8/9$、すなわち星は地平線の $9/8$ 倍より外側にしか存在できない。

観察 3.4 ($9/8$ の身分) $9/8$ は幾何量ではない。$\sqrt{1-u}=1/3$ という条件から出た数である。$1/3$ は内部解の構造から来ており、球面からも立体角からも来ていない(論文35・45 の規律)。

4. この限界は、状態方程式を要らない

観察 4.1 (要求するもの) ブッフダールの定理が要求するのは

静的であること
球対称であること
圧力が等方であること
密度が外向きに増えないこと
密度が非負であること

だけである。状態方程式は要らない。

観察 4.2 (これは異例である) 星が何でできているかを問わずに、幾何の比についての上限が出る。論文141 のチャンドラセカール限界は、超相対論的縮退という具体的な状態方程式を要した。ここでは要らない。

観察 4.3 (ただし要求が軽い分、結論も軽い) 要求が少ない定理は、言うことも少ない(論文126)。ブッフダールが言うのは比についてだけであり、質量については何も言わない(第5節)。

5. 上限しているのは比であって、質量ではない

観察 5.1 $M$ と $R$ を同じ倍率 $k$ で大きくすると、$u=2GM/(Rc^2)$ は変わらない。したがってブッフダールの条件はどんな大きさの星についても同じように満たされる。

観察 5.2 (言い方の訂正) 「中性子星には最大質量がある」はブッフダールの定理ではない。最大質量を言うには状態方程式が要り、そしてその密度における状態方程式は分かっていない。ブッフダールが与えるのは、どんな状態方程式であっても超えられない密集度である。

観察 5.3 (何を上限しているかを書く) 論文17 は住所を書けと述べた。「限界がある」と言うときには、何の限界かを書かねばならない。質量なのか、半径なのか、比なのか。三つは別の言明である。

6. 三つの限界、三つの入力

観察 6.1 

限界 要求するもの 上限するもの
チャンドラセカール(論文141) 状態方程式(縮退気体) 質量($\mu_e$ 込み)
ブッフダール(本稿) 状態方程式は不要 比($R/r_s>9/8$)
地平線 物質も不要(純幾何) 長さ($r_s$)

観察 6.2 (入力が少ないほど、言うことも少ない) チャンドラセカールは質量という具体的な数を言うが、その代わりに微視的な物理を要求する。ブッフダールはほとんど何も要求しないが、その代わりに比しか言わない。地平線は何も要求せず、長さしか言わない。

一語「限界」が、三つの別の言明を指している。要求と結論は釣り合っている。そしてその釣り合いを見ないと、どの限界がどの主張を支えているのかが分からなくなる。

7. 結論

  1. 一般相対論では圧力も引く(観察2.2)。TOV は三つの因子を持ち、$P>0$ なら三つとも $1$ を超える。支えを増やすと重力も強くなる。上限が存在する理由である。
  2. 限界の位置は $u=8/9$(検算3.1)。密度一定解の中心圧力は分母 $3\sqrt{1-u}-1$ がゼロになるところで発散し、それが $u=8/9$。すなわち $R>\frac98 r_s$(向きに注意)。
  3. $9/8$ は幾何量ではない(観察3.4)。$\sqrt{1-u}=1/3$ という条件の帰結である。
  4. 状態方程式は要らない(観察4.1)。要るのは静的・球対称・等方・密度が外向きに増えない・非負の五つだけ。
  5. 上限しているのは比である(観察5.1)。$M$ と $R$ を同時に大きくしても $u$ は変わらない。「最大質量」はブッフダールではない。
  6. 三つの限界は要求と結論が釣り合っている(観察6.1)。入力が少ないほど、言うことも少ない(論文126)。

結び:ニュートンの世界では、潰れそうなら圧力を上げればよかった。一般相対論では、その手が自分の首を絞める。支えるために足したものが、引く側にも回るからである。上限とは、支えが自分の敵になる点のことである。

参考文献

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  2. Oppenheimer, J. R. & Volkoff, G. M. (1939). On massive neutron cores. Physical Review, 55.
  3. Buchdahl, H. A. (1959). General relativistic fluid spheres. Physical Review, 116.
  4. Schwarzschild, K. (1916). Über das Gravitationsfeld einer Kugel aus inkompressibler Flüssigkeit. Sitzungsberichte der Preußischen Akademie der Wissenschaften.
  5. Shapiro, S. L. & Teukolsky, S. A. (1983). Black Holes, White Dwarfs and Neutron Stars. Wiley.
  6. Lattimer, J. M. & Prakash, M. (2007). Neutron star observations: prognosis for equation of state constraints. Physics Reports, 442.
  7. 山岸勇輝 (2026). 無次元だけが調整されうる [論文10] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21404556
  8. 山岸勇輝 (2026). 等号は六つの別根を持つ [論文16] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600471
  9. 山岸勇輝 (2026). 別根と言うのは半分である。住所を書け [論文17] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600813
  10. 山岸勇輝 (2026). $4\pi G$ の中の二つの $4\pi$ [論文35] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21430118
  11. 山岸勇輝 (2026). 臨界半径に $G$ は無い [論文52] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21603034
  12. 山岸勇輝 (2026). ブラックホール・エントロピーの「$1/4$」 [論文73]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21666086
  13. 山岸勇輝 (2026). 規約と事実 [論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
  14. 山岸勇輝 (2026). 王道の点呼 [論文100]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758864
  15. 山岸勇輝 (2026). $c$ の指数は何を数えているか [論文116]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22003794
  16. 山岸勇輝 (2026). 尺度不変性は四つの根を持つ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
  17. 山岸勇輝 (2026). 積分因子の存在は、温度を与えない [論文126]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22079437
  18. 山岸勇輝 (2026). 限界が存在するのは、二つの力が同じ指数を持つからである [論文141]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082127
  19. 山岸勇輝 (2026). 最小エントロピー生成は、原理ではなく柵つきの定理である [論文143]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082367
  20. 山岸勇輝 (2026). 指数は、何が保存しているかの署名である [論文144]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082585

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「圧力も引く。だから上限がある」[論文145]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22082693

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 圧力も引く。だから上限がある [論文145]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/145 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22082693

Yamagishi, Y. (2026). Pressure Pulls Too, and That Is Why There Is a Bound [Paper 145]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/145; DOI: 10.5281/zenodo.22082693

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