【論文873】探し方の優劣は、ある時点の損ではなく、損の伸び方で決まる

要旨

どの探し方が良いかは、同じ回数だけ引いて損を比べればわかる、と思いやすい。本稿は、比べる回数を十倍ずつ伸ばすと勝ち負けが入れ替わることを、三本の腕で数える。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、一万回では、決まった割合で探す方法が勝つ。損は割合 $0.1$ で探す方法が $122.396667$、試した回数の少ない腕に上乗せする UCB が $145.970000$ である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。十万回では入れ替わる。損は $1023.296667$ と $266.916667$ で、決まった割合で探す方法が UCB の $\mathbf{3.833768}$ 倍になる(第2節)。

第三に、入れ替わりを決めるのは損の伸び方である。十倍ごとの伸びは、UCB では $5.982350$・$3.151112$・$\mathbf{1.828572}$ 倍と縮み、決まった割合で探す方法では $4.345181$・$5.090670$・$8.360495$ 倍と上がる(第3節)。

第四に、探すのをやめると、損は時間に比例して積もる。最初に一回ずつ引いて後は平均の高い腕だけを引くと、$30$ 回中 $10$ 回は最良でない腕に居着き、十倍ごとの伸びは $9.914480$ 倍、十万回の損は $5004.796667$ である(第3節)。

第五に、決まった割合で探し続けても、損は時間に比例して積もる。最良の腕を見つけたあとも $0.1$ の割合で他の腕を引き続けるので、伸びは時間に比例する $10$ 倍へ上がっていく(第3節)。

第六に、分離子は、ある回数での損を比べるか、十倍ごとの伸びを比べるかである。ある回数での比較は、その回数を選んだ時点で勝者を決めてしまう(第4節)。

キーワード:多腕バンディット、UCB、ε貪欲、損、探索と活用。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。多腕バンディット、決まった割合で探す方法($\varepsilon$ 貪欲)、試した回数の少ない腕に上乗せする方法(UCB1)、よい方法では損が対数でしか増えないことは、いずれも既知である。木に入らない。モンテカルロ木探索のように、この上乗せを木の各節で使う方法には入らない。実在の応用を扱わない。広告の出し分けや治験の割り付けは主題ではない。上界を証明しない。損の理論上の上界や下界は扱わない。三本の腕で $30$ 回ずつ平均した数だけを見る。既刊との関係:論文387 は、いつ出るかはその場所の中では決まらないことを示し、射程注記で探索と活用などへの転用を主張しなかった。本稿はその席に座る。ただし採餌の模型を転用するのではなく、多腕バンディットという別の模型で、探すことと稼ぐことの配分を数える。加えたのは、三つの方法の損を百回から十万回まで十倍ごとに並べたこと、一万回と十万回で勝ち負けが入れ替わると測ったこと、十倍ごとの伸びが縮む方法と上がる方法を分けたこと、分離子を「ある回数の損か、伸び方か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:当たりの確率 $\mu_1=0.6$・$\mu_2=0.5$・$\mu_3=0.4$ の三本の腕を、毎回一本ずつ引く。$T$ 回までの損を、引いた腕と最良の腕の確率の差の合計とする。

$$\text{損}(T)=\sum_{t=1}^{T}\bigl(\mu_1-\mu_{a_t}\bigr),\qquad
\text{UCB の選び方}:\ a_t=\arg\max_i\Bigl(\hat\mu_i+\sqrt{\frac{2\ln t}{n_i}}\Bigr)$$

$\hat\mu_i$ はそれまでの平均、$n_i$ は引いた回数である。三つの方法はどれも最初に一回ずつ引き、そのあと、探すのをやめる方法は平均の最も高い腕だけを、決まった割合で探す方法は $0.1$ の割合で無作為の腕を、残りは平均の最も高い腕を引く。十万回を $30$ 回ずつくり返して平均した。

問い:同じ回数だけ引いて損を比べれば、どの探し方が良いかわかるのか。

2. 回数ごとの損

計算 2.1:三つの方法の損を、百回から十万回まで十倍ごとに出した。

方法 $100$ 回 $1000$ 回 $10000$ 回 $100000$ 回
探すのをやめる $6.480000$ $54.736667$ $504.796667$ $5004.796667$
割合 $0.1$ で探す $5.533333$ $24.043333$ $122.396667$ $1023.296667$
UCB $7.743333$ $46.323333$ $145.970000$ $266.916667$

観察 2.2 これが本稿の芯である。一万回と十万回で勝ち負けが入れ替わる。一万回までは、割合 $0.1$ で探す方法の損が UCB より少ない。十万回では UCB が下回り、割合 $0.1$ で探す方法の損は UCB の $3.833768$ 倍になる。UCB が下回った区切りは十万回だけだった。

3. 十倍ごとの伸び

計算 3.1:回数を十倍にしたとき、損が何倍になるかを出した。

方法 $100\to1000$ $1000\to10000$ $10000\to100000$
探すのをやめる $8.447016$ $9.222276$ $9.914480$
割合 $0.1$ で探す $4.345181$ $5.090670$ $8.360495$
UCB $5.982350$ $3.151112$ $1.828572$

観察 3.2 入れ替わりを決めるのは伸び方である。UCB の伸びは $5.982350$ から $1.828572$ 倍へ縮み、割合 $0.1$ で探す方法の伸びは $8.360495$ 倍へ上がる。UCB は引いた回数の少ない腕ほど大きく上乗せするので、悪い腕は次第に引かれなくなる。割合 $0.1$ で探す方法は、最良の腕を見つけたあとも同じ割合で悪い腕を引き続けるので、伸びは時間に比例する $10$ 倍へ上がっていく。

観察 3.3 探すのをやめると、はじめの運で居着く。最初に一回ずつ引いて後は平均の高い腕だけを引くと、$30$ 回中 $10$ 回($0.333333$)は最良でない腕をいちばん多く引いていた。十倍ごとの伸びは $9.914480$ 倍で、十万回の損は $5004.796667$、UCB の $18.750409$ 倍である。

4. 分離子

観察 4.1 分離子は、ある回数での損を比べるか、十倍ごとの伸びを比べるかである。一万回で比べれば割合 $0.1$ で探す方法が、十万回で比べれば UCB が勝つ。ある回数での比較は、その回数を選んだ時点で勝者を決めてしまう。伸びを比べれば、どちらがいずれ勝つかが回数を選ばずにわかる。

観察 4.2 論文387 の席に座る。387 は、いつ出るかがその場所の中では決まらないことを示し、探索と活用への転用を主張しなかった。ここでは採餌の模型ではなく多腕バンディットで、探すことと稼ぐことの配分を数えた。どちらの問いでも、今いる腕(場所)の中だけを見ていては決まらない。

観察 4.3 言わないこと。木の探索も、実在の広告や治験も、損の理論上の上界も扱わない。示したのは、探し方の優劣が、比べる回数ではなく損の伸び方で決まるということである。

5. 点呼と結び

  1. 損は最良の腕との差の合計(第1節):三本の腕。
  2. 一万回で $122.396667$ 対 $145.970000$(計算 2.1):割合で探すほうが少ない。
  3. 十万回で $1023.296667$ 対 $266.916667$(計算 2.1):入れ替わる。
  4. 比 $\mathbf{3.833768}$(観察 2.2):本稿の芯。
  5. UCB の伸び $\mathbf{1.828572}$ 倍(計算 3.1):縮んでいく。
  6. 割合で探す伸び $8.360495$ 倍(計算 3.1):上がっていく。
  7. やめる方法の伸び $9.914480$ 倍(計算 3.1):時間に比例。
  8. $30$ 回中 $10$ 回居着く(観察 3.3):はじめの運。
  9. 十万回でやめる方法は $18.750409$ 倍(観察 3.3):UCB に対して。
  10. ある回数の損か、伸び方か(観察 4.1):分離子・論文387 の席。

結び:探し方の優劣は、ある時点の損ではなく、損の伸び方で決まる。三本の腕を一万回引くと、割合 $0.1$ で探す方法の損 $122.396667$ が UCB の $145.970000$ より少ないが、十万回では $1023.296667$ と $266.916667$ になり、比は $3.833768$ である。UCB の十倍ごとの伸びは $1.828572$ 倍まで縮み、割合で探す方法は $8.360495$ 倍まで上がるからである。探すのをやめると $30$ 回中 $10$ 回は最良でない腕に居着き、伸びは $9.914480$ 倍で時間に比例する。決まった割合で探し続けても、最良の腕を見つけたあとの探しが損として積もる。既刊との位置:論文387 が射程注記で空けた探索と活用の席に、採餌の模型ではなく多腕バンディットで座った。正直に言えば、腕は三本、くり返しは $30$ 回で、損の理論上の上界は扱っていない。

参考文献

  1. Auer, P., Cesa-Bianchi, N., & Fischer, P. (2002). Finite-time Analysis of the Multiarmed Bandit Problem. Machine Learning.
  2. Sutton, R. S., & Barto, A. G. (2018). Reinforcement Learning: An Introduction (2nd ed.). MIT Press.
  3. 山岸勇輝 (2026). 『いつ出るかは、その場所の中では決まらない』[論文387]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/387 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699131

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「探し方の優劣は、ある時点の損ではなく、損の伸び方で決まる」[論文873]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/873

YOI 873第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/873・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 探し方の優劣は、ある時点の損ではなく、損の伸び方で決まる [論文873]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/873

Yamagishi, Y. (2026). Which Way of Exploring Is Better Is Decided Not by the Loss at One Moment but by How the Loss Grows [Paper 873]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/873

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