要旨
よく効く薬とは、少ない濃度で効く薬だ、と思いやすい。本稿は、効き始めから効き切るまでの濃度の幅が、効く濃度とは別の量で決まることを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、幅は $81^{1/n}$ 倍である。効き目 $10$ % と $90$ % の濃度を二分法で出すと、$n=0.5$ で $6561$ 倍、$1$ で $81$ 倍、$2$ で $9$ 倍、$4$ で $3$ 倍で、式 $81^{1/n}$ と差の割合 $10^{-9}$ 未満で一致した(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。効く濃度を動かしても、幅は動かない。$n=2$ で効く濃度を $0.01$・$1$・$100$ と $1$ 万倍動かしても、幅はどれも $9.000000$ 倍である(第2節)。
第三に、結合する場所が二つでも、助け合いが無ければ係数は $1$ である。二つの場所が独立なら $n=1.000000$、幅は $81$ 倍で、場所が一つのときと同じである(第3節)。
第四に、助け合いが強いほど幅は狭くなるが、場所の数を超えない。助け合いの係数 $c$ が $10$ で $n=\mathbf{1.519494}$、$100$ で $1.818182$、$10000$ で $1.980198$、幅は $9.243221$ 倍までで $9$ 倍を下回らない(第3節)。
第五に、数値の傾きは式と合う。半分結合の点で数値で出した傾きは、$2/(1+1/\sqrt{c})$ と差 $10^{-6}$ 未満で一致した(第3節)。
第六に、分離子は、どの濃度で効くかという位置を問うか、何倍の範囲で効き切るかという広がりを問うかである。位置は効く濃度が、広がりは協同の度合いが決め、二つは別々に動く(第4節)。
キーワード:ヒル係数、用量反応、協同性、アデアの式、効く濃度。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ヒルの式、$10$ % から $90$ % の幅が $81^{1/n}$ 倍であること、二つの結合場所をもつアデアの式と、その係数が場所の数を超えないことは、いずれも既知である。実在の値を主張しない。濃度と係数は模型の値で、どの薬にもどの受容体にも対応しない。助言をしない。どれだけの量を使うべきかは述べない。仕組みに入らない。形が変わって助け合う仕組みの模型や、結合の速さは扱わない。既刊との関係:論文679 は、緩衝液が pH を保つのではなく pKa の近くだけを保つことを示した。本稿はその隣に置く。あちらは一か所に水素イオンが付く式の幅を pH で見た。ここでは同じ形の式の幅を係数 $n$ で動かし、結合する場所が二つのときの助け合いで数える。加えたのは、四つの $n$ で幅を二分法で出し式と合わせたこと、効く濃度を $1$ 万倍動かしても幅が動かないと確かめたこと、二つの結合場所で助け合いの係数ごとに傾きと幅を測ったこと、分離子を「位置か、広がりか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:濃度 $C$ に対する効き目 $R$ を、効く濃度(効き目が半分になる濃度)$\mathrm{EC}_{50}$ と係数 $n$ で置く。結合する場所が二つあり、一つ目が付くと二つ目が付きやすくなる度合いを $c$ とするアデアの式も並べる。
$$R=\frac{C^{n}}{\mathrm{EC}_{50}^{\,n}+C^{n}},\qquad
\frac{C_{90}}{C_{10}}=81^{1/n},\qquad
\theta=\frac{x+c\,x^{2}}{1+2x+c\,x^{2}}$$
$x$ は一つの場所への付きやすさを掛けた濃度、$\theta$ は付いている割合である。係数は、半分付いた点での $\log(\theta/(1-\theta))$ の $\log x$ に対する傾きとして数値で出した。
問い:効き始めから効き切るまでの濃度の幅は、何で決まるのか。
2. 係数と幅
計算 2.1:効き目 $10$ % と $90$ % の濃度を二分法で出した($\mathrm{EC}_{50}=1$)。
| $n$ | $10$ % の濃度 | $90$ % の濃度 | 幅(倍) | 幅(桁) |
|---|---|---|---|---|
| $0.5$ | $0.012346$ | $81.000000$ | $6561.000000$ | $3.816970$ |
| $1$ | $0.111111$ | $9.000000$ | $81.000000$ | $1.908485$ |
| $2$ | $0.333333$ | $3.000000$ | $9.000000$ | $0.954243$ |
| $4$ | $0.577350$ | $1.732051$ | $3.000000$ | $0.477121$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。効く濃度を動かしても、幅は動かない。$n=2$ で効く濃度を $0.01$・$1$・$100$ にしても、幅はどれも $9.000000$ 倍だった。効く濃度は曲線を左右にずらすだけで、立ち上がりの急さは変えない。幅を狭くするのは $n$ で、二分法の幅は四つの $n$ すべてで $81^{1/n}$ と差の割合 $10^{-9}$ 未満で一致した。
3. 結合する場所が二つのとき
計算 3.1:二つの場所の助け合いの係数 $c$ を変えて、半分付いた点での係数と、$10$ % から $90$ % の幅を出した。
| $c$ | 数値の係数 | 式 $2/(1+1/\sqrt{c})$ | 幅(倍) |
|---|---|---|---|
| $1$ | $1.000000$ | $1.000000$ | $81.000000$ |
| $10$ | $1.519494$ | $1.519494$ | $20.436504$ |
| $100$ | $1.818182$ | $1.818182$ | $11.741239$ |
| $10000$ | $1.980198$ | $1.980198$ | $9.243221$ |
観察 3.2 場所の数は上限を決めるだけで、係数を決めるのは助け合いである。二つの場所が独立($c=1$)なら係数は $1.000000$、幅は $81$ 倍で、場所が一つのときと同じである。助け合いを強くすると係数は $1.519494$・$1.818182$・$1.980198$ と上がるが $2$ を超えず、幅は $9.243221$ 倍までで、$n=2$ の $9$ 倍を下回らない。数値の係数は式と差 $10^{-6}$ 未満で一致した。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、どの濃度で効くかという位置を問うか、何倍の範囲で効き切るかという広がりを問うかである。位置を決めるのは効く濃度で、曲線を左右にずらす。広がりを決めるのは協同の度合いで、曲線の立ち上がりを急にする。二つは別々に動くので、少ない濃度で効くことと、少しの濃度の変化で効き目が大きく変わることは別の性質である。
観察 4.2 論文679 の隣に置く。679 は、緩衝液が pKa の近くだけを保つことを示した。あちらは一か所に水素イオンが付く式の幅を pH で見た。その式は係数 $1$ の形で、$10$ % から $90$ % まで $1.908485$ 桁かかる。ここでは同じ形の式の係数を動かし、幅を狭くするものが助け合いであることを数えた。
観察 4.3 言わないこと。実在の薬や受容体の値も、使うべき量も、形が変わって助け合う仕組みも扱わない。示したのは、濃度の幅を決めるのが効く濃度ではなく協同の度合いだということである。
5. 点呼と結び
- 幅は $81^{1/n}$ 倍(第1節):ヒルの式。
- $n=1$ で $81$ 倍(計算 2.1):$1.908485$ 桁。
- $n=2$ で $9$ 倍・$n=4$ で $3$ 倍(計算 2.1):急になる。
- 効く濃度を $1$ 万倍動かしても $9.000000$(観察 2.2):本稿の芯。
- 二分法と式が一致(観察 2.2):差の割合 $10^{-9}$ 未満。
- 独立な二つの場所で係数 $1$(計算 3.1):幅 $81$ 倍。
- $c=10$ で $\mathbf{1.519494}$(計算 3.1):助け合いが上げる。
- $c=10000$ で $1.980198$(計算 3.1):$2$ を超えない。
- 幅 $9.243221$ 倍まで(観察 3.2):$9$ を下回らない。
- 位置か、広がりか(観察 4.1):分離子・論文679。
結び:効き始めから効き切るまでの濃度の幅を決めるのは、効く濃度ではなく協同の度合いである。効き目 $10$ % から $90$ % までの幅は $81^{1/n}$ 倍で、$n=2$ なら効く濃度を $1$ 万倍動かしても $9.000000$ 倍のままである。効く濃度は曲線を左右にずらすだけで、立ち上がりの急さは変えないからである。結合する場所が二つでも、助け合いが無ければ係数は $1$ で幅は $81$ 倍、助け合いを強くしても係数は $1.980198$ までで幅は $9.243221$ 倍より狭くならない。場所の数は上限を決めるだけで、幅を決めるのは助け合いである。既刊との位置:論文679 が pH で見た一か所の結合の幅の隣に、同じ形の式で幅を狭くするものを置いた。正直に言えば、濃度と係数は模型の値で、助け合いの仕組みも結合の速さも入れていない。
参考文献
- Brunton, L. L., Hilal-Dandan, R., & Knollmann, B. C. (Eds.). (2018). Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics (13th ed.). McGraw-Hill.
- Hill, A. V. (1910). The Possible Effects of the Aggregation of the Molecules of Haemoglobin on Its Dissociation Curves. The Journal of Physiology.
- 山岸勇輝 (2026). 『緩衝液は「pH を保つ」のではなく、pKa の近くだけを保つ』[論文679]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/679 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014789
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「効き始めから効き切るまでの濃度の幅を決めるのは、効く濃度ではなく協同の度合いである」[論文878]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/878
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/878・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 効き始めから効き切るまでの濃度の幅を決めるのは、効く濃度ではなく協同の度合いである [論文878]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/878
Yamagishi, Y. (2026). The Concentration Span from First to Full Effect Is Set Not by the Effective Concentration but by Cooperativity [Paper 878]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/878
@misc{yamagishi2026yoi878,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Concentration Span from First to Full Effect Is Set Not by the Effective Concentration but by Cooperativity},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/878},
note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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