要旨
二つの結合部位が助け合うと、効き始めから効き切るまでの濃度の幅が狭くなる(論文878)。平衡の曲線は助け合いの係数 c だけで決まり、どれだけの速さで結合が進むかは平衡の式からは分からない。本稿は、878 の二つの部位を、結合の数 0・1・2 の三つの状態の間の速さの式にし、同じ c を「二つ目が外れにくい」で作る場合と「二つ目が付きやすい」で作る場合で、半分結合の濃度での落ち着く速さを比べる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、二つの作り方の平衡は同じである。c = 1・10・100・10000 の八つの組で、速さの式の平衡の結合の割合はアデアの式と $10^{-9}$ 以内で一致し、ヒル係数は $1.000000$・$1.519494$・$1.818182$・$1.980198$ だった(第2節)。
第二に、外れにくさで作ると、落ち着くのがずっと遅い。半分結合の濃度で、遅い相の時間は外れにくさで作ると c = 100 で $29.222262$、10000 で $\mathbf{2549.028945}$、付きやすさで作ると $2.922226$ と $25.490289$ だった(一つ目が外れる時間を単位)(第3節)。
第三に、二つの作り方の速さの比は、ちょうど助け合いの係数の平方根である。二つの固有値の比は、c = 10・100・10000 で $3.162278$・$\mathbf{10.000000}$・$100.000000$ で、どちらの固有値も $\sqrt c$ と相対 $10^{-9}$ 以内で一致した(第3節)。
第四に、空から結合が進む時間も同じ向きに違う。空の状態から平衡の 90 パーセントに届く時間は、外れにくさで c = 10000 に $5820.335303$、付きやすさで $58.698322$ で、比は $99.156758$ だった(第3節)。
第五に、分離子は、助け合いを外れる速さに持たせるか、付く速さに持たせるかである。平衡は付く速さと外れる速さの比しか見ないので、どちらに持たせても曲線は同じになる。半分結合で一つだけ結合した状態は c = 10000 で $0.009901$ と少なく、そこを通る速さが、外れにくさで作ると遅い相の速さを c に反比例させ、付きやすさで作ると √c に反比例させた(第4節)。
キーワード:協同的結合、結合の速さ、アデアの式、ヒル係数、固有値、反応速度論。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。二つの部位の結合のアデアの式、平衡が付く速さと外れる速さの比(釣り合いの条件)で決まること、協同の結合がゆっくりした相を持ちうること、速さの式の固有値が落ち着く速さを決めることは、いずれも生化学と反応速度論で知られている。形の変化を入れない。分子の形が変わる段階や、二つの形の中間の形は入れず、結合と解離の速さだけで助け合いを作る。模型の値である。c と濃度は模型の値で、時間は一つ目が外れる速さを単位にした。どの薬、受容体、酵素にも対応しない。どちらの作り方かを言わない。実在の分子の助け合いが外れにくさと付きやすさのどちらで生じているかは述べない。既刊との関係:論文878 の射程注記は、仕組みに入らず、形が変わって助け合う仕組みの模型や結合の速さは扱わないと書いた。本稿はそのうち結合の速さの席に座る(形が変わる仕組みの席には論文936 が座った・結合の速さの席は先客なし)。論文936 の射程注記も、速さと中間の形を入れず、結合と形の変化の速さ、二つの形の中間の形は入れないと書いた。本稿は形の変化を入れずに、結合の速さの分だけその席に座る。論文878 は、効き始めから効き切るまでの濃度の幅を決めるのが効く濃度ではなく協同の度合いであり、二つの部位のヒル係数が $2/(1+1/\sqrt c)$ になることを示した。ここでは、その同じ曲線を生む二つの速さの作り方を比べる。加えたのは、三つの状態の速さの式を二通りに組んだこと、平衡がアデアの式と一致すると確かめたこと、半分結合での固有値と 90 パーセントまでの時間を出したこと、速さの比がちょうど √c だと確かめたこと、分離子を「外れる速さか、付く速さか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:部位が二つの分子の状態を結合の数 0・1・2 で表す。濃度を一つ目が外れる速さで割った量を $x$ とし、時間は一つ目が外れる速さを単位にする。助け合いの係数 $c$ の二つの作り方の速さは次のとおりである。
| 作り方 | $0\to1$ | $1\to0$ | $1\to2$ | $2\to1$ |
|---|---|---|---|---|
| 外れにくさ | $2x$ | $1$ | $x$ | $2/c$ |
| 付きやすさ | $2x$ | $1$ | $c x$ | $2$ |
どちらも釣り合いでは $p_1/p_0=2x$、$p_2/p_1=c x/2$ で、結合の割合は
$$\theta=\frac{x+c\,x^2}{1+2x+c\,x^2}$$
(878 のアデアの式)になる。半分結合の濃度は $x=1/\sqrt c$ である。速さの行列の二つの負の固有値を落ち着く速さとし、空の状態から結合の割合が平衡の 90 パーセントに届く時間も出した。
問い:平衡の曲線が同じ二つの作り方で、結合の落ち着く速さは同じか。
2. 平衡
計算 2.1:c = 1・10・100・10000 の半分結合の濃度は $1.000000$・$0.316228$・$0.100000$・$0.010000$ で、八つの組の平衡の結合の割合はすべて $0.500000$、アデアの式と $10^{-9}$ 以内だった。一つだけ結合した状態の割合は $0.500000$・$0.240253$・$0.090909$・$0.009901$、ヒル係数は $1.000000$・$1.519494$・$1.818182$・$1.980198$ だった。
観察 2.2 二つの作り方は平衡では区別できない。どちらも付く速さと外れる速さの比が同じなので、結合の曲線もヒル係数も一致した。助け合いが強いほど、半分結合で一つだけ結合した状態は少なかった。
3. 落ち着く速さ
計算 3.1:半分結合の濃度での固有値(速い相・遅い相)、遅い相の時間、空から 90 パーセントまでの時間。
| $c$・作り方 | 速い相 | 遅い相 | 遅い相の時間 | 90% まで |
|---|---|---|---|---|
| $1$(どちらも) | $-4.000000$ | $-2.000000$ | $0.500000$ | $1.151293$ |
| $10$・外れにくさ | $-1.866629$ | $-0.282055$ | $3.545414$ | $7.277576$ |
| $10$・付きやすさ | $-5.902798$ | $-0.891935$ | $1.121158$ | $2.638166$ |
| $100$・外れにくさ | $-1.285780$ | $-0.034220$ | $29.222262$ | $63.134500$ |
| $100$・付きやすさ | $-12.857795$ | $-0.342205$ | $2.922226$ | $6.761690$ |
| $10000$・外れにくさ | $-1.029808$ | $-0.000392$ | $\mathbf{2549.028945}$ | $5820.335303$ |
| $10000$・付きやすさ | $-102.980769$ | $-0.039231$ | $25.490289$ | $58.698322$ |
付きやすさ÷外れにくさ の固有値の比は、c = 10 で $3.162278$ と $3.162278$、100 で $10.000000$ と $10.000000$、10000 で $100.000000$ と $100.000000$ で、どちらも $\sqrt c$ と相対 $10^{-9}$ 以内だった。90 パーセントまでの時間の比(外れにくさ÷付きやすさ)は $2.758574$・$9.337089$・$99.156758$ だった。遅い相の速さに、外れにくさでは $c$ を、付きやすさでは $\sqrt c$ を掛けると、c = 100 でどちらも $3.422049$、10000 でどちらも $3.923063$ だった。
観察 3.2 外れにくさで作ると、落ち着く時間は c とともに大きく伸びる。遅い相の時間は、外れにくさで c = 100 から 10000 に $29.222262$ から $2549.028945$ へ、付きやすさで $2.922226$ から $25.490289$ へ伸びた。二つの作り方の固有値は、どちらの相も $\sqrt c$ 倍ずつ違った。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、助け合いを外れる速さに持たせるか、付く速さに持たせるかである。平衡は速さの比しか見ないので、どちらに持たせても曲線は同じになる。落ち着く速さは速さそのものを見る。外れにくさで作ると $2\to1$ が $2/c$ まで遅くなり、付きやすさで作ると $1\to2$ が $c x=\sqrt c$ まで速くなる。遅い相の速さに掛けた値が c = 100 と 10000 で二つの作り方とも同じ($3.422049$・$3.923063$)だったので、遅い相の速さは外れにくさでおよそ $c$ に、付きやすさでおよそ $\sqrt c$ に反比例した。
観察 4.2 言わないこと。形の変化、中間の形、濃度が時間とともに減ること、実在の分子の速さ、どちらの作り方が実在するかは扱わない。示したのは、同じ平衡を生む二つの速さの作り方で、半分結合での落ち着く速さがちょうど √c 倍違うことである。
5. 点呼と結び
- 三つの状態の速さの式(第1節):助け合いを二通りに置く。
- 平衡はアデアの式と一致(計算 2.1):二つの作り方は区別できない。
- 遅い相の時間 $\mathbf{2549.028945}$ と 25.490289(計算 3.1):c = 10000。
- 固有値の比 $\mathbf{10.000000}$(c = 100)(計算 3.1):ちょうど √c。
- 90% までの時間の比 $99.156758$(計算 3.1):空からの結合でも同じ向き。
- 外れる速さか、付く速さか(観察 4.1):分離子・論文878 と論文936 の射程注記。
結び:同じ協同の結合でも、二つ目を外れにくくして作ると、付きやすくして作るより遅く落ち着く。878 の二つの部位を三つの状態の速さの式にすると、二つの作り方の平衡はアデアの式と一致したが、半分結合の濃度での固有値の比はちょうど $\sqrt c$ で、c = 10000 の遅い相の時間は $2549.028945$ と $25.490289$ だった。空から 90 パーセントまでの時間も $5820.335303$ と $58.698322$ で、同じ向きに違った。分離子は、助け合いを外れる速さに持たせるか、付く速さに持たせるかである。既刊との位置:論文878 が平衡の曲線で数えた協同の度合いに、論文878 と論文936 が扱わなかった結合の速さを入れた。正直に言えば、形の変化は入れていない。結合と解離の速さだけで、同じ曲線を生む二つの作り方がどれだけ違う速さで落ち着くか、そこまでである。
参考文献
- Cornish-Bowden, A. (2012). Fundamentals of Enzyme Kinetics. Wiley-Blackwell.
- Hill, A. V. (1910). The Possible Effects of the Aggregation of the Molecules of Haemoglobin on Its Dissociation Curves. The Journal of Physiology.
- 山岸勇輝 (2026). 『効き始めから効き切るまでの濃度の幅を決めるのは、効く濃度ではなく協同の度合いである』[論文878]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/878
- 山岸勇輝 (2026). 『二つの形をとる分子の見かけの協同は、形の偏りと結合の強さの比が釣り合うところで山になる』[論文936]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/936
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ協同の結合でも、二つ目を外れにくくして作ると、付きやすくして作るより遅く落ち着く」[論文970]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/970
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/970・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ協同の結合でも、二つ目を外れにくくして作ると、付きやすくして作るより遅く落ち着く [論文970]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/970
Yamagishi, Y. (2026). The Same Cooperative Binding Settles Slower When the Second Ligand Is Made Harder to Lose Than When It Is Made Easier to Gain [Paper 970]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/970
@misc{yamagishi2026yoi970,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Same Cooperative Binding Settles Slower When the Second Ligand Is Made Harder to Lose Than When It Is Made Easier to Gain},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/970},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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