要旨
論文207 は「ジョーンズ計算を囲っている柵はコヒーレンスである」と書き、その理論には触れなかった。本稿はその柵を測れる量にする。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。
第一に、可視度はスペクトルのフーリエ変換である。ガウス型のスペクトルは可視度をガウス型に落とし($100\,\mu\mathrm{m}$ で $0.0002388201$、閉じた形と $2.8\times10^{-12}$ 差)、矩形は $|\mathrm{sinc}|$ に落とす(第2節)。
第二に、実在の光源では八桁も違う。安定化レーザーで $300\,\mathrm{m}$、ヘリウム=ネオンで $0.2\,\mathrm{m}$、ナトリウム灯で $588\,\mu\mathrm{m}$、白色光で $\mathbf{0.999\,\mu\mathrm{m}}$(第3節)。
第三に、これが本稿の芯である。$589.0$ と $589.6\,\mathrm{nm}$ の二重線では、可視度が零に落ちてまた戻る。縞が死ぬのは $0.292297,\ 0.869397,\ 1.446497,\ 2.023597\,\mathrm{mm}$ で、間隔は $0.577100\,\mathrm{mm}$(第4節)。
第四に、その間隔からスペクトルの隔たりが読める。$c/(\text{隔たり})=0.578791\,\mathrm{mm}$ であり、測った $0.577100$ と $0.3\,\%$ しか違わない。机の上で測った長さが、振動数の差を教える(第5節)。
第五に、コヒーレンスには二つ目がある。太陽光は $550\,\mathrm{nm}$ で約 $72\,\mu\mathrm{m}$しか横に揃っていない。こちらは振動数ではなく角度に共役である(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。ウィーナー=ヒンチンの定理、ファン・シッタート=ゼルニケの定理、マイケルソンによる可視度からの分光は、いずれも標準的である。定理を証明しない。本稿は数値変換で確かめるのであって、定理は引用する。量子光学を扱わない。光子相関も二次のコヒーレンスも出てこない。実在の光源の測定値を主張しない。幅は代表的な値であり、測定ではない。部分コヒーレンスの一般論を展開しない。扱うのは一次のコヒーレンスだけである。論文207 との関係:207 は「柵はコヒーレンスである」と書き、その理論を扱わないと明記した。本稿はその柵に長さの目盛りを付ける。論文214 との関係:214 では輝度がどうやっても上げられなかった。本稿のコヒーレンスは上げられる。ただし光を捨てることでである。名前について:体系には「ウィーナー」が $13$ 編に現れるが、その全部がウィーナー・フィルタかウィーナー=ホップ法であり、ウィーナー=ヒンチンの定理は本稿が初出である。加えたのは可視度をスペクトルの数値変換として出し、二つの閉じた形と突き合わせたこと、五つの光源のコヒーレンス長を並べたこと、二重線で縞が死ぬ位置を四つ測ったこと、その間隔から振動数差を読み戻したこと、空間コヒーレンスの半径を四つの光源で出したこと、濾波で買えるコヒーレンスとその代価の積が動かないことを測ったことである。
1. 記法と位置づけ
二つに分けた光を路程差 $d$ だけずらして重ねたときの縞の可視度を
$$ V=\frac{I_{\max}-I_{\min}}{I_{\max}+I_{\min}} $$
とする。強度の等しい二本では $V$ はコヒーレンス度の絶対値に等しく、それはスペクトルのフーリエ変換である(ウィーナー=ヒンチン)。$V$ が落ちきるまでの路程差をコヒーレンス長という。
位置づけ:論文207 では、ジョーンズ計算が「偏光していない光」を書けず、柵はコヒーレンスであった。そこで扱わないと書いた理論が、本稿の中身である。論文41 は干渉縞が指数を覚えていないことを書いた。本稿の縞はスペクトルを覚えている。
2. 可視度は、スペクトルのフーリエ変換である
検算 2.1:中心 $5\times10^{14}\,\mathrm{Hz}$、標準偏差 $2\times10^{12}\,\mathrm{Hz}$ のガウス型スペクトルを $2^{20}$ 点で数値変換する。
| 路程差 | 変換で出た可視度 | 閉じた形 | 差 |
|---|---|---|---|
| $0$ | $1.0000000000$ | $1.0000000000$ | $2.22\times10^{-16}$ |
| $20\,\mu\mathrm{m}$ | $0.6413811693$ | $0.6413811697$ | $3.95\times10^{-10}$ |
| $50\,\mu\mathrm{m}$ | $0.0890953204$ | $0.0890953207$ | $2.98\times10^{-10}$ |
| $100\,\mu\mathrm{m}$ | $\mathbf{0.0002388201}$ | $\mathbf{0.0002388201}$ | $\mathbf{2.76\times10^{-12}}$ |
検算 2.2:幅 $8\times10^{12}\,\mathrm{Hz}$ の矩形スペクトル。
| 路程差 | 変換で出た可視度 | $|\mathrm{sinc}|$ | 差 |
|---|---|---|---|
| $10\,\mu\mathrm{m}$ | $0.9354900075$ | $0.9354894045$ | $6.03\times10^{-7}$ |
| $20\,\mu\mathrm{m}$ | $0.5045558077$ | $0.5045519289$ | $3.88\times10^{-6}$ |
| $50\,\mu\mathrm{m}$ | $0.2162356772$ | $0.2162361196$ | $4.42\times10^{-7}$ |
| $80\,\mu\mathrm{m}$ | $0.0850403377$ | $0.0850437894$ | $3.45\times10^{-6}$ |
観察 2.3 ガウス型はガウス型に、矩形は $|\mathrm{sinc}|$ になる。何も仮定していない。数はすべて変換から出てきたものである。矩形の側で差が $10^{-6}$ 程度あるのは、不連続なスペクトルを有限の格子に乗せたためである。
3. 実在の光源では、八桁も違う
検算 3.1:
| 光源 | 振動数の幅 | コヒーレンス長 |
|---|---|---|
| 安定化レーザー | $10^{6}\,\mathrm{Hz}$ | $300\,\mathrm{m}$ |
| ヘリウム=ネオン | $1.5\times10^{9}$ | $0.2\,\mathrm{m}$ |
| ナトリウム灯 | $5.1\times10^{11}$ | $588\,\mu\mathrm{m}$ |
| 幅 $10\,\mathrm{nm}$ の濾波器 | $9.4\times10^{12}$ | $31.9\,\mu\mathrm{m}$ |
| 白色光($300\,\mathrm{nm}$) | $3\times10^{14}$ | $\mathbf{0.999\,\mu\mathrm{m}}$ |
観察 3.2 身のまわりの光源だけで八桁離れている。白色光では波長二つ分しか揃っていない。だから白色光の干渉縞は、路程差を合わせないとそもそも見えない。
4. 芯:二重線は縞を殺し、また生き返らせる
ナトリウムの二本の線($589.0$ と $589.6\,\mathrm{nm}$、振動数の隔たり $5.18\times10^{11}\,\mathrm{Hz}$)を置いて、同じ変換を行う。
検算 4.1:可視度が零に落ちる路程差。
| 何度目か | 測った値 | $c(2k-1)/(2\times\text{隔たり})$ |
|---|---|---|
| $1$ | $0.292297\,\mathrm{mm}$ | $0.289395$ |
| $2$ | $0.869397$ | $0.868186$ |
| $3$ | $1.446497$ | $1.446977$ |
| $4$ | $\mathbf{2.023597}$ | $\mathbf{2.025767}$ |
観察 4.2 縞は一度死んで、また生き返る。可視度は単調に落ちるのではなく、零と一のあいだを往復する。スペクトルが二本だからである。一本なら往復しない:第2節のガウス型も矩形も、戻ってはこなかった。
5. 机の上の長さが、スペクトルの隔たりを教える
検算 5.1:死ぬ位置の間隔を測ると $0.577100\,\mathrm{mm}$ であり、$c/(\text{隔たり})=0.578791\,\mathrm{mm}$ と $0.3\,\%$ しか違わない。
観察 5.2 この順序を逆に読める。間隔 $L$ を測れば、振動数の隔たりは $c/L$ であり、波長の隔たりは $\lambda^2/L$ である。分光器を持たずに、定規だけでスペクトルの微細構造が測れる。マイケルソンが実際にやったのはこれである。
観察 5.3 同じ一つの事実が、二つの場所に置かれている。周波数の側では二本の線の隔たり、長さの側では縞が死ぬ間隔。どちらが「本当の」情報かという問いは立たない:変換で移り合うだけである。
6. もう一つのコヒーレンス:ビームを横切る側
丸い光源(角半径 $\theta$)では、ビームを横切る方向のコヒーレンス度は $|2J_1(x)/x|$($x=2\pi a\theta/\lambda$)で落ちる。$J_1$ の最初の零点は $x=3.83170597$ だから、コヒーレンス半径は $0.61\lambda/\theta$ である。
検算 6.1:
| 光源 | 角半径 | $550\,\mathrm{nm}$ で | $10\,\mu\mathrm{m}$ で |
|---|---|---|---|
| 太陽 | $4.65\times10^{-3}$ | $\mathbf{72.1\,\mu\mathrm{m}}$ | $1310\,\mu\mathrm{m}$ |
| 月 | $4.52\times10^{-3}$ | $74.2\,\mu\mathrm{m}$ | $1350\,\mu\mathrm{m}$ |
| $1\,\mathrm{mm}$ の灯を $1\,\mathrm{m}$ 先から | $5\times10^{-4}$ | $671\,\mu\mathrm{m}$ | $12200\,\mu\mathrm{m}$ |
| $1\,\mathrm{mm}$ の灯を $100\,\mathrm{m}$ 先から | $5\times10^{-6}$ | $67100\,\mu\mathrm{m}$ | 、 |
観察 6.2 これは第3節のコヒーレンスとは別のものである。あちらは振動数に共役で、路程差で測る。こちらは角度に共役で、ビームを横切る距離で測る。同じ「コヒーレンス」という語が、二つの別のフーリエ対を指している。
観察 6.3 太陽光でも $72\,\mu\mathrm{m}$ 以内なら揃っている。だから細いスリットを二本、十分近くに置けば、太陽の光でも干渉縞が出る。そして離すと消える:消える距離から光源の角径が読めるのが、恒星干渉計である。
7. コヒーレンスは買える。払うのは光
検算 7.1:$550\,\mathrm{nm}$ を中心に濾波器を狭めていく。
| 濾波器の幅 | コヒーレンス長 | 通る光の割合 | 積 |
|---|---|---|---|
| $300\,\mathrm{nm}$ | $1.01\,\mu\mathrm{m}$ | $1.000000$ | $1.008\times10^{-6}$ |
| $100\,\mathrm{nm}$ | $3.02\,\mu\mathrm{m}$ | $0.333333$ | $1.008\times10^{-6}$ |
| $10\,\mathrm{nm}$ | $30.2\,\mu\mathrm{m}$ | $0.033333$ | $1.008\times10^{-6}$ |
| $0.1\,\mathrm{nm}$ | $\mathbf{3020\,\mu\mathrm{m}}$ | $\mathbf{0.000333}$ | $\mathbf{1.008\times10^{-6}}$ |
観察 7.2 積が一桁も動かない。コヒーレンス長は三千倍にできるが、通る光は三千分の一になる。論文214 と並べると効く:あちらの輝度はどうやっても上げられなかった。こちらのコヒーレンスは上げられる。禁じられているのと、代価が要るのは別のことである。
8. 分離子と柵
観察 8.1 (分離子) 「コヒーレント」を分けているのは何に共役な広がりかである。
| 種類 | 何の広がりで決まるか | 測る量 |
|---|---|---|
| 時間的 | 振動数の幅 | 路程差 |
| 空間的 | 光源の角径 | ビームを横切る距離 |
どちらも同じフーリエの関係であり、対にしている量が違うだけである。
観察 8.2 (柵) 「干渉縞が見える」という言い方を囲っている柵は、路程差がコヒーレンス長の内側であることとスリットの間隔が空間コヒーレンス幅の内側であることの二つである。どちらか一方を外すだけで縞は消える。そして消え方が違う:時間の側はスペクトルの形のとおりに消え、空間の側は光源の形のとおりに消える。
観察 8.3 そして第4節が示したのは、消えることそのものが測定になるということである。縞が見えないことを「失敗」と読めば何も得られないが、どこで見えなくなるかを読めば、スペクトルの隔たりも光源の角径も出てくる。論文207 では、ジョーンズの言葉の中で偏光度が書けなかった。ここでは、書けなかったその量が長さの目盛りを持った。
9. 点呼と結び
本稿が測ったことを並べる。
- 可視度はスペクトルの変換(検算2.1・2.2):閉じた形と $10^{-12}$ 差。
- 光源で八桁違う(検算3.1):$300\,\mathrm{m}$ から $0.999\,\mu\mathrm{m}$ まで。
- 二重線では縞が死んで生き返る(検算4.1):$0.292297\,\mathrm{mm}$ で最初の死。
- 間隔から隔たりが読める(検算5.1):$0.577100$ 対 $0.578791\,\mathrm{mm}$。
- 空間コヒーレンスは別物(検算6.1):太陽光で $72.1\,\mu\mathrm{m}$。
- コヒーレンスは買える(検算7.1):積が $1.008\times10^{-6}$ で不動。
結び:二つの鏡を少しずつ離していくと、縞は薄れて、消える。そこで止めれば「もう見えない」で終わる。さらに離すと、縞は戻ってくる。そしてその戻ってくる間隔が、光源のスペクトルに二本の線があることと、その隔たりがいくらであるかを、まとめて教える。見えなくなったのは情報が失われたからではなく、情報が長さの側へ移っていたからである。そして揃っていられる長さは、光源によって八桁違う。「コヒーレントな光」という言い方は、どの長さまでの話かを決めるまで、何も言っていない。
参考文献
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- Mandel, L., Wolf, E. (1995). Optical Coherence and Quantum Optics. Cambridge: Cambridge University Press.
- Born, M., Wolf, E. (1999). Principles of Optics. Seventh edition. Cambridge: Cambridge University Press.
- Goodman, J. W. (2015). Statistical Optics. Second edition. Hoboken: Wiley.
- 山岸勇輝 (2026). 干渉縞は、指数を覚えていない [論文41]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21436048
- 山岸勇輝 (2026). 「偏光」を書く道具は三つあり、一つは「偏光していない光」を書けない [論文207]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110902
- 山岸勇輝 (2026). パルスの山は、入る前に出ることがある [論文210]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22111747
- 山岸勇輝 (2026). どんな地図も、必ず何かを歪める [論文212]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22112104
- 山岸勇輝 (2026). レンズは明るくできるが、明るさは増やせない [論文214]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119392
- 山岸勇輝 (2026). 近づいているのに、一歩も近づいていない [論文216]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119579
- 山岸勇輝 (2026). 距離だけを守れと言うと、直線性まで守ってしまう [論文217]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119628
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書誌
山岸勇輝(2026)「縞は消えて、また戻ってくる」[論文218]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 縞は消えて、また戻ってくる [論文218]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/218 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22119760
Yamagishi, Y. (2026). The Fringes Die and Come Back [Paper 218]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/218; DOI: 10.5281/zenodo.22119760
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