要旨
SI には基本単位が七つある。「基本」という語は、それ以上分解できないことを意味するように聞こえる。本稿が問うのは、七という数はどこから来たかである。答は、約束からである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、単位系によって基本次元の数が変わる。SI で $7$、ガウス単位系で $3$、プランク単位系で $\mathbf{0}$ である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。同じ物理が、$7$ から $0$ まで基本次元の数を変える。変わったのは書き方だけである(第2節)。
第三に、$7$ つのうち二つは論理的に独立でない。モルは数であり、カンデラはワットに $683$ を掛けたものである(第3節)。
第四に、一つだけ人間の生理から来ている。$683$ lm/W は波長 $555$ nmでの値で、人間の目の感度が最大の点である(第3節)。
第五に、$4\pi$ の居場所も約束で動く。クーロンの法則で、$4\pi$ は SI に出て、ガウスで消え、ヘヴィサイドで場の式から消える(第4節)。
第六に、分離子は「測定の順序か、論理的独立性か」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。SI の七つの基本単位、ガウス単位系、自然単位系、プランク単位系、$2019$ 年の定義改定は、いずれも標準的である。計量学を作らない。使うのは次元の数え上げと、一つの波長だけである。単位系の優劣を論じない。どれが正しいかも、どれを使うべきかも扱わない。数え方が変わることだけを示す。次元解析を作らない。バッキンガムの $\Pi$ 定理には立ち入らない。それは論文117 の側である。SI を批判しない。七つという選択は実務的に合理的である。論理的独立性が唯一の基準ではない。カンデラを不要だと言わない。測光は放射測定と別の実務であり、$683$ を規約として固定する意味はある。本稿が言うのは、その数の出どころが他の六つと違うということだけである。プランク単位系を推奨しない。基本次元が $0$ であることは長所でも短所でもない。数えられることを示すために置いた。既刊との関係:論文95 は規約と事実を分け、$c$ の定義値を扱った。本稿はその規約が七つあり、個数自体も規約だと数える。論文295 は炭素 $12$ のモル質量がもう $12$ ちょうどではないと示した。本稿はそのモルが、そもそも次元を持つ必要があるかを問う。論文116 は $c$ の冪が何を数えているかを扱い、$4\pi$ の非一意性に触れた。本稿の第4節はその非一意性を単位系の側から見る。論文02・258・290 は $4\pi$ の出どころを扱った。本稿は$4\pi$ が単位系によって居場所を変えることを並べる。加えたのは基本次元の数を五つの単位系で $7,3,3,1,0$ と数えたこと、$7$ つのうち二つが論理的に独立でないと示したこと、$683$ が人間の生理から来る唯一の数だと指摘したこと、$4\pi$ の居場所が三通りに動くと並べたことである。
1. 記法と問い
事実:SI には七つの基本単位がある。メートル、キログラム、秒、アンペア、ケルビン、モル、カンデラ。
問い:七という数は、どこから来たか。自然が七を要求しているのか。
観察 1.1 「基本」という語は、それ以上分解できないことを意味するように聞こえる。本稿はそれを正確でないと見る。分解できないのではなく、分解しないと決めたのである。
2. 芯:同じ物理が、$7$ から $0$ まで変わる
検算 2.1:
| 単位系 | 基本次元の数 | 基本量 |
|---|---|---|
| SI | $\mathbf{7}$ | m, kg, s, A, K, mol, cd |
| ガウス単位系(CGS) | $\mathbf{3}$ | cm, g, s |
| ヘヴィサイド=ローレンツ | $3$ | cm, g, s |
| 自然単位系($\hbar=c=1$) | $\mathbf{1}$ | エネルギーのみ |
| プランク単位系 | $\mathbf{0}$ | すべて無次元 |
観察 2.2 これが本稿の芯である。同じ物理が、$\mathbf{7}$ から $\mathbf{0}$ まで基本次元の数を変える。変わったのは書き方だけであり、現象は何も変わらない。
検算 2.3:減らす階段を書く。
| 何をするか | 残る基本次元 |
|---|---|
| SI(そのまま) | $7$ |
| mol と cd を外す | $5$ |
| A を力学量に還元する(ガウス) | $3$ |
| $\hbar=c=1$ と置く | $1$ |
| さらに $G=1$ と置く(プランク) | $\mathbf{0}$ |
観察 2.4 各段で何かを規約として固定している。$c=1$ と置くことは長さと時間を同じ次元にするという約束である。自然が要求したのではなく、こちらが決めた。
検算 2.5:プランク単位系の中身を数で見る。
| 量 | 値 |
|---|---|
| プランク長 | $1.616255\times10^{-35}$ m |
| プランク時間 | $5.391246\times10^{-44}$ s |
| プランク質量 | $2.176434\times10^{-8}$ kg |
| プランク温度 | $1.416784\times10^{32}$ K |
観察 2.6 これらを $1$ と置けば、基本次元は $0$ 個になる。すべての量がただの数になる。そして物理は何も変わらない。
3. $7$ つのうち二つは、論理的に独立でない
観察 3.1 モルは数である。$N_A=6.02214076\times10^{23}$ は個数であり、$2019$ 年以降はちょうどこの値と定義されている(論文295)、個数に次元を与えるかどうかは、約束である。
観察 3.2 カンデラはワットに定数を掛けたものである。光度 $[\mathrm{cd}]=683\times$ 放射強度 $[\mathrm{W/sr}]\times V(\lambda)$、新しい次元を導入していない。
検算 3.3:$2019$ 年以降、七つとも定数で定義されている。
| 単位 | 固定した定数 | 値 | 出どころ |
|---|---|---|---|
| 秒 | Cs-133 の超微細遷移 | $9192631770$ Hz | 物理 |
| メートル | $c$ | $299792458$ m/s | 物理 |
| キログラム | $h$ | $6.62607015\times10^{-34}$ J s | 物理 |
| アンペア | $e$ | $1.602176634\times10^{-19}$ C | 物理 |
| ケルビン | $k$ | $1.380649\times10^{-23}$ J/K | 物理 |
| モル | $N_A$ | $6.02214076\times10^{23}$ /mol | 物理 |
| カンデラ | $K_{cd}$ | $\mathbf{683}$ lm/W | 人間の生理 |
観察 3.4 右端の列で、最下段だけが違う。$683$ lm/W は波長 $\mathbf{555}$ nmでの発光効率であり、$555$ nm は人間の明所視感度が最大になる波長である。七つのうち一つだけが、人間から来ている。
観察 3.5 $683$ という値も歴史から来た。旧定義(白金の凝固点における黒体の $1/60\ \mathrm{cm^2}$)との連続性を保つために選ばれた。物理的な必然はどこにも無い。
観察 3.6 したがって「基本単位」は論理的独立性で選ばれていない。選ばれた基準は測定の実務である。どれを直接測り、どれを組み立てるかという順序。
観察 3.7 正直に書くべき点、これは SI の欠陥ではない。測光は放射測定と別の実務であり、$683$ を規約として固定する意味はある。本稿が言うのは、その数の身分が他の六つと違うということだけである。
4. $4\pi$ の居場所も、約束で動く
設定:クーロンの法則を三つの単位系で書く。
検算 4.1:
| 単位系 | クーロンの法則 | $4\pi$ は |
|---|---|---|
| SI | $F=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{q_1q_2}{r^2}$ | 力の式に出る |
| ガウス | $F=\dfrac{q_1q_2}{r^2}$ | 消える |
| ヘヴィサイド=ローレンツ | $F=\dfrac{q_1q_2}{4\pi r^2}$ | 場の式から消える |
観察 4.2 同じ物理で、$4\pi$ の居場所が三通りある。ガウス単位系では力の式から消え、ヘヴィサイド単位系ではガウスの法則の側へ移る。消えたのではなく、移った。
観察 4.3 論文02 は逆二乗場に純粋立体角 $4\pi$ が現れることを示し、論文258 はそれが源が点のときだけだと書いた。論文290 では $4\pi$ が二度立って約分された。本稿はさらに単位系を変えると居場所が動くことを並べる。
観察 4.4 したがって $4\pi$ には二つの身分がある。
| 出どころ | 単位系で動くか | |
|---|---|---|
| 幾何の $4\pi$ | 球面の立体角 | 動かない |
| 規約の $4\pi$ | 単位系の取り方 | 動く |
観察 4.5 見分け方は簡単である。単位系を変えて消えるなら規約、残るなら幾何。論文31 の判定基準(変数を動かす)と同じ形である。ここで動かす変数が、単位系である。
5. 分離子:測定の順序か、論理的独立性か
観察 5.1 分離子、何を動かすと、基本次元の数が変わるか。何を規約として固定するかである。
| 「基本」の意味 | 何を数えるか | SI での答 |
|---|---|---|
| 測定の順序 | 直接測る量の個数 | $\mathbf{7}$ |
| 論理的独立性 | 還元できない次元の個数 | $\mathbf{5}$ 以下 |
| 規約を最大化 | 固定できる定数を全部固定 | $\mathbf{0}$ |
観察 5.2 三行が三つとも正しい。「基本単位はいくつか」という問いに、$7$ とも $5$ とも $0$ とも答えられる。どの意味で問うたかを言わねば、答が決まらない。
観察 5.3 論文95 は規約と事実を分けた。本稿が加えるのは規約の個数もまた規約であるという一段、足場の高さを決めるのも、足場である。
観察 5.4 論文295 は $2019$ 年の改定で等号が定義から経験則へ移ったことを示した。本稿はその改定の別の側面を見る。七つとも数で定義されたことで、「基本」の意味が測定の順序へ純化した。
観察 5.5 $2019$ 年より前は、キログラムが物体(国際キログラム原器)だった。いまは七つとも数である。「基本単位」の一覧に、物はもう一つも無い。
観察 5.6 正直に書くべき点、本稿は $7$ を減らすべきだとは言わない。実務では測る順序が意味を持つ、言えるのは、その $7$ が自然の要求ではないということだけである。
6. 点呼と結び
- SI で $7$、ガウスで $3$(検算2.1):プランクで $0$。
- 減らす階段は $7,5,3,1,0$(検算2.3):各段で何かを固定する。
- プランク長 $1.616255\times10^{-35}$ m(検算2.5):$1$ と置けば無次元。
- モルは数である(観察3.1):次元を与えるかは約束。
- カンデラはワット $\times683$(観察3.2):新しい次元でない。
- $683$ は $555$ nm での値(観察3.4):人間の目の感度の最大点。
- $683$ は歴史から来た(観察3.5):旧定義との連続性。
- $4\pi$ の居場所は三通り(検算4.1):消えたのではなく移った。
- 単位系で消えるなら規約(観察4.5):論文31 と同じ判定。
- $7$ とも $5$ とも $0$ とも答えられる(観察5.2):どの意味かによる。
結び:SI に基本単位が七つあるのは、自然が七を要求しているからではない。同じ物理を、ガウス単位系なら $\mathbf{3}$、自然単位系なら $\mathbf{1}$、プランク単位系なら $\mathbf{0}$ 個の基本次元で書ける。変わったのは書き方だけであり、現象は何も変わらない。しかも七つのうち二つは論理的に独立でない。モルは数であり、カンデラはワットに $\mathbf{683}$ を掛けたものである。そして一つだけが人間から来ている。$683$ lm/W は波長 $\mathbf{555}$ nmでの値であり、人間の明所視感度が最大になる波長である。他の六つ(Cs、$c$、$h$、$e$、$k$、$N_A$)は物理定数だが、これだけが生理から来ている。$4\pi$ の居場所も同じように動く。SI では力の式に出て、ガウスでは消え、ヘヴィサイドでは場の式へ移る。消えたのではなく、移ったのである。分けるものは一つ、「基本」を測定の順序と読むか、論理的独立性と読むか。前者なら $\mathbf{7}$、後者なら $\mathbf{5}$ 以下、規約を最大化すれば $\mathbf{0}$ である。三つとも正しく、どの意味で問うたかを言わねば答が決まらない。
参考文献
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- Jackson, J. D. (1998). Classical Electrodynamics. New York: Wiley.
- Duff, M. J., Okun, L. B. and Veneziano, G. (2002). Trialogue on the Number of Fundamental Constants. Journal of High Energy Physics, 2002(03).
- Commission Internationale de l’Eclairage (1926). Proceedings of the 6th Session. Geneva: CIE.
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- 山岸勇輝 (2026). 規約と事実を分ける。ポアンカレの規約主義と、体系の「足場」($c$ の定義値・単位の約束) [論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
- 山岸勇輝 (2026). $c$ の冪は、何を数えているか、プランク還元の指数公式、$\varepsilon$=質量次元、$4\pi$ の非一意性、そして分母に座っていた $n=d-1$ [論文116]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22003794
- 山岸勇輝 (2026). $4\pi$ が出るのは、源が点のときだけである [論文258]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169011
- 山岸勇輝 (2026). 炭素 $12$ のモル質量は、もう $12$ ちょうどではない [論文295]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171659
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書誌
山岸勇輝(2026)「「基本」単位の個数は、約束である」[論文306]. Zenodo.
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山岸勇輝 (2026). 「基本」単位の個数は、約束である [論文306]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/306 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22172149
Yamagishi, Y. (2026). How Many “Base” Units There Are Is a Promise [Paper 306]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/306; DOI: 10.5281/zenodo.22172149
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