【M006】一度聞いた「5 年生存率」は、生きた年数とともに書き換わる

要旨

本稿が問うのは、がんの「5 年生存率」が、診断から何年か過ごした人にとって同じ意味を持つか、である。答えは、持たない、である。診断から 1 年、2 年…と過ごした人の「その先の 5 年」の生存率は、進んだ病期ほど大きく上がり、病期のあいだの差は縮む。そしてその形は、一人ひとりの体が変わったことでも、早く亡くなる人が集団から抜けたことでも作れるので、集計の数からはどちらかを決められない。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、ふつうに言う「5 年生存率」は、診断した日から 5 年の生存率である。院内がん登録の 2012 年診断例の集計は、同じ人たちについて、診断から t 年(t=0〜5)生きた人の「その先の 5 年」の実測生存率(サバイバー生存率)を、10 部位 × 病期Ⅰ〜Ⅳについて示している。本稿はその 40 本をすべて使う(第3・4節)。

第二に、これが本稿の芯である。Ⅳ期では 10 部位すべてで、5 年生きた人の次の 5 年(t=5)が、診断時の 5 年生存率(t=0)を上回る。差の中央値は +42.2 点である。 膵臓がんではⅠ期 44.0 % → 68.7 %、Ⅱ期 18.3 % → 59.0 %、Ⅲ期 4.7 % → 50.1 %、Ⅳ期 1.3 % → 42.5 %、胃がんⅣ期は 5.5 % → 61.2 % である(第5節)。

第三に、病期のあいだの幅(最も高い病期と最も低い病期の差)は、10 部位すべてで t=5 のほうが小さい。 幅の中央値は t=0 の 55.5 点から t=5 の 22.4 点になる(第5節)。

第四に、40 本のうち 8 本は t=5 のほうが低い(前立腺がんⅠ〜Ⅲ期 −6.6〜−7.1 点、胃がんⅠ期 −3.4 点、乳がんⅠ・Ⅱ期 −2.4・−1.8 点など)。8 本ともⅠ〜Ⅲ期である。この値は実測生存率なので、がん以外の死亡も含む(第6節)。

第五に、上がる形は二つの別の仕組みの模型のどちらでも作れる。誰の危険も時間で変わらない「二群」の模型(危険の高い群が先に抜けていくだけ)は、上がる 32 本に中央値 0.63 点の外れで当てはまり、全員の危険が時間とともに下がる「一群」の模型も中央値 1.38 点で当てはまる。どちらの模型も誰の危険も上がらない形なので、下がる 8 本は作れない(第7節)。

第六に、数には幅がある。Ⅳ期の膵臓がんで 5 年時点に生きていた人は、集計対象 6,242 人の 1.3 % で、概算で 81 人である。t=5 の値の目安の標準誤差は 5.5 点になる(本稿の概算)。図の t=5 の値を、別の表の 10 年生存率 ÷ t=0 の値と突き合わせると、40 本中 29 本が丸めの範囲に入り、外れた 11 本のはみ出しは最大 2.0 点(肝内胆管がんⅠ期)、それ以外は 0.3 点以内だった(第3節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。診断から生きた年数ごとの生存率(条件付き生存率・サバイバー生存率)は既知の考え方で、本稿の数はすべて院内がん登録の報告書にある。危険の違う人たちが混ざった集団では、危険の高い人が先に抜けるため、集団の危険は時間とともに下がって見えることも、信頼性の研究(Proschan 1963)と人口の研究(Vaupel ら 1979)で知られている。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の見通しではない。生存率は、ある時期に診断された人たちの集計であり、読む人一人ひとりのこれからを告げる数ではない(M003 が平均余命について示したのと同じ)。いまの治療の数ではない。2012 年に診断された人たちの数で、その後の治療の変化は入っていない。施設・地域・治療を比べない。がん診療連携拠点病院等の院内がん登録の集計であり、地域の住民全体の集計ではない。報告書自身が、施設の生存率を単純に比べて治療の善し悪しを論じることはできないと注意している。原因を述べない。上がる形がどの仕組みから来ているかは決めない(第7節がその理由)。データについて:報告書の数は改変せずに載せ、本稿の計算(差・幅・人数の概算・標準誤差の目安・模型)はそれと分けて示す。特別集計の 10 部位 × 4 病期 × 6 時点をすべて使う。出典:国立がん研究センターがん情報サービス。加えたのは、40 本すべてで t=0 と t=5 を並べ、Ⅳ期の 10 部位すべてで上がり、病期の幅が 10 部位すべてで縮むことを示したこと、下がる 8 本がすべてⅠ〜Ⅲ期であることと、それが「誰の危険も上がらない」模型では作れないことを示したこと、上がる形が二つの別の仕組みのどちらでも作れることを当てはめで示し、集計の数では分けられないと言い切ったこと、図の値を別の表と突き合わせ、外れの大きさまで書いたことである。

1. 記法と、この数字の読み方

  • 5 年生存率(t=0):診断した日から 5 年後に生きていた人の割合。
  • サバイバー生存率(t 年から先の 5 年):診断から t 年たった時点で生きていた人のうち、さらに 5 年後に生きていた人の割合。t=5 は「診断から 5 年生きた人の、次の 5 年」である。
  • 実測生存率:どんな原因の死亡も含めた生存率(がん以外の死亡も含む)。本稿の数はすべて実測生存率である。
  • 病期(Ⅰ〜Ⅳ期):診断時の広がり(UICC TNM 分類の総合ステージ)。数字が大きいほど進んでいる。

問い:一度聞いた「5 年生存率」は、診断から何年か過ごした人にとっても同じ数か。

観察 1.1:5 年生存率は「診断したばかりの人たち」の数である。1 年後、2 年後に同じ数を読むと、もうそこにいない人たちを含めた数を読むことになる。同じ「5 年生存率」という言葉が、診断からの年数によって別の集団を指している。

この数字を読むときに:ここに並ぶのは、2012 年に診断された人たちの集計である。読む人一人ひとりのこれからを告げる数ではない。治療や見通しについては、医師・医療機関に相談してほしい。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、報告書の図の値を見たあとに決めた。予測を測る前に書いたとは言わない。

中身
データ 院内がん登録 2012 年 10 年生存率集計 報告書(2025 年 2 月第 1 刷)の特別集計「サバイバー生存率」(10 部位 × 病期Ⅰ〜Ⅳ × t=0〜5 年)と、各部位の「属性別 10 年生存率」表・対象者の表
取り出し 報告書の PDF の文字(図の数値ラベル)を読み、該当の 5 頁を画像にして 40 本すべての並びを目で確かめた
比べ方 t=0 と t=5 の差(点)、部位ごとの病期のあいだの幅
分離子 二つの模型(二群・一群)をそれぞれ 40 本に当てはめる

3. データと、その確かめ

計算 3.1 報告書の PDF・取り出した JSON・取り出しの道具を SHA-256 で固定した。検算は取り出した JSON だけから計算する。

確かめたこと 結果
図の本数 10 部位 × 4 病期 = 40 本、各 6 時点
報告書の本文の例(大腸がんⅢ期 68.0 → 68.7 → 70.9) 取り出した値と一致
5 年時点の人数の概算(集計対象 × t=0 の値) 40 本すべてで 20 人以上(最小 23 人・肝内胆管がんⅢ期)

計算 3.2 独立な突き合わせ:t=5 の値(診断から 5 年生きた人の次の 5 年)は、10 年実測生存率 ÷ t=0 の値と同じになるはずである。10 年実測生存率は、図とは別の表(属性別 10 年生存率)から取った。

結果
小数第 1 位の丸めを入れた範囲に入る本数 29/40
範囲の外の 11 本のはみ出しの最大 2.0 点(肝内胆管がんⅠ期)
肝内胆管がんを除いたはみ出しの最大 0.3 点
取り違えの見本:t=5 の代わりに t=4 の値で同じ突き合わせをしたとき、範囲に入る本数 7/40

観察 3.3:最初は「40 本すべてが丸めの範囲に入る」と検査したが、これは落ちた。外れた 11 本のはみ出しは、肝内胆管がんで 1.9〜2.2 点の差(最大 2.0 点のはみ出し)、それ以外は 0.3 点以内である。図と表の計算の細部(打ち切りの扱い、対象の範囲など)が同じとは限らないが、本稿は原因を確かめていない。取り違えならもっと大きく外れる(t=4 の値では 7 本しか入らない)ので、取り出しの並びは正しいと判断した。本稿は図の値をそのまま使う。

4. 実測、40 本の、診断時と 5 年後

計算 4.1 診断時の 5 年生存率(t=0)と、5 年生きた人の次の 5 年(t=5)(%・報告書の値)。差・5 年時点の人数の概算・標準誤差の目安は本稿の計算。

部位 病期 t=0 t=5 差(点) 集計対象 5 年時点の人数の概算 標準誤差の目安(点)
胃がん Ⅰ期 82.1 78.7 -3.4 34,744 28525 0.2
胃がん Ⅱ期 59.6 73.9 +14.3 5,255 3132 0.8
胃がん Ⅲ期 36.5 69.1 +32.6 5,953 2173 1.0
胃がん Ⅳ期 5.5 61.2 +55.7 9,312 512 2.2
大腸がん Ⅰ期 82.4 80.6 -1.8 12,816 10560 0.4
大腸がん Ⅱ期 75.7 76.6 +0.9 13,264 10041 0.4
大腸がん Ⅲ期 68.0 77.3 +9.3 12,559 8540 0.5
大腸がん Ⅳ期 17.0 60.2 +43.2 9,701 1649 1.2
肝細胞がん Ⅰ期 55.7 55.4 -0.3 6,413 3572 0.8
肝細胞がん Ⅱ期 38.3 48.3 +10.0 4,423 1694 1.2
肝細胞がん Ⅲ期 13.2 44.4 +31.2 2,417 319 2.8
肝細胞がん Ⅳ期 3.5 46.9 +43.4 1,078 38 8.1
肝内胆管がん Ⅰ期 46.1 64.9 +18.8 241 111 4.5
肝内胆管がん Ⅱ期 28.2 66.8 +38.6 376 106 4.6
肝内胆管がん Ⅲ期 19.8 65.2 +45.4 116 23 9.9
肝内胆管がん Ⅳ期 5.1 54.8 +49.7 1,120 57 6.6
小細胞肺がん Ⅰ期 40.3 50.7 +10.4 293 118 4.6
小細胞肺がん Ⅱ期 21.4 62.7 +41.3 279 60 6.3
小細胞肺がん Ⅲ期 15.6 61.8 +46.2 1,260 197 3.5
小細胞肺がん Ⅳ期 1.9 38.3 +36.4 2,508 48 7.0
非小細胞肺がん Ⅰ期 73.0 75.5 +2.5 17,461 12747 0.4
非小細胞肺がん Ⅱ期 44.9 61.0 +16.1 4,031 1810 1.1
非小細胞肺がん Ⅲ期 24.1 56.7 +32.6 7,685 1852 1.2
非小細胞肺がん Ⅳ期 6.4 39.8 +33.4 13,703 877 1.7
乳がん Ⅰ期 95.0 92.6 -2.4 15,215 14454 0.2
乳がん Ⅱ期 90.6 88.8 -1.8 12,310 11153 0.3
乳がん Ⅲ期 76.3 78.9 +2.6 3,988 3043 0.7
乳がん Ⅳ期 36.3 44.5 +8.2 1,916 696 1.9
食道がん Ⅰ期 69.2 71.8 +2.6 4,581 3170 0.8
食道がん Ⅱ期 44.2 66.6 +22.4 1,554 687 1.8
食道がん Ⅲ期 24.0 62.1 +38.1 3,677 882 1.6
食道がん Ⅳ期 8.0 59.1 +51.1 2,026 162 3.9
膵臓がん Ⅰ期 44.0 68.7 +24.7 825 363 2.4
膵臓がん Ⅱ期 18.3 59.0 +40.7 3,657 669 1.9
膵臓がん Ⅲ期 4.7 50.1 +45.4 2,034 96 5.1
膵臓がん Ⅳ期 1.3 42.5 +41.2 6,242 81 5.5
前立腺がん Ⅰ期 89.3 82.4 -6.9 12,890 11511 0.4
前立腺がん Ⅱ期 91.1 84.0 -7.1 9,706 8842 0.4
前立腺がん Ⅲ期 86.1 79.5 -6.6 4,889 4209 0.6
前立腺がん Ⅳ期 49.6 56.2 +6.6 4,721 2342 1.0

観察 4.2:「5 年時点の人数の概算」は、集計対象に t=0 の値を掛けただけの目安で、打ち切り(生死の分からなくなった人)を考えていない。「標準誤差の目安」は、その人数と t=5 の値から二項分布で出した近似である。人数の少ない系列(肝内胆管がんⅢ期の概算 23 人、肝細胞がんⅣ期の 38 人など)では、t=5 の値は数点から 10 点ほど揺れうる。

5. 芯、進んだ病期ほど「次の 5 年」は大きく上がり、病期の差は縮む

計算 5.1 病期ごとの、t=5 − t=0

病期 t=5 が t=0 より高い部位 差の中央値 最小 最大
Ⅰ期 5/10 +1.1 点 -6.9 +24.7
Ⅱ期 8/10 +15.2 点 -7.1 +41.3
Ⅲ期 9/10 +32.6 点 -6.6 +46.2
Ⅳ期 10/10 +42.2 点 +6.6 +55.7

観察 5.2:Ⅳ期は 10 部位すべてで、5 年生きた人の次の 5 年が、診断時の 5 年生存率を上回る。 上がり方は病期が進むほど大きい(差の中央値はⅠ期 +1.1 点、Ⅳ期 +42.2 点)。

計算 5.3 部位ごとの、病期のあいだの幅(最も高い病期 − 最も低い病期)

部位 t=0 の幅 t=5 の幅 t=5 ÷ t=0
胃がん 76.6 17.5 0.23
大腸がん 65.4 20.4 0.31
肝細胞がん 52.2 11.0 0.21
肝内胆管がん 41.0 12.0 0.29
小細胞肺がん 38.4 24.4 0.64
非小細胞肺がん 66.6 35.7 0.54
乳がん 58.7 48.1 0.82
食道がん 61.2 12.7 0.21
膵臓がん 42.7 26.2 0.61
前立腺がん 41.5 27.8 0.67

観察 5.4:病期のあいだの幅は、10 部位すべてで t=5 のほうが小さい。 幅の中央値は t=0 の 55.5 点から t=5 の 22.4 点になる。診断時には大きく離れていた病期どうしの「次の 5 年」が、5 年生きた人どうしでは近づく。乳がんだけは幅の縮みが小さい(0.82)。報告書は、乳がんではどの病期でもサバイバー 5 年生存率がほぼ横ばいで、長い治療と経過観察が必要なサブタイプがあることを反映していると推測している(報告書の推測であり、本稿は確かめていない)。

図1 診断から生きた年数と、その先の 5 年の生存率

図1:10 部位ごとに、病期Ⅰ(紺)・Ⅱ(金)・Ⅲ(灰)・Ⅳ(朱)の「その先の 5 年」の生存率を、診断からの年数(0〜5 年)に対して描いた。Ⅳ期の朱の線は、どの部位でも右上がりである。

図2 Ⅳ期:診断時の 5 年生存率と、5 年生きた人の次の 5 年

図2:Ⅳ期の 10 部位について、灰が診断時(t=0)、朱が 5 年生きた人(t=5)。

6. 下がる 8 本、実測生存率は、がん以外の死亡も含む

観察 6.1:t=5 が t=0 より低いのは 8 本で、胃がんⅠ期(-3.4)・大腸がんⅠ期(-1.8)・肝細胞がんⅠ期(-0.3)・乳がんⅠ期(-2.4)・乳がんⅡ期(-1.8)・前立腺がんⅠ期(-6.9)・前立腺がんⅡ期(-7.1)・前立腺がんⅢ期(-6.6)である。8 本ともⅠ〜Ⅲ期で、Ⅳ期には無い。

観察 6.2:本稿の数は実測生存率なので、がん以外の原因の死亡も含む。診断から 5 年たつと、その人たちは 5 歳年を取っている。年齢とともに上がる死亡の危険が含まれていれば、「次の 5 年」は下がりうる。ただし本稿は、下がった分ががん以外の死亡から来ていることを確かめていない(純生存率の条件付きの値は報告書に無い)。

観察 6.3:確かに言えるのは次のことである。第7節の二つの模型は、どちらも誰の危険も時間とともに上がらない形である。当てはめた 40 本の模型の「次の 5 年」は、どれも時間とともに下がらなかった(検算で確かめた)。下がる形を作るには、少なくとも一部の人の危険が時間とともに上がる仕組みが要る。

7. 分離子、一人ひとりの体の変化か、集団の入れ替わりか

「次の 5 年」が上がる形は、次の二つのどちらでも起きうる。

  • 模型A(集団の入れ替わり):危険の高い群と低い群が混ざっている。どちらの群の危険も時間で変わらない。 危険の高い群が先に亡くなって抜けていくので、残った集団の「次の 5 年」は上がる(Proschan 1963、Vaupel ら 1979 が示した形)。
  • 模型B(一人ひとりの危険が下がる):全員が同じで、一人ひとりの危険が時間とともに下がる。

計算 7.1 二つの模型を、40 本それぞれの 6 つの値に最小二乗で当てはめた(本稿の計算)。外れは RMS(点)。

模型A(二群) 模型B(一群・下がる)
上がる 32 本:外れの中央値・最大 0.63・1.88 1.38・4.71
下がる 8 本:外れの中央値・最大 1.25・2.43 1.25・2.43
40 本全体:外れの中央値・最大 0.76・2.43 1.35・4.71

計算 7.2 膵臓がんⅣ期(報告書の値 1.3・4.8・16.3・27.5・35.4・42.5)

t=0 1 2 3 4 5
報告書 1.3 4.8 16.3 27.5 35.4 42.5
模型A 2.1 6.0 14.9 27.4 37.0 41.4
模型B 3.4 7.9 15.0 24.2 34.6 45.2

模型A の当てはめでは、危険の高い群が 0.954、その群の 1 年あたりの死亡の強さが 1.348、低い群が 0.165 だった。模型B では、最初の死亡の強さが 1.283、それが下がる速さが 0.290 だった。

観察 7.3:誰の危険も変わらない模型A でも、上がる 32 本は中央値 0.63 点の外れで作れる。 全員の危険が下がる模型B でも、中央値 1.38 点で作れる。当てはまりの差は、本稿が選んだ模型の形にもよる。したがって、「次の 5 年」が上がったことだけから、一人ひとりの体がよくなったのか、早く亡くなる人が抜けて集団の顔ぶれが変わったのかは、決められない。

観察 7.4:下がる 8 本では、二つの模型はどちらも同じ外れ(中央値 1.25 点)になる。どちらの模型も誰の危険も上がらない形なので、危険が一定の形に行き着き、下がる形を作れないからである。

図3 膵臓がんⅣ期:二つの模型

図3:黒い点が報告書の値、紺の線が模型A(二群・誰の危険も変わらない)、金の破線が模型B(一群・一人の危険が下がる)。二つの線は違う仕組みなのに、どちらも点の近くを通る。

8. 限界

  1. 一人の見通しではない。 集計は 2012 年に診断された人たちのもので、読む人一人ひとりのこれからを告げない。
  2. いまの治療の数ではない。 2012 年以降の治療の変化は入っていない。
  3. 院内がん登録の集計である。 がん診療連携拠点病院等を受診した人の集計で、地域の住民全体の集計ではない。
  4. 実測生存率である。 がん以外の死亡も含む。純生存率の条件付きの値は報告書に無く、本稿は計算していない。
  5. 図の値は小数第 1 位で丸めてある。 別の表との突き合わせで 40 本中 11 本が丸めの範囲を外れた(はみ出しは最大 2.0 点)。原因は確かめていない。
  6. 人数の概算と標準誤差の目安は、本稿の近似である。 打ち切りを考えていない。報告書は条件付きの値の信頼区間を示していない。
  7. 模型は二つの形だけを試した。 ほかの形の模型なら当てはまりは変わりうる。本稿が言うのは「二つの別の仕組みのどちらでも作れる」までである。
  8. 施設・地域・治療を比べない。

結び

診断した日の 5 年生存率は、診断から何年か過ごした人にとっては、もう同じ数ではない。Ⅳ期では 10 部位すべてで、5 年生きた人の次の 5 年の生存率が、診断時の 5 年生存率を上回った(膵臓がん 1.3 % → 42.5 %、胃がん 5.5 % → 61.2 %)。病期のあいだの幅は 10 部位すべてで縮み、中央値は 55.5 点から 22.4 点になった。早い病期では 8 本がわずかに下がり、それは誰の危険も上がらない模型では作れない形だった。

分けるものは一つ、動いたのが一人ひとりの体か、集団の顔ぶれか、である。そして集計の数は、それを分けない。

誰の危険も変わらなくても、早く亡くなる人が抜けていけば「次の 5 年」は上がる。一人ひとりの危険が下がっても上がる。数が教えるのは、一度聞いた生存率を、そのまま何年も持ち歩かないほうがよいということまでである。

データと再現

データ 院内がん登録 2012 年 10 年生存率集計 報告書(2025 年 2 月第 1 刷発行・国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 がん登録センター)。出典:国立がん研究センターがん情報サービス(2026 年 9 月 25 日に取得)
利用条件 がん情報サービス「著作権について」(出典の明記・改変しない・意味を取り違える部分的な利用をしない)。報告書の数は改変せずに載せ、本稿の計算と分けた
範囲 特別集計「サバイバー生存率」10 部位 × 病期Ⅰ〜Ⅳ × 6 時点(すべて)、各部位の 10 年生存率・集計対象
検算 検算/M006.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M006_output.txt から取っている
生データ data/hosp_c_reg_surv_10_2012.pdf(取得した報告書)、取り出しの道具 data/extract_survivor.py、取り出した値 data/survivor_2012.json、data/SOURCES.md(利用条件の原文・SHA-256)、目で確かめた頁の画像 data/確認用/報告書_p68〜72.png
図 図/M006_zu1・図/M006_zu2・図/M006_zu3(png・svg・英語版)

参考文献

  • 国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 がん登録センター (2025). 院内がん登録 2012年 10年生存率集計 報告書. 出典:国立がん研究センターがん情報サービス(2026年9月25日に利用). https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/pdf/hosp_c_reg_surv_10_2012.pdf
  • Proschan, F. (1963). Theoretical Explanation of Observed Decreasing Failure Rate. Technometrics. 10.1080/00401706.1963.10490105
  • Vaupel, J. W., Manton, K. G., & Stallard, E. (1979). The Impact of Heterogeneity in Individual Frailty on the Dynamics of Mortality. Demography. 10.2307/2061224
  • 山岸勇輝 (2026). 平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない [M003]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963485

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「一度聞いた「5 年生存率」は、生きた年数とともに書き換わる」[M006]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22964113

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 一度聞いた「5 年生存率」は、生きた年数とともに書き換わる [M006]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M006 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22964113

Yamagishi, Y. (2026). The “5-Year Survival” You Once Heard Is Rewritten by the Years You Have Lived [M006]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M006; DOI: 10.5281/zenodo.22964113

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  author = {Yamagishi, Yuuki},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
6cf0d59b5bcd35a86a6ebdf38b49ace566e4bce5b6a8602a4eefab3407850881 yamagishi_M006_5_year_survival_you_once_heard_rewritten_20260926_jp.pdf
6ceb0f4b7011d30255551761b1553202d502657c0d08b518edfe109f893c88a9 yamagishi_M006_5_year_survival_you_once_heard_rewritten_20260926_en.pdf

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