【論文476】壊しているのは失われた鉄ではなく、置き換わって太った錆である

要旨

鉄筋が錆びると細くなって弱る、と思われている。本稿が示すのは、壊しているのは細くなることではなく、太ることである。$\mathbf{0.001000}$ mm の侵食で、かぶりがひび割れる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、侵食 $0.1$ mm で失われる鉄は $\mathbf{4.995132}$ mm$^2$(単位長さあたり)である(第2節)。

第二に、体積比 $4$ ならそれが $\mathbf{19.980529}$ mm$^2$ の錆になり、$\mathbf{14.985397}$ mm$^2$ 増える(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。かぶり $30$ mm をひび割れさせる侵食は $\mathbf{0.001000}$ mm しかない(第3節)。

第四に、体積比を $1$ にすると、膨張がちょうど $\mathbf{0.000000000000}$ mm になる(第2節)。

第五に、体積比 $2.0$ なら $0.003001$ mm、$6.4$ なら $\mathbf{0.000556}$ mm と、要る侵食が逆に動く(第3節)。

第六に、分離子は「断面が減ることか、体積が増えることか」である(第4節)。

キーワード:鉄筋の腐食、錆の体積膨張、コンクリートのひび割れ、かぶり、ピリング・ベドワース比。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。鉄の腐食生成物の体積膨張、かぶりコンクリートのひび割れはすべて既知である。構造を評価しない。耐力、余寿命、補修の要否は主題ではない。実際の判断は専門の調査による。腐食速度を扱わない。何年で $0.001$ mm 進むかは主題ではない。中性化、塩害、電気化学は扱わない。力学を単純化する。膨張をかぶり厚で割った量をひずみと置いた。実際は三次元の応力場で、円周方向の引張が効く。数値は代表値である。体積比 $2$ から $6.4$、引張破壊ひずみ $100$ マイクロひずみは代表値であり、実測ではない。既刊との関係:論文475 は入れた分子の九割が界面に来ていないことを示した。そこでも、目的の違いで同じ操作の評価が変わった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「断面の減少」と「体積の膨張」は、その基準で別根である。論文454 は荷重が $3$ 乗で増えても必要幅が $1$ 乗で済むことを示した。そこでも、幾何が答えを決めていた。加えたのは、四つの腐食生成物の体積比を並べたこと、失われた鉄と錆の体積を出したこと、半径方向の膨張を $0.292768$ mm と出したこと、体積比 $1$ で膨張が厳密にゼロになることを確かめたこと、ひび割れに要る侵食を二分法で $0.001000$ mm と出して逆算したこと、分離子を「断面か体積か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:半径 $r$ の鉄筋が厚さ $\delta$ だけ侵食されるとき、単位長さあたり失われる鉄の断面積は

$$V_{\mathrm{lost}}=\pi\bigl(r^{2}-(r-\delta)^{2}\bigr)$$

である。腐食生成物の体積比を $\kappa$ とすると、錆の体積は $\kappa V_{\mathrm{lost}}$ になる。錆が外側に積もるとして、外半径 $R$ は

$$\pi\bigl(R^{2}-(r-\delta)^{2}\bigr)=\kappa V_{\mathrm{lost}}$$

から決まり、半径方向の膨張は $R-r$ である。以下 $r=8$ mm、かぶり $30$ mm、コンクリートの引張破壊ひずみ $100$ マイクロひずみとする。

観察 1.1 鉄筋が錆びると細くなって弱る、と思われている。断面が減れば耐力が減る。自然な理屈である。

観察 1.2 だが錆は消えてなくならない。同じ場所に、もっと大きな体積で残る。周りを押しのける。

問い:どちらが先に効くのか。

2. 錆は 4 倍に太る

計算 2.1:四つの腐食生成物について、鉄に対する体積比を並べる。

生成物 体積比
$\mathrm{Fe}_{3}\mathrm{O}_{4}$ $2.0000$
$\mathrm{Fe}_{2}\mathrm{O}_{3}$ $2.2000$
$\mathrm{Fe(OH)}_{3}$ $\mathbf{4.0000}$
含水の水酸化物 $\mathbf{6.4000}$

観察 2.2 どれも $1$ より大きい。$2.0$ から $6.4$ まで、鉄は錆びると必ず太る。

計算 2.3:半径 $8$ mm の鉄筋が $0.1$ mm 侵食されたときの体積を出す(体積比 $4$)。

量 値 [mm$^2$]
失われた鉄 $\mathbf{4.995132}$
生じた錆 $\mathbf{19.980529}$
増加分 $\mathbf{14.985397}$

観察 2.4 増加分は、失われた鉄の $3$ 倍である。$\kappa-1=3$、閉じた式と厳密に一致する。

計算 2.5:その体積増加を、半径方向の膨張に直す。

$\mathbf{0.292768}$ mm である。

観察 2.6 侵食した $0.1$ mm より大きい。$2.93$ 倍、細くなるどころか、外側は太っている。

観察 2.7 体積比を $1$ にすると、膨張がちょうど $\mathbf{0.000000000000}$ mm になる。錆が鉄と同じ体積なら、外半径は変わらない。境目であり、式が正しく置かれていることの確認でもある。

3. ひび割れに要る侵食は 0.001000 mm

計算 3.1:膨張をかぶり厚で割った量が $100$ マイクロひずみに達する侵食を、二分法で求める。

$\mathbf{0.001000}$ mm である(逆算してひずみが $1.000000\times10^{-4}$ に戻る)。

観察 3.2 $1$ マイクロメートルである。目に見えない。断面の減少としては $0.025$ パーセントにすぎない。

観察 3.3 その時点で、耐力はほとんど減っていない。$0.025$ パーセントの断面欠損、だがコンクリートは割れている。

計算 3.4:体積比を変えて、ひび割れに要る侵食を出す。

体積比 ひび割れに要る侵食 [mm]
$2.0$ $\mathbf{0.003001}$
$4.0$ $0.001000$
$6.4$ $\mathbf{0.000556}$

観察 3.5 体積比が大きいほど、要る侵食が少ない。$2.0$ と $6.4$ で $5.40$ 倍、どの生成物ができるかが、寿命を決めている。

観察 3.6 そしてひび割れると、水と酸素が入りやすくなる。腐食が速まり、さらに膨らむ、正の帰還がかかる。

観察 3.7 だから点検で見るべきは、鉄筋の細さではなくコンクリートのひびである。細さは最後まで測れない。ひびは、はるかに早く出る。

4. 分離子

分離子:断面が減ることか、体積が増えることか。

観察 4.1 断面が減ることなら、失われた量に比例して弱る。$0.025$ パーセントなら $0.025$ パーセント、ゆっくり進む。

観察 4.2 体積が増えることなら、押しのける先が壊れる。かぶりの厚さが上限を決める。はるかに早く来る。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「鉄筋の腐食による劣化」と呼ばれる。一方は鉄の量、一方は鉄とかぶりの組の量である。

観察 4.4 論文454 と同じ場所にいる。そこでは荷重と抵抗の両側を見なければ答えが出なかった。ここでは失われた側と増えた側の両方を見なければならない。どちらも、片側だけでは誤る。

観察 4.5 論文475 とも重なる。そこでは同じ操作が、目的によって有効にも無駄にもなった。ここでは同じ腐食が、耐力の話としては軽微で、かぶりの話としては致命的である。

観察 4.6 そしてかぶりを厚くすると、要る侵食が増える。ひずみが膨張をかぶり厚で割った量だから、かぶりは、腐食を防ぐだけでなく、膨張を受け止める余地でもある。

観察 4.7 正直に言えば、力学を単純化した。膨張をかぶり厚で割った量をひずみと置いたが、実際は三次元の応力場で、円周方向の引張が効く。$0.001000$ mm という値はこの近似に依るが、体積比が $1$ を超えるかぎり膨張が起きるという結論は、幾何だけから出ており、近似に依らない。

5. 点呼と結び

  1. 体積比は $2.0$ から $6.4$(計算 2.1):どれも $1$ より大きい。
  2. 失われた鉄は $4.995132$ mm$^2$(計算 2.3):侵食 $0.1$ mm で。
  3. 錆は $19.980529$ mm$^2$(計算 2.3):増加は $14.985397$。
  4. 増加は失われた鉄の $3$ 倍(観察 2.4):$\kappa-1$ と厳密に一致。
  5. 半径方向に $0.292768$ mm(計算 2.5):侵食の $2.93$ 倍。
  6. 体積比 $1$ で厳密にゼロ(観察 2.7):境目の確認。
  7. ひび割れに $0.001000$ mm(計算 3.1):本稿の芯。
  8. 断面欠損は $0.025$ %(観察 3.2):耐力はほぼ無傷。
  9. 体積比で $5.40$ 倍動く(観察 3.5):生成物が寿命を決める。
  10. 分離子は断面か体積か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。

結び:鉄筋が錆びると細くなって弱る、と思われている。断面が減れば耐力が減る、という自然な理屈である。だが錆は消えてなくならない。同じ場所にもっと大きな体積で残り、周りを押しのける。錆は太る。腐食生成物の体積比は $2.0$ から $6.4$ まであり、どれも $1$ より大きい。鉄は錆びると必ず太る。半径 $8$ mm の鉄筋が $0.1$ mm 侵食されると、失われた鉄 $\mathbf{4.995132}$ mm$^2$ が体積比 $4$ で $\mathbf{19.980529}$ mm$^2$ の錆になり、$\mathbf{14.985397}$ mm$^2$ 増える。増加分は失われた鉄の $3$ 倍で、閉じた式 $\kappa-1$ と厳密に一致する。半径方向の膨張は $\mathbf{0.292768}$ mm、侵食した $0.1$ mm の $2.93$ 倍である。細くなるどころか、外側は太っている。体積比を $1$ にすると膨張はちょうど $\mathbf{0.000000000000}$ mm になる。錆が鉄と同じ体積なら外半径は変わらない。境目であり、式の確認でもある。そしてひび割れは、驚くほど早く来る。かぶり $30$ mm をひび割れさせる侵食は $\mathbf{0.001000}$ mm、すなわち $1$ マイクロメートルしかない。逆算してひずみが $1.000000\times10^{-4}$ に戻ることも確かめた。断面の減少としては $0.025$ パーセントにすぎず、その時点で耐力はほとんど減っていない。だがコンクリートは割れている。体積比を変えると、要る侵食は $2.0$ で $\mathbf{0.003001}$ mm、$6.4$ で $\mathbf{0.000556}$ mm と $5.40$ 倍動く。どの生成物ができるかが、寿命を決めている。そしてひび割れると水と酸素が入りやすくなり、腐食が速まってさらに膨らむ。正の帰還がかかる。だから点検で見るべきは鉄筋の細さではなくコンクリートのひびである。細さは最後まで測れず、ひびははるかに早く出る。分けているものは一つ、断面が減ることか、体積が増えることか。断面が減ることなら失われた量に比例して弱り、$0.025$ パーセントなら $0.025$ パーセントで、ゆっくり進む。体積が増えることなら押しのける先が壊れ、かぶりの厚さが上限を決めて、はるかに早く来る。論文300 の基準で別根であり、一方は鉄の量、一方は鉄とかぶりの組の量である。論文454 と同じ場所にいて、そこでは荷重と抵抗の両側を見なければ答えが出なかった。どちらも、片側だけでは誤る。論文475 とも重なり、そこでは同じ操作が目的によって有効にも無駄にもなった。ここでは同じ腐食が、耐力の話としては軽微で、かぶりの話としては致命的である。そしてかぶりを厚くすると要る侵食が増える。ひずみが膨張をかぶり厚で割った量だからで、かぶりは腐食を防ぐだけでなく、膨張を受け止める余地でもある。正直に言えば、力学を単純化した。膨張をかぶり厚で割った量をひずみと置いたが、実際は三次元の応力場で円周方向の引張が効く。$0.001000$ mm という値はこの近似に依るが、体積比が $1$ を超えるかぎり膨張が起きるという結論は幾何だけから出ており、近似に依らない。

参考文献

  1. Pilling, N. B., & Bedworth, R. E. (1923). The Oxidation of Metals at High Temperatures. Journal of the Institute of Metals.
  2. Tuutti, K. (1982). Corrosion of Steel in Concrete. Swedish Cement and Concrete Research Institute.
  3. Broomfield, J. P. (2007). Corrosion of Steel in Concrete (2nd ed.). Taylor & Francis.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい』[論文454]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732989
  6. 山岸勇輝 (2026). 『入れた分子の九割が、界面には来ていない』[論文475]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733613

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「壊しているのは失われた鉄ではなく、置き換わって太った錆である」[論文476]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733641

YOI 476第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/476・DOI 10.5281/zenodo.22733641・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 壊しているのは失われた鉄ではなく、置き換わって太った錆である [論文476]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/476 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733641

Yamagishi, Y. (2026). What Breaks It Is Not the Iron Lost but the Rust That Takes Its Place [Paper 476]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/476; DOI: 10.5281/zenodo.22733641

@misc{yamagishi2026yoi476,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {What Breaks It Is Not the Iron Lost but the Rust That Takes Its Place},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/476},
  doi = {10.5281/zenodo.22733641},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
544a705e77ad42b9c96cf0dbb8676e176232761c7b5cc686f250489414aa9f46 yamagishi_yoi476_v1_jp.pdf
c9175e15d3eeb27a178a4b77f1f039222673f023ec91976e6c5dbac7f1aa724b yamagishi_yoi476_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。