要旨
本稿が問うのは、「首がすわるのは何か月」「歩くのは何か月」という言い方が、何を省いているか、である。答えは、月齢の幅、である。令和 5 年の乳幼児身体発育調査の「通過率」(月齢ごとに「できる」と答えた割合)を読むと、できる子が半分になる月齢と 9 割になる月齢のあいだには、項目によって 1 か月弱から 5 か月弱の開きがある。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、通過率の表は、2 か月から 23 か月まで 1 か月ごとの 22 の群れについて、運動機能 6 項目と言語機能 1 項目の割合を載せている。値はすべて 0〜100 で、項目ごとに値の入っている月齢の範囲が違う(第3節)。
第二に、これが本稿の芯である。月齢の群れの真ん中を直線でつないで読むと、できる子が 50 % から 90 % になるまでの月齢の幅は、首のすわり 0.98 か月、ねがえり 1.23 か月、ひとりすわり 2.21 か月、はいはい 2.81 か月、つかまり立ち 2.62 か月、ひとり歩き 2.90 か月、言葉を話す 4.82 か月である(第4節)。
第三に、幅は後に来る項目ほど広い。50 % になる月齢と 50→90 % の幅の相関は 0.903 で、幅を 50 % の月齢で割ると 0.227(ひとり歩き)から 0.368(はいはい)に収まる。幅は、真ん中の月齢のおよそ 2 割から 4 割の大きさで、月齢とともに大きくなる(第5節)。
第四に、1 歳 0 か月台では、ひとり歩きが「できる」と答えた割合は 47.9 %、言葉を話すは 36.5 %である。1 歳 3 か月台では 88.4 % と 69.6 %、1 歳 6 か月台では 97.5 % と 91.1 % である(第4節)。
第五に、1 か月ごとの割合は、ところどころで前の月より下がる(7 項目で合わせて 7 か所)。一般調査の人数は 0 歳 1453 人・1 歳 964 人で、1 か月あたりに直すと平均 121 人と 80 人になり、一つの群れの割合には揺れがある(第6節)。
第六に、「何か月でできる」は一つの月齢ではなく、半分の子ができる月齢と、ほとんどの子ができる月齢のあいだの幅である。 その幅は、後に来る項目ほど月単位で広がる。この表は集団の割合で、一人の子の発達を判定する道具ではない。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。通過率は調査が定めた集計で、本稿はそれを読み、半分と 9 割の月齢の幅を測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の子の発達を判定しない。ここに並ぶのは令和 5 年に調べた集団の割合で、ある子が「早い」「遅い」を言う数ではない。子どもの発達が気になるときは、医師・保健師などに相談してほしい。割合から人数を作り直さない。表に 1 か月ごとの人数は無い。群れの中の月齢の分け方は仮定である。月齢の群れの値をその群れの真ん中に置いて直線でつないだ。データについて:e-Stat の表は政府標準利用規約(第2.0版)に従って加工した。出典:こども家庭庁「乳幼児身体発育調査」。加えたのは、7 項目のそれぞれについて、できる子が 10 %・50 %・90 % になる月齢を同じ読み方で並べ、50→90 % の幅が 0.98 か月から 4.82 か月まで開くこと、その幅が真ん中の月齢の 0.227〜0.368 倍に収まり、後に来る項目ほど広いことを示したことである。
1. 記法と問い
- 通過率:ある月齢の群れ(例「0 年 2~3 月未満」)の子のうち、その項目を「できる」と答えた割合。表の注によれば「月齢・年齢ごとの総数に対して『できる』と回答した割合」で、集計対象は 2 歳未満の乳幼児である。
- 50 % の月齢:通過率が初めて 50 % を越える月齢。90 % の月齢も同じ。本稿では、群れの値をその群れの真ん中(2~3 か月の群れなら 2.5 か月)に置き、隣どうしを直線でつないで読む。
- 50→90 % の幅:90 % の月齢 − 50 % の月齢。
問い:「何か月でできる」は、一つの月齢で言えるか。言えないなら、幅はどれだけか。
観察 1.1:通過率は、ある時点で「できる」かを尋ねた割合で、それぞれの子が初めてできた月齢を尋ねたものではない。一度できたことができなくなることが無いなら、50 % の月齢は「半分の子がそれまでにできるようになる月齢」と読める(本稿はこの読み方で並べる)。
2. 下見と設計
正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。
| 中身 | |
|---|---|
| 表 | 令和 5 年乳幼児身体発育調査 表12(運動機能通過率 6 項目)・表13(言語機能通過率「言葉を話す」) |
| 人数 | 同じく表19(一般調査の年齢別の人数) |
| 読み方 | 群れの真ん中を直線でつなぎ、10 %・50 %・90 % を初めて越える月齢を読む |
| 比べ方 | 50→90 % の幅と、それを 50 % の月齢で割った値を項目ごとに並べる |
3. データと、その確かめ
計算 3.1 取得したファイルを SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。
| 確かめたこと | 結果 |
|---|---|
| 表12・表13 の項目 | 運動機能 6 項目(首のすわり・ねがえり・ひとりすわり・はいはい・つかまり立ち・ひとり歩き)と「言葉を話す」 |
| 月齢の群れ | 2 か月から 23 か月まで 1 か月ごとの 22 群 |
| 値の範囲 | 値のある 74 個はすべて 0〜100 |
| 値のある月齢 | 首のすわり 2〜5 か月・ねがえり 2〜7 か月・ひとりすわり 5〜12 か月・はいはい 5〜14 か月・つかまり立ち 5〜14 か月・ひとり歩き 8〜21 か月・言葉を話す 2〜23 か月 |
| 表19 の人数 | 年齢別の和が総数 6892 人に一致(0 歳 1453 人・1 歳 964 人) |
観察 3.2:表の値の大半は割り切れない桁まで入っているが、表12 の五つの升目だけが小数 1 桁である(ひとりすわり 8~9 月・9~10 月、ひとり歩き 1 年 3~4 月・4~5 月・7~8 月)。理由は表に書かれていない。本稿は値をそのまま使う。
4. 芯、半分から 9 割までの月齢の幅
計算 4.1 通過率が 10 %・50 %・90 % を越える月齢(群れの真ん中を直線でつないだ読み取り・か月)
| 項目 | 10 % | 50 % | 90 % | 50→90 % の幅 | 10→90 % の幅 | 幅 ÷ 50 % の月齢 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 首のすわり | 2.59 | 3.43 | 4.41 | 0.98 | 1.82 | 0.287 |
| ねがえり | 2.94 | 4.31 | 5.54 | 1.23 | 2.60 | 0.285 |
| ひとりすわり | 5.75 | 7.06 | 9.27 | 2.21 | 3.51 | 0.313 |
| はいはい | 5.78 | 7.62 | 10.43 | 2.81 | 4.65 | 0.368 |
| つかまり立ち | 6.61 | 8.12 | 10.73 | 2.62 | 4.12 | 0.322 |
| ひとり歩き | 10.55 | 12.78 | 15.69 | 2.90 | 5.14 | 0.227 |
| 言葉を話す | 10.44 | 13.41 | 18.23 | 4.82 | 7.79 | 0.359 |
観察 4.2:できる子が半分から 9 割になるまでに、首のすわりでは 0.98 か月、ひとり歩きでは 2.90 か月、言葉を話すでは 4.82 か月かかる。 10 % から 90 % までなら、首のすわりで 1.82 か月、言葉を話すで 7.79 か月である。
観察 4.3:50 % の月齢の順は、表の項目の並び(首のすわり → ねがえり → ひとりすわり → はいはい → つかまり立ち → ひとり歩き → 言葉を話す)と同じである。
観察 4.4:表の値そのものでは、1 歳 0 か月台でひとり歩きが「できる」と答えたのは 47.9 %、言葉を話すは 36.5 %、1 歳 3 か月台では 88.4 % と 69.6 %、1 歳 6 か月台では 97.5 % と 91.1 % である。1 歳の誕生日のころ、歩く子と歩かない子は、ほぼ半分ずつである。

図1:7 項目の通過率を、月齢の群れの真ん中に置いて結んだもの。破線は 50 % と 90 %。後に来る項目ほど、曲線の立ち上がりがなだらかである。
5. 幅は、後に来る項目ほど広い
観察 5.1:50 % の月齢と 50→90 % の幅の相関は、7 項目で 0.903 である。後に来る項目ほど、半分から 9 割までの月齢の幅は広い。
観察 5.2:幅を 50 % の月齢で割ると、0.227(ひとり歩き)から 0.368(はいはい)に収まる。幅は月齢とともに大きくなるが、真ん中の月齢に対する比はおよそ 2 割から 4 割の範囲にとどまる。月の数で見ると後の項目ほど幅は広く、比で見るとどの項目も同じくらいの広がりを持つ。

図2:太い帯が 50 % から 90 % まで、細い線が 10 % から 50 % まで、縦の棒が 50 % の月齢。帯の長さは、上の項目から下の項目へ伸びていく。
6. 1 か月ごとの割合の揺れ
観察 6.1:1 か月ごとの割合は、ところどころで前の月より下がる。はいはい 2 か所、つかまり立ち 1 か所、ひとり歩き 1 か所(17 か月で 96.9 → 95.1)、言葉を話す 3 か所(23 か月で 98.7 → 94.3 など)の、合わせて 7 か所である。首のすわり・ねがえり・ひとりすわりでは下がる所は無い。
観察 6.2:一般調査の人数は 0 歳 1453 人・1 歳 964 人(表19)で、1 か月あたりに直すと平均 121 人と 80 人である。一つの群れの割合には、この人数の分の揺れがある。本稿の 50 % と 90 % の月齢も、1 か月の群れの値から読んだもので、小数第 2 位までの細かさを持つものではない。
7. 限界
- 一人の子の発達を判定する数ではない。 集団の割合である。
- 群れの値を群れの真ん中に置き、直線でつないだ。 群れの中の月齢の分布は表に無い。
- 通過率は「いまできるか」を尋ねた割合である。 初めてできた月齢を尋ねたものではない。
- 1 か月の群れの人数は表に無い。 表19 の年齢別の人数から平均を出しただけで、割合から人数を作り直していない。
- 表12 の五つの升目が小数 1 桁である理由は確かめていない。
- 令和 5 年の一回の調査である。 過去の調査との比べはしていない。
結び
令和 5 年の乳幼児身体発育調査の通過率を同じ読み方で並べると、できる子が半分から 9 割になるまでに、首のすわりで 0.98 か月、ひとり歩きで 2.90 か月、言葉を話すで 4.82 か月かかった。幅は後に来る項目ほど広く(50 % の月齢との相関 0.903)、真ん中の月齢に対しては 0.227〜0.368 倍に収まった。1 歳 0 か月台で歩くと答えたのは 47.9 %、1 歳 6 か月台で言葉を話すと答えたのは 91.1 % だった。
分けるものは一つ、「何か月でできる」を、真ん中の月齢で言うか、分布の幅で言うか、である。
「何か月でできる」と聞いたら、それが半分の子の月齢であって、ほとんどの子ができるまでにはさらに数か月の幅があることを、一緒に思い出す。 気になることがあれば、表ではなく、医師・保健師などに相談する。
データと再現
| データ | こども家庭庁「乳幼児身体発育調査」令和 5 年 表12・表13・表19(e-Stat から取得・2026 年 9 月 25 日に利用) |
| 利用条件 | e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠(CC BY 4.0 互換)。本稿の月齢の読み取りと幅は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない |
| 範囲 | 日本・一般調査・2 歳未満の乳幼児・運動機能 6 項目と言語機能 1 項目 |
| 検算 | 検算/M010.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M010_output.txt から取っている |
| 生データ | data/ に取得したファイル 3 本(名前だけ付け替えた)と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・表の注の写し) |
| 図 | 図/M010_zu1・図/M010_zu2(png・svg・英語版) |
参考文献
- こども家庭庁. 令和5年乳幼児身体発育調査 表12・表13・表19. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「発達の「できる」には、もともと月齢の幅がある」[M010]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22965712
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M010・DOI 10.5281/zenodo.22965712・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 発達の「できる」には、もともと月齢の幅がある [M010]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M010 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22965712
Yamagishi, Y. (2026). A Child’s “Can Do” Has a Range of Ages Built In [M010]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M010; DOI: 10.5281/zenodo.22965712
@misc{yamagishi2026yoiM010,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {A Child's "Can Do" Has a Range of Ages Built In},
year = {2026},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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