要旨
頂点が格子点にある多角形の面積は、点を数えるだけで厳密に出る。本稿が問うのは、なぜ数え上げが連続量を出せるのかである。答は、右辺の三つの項が、それぞれ別のものを数えているからである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、凹六角形で $A=12.0$、$B=16$、$I=5$、$5+8-1=12$(第2節)。
第二に、五つの多角形すべてで一致した。内部点 $0$ で面積 $10$ の例と、境界点 $5$ で面積 $17.5$ の例を含む(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。「$-1$」は形ではなく、一周ぶんの回転から出ている(第3節)。
第四に、頂点が格子点を外れると壊れる。真の面積 $0.25$ に対し、式は $0.0$ を返す(第4節)。
第五に、三次元には同じ式が存在しない。体積が $0.1667$ から $1.6667$ まで動く間、格子点は $4$ 個のまま動かない(第4節)。
第六に、分離子は「境界が一次元か、二次元か」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ピックの $1899$ 年の定理、リーヴの四面体、靴紐公式、内角の総和はいずれも標準的である。格子の理論を作らない。使うのは整数格子 $\mathbb{Z}^2$ だけであり、一般の格子には立ち入らない。エルハート多項式を扱わない。多角形を $k$ 倍に膨らませたときの格子点数の一般論には入らない。触れるにとどめる。定理を証明しない。本稿がするのは、右辺の三項がそれぞれ何を数えているかを、角度を実際に足して示すことである。ピックの定理そのものの証明は与えない。穴のある領域を扱わない。単連結な単純多角形だけを見る。数論を扱わない。格子点の数え上げが整数論に接続する側面には入らない。既刊との関係:論文149 は分母を決めるのが行列式ではなく最大不変因子だと示した。そこでも格子点を数えて基本領域の体積を確かめている。ただし 149 が測るのは格子そのものの指数で、本稿が測るのは格子に置かれた図形の面積である。論文316 は同じ整数を三つの別の数え方が返すと示した。本稿では、一つの連続量を二種類の数え上げが返す。向きが逆の対である。論文205 は最も短い囲いがいつも円板とはかぎらないと示した。同じく、面積と境界の関係を問うている。論文300 は同根か別根かは判定できると示した。本稿の二次元と三次元は、その基準で別根である。論文182 は「次元の呪い」が一つの呪いではないと示した。ここでは、次元が上がって失われるのが「公式の存在そのもの」である。加えたのは五つの多角形(凹二つを含む)で総当たりの点の数え直しと突き合わせたこと、右辺の $-1$ を内角の総和から数で導いたこと、成立条件が破れる例と、次元が上がって公式が消える例を並べたこと、分離子を「境界の次元」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:平面の整数格子 $\mathbb{Z}^2$ の上に、頂点がすべて格子点にある単純多角形を置く。三つの量を数える。
| 記号 | 何を数えるか |
|---|---|
| $A$ | 面積(連続量) |
| $B$ | 境界の上にある格子点の個数 |
| $I$ | 内部にある格子点の個数 |
観察 1.1 $A$ は連続量で、$B$ と $I$ は整数である。整数から実数を作るには、ふつう極限か積分が要る。ところがここでは、有限個を数えるだけで厳密に出る。
観察 1.2 本稿の測り方を先に固定する。$A$ は靴紐公式で、$B$ は各辺の $\gcd(|\Delta x|,|\Delta y|)$ の和で、$I$ は総当たりで数える。三つを別々の方法で出してから突き合わせる。
問い:なぜ数え上げが連続量を出せるのか。そしてそれは、どこまで効くのか。
2. 五つの多角形で、一つも外れなかった
検算 2.1:凹六角形 $(0,0),(4,0),(4,2),(2,2),(2,4),(0,4)$ について(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 靴紐公式による面積 $A$ | $\mathbf{12.0000}$ |
| 境界の格子点 $B$($\gcd$ の和) | $\mathbf{16}$ |
| 内部の格子点 $I$(総当たり) | $\mathbf{5}$ |
| $I+B/2-1$ | $5+8-1=\mathbf{12.0000}$ |
観察 2.2 自己検査、境界点を総当たりでも数え直したところ $16$ で、$\gcd$ の和と一致した。二つの独立な数え方が同じ整数を返してから、表を読む。
検算 2.3:一例では当たらない。形の違う四つでも確かめる(本稿で計算)。
| 多角形 | $A$ | $B$ | $I$ | $I+B/2-1$ |
|---|---|---|---|---|
| 直角三角形 $(0,0),(5,0),(0,3)$ | $7.5$ | $9$ | $4$ | $\mathbf{7.5}$ |
| 斜めの三角形 $(0,0),(3,1),(1,3)$ | $4.0$ | $4$ | $3$ | $\mathbf{4.0}$ |
| 凸四角形 $(0,0),(6,2),(5,5),(1,4)$ | $17.5$ | $5$ | $16$ | $\mathbf{17.5}$ |
| コの字(凹八角形) | $10.0$ | $22$ | $0$ | $\mathbf{10.0}$ |
観察 2.4 最後の二行が両極である。凸四角形は境界点が $5$ しかないのに面積 $17.5$、コの字は内部点が $0$ なのに面積 $10$、どちらか一方だけでは面積は出ない。二種類を数えて初めて出る。
観察 2.5 斜めの三角形は、軸に平行な辺を一つも持たない。それでも $4.0$ で合う。式に「向き」が入っていない。
観察 2.6 凹んでいても効く。凹六角形とコの字は、どちらも凸でない。凸性は仮定に入っていない。
3. 芯:右辺の三つの項は、それぞれ別のものを数えている
設定:各格子点に、その点のまわりで多角形が占める向きの割合を重みとして与える。内部の点は全周を占めるので $1$、辺の上(頂点でない)の点は半周なので $1/2$、頂点は内角 $\theta_i$ を $2\pi$ で割った値である。
検算 3.1:頂点における内角の総和を、実際に角度を足して求める(本稿で計算)。
| 多角形 | 頂点数 $v$ | 内角の総和 | $(v-2)\pi$ |
|---|---|---|---|
| 凹六角形 | $6$ | $4.000000 \pi$ | $4\pi$ |
| 直角三角形 | $3$ | $1.000000 \pi$ | $1\pi$ |
| 斜めの三角形 | $3$ | $1.000000 \pi$ | $1\pi$ |
| 凸四角形 | $4$ | $2.000000 \pi$ | $2\pi$ |
| コの字(凹) | $8$ | $6.000000 \pi$ | $6\pi$ |
観察 3.2 凹んでいても $(v-2)\pi$ である。凹二つを含む五つすべてで合った。内角の総和は頂点の数だけで決まり、形では決まらない。
観察 3.3 したがって頂点の寄与は $(v-2)\pi/(2\pi)=v/2-1$ であり、重みの合計は
$$I+\frac{B-v}{2}+\left(\frac{v}{2}-1\right)=I+\frac{B}{2}-1 .$$
観察 3.4 これが本稿の芯である。右辺の三つの項は、同じものを三回数えたのではない。$I$ は全周を占める点、$B/2$ は半周を占める点、$-1$ は一周ぶんの回転である。最後の項だけが、点の数ではない。
観察 3.5 「$-1$」の正体は、多角形の形とは無関係である。$v$ がいくつでも、凹んでいても、辺が斜めでも変わらない。一周して元の向きに戻る、というそれだけから出ている。
観察 3.6 重なりを引くという操作が、ここに入っている。境界の点は「内側にも外側にも属する」ので半分に数え、頂点は角度の分だけ数える。数え過ぎた分を引き戻す形で、右辺は組まれている。
観察 3.7 本体系における位置。「オイラー標数」の語は本体系の $28$ 編に現れ、「包除原理」の語は一度も現れない。屋根は繰り返し扱ってきて、土台には一度も名前を付けていない。本稿はその土台を、面積という具体で置く。
4. どこまで効くか、二つの壊れ方
設定:仮定を一つずつ外すと、何が起きるか。
検算 4.1:頂点を格子点から外す。三角形 $(0,0),(1,0),(0.5,0.5)$ を取る(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 靴紐公式による真の面積 | $\mathbf{0.2500}$ |
| 境界の格子点 $B$ | $2$ |
| 内部の格子点 $I$ | $0$ |
| $I+B/2-1$ | $\mathbf{0.0000}$ |
観察 4.2 $0.25$ が $0$ になる。壊れ方は「少しずれる」ではない。面積を持つ図形に、面積 $0$ を返す。頂点が格子点にあるという条件は、飾りではない。
検算 4.3:次元を一つ上げる。四面体 $(0,0,0),(1,0,0),(0,1,0),(1,1,k)$ を取る(本稿で計算)。
| $k$ | 体積 $=k/6$ | 格子点の総数(境界と内部の合計) |
|---|---|---|
| $1$ | $0.1667$ | $\mathbf{4}$ |
| $2$ | $0.3333$ | $\mathbf{4}$ |
| $3$ | $0.5000$ | $\mathbf{4}$ |
| $5$ | $0.8333$ | $\mathbf{4}$ |
| $10$ | $\mathbf{1.6667}$ | $\mathbf{4}$ |
観察 4.4 頂点はすべて格子点にあり、条件は満たしている。それでも体積が $10$ 倍になる間、点の数は $4$ のまま一つも動かない。格子点の数だけを入力とする関数は、この二つの四面体を区別できない。
観察 4.5 これは「三次元の公式がまだ見つかっていない」のではない。同じ入力に違う出力を返さねばならないので、そのような関数は存在しえない。ピックの定理に三次元版が無いのは、探し方の問題ではない。
観察 4.6 二つの壊れ方は、性質が違う。頂点が格子点を外れるのは仮定を破ったのであり、三次元で壊れるのは仮定を守っていても駄目である。前者は使い方の誤り、後者は定理の限界である。
5. 分離子:境界が一次元か、二次元か
観察 5.1 分離子、境界の上の点が、有限個の「半分」で書けるかどうか。
| 境界の次元 | 境界の点の重み | 公式 | |
|---|---|---|---|
| 二次元 | $1$(線) | ちょうど $1/2$ | 存在する |
| 三次元 | $2$(面) | 一定にならない | 存在しない |
観察 5.2 二次元では、辺の上の格子点はどれも同じ $1/2$ を担う。辺は直線なので、その上の点は必ず半周を占める。一定であることが、有限の数え上げで足りる理由である。
観察 5.3 三次元では、面の上の点も $1/2$ を担う。それでも足りない。リーヴの四面体には、面の上にも内部にも点が無い。頂点の四つしか無いのに、体積は好きなだけ大きくできる。
観察 5.4 正直に書くべき点、三次元にも数え上げの理論はある。エルハート多項式は、多面体を $k$ 倍に膨らませたときの格子点数を $k$ の多項式で書く。ただしそれは一つの図形について一つの多項式を与えるのであって、点の数から体積を出す一本の式ではない。本稿が「存在しない」と言うのは後者である。
観察 5.5 論文182 との位置関係。182 は「次元の呪い」が一つの呪いではないと書いた。本稿で次元が上がって失われるのは、計算量でも精度でもなく、公式の存在そのものである。呪いには、まだ名前の付いていない種類がある。
観察 5.6 最後に一つ、この定理は、面積を測る道具としてはほとんど使われない。靴紐公式のほうが速く、条件も要らない。それでも残っているのは、答が同じだからではなく、二つの世界が同じ数を指していることを見せるからである。価値があるのは値ではなく、等号のほうである。
6. 点呼と結び
- $A=12.0$、$B=16$、$I=5$(検算2.1):$5+8-1=12$。
- 境界点は二通りに数えて $16$(観察2.2):$\gcd$ の和と総当たり。
- 五つの多角形すべてで一致(検算2.3):凹二つを含む。
- 境界点 $5$ で面積 $17.5$、内部点 $0$ で面積 $10$(観察2.4):片方だけでは出ない。
- 内角の総和は $(v-2)\pi$(検算3.1):凹んでいても。
- $-1$ は一周ぶんの回転(観察3.5):形とは無関係。
- 「包除原理」は本体系に $0$ 編(観察3.7):「オイラー標数」は $28$ 編。
- 頂点を外すと $0.25$ が $0$ になる(検算4.1):少しずれるのではない。
- 体積 $10$ 倍でも点は $4$ 個のまま(検算4.3):リーヴの四面体。
- 三次元版は「未発見」ではなく「存在しない」(観察4.5):同じ入力に違う出力。
結び:頂点が格子点にある多角形なら、面積という連続量が、二種類の点を数えるだけで厳密に出る。凹六角形で $A=\mathbf{12.0000}$、$B=\mathbf{16}$、$I=\mathbf{5}$ であり、$5+8-1$ がちょうど $12$ になる。形の違う五つ(凹二つを含む)すべてで外れなかった。そして二種類を数えることが要る。凸四角形は境界点が $5$ しかないのに面積 $17.5$、コの字は内部点が $0$ なのに面積 $10$ である。どちらか一方だけでは面積は出ない。右辺の三項は、同じものを三回数えたのではない。$I$ は全周を占める点、$B/2$ は半周を占める点、そして$-1$ は点の数ではなく、一周ぶんの回転である。内角の総和を実際に足すと、凹んでいても $(v-2)\pi$ になり、頂点の寄与は $v/2-1$ になる。$-1$ は多角形の形とは無関係で、一周して元の向きに戻るというそれだけから出ている。壊れ方は二種類ある。頂点を格子点から外すと、真の面積 $0.25$ に対して式は $0.0$ を返す。これは仮定を破ったのだから、使い方の誤りである。ところが三次元では、仮定を守っていても駄目である。四面体 $(0,0,0),(1,0,0),(0,1,0),(1,1,k)$ は、体積が $0.1667$ から $1.6667$ まで動く間、格子点が $4$ 個のまま一つも動かない。格子点の数だけを入力とする関数は、この二つを区別できない。三次元版が無いのは、探し方の問題ではなく、存在しえないからである。分けるものは一つ、境界の上の点が、有限個の「半分」で書けるかどうか。二次元では辺が直線なので、その上の点はどれも必ず半周を占め、一定である。三次元ではその一定さが足りず、面の上にも内部にも点が無いまま体積だけが伸びる。論文182 は「次元の呪い」が一つの呪いではないと書いた。ここで次元が上がって失われるのは、計算量でも精度でもなく、公式の存在そのものである。最後に一つ、この定理は、面積を測る道具としてはほとんど使われない。靴紐公式のほうが速く、条件も要らない。それでも残っているのは、答が同じだからではなく、二つの世界が同じ数を指していることを見せるからである。価値があるのは値ではなく、等号のほうである。
参考文献
- Pick, G. (1899). Geometrisches zur Zahlenlehre. Sitzungsberichte des deutschen naturwissenschaftlich-medicinischen Vereines für Böhmen “Lotos” in Prag, 19.
- Reeve, J. E. (1957). On the Volume of Lattice Polyhedra. Proceedings of the London Mathematical Society, s3-7(1).
- Ehrhart, E. (1962). Sur les polyèdres rationnels homothétiques à $n$ dimensions. Comptes Rendus de l’Académie des Sciences, 254.
- Coxeter, H. S. M. (1969). Introduction to Geometry, 2nd edition. New York: Wiley.
- Beck, M., Robins, S. (2015). Computing the Continuous Discretely, 2nd edition. New York: Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 分母を決めるのは行列式ではなく、最大不変因子である [論文149]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22083590
- 山岸勇輝 (2026). 「次元の呪い」は一つの呪いではない [論文182]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104170
- 山岸勇輝 (2026). 最も短い囲いは、いつも円板とはかぎらない [論文205]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110143
- 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 同じ整数を、三つの別の数え方が返す [論文316]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208229
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「面積という連続量が、二種類の点を数えるだけで厳密に出る」[論文331]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22681503
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/331・DOI 10.5281/zenodo.22681503・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 面積という連続量が、二種類の点を数えるだけで厳密に出る [論文331]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/331 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22681503
Yamagishi, Y. (2026). Area, a Continuous Quantity, Comes Out Exactly from Counting Two Kinds of Points [Paper 331]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/331; DOI: 10.5281/zenodo.22681503
@misc{yamagishi2026yoi331,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Area, a Continuous Quantity, Comes Out Exactly from Counting Two Kinds of Points},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/331},
doi = {10.5281/zenodo.22681503},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
1e4d13324667210616a66a366c9b5528905a1147ed8a91e53b6eb527770b7da0 yamagishi_yoi331_v1_jp.pdfc24571f4f770a1698df73b0da6525cf4b7f4be2bb307d9a864bb2bcf9c991561 yamagishi_yoi331_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。