要旨
温度が高いほど熱い、と思える。本稿が示すのは温度の数値の順と熱さの順が一致しないことである。負の温度は、正の温度すべてより熱い。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、二準位系では $1/T=(k/\varepsilon)\ln((1-f)/f)$ で、励起率 $f$ が半分を超えると温度が負になる(第1節)。
第二に、$f=0.5$ で $\beta$ がちょうど $\mathbf{0}$ になり、温度が発散する(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。温度の小さい順は $0.6,0.9,0.1,0.4,0.5$、熱い順は $0.9,0.6,0.5,0.4,0.1$、一致しない(第2節)。
第四に、$T=-2.466303$ と $T=+2.466303$ は符号だけが違い、前者のほうが熱い(第2節)。
第五に、$\beta=1/T$ で並べると順序が正しくなる。負温度は正温度すべてより熱い(第3節)。
第六に、分離子は「エネルギーが上に有界か、そうでないか」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。負の絶対温度、二準位系の統計、$\beta=1/(kT)$ による順序づけはすべて統計力学で既知である。熱力学を作らない。第二法則の定式化や負温度での効率には立ち入らない。一つの模型の中の順序だけを見る。実験を主張しない。核スピン系や冷却原子での実現は挙げるにとどめる。数は模型の値である。平衡を仮定している。負温度状態は準安定であり、格子との緩和で崩れる。その時間尺度は主題ではない。エネルギーの原点を固定している。基底を $0$、励起を $\varepsilon$ と置く。原点を動かしても順序は変わらない。単位を扱わない。温度は $\varepsilon/k$ を単位として書く。既刊との関係:論文379 は「二倍の温度」に三つの答があることを示した。ここでは温度の順序そのものが壊れる。論文391 は代表値が代表していないことを示した。ここでは温度が順序を代表していない。論文394 は同じ流量が二つの状態で実現することを示した。ここでは同じ絶対値の温度が二つの熱さを持つ。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「温度が高い」と「熱い」は、その基準で別根である。加えたのは、五つの励起率で温度と $\beta$ を数に出したこと、二つの順序が一致しないことを並べて示したこと、$f=0.5$ で $\beta$ がちょうど $0$ になることを示したこと、負温度が正温度すべてより熱いことを $\beta$ で確かめたこと、分離子を「エネルギーが上に有界か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:$N$ 個の二準位スピンのうち $n$ 個が励起し、$f=n/N$ とする。エントロピーは $S=k\ln\binom{N}{n}$、エネルギーは $E=n\varepsilon$ である。
$$\frac{1}{T}=\frac{\partial S}{\partial E}=\frac{k}{\varepsilon}\ln\frac{1-f}{f},\qquad
\beta\equiv\frac{1}{kT}=\frac{1}{\varepsilon}\ln\frac{1-f}{f}$$
以下、温度は $\varepsilon/k$ を単位として書く。
観察 1.1 $f<1/2$ なら $\ln$ の中が $1$ より大きく、$T>0$ である。普通の状態、$f>1/2$ なら $\ln$ が負になり、$T<0$ になる。
観察 1.2 $f=1/2$ で $\ln$ がちょうど $0$ になる。$\beta=0$、$T=\pm\infty$、温度が発散する点が、途中にある。
観察 1.3 負温度が存在するのは、エネルギーに上限があるからである。$E\le N\varepsilon$、上限が無ければ $S$ は単調増加で、$\partial S/\partial E$ は正のままである。
問い:温度が高いことと、熱いことは、同じか。
2. 二つの順序が、一致しない
計算 2.1:励起率に対する温度と $\beta$(本稿で計算)。
| 励起率 $f$ | 温度 $T$ [$\varepsilon/k$] | $\beta=1/T$ |
|---|---|---|
| $0.1$ | $+0.455120$ | $+2.197225$ |
| $0.4$ | $+2.466303$ | $+0.405465$ |
| $\mathbf{0.5}$ | $\mathbf{\infty}$ | $\mathbf{0.000000}$ |
| $0.6$ | $\mathbf{-2.466303}$ | $-0.405465$ |
| $\mathbf{0.9}$ | $\mathbf{-0.455120}$ | $\mathbf{-2.197225}$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。温度の小さい順は $0.6, 0.9, 0.1, 0.4, 0.5$、熱い順($\beta$ の小さい順)は $0.9, 0.6, 0.5, 0.4, 0.1$。二つの並びが一致しない。
観察 2.3 $f=0.4$ と $f=0.6$ の温度は、符号だけが違う。$+2.466303$ と $-2.466303$、絶対値が同じで、熱さは正反対である。
観察 2.4 $f=0.5$ で $\beta$ がちょうど $0.000000$ になる。$\ln(0.5/0.5)=0$、温度は発散するが、$\beta$ は普通の一点を通るだけである。
観察 2.5 最も熱いのは $f=0.9$、温度は $-0.455120$ である。五つの中で温度の数値は下から二番目、数値の順と熱さの順が逆を向く例が、表の中にある。
観察 2.6 負温度側の $\beta$ の最大が、正温度側の $\beta$ の最小より小さい。$-0.405465<+0.405465$、負温度の系は、正温度の系すべてより熱い。
3. 並べ直すのは $\beta$ である
観察 3.1 $\beta$ は $f$ について単調減少である。$+2.197225$ から $-2.197225$ へ、途中で飛ばない。
観察 3.2 $T$ は $f=0.5$ で $+\infty$ から $-\infty$ へ飛ぶ。不連続、同じ物理量の連続な変化を、$T$ が不連続に写している。
観察 3.3 熱の流れる向きは $\beta$ が決める。$\beta$ の小さいほうから大きいほうへ、$T$ の大小では決まらない。
観察 3.4 だから「$-0$ が最も熱く、$+0$ が最も冷たい」という並びになる。$+0\to+\infty\to-\infty\to-0$、温度の目盛は直線ではなく、$\beta$ の側で直線になる。
観察 3.5 エントロピーは $f=0.5$ で最大である。$S(0.5)>S(0.4)$ かつ $S(0.5)>S(0.6)$、そこを越えると $\partial S/\partial E$ が負になり、温度が負になる。
観察 3.6 論文391 と同じ形である。論文391 では代表値が代表していなかった。ここでは温度が順序を代表していない。どちらも、慣れた一つの数が役目を果たしていない。
4. 「温度」という語が、二つを指している
観察 4.1 一つは $\partial S/\partial E$ の逆数という定義である。形式的な量、符号を持ちうる。
観察 4.2 もう一つは「触れたときにどちらへ熱が流れるか」である。操作的な量、こちらは $\beta$ が並べる。
観察 4.3 普通の系では二つが一致する。$T>0$ の範囲では $T$ の大小と $\beta$ の大小が逆で、順序が保たれる。だから区別が要らない。
観察 4.4 負温度が出た瞬間に、二つが分かれる。$T$ の順と $\beta$ の順が違う。一致していたのは、範囲が限られていたからである。
観察 4.5 論文300 の基準で別根である。定義は微分が、熱さは二系の接触が決める。同じ「温度」という語が、根の違う二つを指している。
5. 分離子:エネルギーが上に有界か、そうでないか
観察 5.1 分離子、エネルギーに上限があるか、無いか。
| 系 | エネルギー | エントロピー | 負温度 |
|---|---|---|---|
| 二準位スピン | 上に有界 | 途中で最大 | ある |
| 並進運動(気体) | 上限が無い | 単調増加 | 無い |
観察 5.2 二行目は $\partial S/\partial E$ が常に正である。$T$ は正のまま、気体を「負の温度にする」ことはできない。
観察 5.3 だから負温度は、系の性質であって、冷やし方の結果ではない。どんなに冷やしても出ない。スペクトルに上限があることが条件である。
観察 5.4 分離子は動かせる。スピン系を格子と接触させれば、上限の無い自由度と結ばれ、負温度が崩れる。負温度が準安定にしかならない理由である。
観察 5.5 正直に言えば、$\pm2.466303$ も $-0.455120$ も、二準位という模型の値である。準位が三つ以上なら数は変わる。動かないのは、$\beta$ が $f$ について単調で、$T$ が $f=0.5$ で飛ぶことである。
観察 5.6 最後に一つ、「負の温度は絶対零度より冷たい」は、二重に誤りである。冷たくないどころか、正の温度すべてより熱い。そして絶対零度の下ではなく、無限大の向こう側にある。
6. 点呼と結び
- $\beta=(1/\varepsilon)\ln((1-f)/f)$(第1節):$f>1/2$ で負。
- $f=0.5$ で $\beta=0.000000$(計算 2.1):$T$ は発散。
- 温度順は $0.6,0.9,0.1,0.4,0.5$(観察 2.2):熱さ順は $0.9,0.6,0.5,0.4,0.1$。
- $\pm2.466303$(観察 2.3):絶対値が同じで熱さが逆。
- 最も熱いのは $T=-0.455120$(観察 2.5):数値は下から二番目。
- 負温度は正温度すべてより熱い(観察 2.6):$\beta$ で比べる。
- $\beta$ は単調、$T$ は飛ぶ(観察 3.1・3.2):写し方の問題。
- $S$ は $f=0.5$ で最大(観察 3.5):そこを越えると負になる。
- 気体には負温度が無い(観察 5.2):上限が無いから。
- 絶対零度の下ではない(観察 5.6):無限大の向こう側。
結び:温度が高いほど熱い、と思える。だが温度の数値の順と熱さの順は、一致しない。二準位系では $\beta=1/(kT)=(1/\varepsilon)\ln((1-f)/f)$ で、励起率 $f$ が半分を超えると温度が負になる。$f=1/2$ で $\ln$ がちょうど $0$、$\beta=0.000000$、$T=\pm\infty$。負温度が存在するのはエネルギーに上限 $N\varepsilon$ があるからで、上限が無ければ $S$ は単調増加で $\partial S/\partial E$ は正のままである。二つの順序が一致しない。温度の小さい順は $0.6, 0.9, 0.1, 0.4, 0.5$、熱い順($\beta$ の小さい順)は $0.9, 0.6, 0.5, 0.4, 0.1$。$f=0.4$ と $f=0.6$ の温度は $+2.466303$ と $\mathbf{-2.466303}$ で、絶対値が同じで熱さは正反対である。最も熱いのは $f=0.9$ の $T=\mathbf{-0.455120}$ で、温度の数値としては五つの中で下から二番目、数値の順と熱さの順が逆を向く例が、表の中にある。負温度側の $\beta$ の最大 $-0.405465$ が正温度側の $\beta$ の最小 $+0.405465$ より小さく、負温度の系は正温度の系すべてより熱い。並べ直すのは $\beta$ である。$\beta$ は $f$ について $+2.197225$ から $-2.197225$ へ単調に減り、途中で飛ばない。$T$ のほうが $f=0.5$ で $+\infty$ から $-\infty$ へ飛ぶ、同じ物理量の連続な変化を、$T$ が不連続に写している。熱の流れる向きは $\beta$ の小さいほうから大きいほうへで、$T$ の大小では決まらない。だから「$-0$ が最も熱く、$+0$ が最も冷たい」という並び($+0\to+\infty\to-\infty\to-0$)になり、温度の目盛は直線ではなく $\beta$ の側で直線になる。エントロピーは $f=0.5$ で最大で、そこを越えると $\partial S/\partial E$ が負になる。「温度」という語が二つを指している。一つは $\partial S/\partial E$ の逆数という形式的な定義で符号を持ちうる。もう一つは「触れたときにどちらへ熱が流れるか」という操作的な量で、こちらは $\beta$ が並べる。普通の系では $T>0$ の範囲で二つの順序が保たれるので区別が要らないが、負温度が出た瞬間に分かれる。一致していたのは、範囲が限られていたからである。論文300 の基準で別根であり、定義は微分が、熱さは二系の接触が決める。論文391 で代表値が代表していなかったのと同じ形で、慣れた一つの数が役目を果たしていない。分けているものは一つ、エネルギーに上限があるか、無いか。二準位スピンは上に有界でエントロピーが途中で最大になり、負温度がある。並進運動(気体)は上限が無くエントロピーが単調増加で、$\partial S/\partial E$ が常に正だから負温度が無い。だから負温度は系の性質であって、冷やし方の結果ではない。どんなに冷やしても出ず、スペクトルに上限があることが条件である。スピン系を格子と接触させれば上限の無い自由度と結ばれ、負温度が崩れる。準安定にしかならない理由である。正直に言えば、$\pm2.466303$ も $-0.455120$ も二準位という模型の値であり、準位が三つ以上なら数は変わる。動かないのは、$\beta$ が $f$ について単調で、$T$ が $f=0.5$ で飛ぶことである。最後に一つ、「負の温度は絶対零度より冷たい」は、二重に誤りである。冷たくないどころか、正の温度すべてより熱い。そして絶対零度の下ではなく、無限大の向こう側にある。
参考文献
- Purcell, E. M., Pound, R. V. (1951). A Nuclear Spin System at Negative Temperature. Physical Review.
- Ramsey, N. F. (1956). Thermodynamics and Statistical Mechanics at Negative Absolute Temperatures. Physical Review.
- Braun, S., Ronzheimer, J. P., Schreiber, M., et al. (2013). Negative Absolute Temperature for Motional Degrees of Freedom. Science.
- Kittel, C., Kroemer, H. (1980). Thermal Physics (2nd ed.). New York: W. H. Freeman.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「二倍の温度」には三つの答があり、比が 2 になるのは一つだけである』[論文379]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698802
- 山岸勇輝 (2026). 『有義波高は、平均でもなければ最大でもない』[論文391]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699212
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ交通量が、二つの別の状態で実現する。流量を測っても、どちらにいるかは分からない』[論文394]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699272
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「温度の大小の順は、熱さの順ではない」[論文403]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699405
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 温度の大小の順は、熱さの順ではない [論文403]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/403 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699405
Yamagishi, Y. (2026). The Order of Temperature Is Not the Order of Hotness [Paper 403]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/403; DOI: 10.5281/zenodo.22699405
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