要旨
図面には材料と形が書いてある。積層造形では、それだけでは強度が決まらない。本稿が示すのは、置いた向きが強度を $\mathbf{2.5}$ 倍動かすことである。そして向きは図面に書かれていない。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、これが本稿の芯である。積層方向の強度は面内の $\mathbf{40}$〜$\mathbf{60}$ パーセントで、三つの材料すべてが $6$ 割以下である(第2節)。
第二に、最も弱い比は $\mathbf{0.4000}$ である(第2節)。
第三に、同じ断面 $100$ mm$^2$ で、許容荷重が $10000$ N から $\mathbf{4500}$ N へ、$\mathbf{55}$ パーセント落ちる(第3節)。
第四に、等方な材料なら比はちょうど $\mathbf{1}$ になる。対照が効いている(第3節)。
第五に、$45$ 度に置けばちょうど中間の $\mathbf{72.5}$ パーセントになる(第3節)。
第六に、分離子は「材料の性質か、工程の履歴か」である。同じ材料名の中に、工程が刻んだ方向がある(第4節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。積層造形の異方性、層間接合の弱さはどちらも既知であり、業界では常識である。強度の値を実測値として主張しない。$40$・$60$・$45$ パーセントは代表値であり、装置、温度、積層ピッチ、充填率で大きく動く。本稿は特定の製品の値を主張しない。機構を分解しない。層間の分子拡散、結晶化、空隙の分布は主題ではない。設計指針を出さない。どう置くべきかという設計判断は主題ではない。金属積層を分けない。金属では異方性の出方も熱処理の効き方も違うが、本稿は樹脂の値だけを扱う。疲労と衝撃を扱わない。静的な引張強度だけを見る。中間角の値は内挿である。$45$ 度の $72.5$ パーセントは端の二値からの単純な内挿であり、実測の当てはめではない。既刊との関係:論文418 は光の角運動量が二つあることを示した。そこでは同じ名前が二つの量だった。ここでは同じ材料が二つの強度を持つ。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「材料が決める強度」と「工程が決める強度」は、その基準で別根である。論文415 は同じガラスが $5000$ 倍透明になったことを示した。そこでは名前が値を決めなかった。ここでも決めない。論文397 は粒を細かくして破れるのが理論強度に達したからではないことを示した。ここでも、強度の話に見えて効いているのは組織である。加えたのは、三材料で比を並べたこと、許容荷重を N に直したこと、等方材の比 $1$ を対照に置いたこと、中間角を五点で出したこと、分離子を「材料か工程か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:積層造形では、材料を層に積んで形を作る。 層の中(面内)と、層をまたぐ向き(積層方向)で強度が違う。
$$r=\frac{\sigma_{\perp}}{\sigma_{\parallel}}$$
$\sigma_{\parallel}$ を面内、$\sigma_{\perp}$ を積層方向の引張強度とする。
観察 1.1 図面には材料と形が書いてある。「ABS、この寸法」、それで部品が決まる、というのが図面の前提である。
観察 1.2 切削では、その前提が成り立つ。塊から削るので、どの向きも同じである。向きを書く必要が無い。
問い:積んで作ると、どれだけ違うのか。
2. 積層方向は面内の 6 割以下
計算 2.1:三つの材料で、面内を $100$ として積層方向の強度を並べる。
| 材料 | 面内 | 積層方向 | 比 $r$ |
|---|---|---|---|
| ABS | $100.0$ | $40.0$ | $0.4000$ |
| PEEK | $100.0$ | $60.0$ | $0.6000$ |
| PLA | $100.0$ | $45.0$ | $0.4500$ |
観察 2.2 三つとも $6$ 割以下である。最大でも $\mathbf{0.60}$、材料を替えても、向きの差は消えない。
観察 2.3 最も弱い比は $\mathbf{0.4000}$ である。同じ材料で、置き方だけで $2.5$ 倍、$1/0.4=2.5$ である。
観察 2.4 弱いのは層と層の界面である。層の中では材料そのものの強度が出る。層をまたぐと、あとから接合した面を引き剥がすことになる。
3. 荷重に直すと
計算 3.1:断面 $100$ mm$^2$、面内強度 $100$ MPa として許容荷重を出す。
面内なら $10000.0$ N である。 積層方向(PLA、$r=0.45$)なら $\mathbf{4500.0}$ N である。
観察 3.2 同じ断面で $\mathbf{55}$ パーセント落ちる。図面上はまったく同じ部品である。寸法も材料も変えていない。
計算 3.3:対照として、等方な材料(切削品など)で同じ比を出す。
比はちょうど $\mathbf{1}$ である。
観察 3.4 この対照が効いている。差が向きから来ていることを示す。等方なら、どう置いても同じ数が出る。
計算 3.5:置く角度を振る(PLA、端の二値からの単純な内挿)。
| 置く向き | 強度 [%] |
|---|---|
| $0$ 度 | $100.0000$ |
| $30$ 度 | $86.2500$ |
| $45$ 度 | $72.5000$ |
| $60$ 度 | $58.7500$ |
| $90$ 度 | $45.0000$ |
観察 3.6 $0$ 度と $90$ 度が端の値と一致する。$100.0000$ と $45.0000$、内挿が正しく実装されていることの確認である。
観察 3.7 $45$ 度がちょうど中間の $\mathbf{72.5000}$ になる。$(100+45)/2=72.5$、単純な内挿なので当然そうなる。実測の当てはめではない。
4. 分離子
分離子:材料の性質が決めるか、工程の履歴が決めるか。
観察 4.1 切削では材料が決める。塊は等方なので、削っても等方のままである。図面に材料と形を書けば足りる。
観察 4.2 積層造形では工程が決める。どの向きに積んだかが部品に残る。材料と形を書いても、まだ足りない。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「この部品の強度」と呼ばれる。一方は材料表から引ける量、一方は履歴から決まる量である。
観察 4.4 だから図面に足りない項目がある。材料、寸法、公差、表面粗さ、そこに「積層方向」が要る。書かなければ、部品は再現できない。
観察 4.5 同じことは他の工程でも起きる。圧延、押出、繊維強化、工程が方向を刻むところでは、材料名だけでは足りない。
観察 4.6 正直に言えば、$40$・$60$・$45$ パーセントは代表値であり、装置、温度、積層ピッチ、充填率で大きく動く。本稿は特定の製品の値を主張していない。動かないのは、比が $1$ にならないという点である。
観察 4.7 最後に一つ、中間角の $72.5$ パーセントは端の二値からの単純な内挿である。実際の角度依存は直線ではない。本稿は「中間の向きは中間の強度になる」という向きだけを示しており、その曲線の形は主張していない。
5. 点呼と結び
- ABS の比は $0.4000$(計算 2.1):最も弱い。
- PEEK の比は $0.6000$(計算 2.1):最も強くてもこれ。
- 三材料とも $6$ 割以下(観察 2.2):材料を替えても消えない。
- 置き方だけで $2.5$ 倍(観察 2.3):$1/0.4$。
- 面内なら $10000.0$ N(計算 3.1):断面 $100$ mm$^2$。
- 積層方向なら $4500.0$ N(計算 3.1):同じ断面で。
- $55$ % 落ちる(観察 3.2):図面は同一。
- 等方材なら比はちょうど $1$(計算 3.3):対照が効いている。
- $45$ 度でちょうど $72.5000$ %(計算 3.5):内挿の中間。
- 分離子は材料か工程か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
結び:図面には材料と形が書いてあり、切削ならそれで部品が決まる。塊は等方なので、削っても等方のままだからである。積んで作ると、その前提が外れる。積層方向の強度は面内の $\mathbf{40}$〜$\mathbf{60}$ パーセントで、ABS が $\mathbf{0.4000}$、PLA が $\mathbf{0.4500}$、PEEK が $\mathbf{0.6000}$ と、三つとも $6$ 割以下である。材料を替えても向きの差は消えず、最も弱い比では置き方だけで $\mathbf{2.5}$ 倍になる。弱いのは層と層の界面で、層の中では材料そのものの強度が出るのに対し、層をまたぐとあとから接合した面を引き剥がすことになる。荷重に直すと、図面上まったく同じ部品の差になる。断面 $100$ mm$^2$、面内強度 $100$ MPa として、面内なら $\mathbf{10000.0}$ N、積層方向(PLA)なら $\mathbf{4500.0}$ N で、$\mathbf{55}$ パーセント落ちる。寸法も材料も変えていない。差が向きから来ていることは対照が示す。等方な材料なら比はちょうど $\mathbf{1}$ で、どう置いても同じ数が出る。中間の角度では中間の値になり、$45$ 度でちょうど $\mathbf{72.5000}$ パーセント、$0$ 度と $90$ 度は端の $100.0000$ と $45.0000$ に一致する。分けているものは一つ、材料の性質が決めるか、工程の履歴が決めるか。切削では材料が決まれば足りるが、積層造形ではどの向きに積んだかが部品に残る。論文300 の基準で別根であり、一方は材料表から引ける量、一方は履歴から決まる量である。だから図面には項目が一つ足りない。材料、寸法、公差、表面粗さに加えて「積層方向」が要る。書かなければ部品は再現できない。同じことは圧延、押出、繊維強化でも起きる。工程が方向を刻むところでは、材料名だけでは足りない。正直に言えば、$40$・$60$・$45$ パーセントは代表値であり、装置、温度、積層ピッチ、充填率で大きく動く。本稿は特定の製品の値を主張していない。動かないのは、比が $1$ にならないという点である。最後に一つ、中間角の $72.5$ パーセントは端の二値からの単純な内挿で、実際の角度依存は直線ではない。本稿は「中間の向きは中間の強度になる」という向きだけを示しており、その曲線の形は主張していない。
参考文献
- Ahn, S.-H., Montero, M., Odell, D., Roundy, S., & Wright, P. K. (2002). Anisotropic Material Properties of Fused Deposition Modeling ABS. Rapid Prototyping Journal.
- Gibson, I., Rosen, D., & Stucker, B. (2015). Additive Manufacturing Technologies (2nd ed.). New York: Springer.
- Bellehumeur, C., Li, L., Sun, Q., & Gu, P. (2004). Modeling of Bond Formation Between Polymer Filaments in the Fused Deposition Modeling Process. Journal of Manufacturing Processes.
- Ashby, M. F. (2011). Materials Selection in Mechanical Design (4th ed.). Oxford: Butterworth-Heinemann.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「粒を細かくすれば強くなる」が破れるのは、理論強度に達したからではない』[論文397]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699316
- 山岸勇輝 (2026). 『同じガラスが、$5000$ 倍透明になった』[論文415]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699790
- 山岸勇輝 (2026). 『光の角運動量は二つあって、片方だけ上限がない』[論文418]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699908
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ材料・同じ形でも、置いた向きで強度が変わる」[論文419]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699940
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ材料・同じ形でも、置いた向きで強度が変わる [論文419]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/419 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699940
Yamagishi, Y. (2026). The Same Material, the Same Shape, and the Orientation Decides [Paper 419]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/419; DOI: 10.5281/zenodo.22699940
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