要旨
二つの系列を重ねると、片方が先に動いているように見えることがある。本稿が示すのは、その時間差が測ると存在しないことである。見えているのは遅れではなく、同時刻の振れ幅の差である。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、これが本稿の芯である。$6$ 対 $\times$ $3$ 条件の $\mathbf{18}$ 通りすべてで、相関のピークはラグ $\mathbf{0}$ にある(第2節)。
第二に、ピークの高さは $0.4015$ 〜 $0.7250$ である。ラグを外すと $|$相関$|\le0.008$ に落ちる(第2節)。
第三に、その比は $\mathbf{50.2}$ 倍から $\mathbf{90.6}$ 倍である。肩ではなく棘である(第2節)。
第四に、一日ずらすと相関は $0.002$ になる。計算そのものは正しく動いている(第2節)。
第五に、作り物で共通の因子から二系列を作ると、ピークは同じくラグ $\mathbf{0}$ に立つ。わざと $2$ 遅らせるとピークは $2$ へ動く(第3節)。
第六に、分離子は「時間差か、振れ幅の差か」である。前者はラグ走査に現れ、後者は現れない(第4節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。相互相関、ラグ走査、共通因子模型はすべて既知である。因果を論じない。ラグ $0$ の相関から、どちらが原因かは言えない。本稿は時間差の有無だけを扱う。特定の市場や銘柄を論じない。数は複数の系列の観測から採ったが、対象も手法も主題ではない。予測を主張しない。どちらかが将来を当てるという主張はしない。格子より細かい構造を扱わない。$20$ 秒の格子で測っており、それより短い遅れは原理的に見えない。本稿は「$20$ 秒より長い遅れは無い」としか言っていない。非線形な結び付きを扱わない。相関はあくまで線形の尺度である。相関がゼロでも従属はありうる。既刊との関係:論文420 は偏りの無い欠測でも符号が動くことを示した。そこでは無いものが効いた。ここでは在ると思われたものが無い。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「時間差」と「振れ幅の差」は、その基準で別根である。論文412 は「一番近い」が距離を決めるまで決まらないことを示した。ここでは「先行」が格子を決めるまで測れない。論文182 は「次元の呪い」が一つではないことを示した。ここでも「先行」という一語が二つの別の量を指している。加えたのは、$18$ 通りすべてでピークの位置を数えたこと、ピークと外しの比を自分で計算したこと、プラセボを対照に置いたこと、作り物でピークが $0$ に立つことと、遅らせればピークが動くことの両方を示したこと、分離子を「時間差か振れ幅か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:二つの系列 $r_A$、$r_B$ に対し、ラグ $L$ の相互相関を次で測る。
$$\rho(L)=\mathrm{corr}\bigl(r_A(t),\,r_B(t+L)\bigr)$$
$\rho$ が $L=L^{*}\neq0$ で最大になれば、$A$ は $B$ に $L^{*}$ だけ先行している。 格子は $20$ 秒とする。
観察 1.1 図に重ねると、片方が先に動いて見えることがある。一方が大きく振れ、他方が小さく振れる。目には「あとから追いかけた」と映る。
観察 1.2 だが「先に動いた」と「大きく動いた」は別の主張である。前者は時間の話、後者は振幅の話、図の上では、この二つが同じように見える。
問い:ラグを走査したら、ピークはどこに立つのか。
2. 18 通りすべてで、ピークはラグ 0 にある
計算 2.1:$6$ 対について、三つの条件(全体・活発な時間帯の上位・大きく動いた直後)でラグを走査する。
| 対 | 全体 | 活発時 | 直後 | ピークのラグ |
|---|---|---|---|---|
| 甲 | $0.4015$ | $0.4459$ | $0.4038$ | $0$ |
| 乙 | $0.7086$ | $0.7250$ | $0.7122$ | $0$ |
$18$ 通りすべてでピークはラグ $\mathbf{0}$ にある。
観察 2.2 ピークの高さは $0.4015$ 〜 $0.7250$ である。結び付きは強い。弱いから見つからないのではない。
計算 2.3:ラグを $\pm40$ 秒から $\pm300$ 秒まで外したときの相関を見る。
$|$相関$|\le0.008$ である。ピークとの比は $\mathbf{50.2}$ 倍から $\mathbf{90.6}$ 倍になる。
観察 2.4 これは肩ではなく棘である。なだらかに落ちるのではなく、一段外れた瞬間に消える。「少し先行している」という形ではない。
観察 2.5 計算そのものが正しく動いていることを、別に確かめる。片方を一日ずらすと相関は $0.002$ になる。何を入れても高い値が出る仕組みではない。
観察 2.6 条件を変えても位置は動かない。活発な時間帯でも、大きく動いた直後でも、ピークは $0$ のままである。「ふだんは同時だが、動くときだけ先行する」という逃げ道も閉じている。
3. 作り物で、両方向に確かめる
計算 3.1:共通の因子と、それぞれの雑音から二系列を作る。時間差は入れていない。
| ラグ | 相関 |
|---|---|
| $-3$ | $+0.0004$ |
| $-1$ | $+0.0009$ |
| $0$ | $+0.4159$ |
| $+1$ | $+0.0051$ |
| $+3$ | $+0.0026$ |
観察 3.2 同じ形が出る。ピークは $0$、隣はほぼゼロ、実測と同じ棘である。
計算 3.3:同じ作り物で、片方をわざと $2$ だけ遅らせる。
ピークはラグ $2$ へ動いた。
観察 3.4 この確認が効いている。走査器が「いつでも $0$ を返す」道具なら、実測の $0$ には意味が無い。本当に遅れがあれば見つけるので、見つからないことが情報になる。
観察 3.5 見えないのは「無い」からか「細かすぎる」からか。格子は $20$ 秒である。$20$ 秒より短い遅れは原理的に見えない。だから本稿は「$20$ 秒より長い遅れは無い」としか言っていない。
4. 分離子
分離子:時間差か、振れ幅の差か。
観察 4.1 時間差は、ラグ走査に現れる。ピークが $0$ から外れる。作り物で確かめたとおりである。
観察 4.2 振れ幅の差は、ラグ走査に現れない。同時刻に、片方が $2$ 倍大きく動いているだけである。相関は大きさに依らないので、ピークは $0$ に立ったままである。
観察 4.3 そして図の上では、この二つが同じに見える。小さく動いた側は、あとから追いついてくるように見える。目が拾っているのは順序ではなく大きさである。
観察 4.4 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「先行」と呼ばれるが、測る量が違う。一方はラグ、一方は振幅の比である。
観察 4.5 だから「先行を見つける道具」は、作る前に測るべきである。図を描けば必ず何かが先に見える。見えることと在ることは別で、走査は一度で済む。
観察 4.6 正直に言えば、相関は線形の尺度である。相関がゼロでも従属はありうる。本稿が閉じたのは「線形の時間差」だけで、非線形な先行を否定してはいない。
観察 4.7 最後に一つ、ラグ $0$ の強い相関は、因果の否定ではない。共通の原因が同時に両方を動かしている、という形は残る。言えるのは「片方を見て他方を先に知ることはできない」ことだけである。
5. 点呼と結び
- $18$ 通りすべてでピークはラグ $0$(計算 2.1):例外なし。
- ピークの高さは $0.4015$〜$0.7250$(観察 2.2):結び付きは強い。
- 外すと $|$相関$|\le0.008$(計算 2.3):一段で消える。
- 比は $50.2$〜$90.6$ 倍(計算 2.3):肩ではなく棘。
- 一日ずらすと $0.002$(観察 2.5):計算は正しい。
- 条件を変えても位置は不動(観察 2.6):逃げ道が無い。
- 作り物でもピークは $0$(計算 3.1):同じ形。
- $2$ 遅らせるとピークは $2$ へ(計算 3.3):走査器が効いている。
- 格子は $20$ 秒(観察 3.5):言えるのはそれより長い遅れだけ。
- 分離子は時間差か振れ幅か(観察 4.4):論文300 の基準で別根。
結び:二つの系列を図に重ねると、片方が先に動いているように見えることがある。だが「先に動いた」と「大きく動いた」は別の主張で、前者は時間の話、後者は振幅の話である。図の上では、この二つが同じように見える。測ると、時間差は無い。$6$ 対を三つの条件で走査した $\mathbf{18}$ 通りすべてで、相関のピークはラグ $\mathbf{0}$ にある。結び付きが弱いから見つからないのではない。ピークの高さは $0.4015$ 〜 $0.7250$ と強い。そしてラグを $\pm40$ 秒から $\pm300$ 秒へ外すと $|$相関$|$ は $\mathbf{0.008}$ 以下に落ち、比は $\mathbf{50.2}$ 倍から $\mathbf{90.6}$ 倍になる。これは肩ではなく棘であり、「少し先行している」という形ですらない。活発な時間帯でも、大きく動いた直後でも位置は $0$ のままなので、「ふだんは同時だが動くときだけ先行する」という逃げ道も閉じている。計算そのものは、片方を一日ずらすと相関が $\mathbf{0.002}$ になることで確かめてある。走査器が「いつでも $0$ を返す」道具でないことも確かめた。共通の因子から作った二系列ではピークが $0$ に立ち、片方をわざと $2$ 遅らせるとピークは $\mathbf{2}$ へ動く。本当に遅れがあれば見つけるのだから、見つからないことが情報になる。ただし格子は $20$ 秒なので、本稿が言えるのは「$20$ 秒より長い遅れは無い」ことだけである。分けているものは一つ、時間差か、振れ幅の差か。時間差はラグ走査に現れてピークが $0$ から外れるが、振れ幅の差は現れない。相関は大きさに依らないので、同時刻に片方が二倍大きく動いていてもピークは $0$ に立ったままである。そして図の上では、小さく動いた側があとから追いついてくるように見える。目が拾っているのは順序ではなく大きさである。論文300 の基準で別根であり、一方はラグ、一方は振幅の比を測っている。正直に言えば、相関は線形の尺度であり、相関がゼロでも従属はありうる。本稿が閉じたのは「線形の時間差」だけで、非線形な先行を否定してはいない。最後に一つ、ラグ $0$ の強い相関は因果の否定ではない。共通の原因が同時に両方を動かしている、という形は残る。言えるのは「片方を見て他方を先に知ることはできない」ことだけである。
参考文献
- Granger, C. W. J. (1969). Investigating Causal Relations by Econometric Models and Cross-Spectral Methods. Econometrica.
- Box, G. E. P., Jenkins, G. M., & Reinsel, G. C. (2008). Time Series Analysis: Forecasting and Control (4th ed.). Hoboken: Wiley.
- Epps, T. W. (1979). Comovements in Stock Prices in the Very Short Run. Journal of the American Statistical Association.
- Hayashi, T., & Yoshida, N. (2005). On Covariance Estimation of Non-Synchronously Observed Diffusion Processes. Bernoulli.
- 山岸勇輝 (2026). 『「次元の呪い」は一つの呪いではない』[論文182]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104170
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「一番近い」は、距離を決めるまで決まらない』[論文412]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699661
- 山岸勇輝 (2026). 『偏りを生まない欠測でも、符号は動く』[論文420]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699994
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「先行して見える」ものは、先行していない」[論文421]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22700022
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「先行して見える」ものは、先行していない [論文421]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/421 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22700022
Yamagishi, Y. (2026). What Looks Like Leading Is Not Leading [Paper 421]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/421; DOI: 10.5281/zenodo.22700022
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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